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第八章 地球訪問編
第49話 舞子の提案
しおりを挟む俺たちは、ルート66を走りおえた地点から、瞬間移動でハーディ邸に来ていた。
「舞子お姉ちゃん!」
舞子の声を聞いたのだろう。エミリーが、舞子に飛びつく。
その動作は、とても目が見えない人のものとは思えなかった。
「エミリー、元気にしてた?」
「うん!
あのね、ブランちゃんもいたから、すごく楽しかったよ」
エミリーの足元にまとわりついていたブランは、彼女が急に位置を変えたので、辺りを見まわし、俺を見つけた。
俺の肩に跳びのると、肉球を額に押しつけてくる。
旅行中に何があったか、知りたいのだろう。
点ちゃんも、ブランと何か話してる気配がある。
「おお、シローさん、無事たどり着きましたね。
マザー・ロードの旅はどうでしたか?」
ハーディ卿が俺に握手を求める。
マザー・ロードとは、ルート66の別名だ。
「ええ、まさに、アメリカの母なる道っていう感じがしました。
古き良きアメリカの匂いって言うんですかね」
俺は、そう言って彼の手を握りかえした。
「ははは、他国の方からそう言われると、面映ゆいですな」
畑山さんは、舞子とエミリーを連れ、お風呂に向かった。
前回ここを訪れた時、ハーディ邸の大理石張りの大浴場を痛く気に入った彼女のことだから、滞在中、日に二回は入るだろう。
ハーディ卿、加藤、俺は、ソファーでくつろぎ、旅の話に花を咲かせた。
俺たちが警察のバリケードをジャンプで飛びこえた話で、ハーディ卿が歓声を上げる。
「ああ!
私もその場に居合わせたかったですなあ」
どうやら彼は、少年の心を忘れていないらしい。
「そうそう、ボーが、こういうの作ってくれましたよ」
加藤が、胸のペンダントを自慢げに見せる。
「こ、これは?
もしかして『枯れクズ』ですかな?」
ハーディ卿の視線が俺を向く。
「ええ、そうです」
「綺麗なものですな。
内側から光っている」
「明りにもなりますから、いくつか置いていきましょう」
「ええっ!
国相手にしか売らないものを、頂いていいのですか?」
「ははは、あなただけに話しますが、俺、膨大な量の『枯れクズ』を持ってるんですよ」
俺がそう言うと、絨毯の上に「枯れクズ」の山が現れた。
「!」
ハーディ卿は、凍りついたようになった。
「と、とてつもない量ですな」
やっと、言葉に出す。
「まあ、在庫だけで、これの何万倍っていう量があります」
さすがのハーディ卿も、目を白黒させている。
「ハーディさん、ボーがやることにいちいち驚いてたら、切りがありませんよ」
お前も十分、人を驚かせてるだろう、加藤。
畑山さんたちが風呂から上がると、俺と加藤もさっと入浴を済ませる。
ハーディ卿が、夕食の用意をしておいてくれた。
旅行が終わった後の俺たちを気遣ったのだろう。量は少ないが、それでも抜群に美味しい料理だった。
特にステーキが旨かった。
彼に尋ねると、肉だけは日本からの輸入品だそうだ。
食事が終ると、お茶を出したメイドたちが部屋から出ていく。
ハーディ卿から、内々の話があるそうだ。
「もうすぐ皆さんは、異世界に帰られるのですね?」
分かっていることだが、確認のつもりなのだろう。
「はい、間もなく帰る予定です」
「その旅に私も同行させてもらえませんか?」
「なぜそんなことを?」
「この子の目を治す可能性があるなら、私は何でもします。
そういう薬があれば、それを持ちかえりたいのです」
冗談を言っている顔ではない。
「こちらに二度と帰れなくなるとしてもですか?」
畑山さんが、普段と変わらぬ口調で尋ねる。
「ほんのわずかでも、その可能性があるなら、私の命など惜しくはありません」
親の愛情を知らない俺でも、これにはグッときた。
『みんな、聞いてくれる?』
それは、珍しく舞子から話しかける念話だった。
『舞子、何か考えがあるのね。
言ってごらん』
舞子は、畑山さんに目でお礼を言うと、念話を続けた。
『私がエミリーを治せない理由は、私の能力がこちらの世界に漏れないためだよね』
『そうね』
『それじゃあ、エミリーを異世界に連れていって、向こうで治療したらどうかしら?』
『そんなことできるわけが……』
加藤が言いかけたが、それに俺がかぶせる。
『舞子、よく考えたね。
確かに、それならうまくいくかもしれない』
『ただ、やはり異世界に行く前に目が見えなかった人が、急に見えるようになったなら、疑われるのは私たちじゃない?』
畑山さんは、慎重だ。まあ、舞子の人生が掛かってるからね。
『そうだな。
こうしては、どうだろう。
エミリーには、地球に帰ってしばらくは、日本の渡辺家で暮らしてもらうってのは』
畑山さんと加藤から反応が無いのは、頭の中で、そうした場合のシュミレーションをおこなっているからだろう。
『でも、エミリーは有名な富豪の娘だから、誰かが気づくかもしれないわよ』
『髪の色と長さが変わってたらどうかな。
かなりイメージ変わるとおもうけど』
『ボー!
ナイスアイデアね。
それなら、なんとかなるかもね』
『最悪、異世界の不思議で治してきましたって言い訳もきくしな』
『いや、加藤、異世界の不思議で治すんだろう』
『あっ、そうだったか』
『とにかく、これを実行するためには、ハーディ卿、舞子のご両親だけでなくエミリー自身の決断が必要ね』
畑山さんが、条件をまとめる。
『じゃ、これで提案していいかな?』
『異議なし』
『いいよ』
『舞子もいいわね。
条件が満たされない時は、きっぱり諦めるのよ』
『分かったわ』
俺は、舞子と彼女の両親との間に念話のチャンネルを開いた。
これは、俺たちにも聞こえないようにしてある。
念話は、五分もしないうちに終わった。
舞子が、OKのサインを出す。
畑山さんが、先ほどの条件をハーディ卿に提示する。
俺たちが急に黙りこんだので、不安そうな表情だった彼は、その条件にすぐ飛びついた。
「エミリーの目が治るなら、そんなことはたやすいことです」
さすが、ハーディさんは、一代で莫大な富を築いただけはあるな。
ここぞというときの決断力がある。
「エミリー、私と一緒に異世界に来てほしいの。
向こうなら、あなたの目が治る可能性があるわ」
舞子が落ちついた声で提案する。エミリーは、それを聞くとすぐに答えた。
「私、舞子お姉ちゃんと異世界に行く。
自分の目で、みんなが見たいの。
それに、自分の力で、お買い物やお食事をみんなと一緒にしてみたい」
「分かったわ。
よく決めたわね、エミリー」
舞子は立ちあがると、椅子の後ろからエミリーを抱きしめた。
ハーディ卿は、いろんな思いがこみ上げ、滝のように涙を流している。
なぜか、加藤も泣いている。
畑山さんと俺は立ちあがり、拳を合わせた。
彼女って、ほんと漢だよな。
『(*´з`) 失礼なご主人様だねー、ブラン』
そ、そうですか、点ちゃん。男じゃなく、「漢」って言ったのが悪かったのかな。
『(*ω*) ……』
おーい、点ちゃん、聞こえてますかー。
俺は、点ちゃんにとことん呆れられ、悲しみにくれるのだった。
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