317 / 607
第八章 地球訪問編
第28話 強制休暇
しおりを挟む俺の指示で作った「異世界通信社」で働く柳井さんと後藤さんは、ページ上での情報発信、各報道機関からの問いあわせへの返信といったものの対応に追われ、この三日間ろくろく睡眠も取れなかった。
異世界に関する情報が出始めた、今こその忙しさであるならいいのだが。
俺は、彼らの働きぶりを見てそう考えていた。
俺自身、くつろぎが身上なのに、彼らをこのような形で働かせるのは、非常に気が咎める。
二人が、臨時に借りている事務所に瞬間転移した俺は、目の下に濃い隈を作った二人の顔を見て決断した。
二人をしばらく休ませる。
俺は二人を瞬間移動で点ちゃん1号へ跳ばした。
「リーダー、今日中にしなければならない仕事がまだ……」
柳井さんが抗議するが、おれは断固として聞きいれなかった。
「二人には、今日からしばらく、何があっても休んでもらいます。
後藤さんも、それでいいですね」
後藤は、何か言いかけたが、俺の表情を見て、受けいれると決めたようだ。
まず、二人を風呂に入れる。
「リーダー、あのお湯なんですか?
ただのお湯じゃないですよね」
先に入った柳井さんが、驚いている。
「ああ、あれはこういうものを使うんですよ」
俺は点収納から温泉水アーティファクトを取りだす。
「ここを押すと、温泉水が吹きだすんです」
「はー、もう異世界って、いつも想像の上をいきますね」
「いや、これは異世界でも秘宝の類だと思うよ」
「ただもう、呆れるだけです」
柳井さんは、俺が出した薬草茶を飲むと、ソファーに座ったままうつらうつらし始めた。
「あのお風呂の気持ちよさはなんですか!」
後藤さんが風呂から出てくる。彼も温泉風呂が気に入ったようだ。
寝かけていた柳井さんを揺すって起こす。
「さて、それでは二人には、気合を入れて眠ってもらいますよ」
「ちょ、ちょっと待って。
史郎君がそんなこと言うと怖いわ」
「リーダー、魔法で眠らせたりしませんよね」
「フフフ、聞いて驚け見て驚け。
これこそ我がポンポコ商会売れ筋ナンバーワン!
コケットだ」
俺が、自立型のハンモック二つを目の前に出すが二人の反応が薄い。
「ふ~ん、いろんなものが魔法で出せるんですね」
「これ、地球で買ったんですか?」
後藤さんに至っては、俺の説明すら聞いてないな。
「御託はいいから、とにかく横になれ!」
わざと、厳しい口調で言ってみる。
「は、はい」
「す、すみません」
十八才にぺこぺこする大人ってどうよ。
二人が渋々という感じでコケットに横になった。
「なにこれっ!
ふわふわ過ぎる!」
「あ~う~」
男らしい後藤さんの、幼児っぽい声が気持ち悪い。
二人は、一分と掛からず寝息を立てだした。
まあ、これで半日は起きないだろう。
ほっと一息ついたところで、点ちゃんから報告が入る。
『(・ω・)ノ ご主人様ー』
点ちゃん、何だい?
『(?ω・) 政府ってなにー?』
ああ、この国で、政治を行っている場所や人の事だね。
『(・ω・) そこの人が、ご主人様たちに関するデータを消すかもしれないって』
なんだろう。ちょっと危険なニオイがする。
点ちゃん、それってどこで見たの?
『(Pω・) えとね、『財田コーポレーション』っていう場所だよ』
明らかに民間企業の名前だ。
俺は、その映像を見せてもらうことにした。
画面では、特徴のない外見の男が、ディスプレイに文字を打ちこんでいた。
俺たちの名前がディスプレイに表示された後、えらく厳重なチェックの後、次のような文字が表示された。
>場合により対象の消去命令が出る可能性があるため準備せよ。
これは、データだけの意味じゃないね、明らかに。
そろそろ本格的に動かないとまずいな。
点ちゃん、この情報って最初はどこからたどったの?
『(・ω・) 翔太君が言ってた、警察に連れていかれた黒服だよ』
なるほど。
点ちゃん、その黒服の情報も出してもらえる?
こうして、俺は迫りくる危険にあらかじめ気づくことができた。
政府からの干渉という厄介な問題にどう対処するか、計画を練りはじめるのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
328
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる