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第九章 異世界訪問編

第20話 女王陛下への報告

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 俺たち一行は、点ちゃん2号でマスケドニア国から、アリスト国へと向かった。

 加藤の両親とヒロ姉は疲れていたのだろう、最後尾の座席でぐっすり寝っている。

 エミリーと翔太は、一番前の席、つまり俺の隣で景色をずっと眺めている。
 民家のたたずまいや植生も地球とは異なる景色が、何から何まで珍しいのだろう。
 途中、森を通るとき、豚のような小さな魔獣が道を横切ると、二人とも歓声を上げていた。

 ジョイとステファンは、マスケドニアで仕入れた知識について、議論を交わしている。

 ハピィフェローは、マスケドニア王宮の話で盛りあがっていた。
 冒険者が、王宮の中に入るのは珍しいことだからね。
 彼らがギルドに帰ったら、冒険者たちから話をせがまれるに違いない。

 俺たちは、半日もかからず、アリスト国に着いた。
 まず、お城に向かう。
 ハピィフェローへの依頼は、アリスト王城までエミリーと翔太、加藤の家族を護衛するというものだからね。
 
 城に着くと、『王の間』に通される。
 ハピィフェローは、慣れない光景に戸惑っている。
 エミリーと翔太は、騎士に連れられ、玉座の横に立った。

 残された俺たちは、玉座の前にひざまずく。
 頭上から、よく通る畑山さんの声がした。

「皆のもの、ご苦労であった。
 博子さん、マスケドニア国名誉子爵となられたそうで、おめでとう。
 今日は、ゆるりとくつろがれよ。
 ハピィフェローと言ったか、お主らも護衛、感謝するぞ」

