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第八章 地球訪問編
第41話 月とポンポコ印
しおりを挟む異世界に関する秘密会議が国連で行われたわずか二週間後、二回目の国際会議が開かれた。
場所は、日本の地方都市だ。
開催地は、なんと『初めの四人』の通っていた高校がある町に決まった。
世界中ほとんどの国が参加する国際会議だ。
ホテルも旅館も数が足りないから、開催国の日本は色々苦労があったらしい。
突貫工事で臨時の宿泊所を建設し、そこは会議後、異世界関係の記念館となるのが決まっている。
そして、『初めの四人』特需でにぎわっている町の人々は、俺たちに対し好意的な対応をするようになった。
これは思わぬ副産物だった。
同窓会の時、俺たちに話しかけもしなかった同級生が次々に加藤、舞子の家を訪れ、二人の家族を困らせた。
会議は、一週間かけて行われたが、そこで『ポータルズ条約』が採択された。
内容は以下のようなものだ。
『初めの四人』が守るべき義務
・異世界に対する地球世界の守護
・異世界にこれから行く「地球人」の保護
・地球世界の国同士が争った場合、どの国にも加担しない
『初めの四人』が持つ権利
・パスポートなしで、自由に条約加盟国を訪れられる
・どの国でも魔法の乗り物を利用できる
・特定の国からの要求を拒むことができる
この会議を通し、新しい概念が生まれたことは、今後この世界を大きく変えることになるだろう。
それが、条約にも盛りこまれた「地球人」という言葉だ。
異世界から、どんな干渉があるか分からない今、国同士の争いに、いったい何の意味があるだろう。
肌の色、住む場所、文化や習慣、そんなものが違っても、地球の上に生きていることに変わりはない。
今までは、宇宙から地球を見下ろした宇宙飛行士くらいしか実感が湧かなかったことを、多くの人が感じられるかもしれない。
一部の大国とその傘下にある小国群が会議に参加しなかったが、「枯れクズ」がエネルギー革命を起こす事実を知れば、遠からず参加することになるだろう。
ところで、その「枯れクズ」だが、値段を決める時、各国のGDPに比例するよう設定した。
そのため、経済状態をごまかそうと、GDPを水増ししていた一部先進国代表は、その金額に悲鳴を上げていた。
この『ポータルズ条約』が実際に成立するのは、各国代表が自国に帰り、それを批准してからになる。
◇
今回の会議では、畑山が『初めの四人』代表として演説したほか、俺の知人も何人か関わった。
まず、前回の会議で俺から名前が出た、『異世界通信社』、『ポンポコ商会地球支店』だ。
両方とも会場に特設ブースが設けられ、そこには連日各国の代表が切れ間なく訪れた。
特に、アフリカ、東南アジア、中南米からの代表は凄まじい意気込みで、それぞれのブースを受けもつ柳井さんたちや『騎士』の面々は、対応におおわらわとなった。
ここで活躍したのが、四月から『異世界通信社』に入社する予定のヒロ姉こと加藤博子だ。彼女は、自分のコネをフルに使い、両ブースの運営を助け、一躍、時の人となった。
入社前にこの活躍とは、さすが勇者の姉だ。
また、『騎士』たちも、翔太君に負けないくらい脚光を浴びた。
それぞれ宛てに、ひっきりなしにインタビューの依頼が来る。
これは、『初めの四人』へのインタビューが禁じられてるっていうのもあるだろうね。
白騎士の店、『ホワイトローズ』は、余りに人が来るので、会議期間中とその前後は、休業となっている。
白神酒造の売りあげも、すごいことになっているそうだ。
会議初日に、各国代表は、おちょこ一杯ずつ『フェアリスの涙』を振舞われた。
それからは、会議期間中、いろんな国の要人が次々と白神酒造を訪れ、買いつけをしていったらしい。
すでに、在庫分はほとんど売り手がつき、次の販売も予約待ちが五年先まで埋まっているそうだ。
林先生の活躍にも言及しておこう。
彼は、なんとこの国際会議で基調講演を行うという大役を受けもった。
首相が直接会って頼みこんだらしい。
先生は、その大役を堂々とこなした。
林先生が、講演の中で新しくできる「異世界科」にさりげなく触れたため、高校には世界中から問いあわせが来ているそうだ。
◇
一方、『初めの四人』は、初日に畑山さんが演説をしたほか、仕事らしい仕事もなかったので、家族と家で過ごすことが多かった。
俺? 俺は点ちゃんと「枯れクズ」ともう一つの研究に余念がなかった。
そういえば、「枯れクズ」研究中に大変な「事故」が起きたことにも触れておこうか。
点ちゃんが、真竜廟で「光る木」の神樹様から手に入れた「枯れクズ」を研究していて、ある道具を生みだした。
それは、一メートルくらいの円筒形をしており、太さは三センチ、その根元が平たくなったもので、俺は何をモデルにしたかすぐに分かった。
アメリカで見た狙撃銃だ。
銃身は点魔法、機関部は「光る木」の「枯れクズ」で作ってあり、手元に小さな「枯れクズ」をはめ込む穴がある。
通常の「枯れクズ」を、弾丸と言うより、エネルギーパックとして使う仕組みだ。
手元のアクションで、チェインバーがふさがり、使用後は、自動で排出される。
銃身が円筒形でなく円柱形なのを除けば本物のライフルそっくりだ。
点ちゃん、こだわったね~。
『ぐ(*´ω`) エへへへ、変なモノ作っちゃった』
これ、どうやって使うの?
『(・ω・)つb ご主人様、ちょっとこれ持ってみてね』
こう?
『(・ω・) 危ないから、お空に向けてね』
おいおい、点ちゃんが危ないって、どんだけ危険なんだよ。
俺は夕方の空にぽっかり浮かぶ満月に照準をとった。
『(*'▽')/ いくよー!』
引き金に指を当てていた俺は、それがカチリと引かれるのを感じた。
銃身が一瞬光ったと思うと、先端からまばゆい光がほとばしった。
光は一瞬で月面に到着し、そこに模様を描きだした。
多分、照射時間は五秒程度だと思うが、月面には見慣れたマークが浮かびあがった。
それは、〇の上に小さな△が二つ付いたポンポコ商会のマークだった。
俺は、一瞬呆然としたが、すぐにやってしまった感に頭を抱えた。
『( ; ∀ ;) ご主人様ー、だめだった?』
点ちゃんの声に元気が無い。
いや、点ちゃん、がっかりしたんじゃないよ。
余りに凄くて、びっくりしただけ。
『p(≧▽≦)q わーい、よかったー!』
でも、あれって地球からバッチリ肉眼で見えるじゃん。ど、どうしよう。
すでに、ポンポコ商会のブースでは、でっかくそのマークを描いたパンフレットを各国に配っていた。
その日、全てのスケジュールが終わった後、後藤さんの案内で会議場二階にあるテラスに出てきた各国代表が見たのは、夜空に美しく輝く月と、そこにくっきりと記されたポンポコ商会のマークだった。
俺が月面に付けたマークが原因で、この会議に参加しなかった国々が、ポータル条約の批准に入ったのは、また別の話だ。
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