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第八章 地球訪問編
第43話 本日開店、ポンポコ商会地球支店1
しおりを挟む地球のポンポコ商会支店が、いよいよ正式にオープンすることとなった。
オープン記念パーティは、地下にポンポコ商会が入る店、「ホワイトローズ」で行われた。
参加者は、畑山さん、翔太君、舞子、エミリー、加藤、『騎士』、『異世界通信社』の社員だ。
身内だけで結構な数になるから、ゲストは最小限に抑えた。
学校関係では、林先生、白神、中西。
家族では、畑山のおやじさん、舞子の両親、加藤の両親だ。
割と広い店内も、これだけ人が入ると、いっぱいだ。
だから、窓際と壁際に椅子を置き、立食形式にした。
親御さん用に、一つだけテーブルを出しておいた。
参加者全員がパーティを楽しむために、畑山のおやじさんが、メイドさんと黒服数名を派遣してくれた。
パーティは、畑山さんが音頭を取る乾杯で始まり、和やかに進んだ。
宴たけなわで思わぬ飛びいりがあった。
エミリーの父親、ハーディ卿だ。
彼の登場は前もって俺だけが知っていたのだが、彼が連れて来た人には本当に驚いた。
少し変装しているが、アメリカ大統領トーマスその人だった。
後ろにちょこちょこ小柄なおじさんが付いてきているが、これはおまけの日本国首相だ。
店の入り口には、あっという間にSPが立ちならんんだ。
俺や畑山さんが、普段通り二人と接しているので、今のところみんなは気づいていないようだ。
ハーディ卿は、久しぶりに会ったエミリーにデレデレだ。
俺は、部屋の隅で大統領に話しかけた。
「こんにちは、大統領。
よく周囲が許しましたね」
「ああ、ジョン(ハーディ卿)から、君たちのパーティに行くと聞いてね。
秘書官にそれを話したら、緊急会議が開かれて、私も来ることになったんだよ」
なるほど、政府公認の「おしのび」ってことか。
「その際、月のマークについて調査する仕事を押しつけられた」
大柄な大統領が、いたずらっ子のような顔をする。
「あれ、何だと思います?」
「これだろう?」
大統領が、懐から出したのは、ポンポコ商会が、ポータルズ条約会議で配ったパンフレットだった。
商会のロゴマークが大きく描いてある。
「それに、ほら」
大統領が指さしたところには、忙しく立ちはたらくメイドさんがいたが、彼女の頭には、三角耳が付いていた。
「まあ、いつかはバレる事ですから言いますけどね」
俺は、実験をしていて月にポンポコ商会のマークをつけてしまったことを明かした。
「凄いな。
しかし、『枯れクズ』にそんな力があるなら、世界中に売るのは危険じゃないか?」
「大統領、ご安心ください。
実は実験に使った『枯れクズ』は、特別なものでして。
ポータルズ世界群にも同じものはありません」
俺の点収納には、山のように入ってるけどね。
「そ、そうか。
それを聞いて安心したよ。
これだけお土産を持って帰れば、秘書官どもも文句は言うまい」
彼は満足そうな顔をすると、お酒を注いでもらいに行った。
今日は、『フェアリスの涙』を出しているからね。
「坊野、お前たち、凄いことしたな」
林先生が俺の肩をポンポンと叩く。
「先生、今日は来てくれてありがとう」
「ああ、招待ありがとう。
それより、あのポータルズ条約で世界が変わるぞ」
「そうでしょうか」
「ああ、間違いなくな。
アフリカの小国の代表と話したが、彼は涙を流して未来を語っていたよ」
「そうなればいいですね」
「ははは、GDPで『枯れクズ』の価格に差をつけるって、お前のアイデアだろ。
少なくとも、飢え死にするような大陸ではなくなるな、アフリカが」
「ええ、俺も一度行って、大規模な植林作業を手伝おうかと思ってるんです」
先生は、俺の顔をしばらく見ていたが、両手でゴシゴシ自分の顔をこすると向こうへ行った。
何だったんだ、今のジェスチャーは。
『(*´з`) ご主人様は、どうしてこうなんですかねえ』
えっ! またここで突っこむの?
地球に帰還してから、点ちゃんの突っこみどころが分からなくなっちゃった。
「おい、ボー」
「おお、白神か。
それに小西も。
今日は来てくれてありがとう」
「お前、すげーな。
ハーディ卿と知りあいなんて」
「そうだ。
今日は、『フェアリスの涙』出してるから、忘れずに彼にも名刺渡しとけよ。
これはウチで取りあつかってる酒ですって、必ず言っとけよ」
「ああ、恩に着る」
「あとな」
俺は、白神の耳に口を寄せた。
「ハーディ卿と一緒に入ってきた人いるだろう」
「あの小さなおじさん?」
「いや、あれはただの首相だからほっとけばいいの」
白神の目が大きく開く。
「しゅ、首相ってお前……」
「いいから、小さなおじさんの事は、とりあえず忘れろ。
それより、ハーディ卿と入ってきたもう一人の方がいるだろう」
「ああ、なんか迫力ある人だよな」
「あれ、アメリカ大統領だ」
「えっ!
俺、耳がおかしくなったかな。
もっかい言ってくれ」
「騒ぐなよ。
彼はアメリカの大統領だ」
「お、お、お前、どうなってる……」
「いいから。
とにかくあっちにも名刺渡して、ハーディ卿と同じこと言っとけ」
「わ、分かった」
「小西」
「なに?」
「白神だけじゃ、心もとないから、しばらく奴の横についてやってくれ」
「まあ、今日は一日そうするつもりだけど」
さすがに分かってるね。
白神の所には、後で三樽ほど、『フェアリスの涙』を卸しておこう。
「シローの兄さん」
振りむくと、畑山のおやじさんが、遠藤を連れている。
「こいつのこと、可愛がってくださって、ほんとありがてえ」
「いや、遠藤は本当によくやってくれてます。
世界会議での活躍も凄かったですよ」
「遠藤、おめえは日の当たる所を歩くような縁だったんだなあ。
シローさん、これからも、こいつのこと、よろしくお願えいたしやす」
「おやじさん、頭を上げてください。
助かってるのはこっちなんですから。
それより、例の件、本当にいいんですか」
例の件とは、俺たちの異世界転移に合わせ、家族がそれに同行する計画の事だ。
「へい。
アッシみてえな半端な仕事をしてるもんが、国王の父親ってんじゃ、しめしがつかねえ。
今回は、遠慮しときます」
「分かりました。
また、俺が帰ってきたとき言ってもらえば、いつでも連れていきますよ」
「ありがてえこってす」
おやじさんは、涙ぐむ遠藤を連れ、みんなの輪に戻った。
畑山さんが、俺の所に来る。
「ボー、ウチの父さん、何か言ってた?」
「ああ、自分の仕事柄で女王陛下としての畑山さんに傷がつかないか心配してた。
今回は、同行は諦めるそうだ」
「もうっ。
父さんは気にしすぎなのよ」
「羨ましいよ」
「えっ?」
「ああいう父親がいるってどんな感じなのかな」
「なに言ってんの。
あんたらしくないわよ。
あんたには、守るべき人がたくさんいるでしょ。
それに、あんた自身が、そういう父親になればいいだけじゃない」
「ははは、それもそうだ」
厳しくも優しい畑山からの励ましを受け、俺は家族に会いたい気持ちが膨らむのだった。
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