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第八章 地球訪問編

第26話 みんなでニュースを見よう

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 加藤、畑山、舞子、翔太君を連れた俺は、東京のインタビュー会場から瞬間移動し、関西の地方都市にあるカフェ、「ホワイトローズ」に現れた。

 俺たちが姿を現したとたん、待ちかねていた『騎士』から歓声が上がる。

「おかえりー、翔太ちゃん」
「「プリンス、おかー」」
「歓迎」
「愛のお待ちどう光線どーん!」

 お待ちどう光線って……。

「みんな、待っててくれてありがとう」

「翔太様、お疲れ様です。
 ささ、座って座って」

 俺達は無視ですか、そうですか。 
 まあ、いいですけどね。

「マスター、用意できてる?」

「ええ、それはもうばっちりよ」

 壁のフックにマスターがディスプレイを引っかける。
 ケーブルをPCと接続する。
 マスターは、PCを桃騎士の前に押しだした。
 いやいや、ばっちりって、桃騎士だよりですか。

「プリプリプリティ~、マジック、ぼーん♪」

 桃騎士の指が素早く動き、最後にリターンキーを押す。

 おお! テレビが映った。

「ニュースまで時間があるから、軽食をお出しするわね」

 白騎士が、優雅な動きでカウンターの奥に消える。

 今日は、テーブルを二つくっつけ、全員が一つのテーブルに座っている。
 黄緑騎士の二人と黒騎士は、さっそく翔太君からインタビューの様子を聞かせてもらっている。
 後で、彼らのパレットに特派員協会でのインタビュー動画を送っておこう。

「はーい、おまちどー」

 マスターが、大皿を持ってカウンターから出てくる。
 大皿が目の前に置かれると、俺は思わず声を上げた。

「マスター! 
 これって?」

「ええ、昨日ドイツから帰国したハナちゃんがね、お土産にって持ってきてくれたの。
 彼があっちに行くときは、いつもこれを頼むのよ」

 大皿の上には、薄く切った黒パンと、それに載せて食べる様々な具が盛られていた。

「オリーブ好き」

 黒騎士が、ニヤリと笑ってぼそりと言う。
 もしかして、あれは彼女の微笑みかもしれない。

「「うわー、プロシュットがあるー」」

 黄緑騎士は、ハム好きの様だ。

「それはイタリアからの輸入品。 
 自分で作ろうとしたけどうまくいかなかったのよ」

 おいおい白騎士、どんだけ料理に凝ってるんだよ。
 まあ、仕事柄、こだわってもいいとは思うけど。
 白騎士の新しい顔が見られるなんて、ちょっと目からハムだな。
 ああ、本当かどうか、イタリアでは、こう言うらしいよ、目からウロコって。

「おいしくな~れ、愛を注入、ドーン!」

 ピンク騎士が、大皿の上でハートの杖をくるくる回す。

 うへー、食べる前に、魔法を掛けられちゃったよ。
 食べた後にして欲しかったなー。
 俺は海外のどっしりと重い黒パンが好きだから、食べるの楽しみにしてたのに。

『(Pω・) ご主人様ー。
 魔法なんてかかってませんよー』

 点ちゃん、そのとおりなんだけどねえ。
 別のものがかかってる気がするんだよ。

 白猫が、大皿に興味を示したので、食べられそうなものを取ってやる。
 インタビュー中は、「ホワイトローズ」でずっといい子にしてたから、そのくらいしてやらないと。
 意外に猫好きだと分かったのが黒騎士で、彼女がずい分ブランの面倒を見てくれたそうだ。

 そうこうしている内に、お昼のニュースが始まった。
 番組開始の音楽が鳴ると、男女二人のキャスターが出てきた。
 画面左にバナーが四つ出ているが、その一番上が俺たちのニュースだった。

 題は、「異世界とのファーストコンタクトに成功か?」というものだ。

 女性アナウンサーは、興奮した様子で次のように話しはじめた。

「今日は驚くべきニュースが飛びこんできました。
 かねてから、ジャンプ映像で騒がれていた、加藤少年とその友人がインタビューを受けましたが、その場で、衝撃的な発言が飛びだしました」

 映像は、報道関係者が加藤にインタヴューしたところから始まった。

「えー、どうやって、そんな力を手にいれたのですか?」

「ああ、俺たち、去年の三月から、異世界に行ってたんだよ。
 で、向こうに行ってる間に、いつの間にかそういう力が手に入ってたってわけ」

「い、異世界……」

「まあ、信じる信じないは、あんたの勝手だけどね」

 次に、畑山さんが映る。

「そもそも、私たちが異世界に行ったのは、この世界に開いた『ポータル』、まあ門のようなものですが、それを通ったからです。
 この四人が一緒に転移したので、自分たちのことを、『初めの四人』と呼ぶことにしました。
 この世界には、『ランダムポータル』というものしか開かないようですが、我々が行った先の世界では、常駐型の『ポータル』も珍しくなく、それを使って世界間で行き来がおこなわれているのです」

