上 下
322 / 607
第八章 地球訪問編

第33話 同窓会2

しおりを挟む

 同窓会が終わり、俺が店を出る時、小西に袖を引っぱられた。

 辺りはもうすっかり暗くなっている。街灯の明りが道を照らしていた。
 瞬間移動担当の俺が連れていかれているので、加藤、畑山さん、舞子も後からついてきている。

 他の同級生から見えないところまで来ると、小西は頭を深く下げた。

「坊野君、みんな、本当にごめんなさい」

「どうして小西が謝るんだ?」

「みんな、君たち四人に話しかけなかったでしょ」

「……」

「特に、白神の馬鹿が失礼なこと言ってごめんね。
 みんな、特に白神はね、あなたたちが、うらやましいの」

「うらやましい?」

「あなたたちが、自由気ままに生きているのを見るのが辛いのよ」

「なんで?」

「白神の実家は酒屋でしょ。 
 彼は卒業したら、そこを継ぐの」

「それで、なんで俺たちがうらやましくなるんだ?」

 加藤が、彼らしい質問をする。

「彼も、他のみんなも、閉塞感があるのよ。
 たとえ大学進学したって、結局は二年ほどで就職活動でしょ。
 未来が見えてるの」

「見えてたら、安心できていいじゃないか」

 加藤が呆れを含んだ声で言う。

「自由が無いのよっ!」

 小西の大きな声に、加藤がびくっとする。

「決められたレールの上、決められた終着駅。
 あんたたちを見てると、自分がみじめになるの」

「いい加減になさい!」

 畑山さんが、ピシャリと言うと、今度は小西がびくっとした。

「あんた、こいつらが、どんだけの事をして今ここにいるか、分かってんの?」

 小西が首を左右に振る。

「こいつらはね、何度も死ぬような目に遭って、それを乗りこえて自分の力で生きぬいてきたの。
 ぬるま湯でぬくぬくしている人間が、偉そうに言わないでくれる」

 最後の方、女王様の威厳が、ちょっと入っちゃったな。
 小西がブルブル震えだした。

「畑山さん、みんなは、異世界転移するって事がどういうことか、分かってないんだよ。
 その辺にしておこう。
 小西、申しわけないが、はっきり言って、俺は今日ここに来るべきじゃなかったって感じてる。
 他の皆も多分、似たり寄ったりだろう。
 もう俺たちの事は、忘れた方がいいな」

 その時、物陰から誰かが飛びだすと、俺に殴りかかった。
 余りに遅い攻撃なので、避けてもよかったのだが、俺はつっ立ったままでいた。

 カン

 俺の頬に触れた拳が、小さな金属音をあげ弾かれる。
 地面に倒れ、腕を抱えているのは、白神だった。

「ター君!」

 小西が、白神に駆けよる。

「あなた、死にたいの?
 史郎君は、あなたが殴りかかる間に百回は、殺すことができるんだよ」

 舞子が冷たい声で告げる。
 大人しい舞子しか知らない二人が、凍りついた。

「史郎君、こんど攻撃を受けたら、何をしてもいいよ」

 凍りついていた二人が、ガタガタ震えだす。

「憎かった」

 小さな声が聞こえる。

「えっ?」

「お前らが、憎かったんだっ!」

 地面に横たわった白神が、手首を押さえたまま叫ぶ。

「俺は学校を卒業すれば、家を継ぐ。
 朝から酒瓶を自転車に積んで、街中を走りまわるんだ。
 雨の日も、雪の日も、毎日だぞ」

 彼はそこで、大きく息を吐いた。

「それなのに、お前らは何だ!
 勇者だと! 
 冒険者だと!
 好き勝手に生きてるじゃねえか!」

 舞子が、屈みこんで白神の目を正面から見る。

「人気のない森の中、物音ひとつしない」

 舞子の静かな声が、薄暗い路地に響いた。

「自分がどこにいるかも、家族に再び会えるかどうかも分からない。
 お金もない、靴も無い、食べる物も水も無い」

 舞子はそこで言葉を切ると、微笑んだ。

「あなたには、それが想像できる?」

 白神は、それに沈黙で答えた。
 彼は頭の中で、自分がそうなったらどう感じるか、疑似体験しているのだろう。

「それが、私たちが異世界転移した最初の光景。
 あなたに耐えられるなら、やってみるといいわ。
 史郎君なら、あなたを異世界に転移できるから」

 しばらく黙っていた白神が、クビを横に振ると立ちあがった。

「いや、俺が間違ってた。
 この通り、許してくれ」

 白神が深々と頭を下げる。 
 その横で、小西も一緒に頭を下げていた。

 パンパン

 手を叩く音がして、林先生が現れる。

「先生! 
 見てたんですか。
 それなら何とかしれくれたらよかったのに」

 俺が文句を言う。

「ははは、若い者は若い者同士の方がいいだろう。
 現に、渡辺は場をおさめたじゃないか。
 俺にあれを求められても無理だぞ、ははは」

 先生は、舞子に近づくと、その頭を優しく撫でた。

「お前、向こうでずい分苦労したんだなあ」

「先生……」

 舞子の目から大粒の涙がぽろぽろこぼれた。
 俺が点収納からハンカチを出す。
 舞子の背中を撫でながら、涙を拭いてやる。

「白神、小西、分かっただろう。
 自由なんてのは、その辺に転がってるもんじゃないんだよ。
 歯を食いしばって、前に進んで自分でつかむしかないんだ」

 林先生の言葉に、二人は、顔を見合わせている。

「俺はな、この春から異世界科で新しい仕事ができてワクワクしてるんだ。
 お前たち四人のおかげだよ。
 せっかく生まれてきたんだ。 
 死ぬまで楽しんでやるぜ」

 そう言うと、林先生はニヤリと笑った。

「加藤、畑山、渡辺、坊野! 
 お前らには、絶対負けん。
 見てろよ」

 ま、林先生らしい落ちだな。

「いい年した先生に、俺が負けるわけないでしょうが」

 言いかえしてやる。

「言ったな。
 じゃ、次に会ったとき、どっちが余計に楽しんだかで勝負だ!」

「いいですよ、受けてたちましょう」

 ついさっきまで、感心した顔をしていた白神と小西が呆れかえっている。
 俺と先生は、拳を合わせると、二人ともニヤリと笑った。

「はー、男ってどうしてこうも単純かねえ」

 畑山さんが、おばさんモードに入っている。
 舞子が、白神の手首に触れる。ぼんやり光っているのは治癒魔術だ。

「なんだ?
 痛くないぞ」

 白神が、自分の手に見入っている。

「白神」

 畑山さんが、静かに声を掛ける。

「なに?」

「舞子が手を治したこと、秘密だから」

「あ、ああ」

「その秘密漏れたら、あんた必ず殺すから」

「ひひいっ」

「返事は、『はい』」

「ひゃひ」

 あちゃー、首相よりひどいなこりゃ。

『(*'▽') 女王様、ぱねー』

 だね、点ちゃん。

 こうして、故郷の夜は更けていくのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

罪人として生まれた私が女侯爵となる日

迷い人
ファンタジー
守護の民と呼ばれる一族に私は生まれた。 母は、浄化の聖女と呼ばれ、魔物と戦う屈強な戦士達を癒していた。 魔物からとれる魔石は莫大な富を生む、それでも守護の民は人々のために戦い旅をする。 私達の心は、王族よりも気高い。 そう生まれ育った私は罪人の子だった。

処理中です...