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第八章 地球訪問編
第27話 政府からの干渉
しおりを挟む海外特派員協会でのインタビューの翌日、黒騎士から俺にパレットメールが届いた。
予想していたことだが、公的な機関が動きだしたようだ。
公安、警察、政府、それぞれが動きを見せているということだ。
いや、『騎士』に現役警察官がいて本当に良かった。
心の準備ができているだけでも違う。
畑山さん、舞子、加藤の家でも、警察から問いあわせの電話があったそうだ。
内容は、「娘さんは、今、ご在宅ですか?」というものだ。
とりあえず、所在を確認しておこうというのだろう。
そのうち、政府筋にくぎを刺すべき時が来るかもしれない。
黒騎士には、今後も情報を伝えてくれるよう頼んでおく。
次に、翔太君から念話が入る。
『ボーさん、今、いいですか?』
『翔太君、どうしたの?』
『ええと、実は黒服さんが一人、警察に連れていかれちゃったの』
『そうか。
どこの警察?』
『〇〇警察。
お父さんが、ボーさんには知らせるなって。
でも、ボクは知らせておいた方がいいと思ったんだ』
『翔太君、ありがとう。
これからも何かあったら連絡してね』
『うん、分かった!』
最初は元気が無かった翔太君だが、念話の最後にはいつもの調子にもどったようだ。
どうするかな。なるべく穏便に済ませたいんだけど。
国への対処については、くれぐれも慎重を期そう。
◇
最寄りの警察署に連れていかれた黒服こと遠藤は、いつもと違う様子に戸惑っていた。
仕事柄、警察と関わることが多い遠藤は、この警察署にも知りあいが多い。
いつもなら顔を出す彼らが、この日に限ってなぜか現れなかった。
端末を預け、入れられた部屋は、今まで訪れたことがないものだ。
窓が無く照明も暗いため、時間の感覚がおかしくなりそうだ。
どれほど待たされたかも分からなくなった頃、一人の男が入ってきた。
その男は、どこといって特徴が無かった。いや、なさ過ぎた。
身長も体格も、顔つきまで印象に残らない。
こうなると、特徴が無いことが特徴とさえいえた。
男は髪型もごく一般的で、生真面目過ぎずカジュアルでもない微妙な一線を守っていた。
彼は、そっけない机をはさみ、遠藤の反対側に座った。
「遠藤康太、三十一歳。
〇〇組の構成員」
男は、声にすら特徴がなかった。
遠藤に聞かせるつもりすらないようにも聞こえる。
「妹は、田中康子二十七歳。
もうすぐ結婚の予定」
遠藤が高校生の時、彼の両親は離婚した。
彼を父が、妹の康子を母が引きとった。
康子は、一度母の旧姓に戻った後、母の再婚相手の名字となった。
「田中康子の結婚相手、山下正治は銀行員」
男の声は淡々と続く。
「山の手〇〇に住む。
元華族の末裔で、親戚には銀行員が多い」
遠藤は、握りしめた手が、脂汗でぬめつくのを感じた。
感情がこもらない男の声が、遠藤の弱点をさらけ出していく。
「畑山麗子、翔太、加藤雄一、渡辺舞子、坊野史郎についての情報」
男は、情報を送れとも言わなかった。
ここには、脅迫など無いのだ。
遠藤の前に電話番号が書いてある細長い紙を置くと、彼は部屋から出ていった。
紙を裏返してみると、それが割りばしの入れ物だと分かった。
遠藤は、大恩ある畑山組長を裏切る覚悟を決めた。
◇
警察署で遠藤と面会した男は、新幹線を使い東京に戻ってきた。
彼の勤務先は、丸の内にある商業ビルの五階にある。
エレベーターを降り、「財田コーポレーション」と書かれたドアから中に入る。
ドアから入ってすぐは廊下になっており、いくつかのドアノブが見える。
廊下には複数の監視カメラが設置してあった。
彼はその一番奥にあるドアノブに手を掛けた。
部屋に入ると、正面窓際にディスプレイを扇形に三台並べた大きなデスクがあり、そこを中心に、半円形に六つのデスクがあった。
人が座っているのは、中央のデスクだけだ。
デスク間にはパーティションが無く、常に中央に座る者から見られる形となる。
中央のデスクに座る色白の小男が、入ってきた特徴の無い男をチラリと見た。
男は軽く会釈をすると、右から二番目のデスクに着いた。
中央のデスクと有線でつなげたPCに、今日の報告を打ちこむ。
この部屋のPCは、外部と繋がっていない。
情報のやり取りは、各デスクと中央のデスクとの間でのみ行われる。
そこには、情報漏洩を防ぐギミックが山ほど仕掛けられている。
男のデスクと中央デスクの間でさえ、高度な暗号を用いたデータ通信が行われる。
そして、各デスクの暗号は、中央デスクとの間だけで有効だ。
このシステムを導入してから、まだ一件の情報漏洩もないが、この部屋のセキュリティは、今現在も進化を続けている。
彼の報告を読んだ中央デスクから、返信があった。
そこには各対象の情報についてランク付けがされていた。
最優先が「加藤」で、「坊野」、「畑山」、「渡辺」、「畑山弟」と続く。
各事項についてもランク付けがなされており、「能力」、「ポータル」、「体力測定映像」、「ジャンプ映像」と続き、こちらは、多数の項目がその下に並んでいた。
最後に、トップシールレットであるという記号があり、彼がそれをクリックすると、指紋照合を求められる。
装置に指を付け、少し待つと、短い一文が画面に現れた。
>場合により対象の消去命令が出る可能性があるため準備せよ。
この場合、対象の消去というのは、データ事項だけではない。
男は、今まで何度も目にしてきた付随情報に、何の興味も湧かなかった。
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