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第九章 異世界訪問編

第17話 ポータルズ世界群の危機

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 俺は、ポータルズ世界群の危機について、自分の予想をメラディス首席とダンに話すことにした。

「あくまで、俺の推測だぞ。 
 その危機の内容はな……世界群の消滅だ」

「……」
「……」

 さすがに二人とも口を半ば開き、凍りついた。その顔が次第に青くなってくる。

「世界群の……消滅……」

 ダンが、まっ青になった顔から声を絞りだす。
 メラディス首席は、ワナワナと震えていて声もない。

「神樹様の数が減ったことが、この事態を招いたらしい」

「お、おい、そんなこと言っても、この世界の神樹が姿を消したのは、ずっと昔の話だぜ」

「そうか。
 すでに消えた神樹様については、どうしようもないけど、これからは何とかしたいもんだね」

「おいおい、そんなに気楽な感じでいいのか?」

「ダン、俺たちは、俺たちができる事しかできない。
 違うか?」

「……ああ、まあそうだな。
 ちょい事態が深刻過ぎて、ビビっちまっただけさ」

 ダンは、やっと自分の調子を取りもどしたようだ。
 彼は、半年前まで、いつ命を失ってもおかしくないパルチザンの生活を送っていたからね。

「首席、山脈の向こうにある原生林の調査をお願いできますか?」

「え、ええ、もちろんです。
 神樹様が残されているかどうかの調査ですね?」

 メラディス首席も、やっと思考を取りもどしたようだ。

「ええ、大きな木より、むしろ小さな木を中心に調べた方がいいと思います」

「膨大な数になりますね。
 しかし、必要な事です。
 お引きうけします」

「その代わりといっては何ですが、『枯れクズ』の研究所は、私が建設しますから、土地の用意だけお願いします」

「よろしいのですか?」

「ええ、人材も研究者からだけにとどまらず、広く募集しましょう。
 研究自体は、学園都市世界にお任せします」

「分かりました。
 こちらの方でも人材のピックアップは行いましょう」

「助かります。
 では、原生林の調査の方も、よろしくお願いします」

 俺たちは立ちあがり、それぞれと握手した。

 俺は、首席とダンにも重荷を背負わせたことに、良心の呵責(かしゃく)を感じていた。

 ◇

 それから一週間は慌ただしく過ぎていった。

 俺は、土魔術で大規模な研究所を建設すると、そこで働く人材を選抜した。

 書類審査、面接の他、ブランが密かに記憶コピーをする。
 その記憶はブランを通して点ちゃんがチェックしていた。

 採用試験には、学生まで参加したから、膨大な人数になった。
 しかし、この研究が地球や学園都市世界を救うとなると、手は抜けない。

 人材選抜に目処がついた頃、メラディス首席から連絡があった。
 それは、原生林の中に神樹様が見つかったというものだった。

 俺は、エミリー、翔太を連れ、その場所へと向かった。
 学園都市からの案内人が二人ついている。
 真面目そうな中年の男性と若い女性の研究者だった。

 俺が作った五人用ボードで空路向かう。
 案内人の二人は、驚いていたが、翔太とエミリーはすごく喜んだ。

「うわー! 
 山があんなに近い。
 海も見える」
「緑が一杯ありますね。
 すてきな光景です」

 今度、二人をこの世界に連れてくるときは、バカンス島で楽しませてあげよう。

 目的の神樹様は、大陸の西の端、海が見える丘の上に立っていた。
 森の木々がまばらになる辺りに周囲の木々に溶けこむようにある。
 よくこの木を見つけたものだ。

 高さは二メートルもなく、幹も野球のバットくらいの太さだ。
 今まで見てきた神樹様に比べると、はるかに小さかった。
 ただ、俺には、かすかな低いバイブレーションのような「音」が聞こえた。

 点ちゃん、念話用の点を付けてくれる?

