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第九章 異世界訪問編

第4話 エミリーの覚醒

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 俺は、家族を迎えに天竜国へ行く準備をしていた。

 天竜の人々にとって役立ちそうなものは、地球で大方手に入れているが、アリストでないと手に入らない素材もある。

 午前中にそれを購入しておき、昼食は自宅でキツネたちと一緒に食べる。
 ポンポコ商会アリスト支店の運営状況をチェックする。

 すでに、『フェアリスの涙』は、在庫が切れており、コケットも、ハンモック部分はあるのだが、緑苔が無くなっていた。
 家族を連れかえった後で、大至急エルファリアへ向かおう。

 食事の後、俺は仕事に無理やり区切りをつけてお城に来ている。
 畑山さんから、翔太たちが『水盤の儀』をとりおこなうという連絡を受けたからだ。

 俺が『王の間』に入っていくと、ちょうど加藤のおじさんが水盤に手をかざすところだった。
 しかし、加藤夫妻、渡辺夫妻には水盤が反応しなかった。
 やはり、異世界人でも一定の年齢を超えると覚醒しなくなるようだ。

 翔太が、水盤に手をかざす。水盤は、強い光を発した。
 ただ、加藤たちの時に比べると、その光はおとなしいものだった。

 ハートンの声が響く。

「魔術師レベル30」

 宮廷魔術師が並んでいる一角がどよめく。レベル30は、かなり凄いらしい。
 翔太君は、満面に笑みを浮かべている。

 次は、エミリーだ。 
 彼女は、緊張した面持ちで水盤に手を伸ばしたが、なぜか水盤は反応しなかった。
 舞子が心配そうにエミリーを見ている。

 そのとき、水盤を支えていたハートンが、すとんと床に腰を落とした。
 彼は、青くなってブルブル震えている。
 これはただ事ではない。

 俺は、玉座の畑山さんに手で合図を送ると、ハートンが持つ水盤に近よった。
 そこに浮かんだ文字は、今まで見たことがない職業を示していた。

 聖樹の巫女

 なんだこれは? 
 コルナがそうである『神樹の巫女』なら俺も知っているが、『聖樹の巫女』など聞いたことも無い。

 ハートンが腰を抜かしたのも当たり前だ。
 名前に「聖樹」とついているだけで、ただならぬことだ。

 俺は、『初めの四人』共通のチャンネルで念話を送った。

『エミリーの職業は、「聖樹の巫女」だったよ』

『えっ? 「神樹の巫女」じゃないの?』

 舞子も驚いている。

『名前に、「聖樹」と付いてるなんて、とんでもないことになったわね』

 さすがに畑山さんは、事態の深刻さが分かっている。

『えっ? 
 麗子さん、「聖樹」だと、何かまずいの?』

 約一名、なんにも分かっていないのが加藤だ。

『とりあえず、ハートンには厳重に口止めしておいた方がいいね』

『確かに、ボーが言うとおりね。
 このことは、外に漏れないよう細心の注意を払いましょう』

 俺たちが、そういう念話のやり取りをしていると、のん気な声が『王の間』に響いた。

「あー、この水みたいなのに手をかざすのね」

 床に座ったハートンが掲げた水盤の上に手をかざしたのは、誰あろうヒロ姉だ。

「姉ちゃん、何してんの!」

 加藤が呆れている。

「おっ! 
 光った、光った。
 面白いわね、これ」

 俺が文字を読むと、そこには次の文字が。

 聖騎士 レベル30

 おいおい、ヒロ姉が聖騎士かよ。
 翔太が率いる『騎士』の一人としてなら資格があると思ってたんだけど。

 ハートンが目を回しかけたので、ヒロ姉が水盤を代わりに支えた。

「ちょっと、この人どうしちゃったの?」

 あなたのせいですよ、あなたの。

 こうして、ヒロ姉がひっかき回し、水盤の儀は終わった。
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