「は、は、は、はい。
 光栄でごじゃいます」

 ブレットは、相変わらずだな。
 しかし、いくら緊張しているからといって、「ごじゃいます」はないだろう。

 冒険者にとり、一国の王から感謝されるなど、まず無いことだ。
 彼らには、いい経験になるだろう。

「後ほど褒美をつかわすぞ」

 俺、加藤の両親、ヒロ姉、ハピィフェローの面々は、部屋から退出する。
 ブレットたちは、これからギルドへ報告に向かうはずだ。

「ブレット、キャロやフィロさんによろしくね」

「ああ、お前は、ギルドに寄らないのか?」

「今回は、急ぐからね」

「じゃ、また、近いうちに寄れよ」

「ああ、一月(ひとつき)は帰ってこないから、その後になるけど、必ず行くよ」

「あなたの世界に帰るなら、あの板のような甘いお菓子、お願いね」
「私も私も」

 ハピィフェローの女性陣は、チョコレートのファンになったようだ。

「分かったよ。
 ちゃんと用意しておくから」

 その後、俺と加藤の両親、ヒロ姉は、迎賓館に向かった。
 彼らが前回宿泊した続き部屋に案内される。

 俺は、みんなに断り、城内の森にある噴水の横に瞬間移動した。
 この場所での会見を、あらかじめ念話で畑山さんに申しこんおいた。

 テーブルと椅子を出し、お茶の用意をしていると、木立から、畑山さん、レダーマン、ハートンが姿を現した。
 四人で丸テーブルの周りに座る。

「ボー、おかえり。
 内々の話って何?」

 俺は、まず蜂蜜クッキーとお茶を勧める。
 ついでに、蜂蜜のビンを三つ出しておいた。

「うわっ! 
 これ、地球で食べた蜂蜜ね? 
 やった!」

「陛下、お言葉遣いが……」

「レダーマン、ここは無礼講の場よ。
 気にしないの」

 皆がお茶を飲みおえるのを待ち、話しはじめる。

「話というのは、エミリーの『聖樹の巫女』という称号と、聖樹様からのお話についてだよ」

「えっ! 
 そんな大変な話だったの?」

「とにかく、話を聞いてくれるかな」

 俺は、『聖樹の巫女』が、世界に危機が訪れた時に現れること、そして、それは、神樹様の数が減ったことが原因だと話した。

「せ、世界の危機って、どういうこと?」

「畑山さん、俺の予想でいいなら話せるけど、聞いたことは全て秘密厳守でお願いするよ」

 畑山さんが、レダーマンとハートンと顔を見あわせ頷いた。

「いいわよ」

「俺が予想している危機というのは、ポータルズ世界群の消滅だ」

 「……」
 「……」
 「……」

 さすがに、三人とも言葉が出ないようだ。

「世界を危機から救うカギとなるのがエミリーの力だ」

 俺は、エミリーが学園都市世界で見せた力の事を彼らに話した。

「なるほどね。
 エミリーは、神樹様の力を強めたり、治癒する力があるのね」

 さすが、『初めの四人』の指令塔だ。畑山さんは、呑みこみが早い。

「あんたが、『枯れクズ』を調べる、魔術研究所の建設を頼んできたのは、そういう理由だったのね」

「ああ、そうだよ。
 恐らく、神樹様が聖樹様の力と関わっているように、普通の木々も、神樹様、聖樹様と関りがある。
 この素材を研究すれば、エネルギーとして木を伐採する必要が無くなるはずだ」

 「地球であんたから聞いた、例のものね?』

 畑山さんの言葉に頷き、俺はテーブルの上に、『枯れクズ』をコトリと置いた。

「科学からの研究は学園都市と地球世界、錬金術からの研究はマスケドニアが受けもつから、アリストには、魔術方面からのアプローチを頼みたい」

 畑山さんは、しばらく目を閉じ考えていた。
 目を開くと、しっかりした声で言った。

「急ぐわね」

「そうだね。
 ゆっくりはしていられない」

「どうせあんたの事だから、何か考えているんでしょ」

「ああ、場所だけ言ってくれたら、建物は俺の魔術で建てるから」

「分かったわ。
 魔術研究所に関して、レダーマンは場所の選定、ハートンは研究者の人選、すぐ動くわよ」

 彼女はそう言うと、立ちあがった。

「あんたは、これから加藤と舞子の家族を、地球に送っていくんでしょ?」

「ああ、一旦エミリーも連れていくよ。
 後ね、聖樹様によると、翔太は『聖樹の巫女』の『守り手』らしいんだ」

「なんですって!」

「それから、ハートンさん、ヴォーモーンっていう魔術師のこと知ってるよね?」

「もちろんです。
 ポータルズ世界群、史上最大の魔術師です」

「翔太は、彼と同じ才能があるらしい」

「ええっ!!」

「魔術の専門家は、彼をきちんとした魔術学校に通わせるのを勧めていたよ」

「も、もし、それが本当なら、きちんと学校で学ばないと危険ですな」

「ボー、危険ってどういうこと?」

「ちょっとしたことで、魔術が暴発する可能性があるってこと」

「ちょ、ちょっと、それ大変じゃない!」

「だから、学校で、魔術を学ぶ必要があるんだ。
 すでに、水、土、風、火の属性魔術については、その基本をマスターさせてある」

「ええっ! 
 いつの間に……」

 ハートンが驚く。

「獣人世界で、先生についてもらった」

「短期間で、それをマスターしているとなると、恐らくヴォーモーンの再来です」

「翔太は、マナが見えるそうだよ」

「えっ! 
 それは、もう間違いありません。
 女王様、プリンスをすぐにでも魔術学園へ」

「ああ、ハートンさん、ちょっと待ってね。
 俺は、彼を一度地球に連れかえるつもりだよ。
 陛下のお父上、つまり、翔太のお父さんからもご意見をうかがわないといけないしね」

「し、しかし、その間に魔術が暴走したら……」

「安心して。
 俺が、責任を持つから」

「そ、そうですか」

 ハートンは、まだ何か言いたそうだったが、畑山さんの声がそれをさえぎった。

「ボー、頼むわよ。
 まずは、予定通り、翔太を地球に帰して」

「ああ、分かってる」

「では、解散。
 みんな、すぐに動いて。
 ハートンは、魔術師の人選が終わったら、魔術学園への連絡をお願い」

「ははっ」

「レダーマンは、研究所用地の選定を」

「はっ」

「ボーは、すぐに家族の元に帰ってあげて。
 用地が決まれば、研究所建設で忙しくなるだろうから」

「分かった。
 じゃ、またね」

 俺は、自分の家へ瞬間移動した。
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