『(^▽^)/ はいはーい』

 神樹様に点を付けてみたが、まだ木が幼すぎるのか、ぼんやりした音の念話しか聞こえてこない。
 俺は、かねてから考えていたことを試すことにした。

「エミリー、こちらにいらっしゃるのは、神樹様といって、君にも関係がある存在なんだよ。
 少しお元気が無いようだから、何とかできるかな?」

「やってみます」

 エミリーは、どうやってとも聞かず、神樹様の幹に手を触れた。

 神樹様が薄く光に覆われる。光が次第に分厚くなると、その輝きも増した。
 眩しくて目が開けられない。

 次第に光が収まると、神樹様とエミリーの姿が見えてきた。
 エミリーは、微笑みながら涙を流していた。

『やっとおしゃべりできるなあ』

 お! 神樹様の念話が聞こえるぞ。

『エミリー、助けてくれてありがとう』

『神樹様、シローと申します』

 俺も、挨拶することにした。

『ああ、前にママが言ってた人だね。
 君がエミリーを連れてきてくれたの?』

『はい、そうです』

『ママが言ってたとおりだった。
 ボクの他にも困ってる仲間を助けてね』

『はい、分かりました』

『エミリーがきっと力になってくれるよ』

「シローさん、その胸のペンダントは何ですか?」

 エミリーが唐突な質問をしたので戸惑う。
 ここは、二人の研究員に聞かれないように、こちらも念話で答えておこう。

『これはね、ある世界の神樹様がお亡くなりになるときに残されたものだよ』

『それをいただけますか?』

『これは加工してあるから、別のでもいいかな?』

 俺は、点収納から、光る木の神樹様がお亡くなりになる時に頂いた「枯れクズ」の欠片(かけら)を取りだす。

『これでいいかい?』

 俺から「枯れクズ」を受けとったエミリーは、それを神樹様の根元に埋めた。

『エミリー、それはどうして?』

『なんとなくこうしたほうがメアリーちゃんが気持ちいいと思ったの』

 えっ? 神樹様に名前を付けたの?
 というより、神樹様、自分の事「ボク」って呼んでたけど、女の子だったんだね。

『なんかね。
 ポカポカするの』

『(^▽^)/ よかったね、メアリーちゃん』

『あれ? 
 君は誰?』

『つ(・ω・)点ちゃんですよー』

『ふーん、点ちゃんか。
 ボクと友達になってね』

『(^▽^) わーい』

 まだ小さいからか、気さくな神樹様だね。

『気さくってなーに』
『(?ω・) ご主人様ー、気さくってなにー』

 あちゃー、念話中だった。
 神樹様と点ちゃん、両方から質問が出ちゃったよ。

『気さくってのはね、話しやすいってことだよ』

『やったー、ボク褒められた』

『神樹様、いや、メアリー様、他の神樹様と連絡できますか?』

『なんかできそう。
 やってみる』

 少し念話が途切れる。
 その間に、二人の研究員と話をしておく。

「あなた方が、この神樹様を見つけたんですね?」

 年配の方が答える。

「ええ、この地域を調べているとき、このジョイが見つけました」

「ジョイさん、見つけたのはどうやって?」

「『研究歴史記念館』に、二百年以上昔に神樹捜索に使っていた機械がありました。
 それを元に、新しい機械を作ってみたんです」

 お、いいね。ぜひ「エミリー研究所」に欲しい人材だな。地球に招聘(しょうへい)したいところだ。
 俺がそんなことを考えていると、神樹メアリー様から念話があった。

『シロー! 
 ママや他の仲間といっぱい話せたよ』

『よかったです。
 メアリー様、私たちは、ここをすぐに立ちさりますが、寂しくありませんか?』

『エミリーと直接会えなくなるのは少し寂しいけど、今はママといつでも話せるから大丈夫。
 それに、エミリーが、他の世界で仲間に触れたら、ボクにも触れることになるからね』

『メアリー、私、きっとまた来るから』

『うん、待ってるよ、エミリー』

『(*'▽')ノミノ メアリーちゃん、またねー』

『点ちゃんも、元気でね』

『では、メアリー様、これで失礼します』

『シロー、ママやみんなをよろしくね』

『はい、メアリー様もお元気で』

 俺は、これからすべきことが形になったことで、少しだけ安心するのだった。
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