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第九章 異世界訪問編
第2話 アリストとギルド
しおりを挟む俺たち一行は、『王の間』ではなく、貴賓室に通された。
着いてすぐ、こちらに慣れていない人たちが、作法や緊張を押しつけられないようにという、女王畑山さんの心配りだ。
貴賓室には、いつもの丸テーブルに加え、もう一脚同じものが出されていた。
みんなは、とりあえず、席に着いた。
メイドが出してくれたお茶を飲み、やっと人心地つく。
加藤の両親、舞子の両親は、周囲の豪華さに目を見はっている。
翔太なんか、歩きまわって調度品を近くから眺めている。
「麗子君は、本当に女王様なんだねえ」
渡辺のおじさん(舞子の父)が感心している。
「玉座に着いた、彼女の威厳は凄いですよ」
「へえ、史郎君は、それを見たことがあるんだね」
「ええ、何度も」
主にお小言を頂くときにだけどね。
俺たちがお茶を飲みおわる頃、部屋に畑山さんが入ってくる。
服装は、すでに国王の正装で、頭に王冠を載せている。
おそらく、『王の間』で、貴族たちから帰城の挨拶を受けたのだろう。
後ろに控えていたレダーマンに王冠を渡すと、彼女も椅子に座った。
「畑山さん、大変な事って何だった?」
彼女は、立ったまま胸の前に王冠を掲げている、レダーマンの方をチラリと見る。
レダーマンが頷くと、口を開いた。
「ボー、キンベラって国は、知ってるかな?」
「ああ、知ってるよ。
サザール湖の北岸にある小国だろう?」
アリスト王国は、サザール湖東岸にある。
この大きな湖の北側にキンベラ、東がここアリスト、南がマスケドニアとなる。
「私たちが、ちょうど地球に帰った頃、あそこの王が代替わりしたそうなのよ」
「ああ、キンベラ王は、かなりのご高齢だったから」
「代わりに王位についたのが、その孫でね」
畑山さんは、首を左右に振っている。
「そいつが、アリストに攻めこもうとしたらしいわ」
「えっ!
じゃ、この国、危ないんじゃない?」
「ああ、それは大丈夫。
もう落ちついてるから」
「麗子さん、どういうこと?」
加藤が、首を傾げている。
「キンベラが、この国に攻めこもうとした途端、クーデターが起きたそうよ」
「それは、ついてたね」
「ついてたんじゃないの。
ギルドが、動いたらしいのよ」
「えっ!?
ギルドが?」
「ええ、そう。
ギルドって、一旦そうと決めると一国くらい、すぐに潰せちゃうのね。
ウチは、ギルドとの関係が良好で、本当に良かったわ」
おそらく、アリストのギルドマスター、キャロからの連絡で、ギルド長のミランダさんが動いたのだろう。
『(*'▽') ギルド、ぱねー』
本当にそうだね、点ちゃん。
「で、キンベラは?」
俺は、冒険者として尋ねる。こういう情報は何より価値があるからね。
「旧王から冷遇されていた息子が、後を継いだそうよ。
すでに、友好使節がウチに来てるそうなの」
なら、この国は安心だね。地球の人がいきなり戦乱の地に住むのはきついから。
「舞子、あなたの住んでる所は、大丈夫なの?」
渡辺のおばさん(舞子の母)は、心配そうだ。
「うん、大丈夫だよ。
私が行ってすぐはゴタゴタしてたんだけど、史郎君が収めちゃったの」
「史郎君、どうやって?」
渡辺のおじさんが驚いている。
「ああ、それは、彼女の家に行ったら、ゆっくりお話ししますよ」
「舞子お姉ちゃんは、どこに住んでるの?」
舞子に甘えて、椅子をぴったり寄せているエミリーが問いかける。
「グレイルっていう世界のケーナイっていう町だよ。
エミリーが行ったら、みんな喜ぶと思うよ」
「うん!
