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第九章 異世界訪問編

第15話 キャロの里帰り3

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 聖樹様と謁見した後、俺たちは、ギルド本部がある集落まで帰ってきた。

 エレノアさんは、すぐに本部に報告へ行った。
 翔太、エミリー、俺は、レグルスさんと共に『木の家』に登る。

「おかえりなさい。
 聖樹様との会見はどうだった?」

「ああ、キャロ、詳しくは言えないけど大変な事になったよ。
 きっと、君にもギルド本部から報告が来ると思うよ」

「そう? 
 じゃ、その時、聞こうかな」

「シローさん、いつ『西の島』へ?」

「エレノアさんが帰ってきたら、すぐに向かいますよ、フィロさん」

「ありがとうございます]

 エレノアは、昼食に間にあわなかった。事態の深刻さを考えると、仕方がないことだろう。
 昼過ぎに帰ってきた彼女は、とても疲れた顔をしていた。

「ハニー、大丈夫かい?」

 レガルスが、エレノアさんの背中を撫でている。
 俺は、少しでも疲れが取れるように、ドラゴニア産の蜂蜜と熱々クッキーを出してあげた。

「なにこれ! 
 蜂蜜でしょ。
 だけど、こんなに美味しいの食べたことないわ」

 エレノアさんは、少し元気になったようだ。

「それは、ドラゴニア産の蜂蜜ですよ」

「ドラゴニア?」

「ええ、竜人が住む国です」

「ええっ! 
 竜人って本当にいたの?」

 俺は簡単に、竜人国、天竜国の話をした。

「なんですって! 
 ルルが古代竜の母親役……」

「ルルなら、そのくらい当然だよ」

 エレノアさんはかなり驚いたが、レガルスさんは当然という顔だった。

「さて、そろそろ行きますよ」

 俺の合図で、翔太、エミリー、キャロ、フィロさん、エレノアさん、レガルスさんが俺の周囲に集まる。
輪になるように全員が手を繋ぐ。

「では、跳びます」

 俺の合図で、七人は『西の島』に瞬間移動した。

 ◇

 俺たちは、『西の島』西部にあるフェアリスが住む森に瞬間移動した。
 現れた場所は、フェアリス広場にある「土の家」の二階だ。
 俺たちが二階からぞろぞろ降りていくと、一階で待っていたフェアリスの長とフェアリスたちが歓声を上げて迎えてくれた。

「「「キャロ、おかえりー!!」」」

 キャロが、たくさんの若いフェアリス族に囲まれている。みんな身長は1mほどだ。
 十年ぶりの再会に全員が涙を流している。

「フィロさん、良く帰ったね」

 フィロさんの周りには、年配のフェアリス族が集まった。
 彼はみんなに、自分が体験した話を始めたようだ。

 身長が50cmも無いフェアリスの子供が俺に群がる。

「ねえ、ナルちゃんはー?」
「メルちゃんどこー?」

 二人は、フェアリスの子供に懐かれてるからね。

「ごめんね、二人は来てないんだよ」

 俺が、そう言うと、子供たちの元気が一気になくなる。

「なんだー、つまらないなー」
「あーあ、がっかり」

 しょうがないから、土魔術で樽を作り、広場の一角にある井戸の水を入れる。
 水魔術と火魔術を使い、水の温度を上げ、ドラゴニアの蜂蜜を溶かす。
 最後に水の温度を下げると、蜂蜜水の出来あがりだ。

 まだ小さい子には、アップルサイダーに似た、『東の島』産ジュースを出してやる。
 土魔術で、小さなコップをたくさん作り、それを配る。

 テーブルも出し、熱々クッキーをお皿の上に盛る。

「じゃ、みんな並んで。
 ジュースとクッキーもらってね」

 俺の声で、子供たちから歓声が上がった。

 翔太とエミリーも手伝い、子供たちにジュースを配る。
 蜂蜜ジュース1樽とエルファリアのジュース1樽、クッキーは、それほどかからず無くなった。

 フェアリスの子供たちはお腹が一杯になったからか、眠くなって家に帰る子が多かった。
 残った子供は、翔太とエミリーにまとわりついている。
 ブランにちょっかいを出し、彼女を怒らせている子供もいる。

 俺は、久しぶりに訪れたフェアリスの里でほのぼのとした気持ちになるのだった。」

 ◇

 フェアリス広場にある、『土の家』で一泊した俺は、朝から長と話をしていた。

「長、その後、何か困った事はありませんか?」

「困った事もなにも、お主が井戸を掘り、さらわれとった仲間を取りもどしてくれたおかげで、この里も住みやすくなったわ」

「何かあれば、遠慮なく言ってください」

「おお、また何かあれば頼むぞ」

「ええ、喜んで」

「ところで、『フェアリスの涙』はまだあるかな?」

「ええ、それが、もうほとんどありません。
 できれば、また仕入れたいのですが……」

「おお、用意してあるぞ。
 それにな、今年は特別な酒の蔵出しがあってな」

「特別な酒?」

「ああ、本来は儀式にだけ使うのじゃが、失敗に備えていくつか余分が作ってある。
 幸い、酒造りが上手くいってな。
 儀式には一樽あればよいから、それも持っていくがよい」

「何と言うお酒なんです」

「儀式用じゃから名など無いが、そうじゃな、名づけるなら『フェアリスの星』とでもしておくかの」

「いい名前ですね」

「ははは、思いつきじゃがな。
 それより、キャロとフィロのこと、すまぬな」

「いいえ、俺はキャロさんから、大変な恩を受けていますから。
 少しでもそれが返せて嬉しいですよ」

「そうか。
 あの子が他の世界でみんなから頼りにされておるのは、本当なのじゃな」

 フェアリスの長は、感慨深げに何度も頷いていた。
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