ポータルズ -最弱魔法を育てようー

空知音

文字の大きさ
上 下
345 / 607
第九章 異世界訪問編

第6話 聖女の帰還

しおりを挟む

 俺がマスケドニアから迎賓館の続き部屋に戻ると、皆が楽しそうに話をしていた。
 舞子に目で合図すると、彼女が両親に話しかけた。

「さあ、私たちも行きましょう。 
 お父さん、お母さん、忘れ物はない?
 エミリーも、一緒に行きましょうね」

「もちろん、行きます、お姉さま」

「ボーさん、この部屋、ボクだけになっちゃうの?」

 白猫ブランを抱いた翔太は、不安そうだ。

「ああ、翔太、安心して。
 君も、俺たちと一緒に行こう」

「どこへ?」

「舞子お姉さんの家だよ」

「どうして?」

「君、魔術師に覚醒しただろう?」

「うん! 
 ボーさんと同じ!」

「そこにね、いい魔術の先生がいるんだ」

「えっ! 
 本当? 
 ボク、魔術が使えるようになりたい!」

 これは、『水盤の儀』が終わった後、畑山さんと相談して決めた。
 翔太を連れてきた目的も、果たさないといけないからね。
 今回はポータルズ世界をあちこち渡るが、その間、彼は俺の側にいる予定だ。

「じゃ、みんな、手を繋いで輪になって」

 俺も含め、全員が輪になる。
 別にバラバラでも瞬間移動はできるのだが、気分の問題だ。

 俺たちは、アリスト東部にある、鉱山都市のポータル前に瞬間移動した。

 ◇

 ポータル前には、俺がここを使うとき、いつも世話になる少年が地面に座っていた。
 ギルドを通じ、前もって連絡が来ていたのだろう。 

「せいじょ、さま」

「まあ、ケン、すごく上手に話せるようになったわね」

 彼は、喉の病を舞子に治療してもらい、少しずつ話せるようになってきた。
 舞子が、彼の頭を撫でると、ケンは太陽のような笑顔を浮かべた。
 彼に女王陛下からの通行証を見せる。
 普通は身分証明書も要るから、これは特別なものだ。

 彼が頷いたので、俺たちはポータルの前に並んだ。

「えっ! 
 この穴に入るの?」

 渡辺のおばさん(舞子の母)が、怖がっている。

「大丈夫よ、お母さん。
 私なんて、もう何度も通ってるから」

「舞子が、たくましくもなるわけだね。
 こんなのを、何度も使ってたなんて」

 渡辺のおじさんが、感心したように言う。

「お母さん、私と手を繋ぐといいよ。
 エミリー、おいで」

 舞子は、母親とエミリーの手を取った。
 俺は、おじさんと翔太の手を取る。
 ブランは空いた方の手で翔太が抱えている。

「じゃ、行くわよ」

 俺たちは、舞子の合図で、ポータルに踏みこんだ。

 ◇

 俺たち一行は、ケーナイのポータル部屋に出た。
 いつもここにいる係官、犬人ワンズは、俺と舞子の顔を見ると笑顔を見せた。

「聖女様、シローさん。
 ケーナイへお帰りなさい。
 みなさん、お待ちかねですよ」

「ま、舞子、この方、み、耳が……」

「お母さん、うろたえないの。
 ここは、獣人の世界よ。
 耳があるのが、当たり前なの」

「そ、そうは言ってもねぇ……」

 彼女は、地球にいた時、獣人の映像を見ているんだが、実際に目にすると、やっぱり驚くもんだね。
 ワンズが、出口のドアを開ける。
 狐人コルネと犬人アンデが入ってきた。

「聖女様、お帰りなさい。
 ちょっと、上が大騒ぎになっておりまして、鎮めに上がっておりました」

 コルネは俺の方をチラッと見たが、何も言わない。何か機嫌を損ねてる気色だ。
 俺はアンデと握手した。彼が俺の耳元でささやく。

「コルナさんが一緒じゃないんで、お冠なんだ」

 なるほど、そういうことか。

「コルネ、この後コルナを迎えに行くんだが、ついてくるかい?」

「いえ、結構です。
 ほんとに、もうっ! 
 お姉ちゃんを放っておいて、こんなに長いこと、どこに行ってんのよ!」

「俺、聖樹様のお導きで、元の世界に帰ってたんだけど、いけなかった?」

「せ、聖樹様!」

 コルネは、頭を下げ祈る姿勢で、その言葉を口にした。

「す、すみません。
 失礼な事をいたしました」

 彼女の態度が豹変した。

「そうだ。
 ちょうど、君に相談したいことがあったんだ。
 舞子の家まで、来てもらえるかな?」

「はい、うかがいます」

 素直なコルネは、ちょっと気持ち悪いぞ。

「では、皆さん、こちらへ」

 アンデが先に立ち、俺たちは地下から地上へ出た。

 俺たちが地上に姿を現すと、広場を埋めつくした群衆から、凄い歓声が押しよせた。
 どこかで歓迎の音楽が鳴っているが、それが、ほとんど聞こえないほどだ。

「史郎君、なんだね、これは?」

 舞子のおじさんが、周囲の音に負けないよう、声を張りあげる。

「住民が、舞子さんを歓迎しているんです」

「えっ! 
 映像では見たことあったが、こんなに凄いのか」

 おじさんが呆れている。

「お父さん、お母さん、こっちに来て。
 エミリーと翔太君も、私の後についてくるのよ」

 ブランが翔太の腕から俺の肩に跳びうつる。
 この猫っていうか、スライム、すごく頭が良くないか?

 舞子たちが演台に立つと、歓声がさらに高まった。
 余りにうるさいので、俺は耳を一部シールドで覆った。

「皆さん、ただいま帰りました。 
 この度は、聖樹様のお仕事で少し留守にしていました。
 私の世界に立ちよりましたから、親しい人を連れてきました」

 彼女が言葉を切る。群衆は静かに次の言葉を待っている。

「私の友人と両親です」

 一斉に歓声が上がる。

「聖女様ー」
「ご母堂ー」
「御父上ー」

 なんか、よく分からない呼び方も交じっている。

「では、愛すべきグレイルの方々、この度もよろしくお願いいたします」

 舞子が頭を下げ、舞台を降りる。
 拍手と歓声は、それでも止まなかった。

「私、鳥肌が立っちゃった」

 渡辺のおばさんは、少し震えている。
 おじさんは、目に涙を溜めていた。

「お前、この世界の人たちに、本当に愛されているんだなあ」

「もう、改めて言わなくていいの、お父さん。
 恥ずかしいじゃない」

 俺たちは、その後二台の馬車を連ね、郊外にある舞子の屋敷に向かったが、町を出るまで道沿いには隙間なく人々が並んでいた。 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

処理中です...