行ってみたい」
エミリーは、目が見えるようになったことで、内気だった性格まで変わりはじめたように見える。
「そういや、母ちゃんたちは、あれしないのか?」
「加藤、あれって何だよ」
「ほら、なんか水が入った、タライみたいなものの上に手をかざすヤツ」
水盤の儀ね。水盤も、タライと言われたら立つ瀬がないよね。
これには、畑山さんが答えた。
「ああ、ハートンに尋ねたら、あれは準備が必要だってことだわ。
だから、明日、執りおこなうことになったの」
その後、地球からの初転移組は、畑山さんの案内で、城内を見てまわることになった。
その後は、この城の迎賓館に宿泊する。
俺だけは、ギルドを訪れてから、自宅に戻ることにした。
◇
俺は、アリスト城から、城下にあるギルドの建物前に瞬間移動した。
目の前に突然現れた俺を見て、通行人が驚いたが、そのままギルドの中に入った。
アリストのギルドは、いつもドアが開けてあるからね。
ギルドの中は、丸テーブルが四つ置かれた食堂のようなスペースと、長いカウンターの前で冒険者が並んでいる受付スペースに分かれている。
列に並んでいる、顔なじみの冒険者が、俺に気づいた。
「おっ!
ルーキー、しばらく見なかったな」
「あっ、黒鉄(くろがね)シローじゃねえか。
お帰りー」
ギルド内は、すごい騒ぎになった。
俺はみんなに押したてられ、中央の丸テーブルに座らされる。
「おい、どんな冒険してきたか、教えてくれよ」
「ああ、俺っちも聞きたいね」
「そうよ、教えてよ」
「それより、皆にお土産があるよ」
俺は、点収納からお土産を出し、それを丸テーブルの上に置いた。
テーブルに山盛りになるほど量がある。
「「「おおー!!」」」
俺は、甘いものが好きな者にはお菓子類、酒が好きな者にはウイスキーを配った。
「これは、俺の世界からのお土産だから、二度と手に入らないよ」
俺がそう言うと、歓声が上がる。
「やった!
これ売ったら、儲かるな」
「馬鹿っ、二度と飲めねえ酒だぜ。
自分で飲めよ」
「きゃー!
何、これ!
超甘(ちょうあま)ウマ~」
もう、大騒ぎだ。
「シロー、お帰り」
人垣の間から、ギルドマスターのキャロが顔を出す。
彼女は、フェアリスという種族で、身長が一メートルくらいしかない。
「キャロ、久しぶりだね」
「ここでは、なんだから、奥に来てね」
「ああ」
俺を奥の部屋に連れていく前に、キャロが念話を送ってくる。
『依頼書のコーナーで、こっちを見てる三人がいるでしょ』
『ああ、男の子が二人と女の子が一人だな』
『あの子たち、最近「星の卵」って言うパーティを作ったの。
気にかけてやって』
『ああ、分かった』
『ベテランに遠慮して、お土産も、もらえないようだから、後で渡してやってね』
『分かってる』
俺が個室でキャロと話をしていると、フィロさんがお茶を持ってきた。
彼はキャロの父親で、やはり一メートルほどしか身長がない。
二人とも、緑の帽子、緑の服を着て、まるでおとぎ話で出てくる小人(こびと)のようだ。
「シローさん、お帰り」
「フィロさん、アリストの住み心地はどうです」
「ああ、みんなよくしてくれるね。
君が、『キャロはみんなから大事にされてる』って言ってたけど、毎日それを実感してるよ」
彼は、半年ほど前にここに来たからね。
キャロとフィロ親子は、顔を見合わせ、ニコニコしている。
「そうだ。
俺、もうすぐしたら、エルファリアに行くけど、二人はどうする?」
「そうねえ。
帰りたいけど、ギルドの仕事があるから……」
キャロは、残念そうだ。
その時、ドアがバーンと開き、でっかい男が入ってきた。
筋肉の鎧を着ているような男で、頭はつるつるに剃っている。
「キャロ、遠慮いらねえから行ってきな。
その間、ギルドは、俺が面倒見ておくぜ、ガハハハ」
この大男は、前ギルドマスターであり、俺とも縁が深いマックさんだ。
しかし、こいつ、盗み聞きしてたな。
「マックさん、お久しぶり」
「おっ!?
シロー、おめえもいたのか」
盗み聞きしておいて、「おめえもいたのか」は無いよね。
「はい、これお土産」
彼には、極上のブランデーを渡す。
「俺の世界の酒だよ。
二度と手に入らないと思うから、大事に飲んでね」
「ガハハハ、有難くいただくぜ。
ところで、兄貴はどうしてる?」
「あー、それは、後で話すよ。
ウチに来てくれる?」
「おう、日が暮れる頃、行くぜ」
俺は、そこから瞬間移動で自分の家に帰った。
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