「あなた方は、『ランダムポータル』を通ったということでいいですか?」

「そうです」


 映像が終わると、『騎士』から歓声が上がる。

「「「勇者、女王様ぱねー」」」

 彼女らが拍手したので、加藤と畑山さんが照れている。

 ニュースはさらに続いていた。
 女性アナウンサーが、隣の男性に話しかける。

「増山さん、今、映像が出た少年少女は、学校の先生を守るために秘密を公開したと言っているらしいですね」

「ええ、私も、彼らの発言が本当だとしても、そんなことで、このような秘密を公開するだろうかと考えています」

「増山さんは、彼らの発言の信憑性を疑っているんですね?」

「うーん、彼らが異世界に行っていたというのは、ほぼ信じているんですが……」

「なぜでしょう?」

「私もこの映像の現場に居ましたから」

「そこで、何をご覧になったのですか?」

「噂の加藤少年が、『体力測定』を行った時の映像です」

「その映像は?」

「ただいま編集中です」

「それだけで、彼らの話を信じたと?」

「それだけではありません。 
 もう一人の少年が、報道関係者のカバンから、物を宙に浮かせたんです」

「えー、物が浮くとはどういう事でしょうか?」

「文字通り、空中に浮きあがったんです。
 こんなふうにね」

 彼はそう言うと、手元にあったペンを持ちあげた。

 女性アナウンサーが続ける。

「確かに、それが本当なら、彼らが異世界から帰ってきたという事もあり得るということになります。
 〇〇ニュースでは、引きつづき、このことをお伝えしていきます」

 バナーが切りかわり、二人は次のニュースについて話しはじめた。

「「「魔法使い、ぱねー」」」 

『(*'▽') ご主人様、ぱねー』

 そう来ると思ったよ。だけど、点ちゃんは、その場にいたでしょうが。
 「ぱねー」って言いたいだけなのね。

『(*^▽^*) えへへ』

 白騎士が考えこむような仕草をする。

「だけど、あんたたち、これから大変な事になるわよ」

「ええ、覚悟しています」

 畑山さんの声は落ちついていた。
 肝が据わってるねえ、彼女は。
 俺は、これからがちょっと怖いかな。

 その時、店の外が、騒がしくなった。

「一体、なんなのよ」

 白騎士が、ドアの所まで行く。
 彼はドアをちょっとだけ開けると、慌てた様子ですぐに閉めた。
 青い顔をして、テーブルまで戻ってくる。

「……お店の前が大変な事になってるわ」

 俺は、ニュースが流れているディスプレイの横にスクリーンを貼りつけ、外の映像を流す。
 点は、ドアの外、地上三メートルくらいの高さに設置している。
 とたんに『騎士』たちの顔が強ばる。

 白騎士の店「ホワイトローズ」は、大通りから路地を少し入ったところにあるのだが、その路地はもちろん、大通りにまで、人だかりがしていた。
 頭上にスマートフォンを掲げ、写メを撮っている者も多い。

「なんでこんなことになってんの……」

 白騎士が、呆然とつぶやく。

「ダメダメな人が、前にテレビでここを紹介してたでしょ」

 翔太君は落ちついたものだ。
 スクリーンをよく見ると、圧倒的に女性の数が多い気がする。
 もしかして、俺たちではなく、翔太君目当てか!

『(・ω・)ノ ご主人様ー、白猫が外に出してほしいんだって』

 えっ? こんな時に、ブランは何がしたいの?

『(・ω・) あの人達を追いはらいたいんだって』

 ど、どうやって?

『(u ω u)b とにかく任せて、だって』

 俺は白猫を抱くと、ドアの所まで行き、わずかに開けた隙間から外へ出した。
 それから五分ほどたち、外の騒ぎが収まったと思ったら、翔太君の膝に突然ブランが飛びのった。

「あれ? 
 ブランちゃん、外にいたんじゃないの?」

 サブローさんが声を上げる。
 翔太君も、おやっという顔をしている。
 いや、間違いなく外には出しましたよ。
 恐らく、ブランはスライム状態で、ドアの隙間から入ってきたのだろう。
 驚いた俺達の視線を受けても、ブランは我関せずで、肉球をぺロペロなめている。

 スクリーンを見ると、外の群衆は、ニ、三人を残すだけとなっていた。

 点ちゃん、ブランは何をしたの?

『(・ω・) 外の人たちが頭の中に覚えているモノを食べちゃったんだって』

 おいおい、そんなことをしたら自分が誰かも分からなくなるんじゃないか?

『(・ω・) 大丈夫みたいだよ。
 選んで食べたからって』

 ブランが、みんなの膝を歩き、俺のところまでくる。
 ミーと、持ち前の高い声で鳴くと、トンと床に降りた。

 床の青い染みをちょんちょんとつついている。
 ブランがつつくと、青い染みは消えた。
 俺は、なんとなくブランがしたことが分かってきた。

 恐らく、ブランは体から無数の小さなスライムを分離させ、それを群衆一人一人に取りつけたのだろう。
 彼らの「ホワイトローズ」に関する記憶を食べおえた小スライムは、再び店の中に戻ってきた。
 肉球をなめていたのは、ブランが、青い染み、つまり小スライム群をふたたび体内に取りこんだということか。

 点ちゃん、ブランによくお礼言っておいて。
 あと、一週間くらい、この店の番をするように頼んでもらえるかな。

『(^▽^)/ 分かったー』


「サブローさん、ブランは一週間ほどお店に置かせてください。
 彼女がいれば、物見遊山で訪れる人もいなくなるでしょう」

「えっ! 
 さっきの群衆、ブランちゃんが追いはらってくれたの!
 う~ん、ありがとう」

 う~ん、のところで、抱きしめられたブランは迷惑そうな顔をしている。

 「「「白猫、ぱねー」」」

 いや、この場合、本当に「ぱねー」ですけどね。

 こうして、俺たち『初めの四人』と翔太君、『騎士』たちのニュース鑑賞は終わった。
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