321 / 607
第八章 地球訪問編
第32話 同窓会1
しおりを挟む俺たちが在籍していたクラスの同窓会が、学校がある町の和食レストランで開かれた。
この集まりに『初めの四人』は、全員参加している。
参加した理由の一つには、この会に林先生が来るからというのがある。
同級生からの連絡があった後で、四人は個別に林先生から念話で誘っていただいた。
それが無かったら、参加しなかったかもしれない。
『初めの四人』は、同窓会が始まる夕方六時ぎりぎりに学校の屋上に瞬間移動し、そこから四人用ボードで、和食店上空まで飛んだ。
和食店といっても、座敷ではなく、テーブルの店だった。
今日は、貸しきりにしてもらったそうだ。
机の上には、紙で作ったネームプレートが置いてあり、俺たちの席は、会場の一番隅にあった。
四人がテーブルに着いても、クラスメートは誰一人近よってこなかった。
加藤は、白い手編みのセーターにジーンズ、畑山さんは黒のカーディガンとチェックのスカート、舞子は白い起毛のセーターの上にピンクのカーディガン、薄青のスカートだ。
一方、俺はと言えば、頭には相変わらず茶色の布を巻き、色あせたカーキ色の冒険者用衣装を着ている。
点ちゃんから『みすぼらしー』と言われたけれど、服を替える気はない。
だって、面倒くさいんだもん。
開始時刻になったのだろう。小西が立ちあがる。
「今日は、声かけに応えてくれてありがとう。
遠くの大学に行く人もいるから、全員で会えるのは、多分今日が最後だと思う。
みなさん、楽しんでくださいね。
先生は、あと三十分したら来ます。
拍手で迎えてあげてください」
彼女が、特に異世界転移の件に触れなかったのは、俺たちに気兼ねさせたくなかったからかもしれない。
みんなが、飲んだり食べたりし始めると、俺は、なんとなく場違いに感じはじめていた。
これが、この世界と異世界との距離なのかもしれない。
そんなことを考えていると、白神がテーブルの横に立っていた。
「お前ら、これからどうするんだ?」
白神が、ガッチリした身体から低い声をだす。
そういえば、奴は剣道部だったな。
周囲の音が消える。
みんなこちらに耳を澄ませているようだ。
「ああ、俺はあっちでは、マスケドニアって国の食客みたいな立場だから、これからどうするかは、帰ってから、のんびり考えるよ」
加藤がいつものペースで答える。
「畑山さんは?」
「私?
私は、治めてる国の事があるから、他の事は考えられないわね。
帰ったら仕事が山積みだろうし」
畑山さんは、レダーマンか書類の山を思い浮かべたのだろう。眉を寄せている。
「渡辺さんは?」
「私はグレイルって世界で待ってくれてる人たちがいるから、そこに行くかな」
「ボーは?」
「俺か?
今、家族をある場所に置いてきてるから、まずそこに寄ってから考えるかな」
それを聞いた白神は、少しの間、黙っていたが、いきなり強い口調で言葉を投げつけてきた。
「お前ら、『これから考える』ばっかじゃねえかっ!
将来の事、何も考えてねえのな」
俺たち四人が顔を見合わせる。
皆の顔には、怒りは無く、戸惑いだけが浮かんでいた。
「あんた!
何してんの!」
小西が、白神の二の腕を掴んで引っぱっていく。
彼女が俺たちに目で謝るのを見て、俺はやはり同窓会に来るべきではなかったと考えはじめていた。
ちょうどその時、ガラッと引き戸が開き、林先生が入ってきた。
「なんだ、このお通夜のような、暗~い雰囲気は。
おい、坊野。
お前、裸踊りでもしろ」
「ちょっと、先生、もう酔ってるんですか?」
「酔ってるわけないだろう。
酔うのはこれからだ」
先生はそう言うと、奥に設けられた席に着いた。
中西がグラスを持ち、先生の横に立つ。
「先生、長いこと私たちの面倒を見てくれてありがとう。
これからも元気に後輩の指導に当たってください」
「確かに、お前らは面倒ばかり起こす生徒だったな」
先生は、ちらっとこちらを見た。
「まあ、教師は、生徒に面倒掛けられてなんぼってところがあるがな、ははは」
そういうことを言いはじめると、林先生は話が長くなる。
小西が慌てて乾杯の合図を入れる。
「では、みなさん、グラスをお持ちください。
乾杯!」
俺たちは、四人だけでクラスを合わせた。
他の生徒は、テーブルを回り乾杯を交わしているようだ。
「なんかね~」
畑山さんがぼそりと言う。舞子の表情も少し暗い。
そんなことには関係ないのが、加藤だ。
「お、この揚げだし豆腐うまいぞ」
彼は、テーブルの料理にがつがつ手を出している。
先生が座っているところで、歓声が上がる。
「空を飛んだ」だの、「透明になった」だのと声が聞こえるので、きっと前回、俺が学校を訪問したときの事を話しているのだろう。
しかし、当人がいる前で、他人にだけそれを聞くってどうよ。
「史郎君、帰ろうか」
俺のイラつきを感じたのか、舞子がそんなことを言いだした。
大体、俺たちと彼らは、話が合うわけがない。
彼らは、これからやっと社会に出る者、大学で大人になるための猶予期間を過ごす者だ。
一方、俺たちは、曲がりなりにも各自がすでに社会で自立している。まあ、加藤の立場を自立と言うかは微妙なところだが、彼にしても、いつでも自立できるのは変わらない。
舞子と視線を交わした俺が立ちあがりかけたとき、先生が俺たちのところに来た。
隣のテーブルから椅子を持ってくると、加藤と畑山さんの間に席を占める。
「お前ら、本当にありがとうな。
俺のクビは撤回されたぞ」
もしかすると、政府筋は、「私たちの関係者に何かすると……」の「関係者」に先生も入れてくれたのかもしれない。
「よかったですね!
秘密を公開した甲斐がありましたよ」
俺は心から嬉しかった。
そして、学校で先生が教えている姿を想像すると楽しくなった。
「おお、これを伝えておかんとな。
学校に新しい科ができるぞ」
「どんな科です?」
「驚くなよ。
『異世界科』だ」
「「「えっ?」」」
俺たちの声が揃う。
「なんですか、それは?」
「はははは、俺もよく分からん。
専任の講師が一人だけいてな、それが俺だ」
「「「ええっ!」」」
「どんなことを教えるんですか?」
「いや、全く分からん。
お前ら、俺に教えてくれ」
「「「……」」」
先生の思考回路って、加藤に似てないか?
『(*'▽') ぱねー』
えっ!? 点ちゃん、ここでそれ?
なんか違うような気がする。
「それから、ポータルが開いた黒板あったろ」
「黒板がどうかしました?」
「いま、世界遺産にするかどうか、候補に上がってるらしい」
「「「えええっ!」」」
俺たちは、呆れるしかなかった。
途中で帰ろうとしていた俺だが、林先生に驚かされているうちに同窓会がはねるまで居残ることになってしまった。
0
お気に入りに追加
332
あなたにおすすめの小説

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~
カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。
気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。
だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう――
――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました
ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。
会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。
タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

異世界無宿
ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。
アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。
映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。
訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。
一目惚れで購入した車の納車日。
エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた…
神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。
アクション有り!
ロマンス控えめ!
ご都合主義展開あり!
ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。
不定期投稿になります。
投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる