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第八章 地球訪問編
第24話 常識破壊1
しおりを挟む俺たち「初めの四人」と翔太君は、プレスクラブのインタビュー席に座った。
記者席から見て左から、俺、加藤、畑山さん、舞子、翔太君の順だ。
サポート役として、柳井さんが右端に座ってくれている。
後藤さんは、会場の後ろで、会見の様子を見守る。
特派員協会の進行役が、開会の辞を述べる。
「今、世間の話題を独占しているジャンプ画像の加藤少年と、彼と共に行動している三人、そして、もう一人、畑山さんの弟で、ネットアイドルとして有名な翔太君です。
今日は、加藤少年の能力の秘密に迫ろうと思います。
なぜ、他の三人と翔太君が同席しているかは、おいおい分かるでしょう。
時間が無いので、質問は各社各人一つだけでお願いします」
進行役が、手を柳井さんの方に向ける。
「それでは、『異世界通信社』柳井さん、彼らの紹介をお願いします」
「ありがとうございます。
ご紹介に上がった柳井です。
我が社が、なぜ『異世界通信社』という一風変わった名前を使っているかも、今日のインタビューで明らかになると思います。
では、まず彼らの紹介を」
柳井さんが、手で翔太君を示す。
「手前の彼は、まだ小学生ですが、『初めの四人』に最も近い人物としてこの席に座っています。
えー、『初めの四人』については、また後程説明いたします。
ネット環境を通じ、彼らの活動を支えているのが翔太君です」
記者席、特に女性から大きな拍手が上がる。
「次に、こちらから、『聖女』渡辺舞子さん。
翔太君を除く四人はある事情でしばらく行方不明になっていました。
その『初めの四人』の一人です」
「初めまして、渡辺舞子です。
よろしくお願いします」
さすがに、舞子は落ちついたものだ。
「次に、『聖騎士』畑山麗子さん。
彼女は翔太君の姉でもあります。
先ほど触れた『初めの四人』のリーダー的存在でもあります」
「ご紹介に預かりました畑山です。
今日は、よろしくお願いします」
会場から拍手が起きる。
「キレー」「ゴージャス!」など、それぞれの言語で賛辞が飛びかう。
「次は、『勇者』加藤君。
皆さん、もうジャンプ映像や、『体力測定』の新聞記事でおなじみだと思います」
「え、えーっと、加藤です。
どうも……こんちは」
こういった場に慣れていない加藤は、緊張しているようだ。
「最後に、パーティ・ポンポコリンのリーダーであり、今回、彼らがこの場に居られるようにした人物が『魔術師』坊野君です」
あちゃー、俺が最後になっちゃったよ。
まあ、その辺は柳井さんに任せてるからね。
「ご紹介にあがった、坊野です。
俺のことはシローと呼んでください」
隣の加藤が、前に置かれたペットボトルに差しこまれたストローで美味しそうに水を飲んでいる。
お前、たった今まで緊張してたんじゃないのか?
『(*'▽') 勇者ぱねー』
いや、点ちゃん。確かにそのとおりなんだけどねえ……。
進行役がマイクを持つ。
「柳井さん、ご紹介ありがとうございます。
では、彼らの希望で、最初から質問形式でインタビューを始めようと思います。
会場から拍手が上がる。
「では、質問がある方、挙手をどうぞ」
会場のほぼ全員が手を挙げている。
「では、青い服のあなた」
進行役が指したのは、鮮やかなブルーのワンピースを着た白人女性だった。
「prince、あ、いえ、翔太君は、『初めの四人』の広報係と考えていいのでしょうか。
『体力測定』では、司会をされていたようですが」
少し訛(なま)りはあるが、立派な日本語だ。
だけど、最初が翔太君への質問とはね。
彼って、どんだけ有名なの。
「ボクは『初めの四人』の友達だよ。
広報係は、そこいいる柳井さん」
女性たちから、一斉に刺すような視線が柳井さんに向かう。
柳井さんは、全く表情を動かさない。
「では、そちらの方」
進行役が、ポケットがたくさん付いたジャケットを着た丸顔の日本人男性を指す。
「えー、〇〇ニュースの神尾です。
私も、ジャンプ映像を見たのですが、どうしてもあれが本当だとは思えなくて。
何か、その証拠のようなものはありませんか?」
これには、すかさず柳井さんが、答える。
「体力テストの結果があると思うのですが。
ご覧になりましたか?」
「ええ。
しかし、全部測定不能では、どう信じていいのか……」
「神尾さんは、『体力測定』に来ていた報道関係者全てが口裏を合わせてでっち上げを書いていると思っているのですね?」
「いえ、そうは言ってません。
確実に信じられる何かが欲しいと言ってるんです」
「他の方も同じ意見でしょうか?」
これは俺の発言だ。
会場全員が大きく頷く。
「では、実際にその目で見てもらいましょうか」
記者席から見て、左側の壁が白く変わる。
この手順は、前もって打ちあわせておいた。
映しだされた映像は、加藤の『体力測定』だ。
みんな食いいるようにスクリーンを見ている。
画面上の加藤が何かするたび、会場から驚嘆の声が上がる。
最後の百メートル走が終わると、場を静寂が支配した。
ちなみに、『体力測定』放映中は、会場のカメラは映らないように細工してある。
カメラのレンズ表面に黒いシールドを張っただけなんだけどね。
スマートフォンで映像を撮ろうとした者は、それを全て壊しておいた。
しばらく時間をおいて、やっと次の質問者が立ちあがった。
「映像を見ると、余計に信じられなくなります。
やはり、これも合成画像かなにかではないのですか?」
「この世界で知られていない力の存在を、どうしても信じられないようですね。
では、実際にご自身でご体験ください」
俺が話すと、フラッシュが一斉にたかれた。
「みなさん、取材用の荷物がおありですから、カバンを持ってきていますね?」
ほとんどの者が頷く。
「では、そのカバンを膝の上に置き、口を開けておいてください」
何人かを除き、俺が言うとおりしてくれたようだ。
「では、不思議な力の一端をお見せしましょう」
また、フラッシュが連続する。
各自のカバンから、色々なモノが宙に浮きはじめた。
「な、なんだこれはっ!」
「どういうこと!」
叫んでいる者もいるが、ほとんどは目の前に浮かんだ自分の所持品を穴が開くほど見つめている。
水着の女性が表紙の雑誌がカバンから飛びだした若い記者が、慌ててそれを手で隠している。
他にも数人、手で隠している者がいるから、見られたくないものが入っていたのだろう。
浮きあがったモノが、糸で吊られていないか疑っているのだろう。その上下を手でまさぐっている者もいる。
「これで、分かってもらえましたか?」
俺がそう言うと、それぞれのモノはふわりとカバンの中に戻った。
会場がざわつき始める。それが次第に大きくなった。
中には、オフにしていたスマートフォンの電源を入れ、それで話して進行役から注意を受けている者までいる。
「さきほど質問された方、納得されましたか?」
柳井さんが、ざわつく会場に負けないようにやや大きな声で尋ねる。
「納得もなにも、なんですか、今のは!?」
「進行役の方、次の質問を受けてください」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
質問者が食いさがろうとする。
「質問は一つだけ。
私達がいる場でのルール違反は認めません」
柳井さんは、きっぱり言いきった。
「なんだよ!
『異世界通信社』さん、いい気になるなよ!」
会場から声が上がる。
「あなた、どこの会社です?」
「〇〇新聞だが……」
「以降、『異世界通信社』は、あなたの社には情報を公開しません。
あしからず。
他に、ご不満がある方は?」
会場のざわつきが次第に収まった。
柳井さんのほうを睨みつけている報道関係者も少なくない。
しかし、彼女は涼しい顔をしている。
俺は、柳井の手腕を見て、彼女が広報役になってくれて良かったと心から思うのだった。
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