312 / 607
第八章 地球訪問編
第23話 大騒ぎ
しおりを挟む俺たち「初めの四人」は、ある焼肉屋に来ていた。
加藤の『体力測定』が無事終わったことを祝う打ちあげだ。
焼肉屋二階の座敷には、翔太君とその『騎士』、「翔太の部屋」の常連、そして、畑山さん、舞子、加藤の家族も参加している。
大人数に対応するため、普段四部屋に仕切ってあるフスマを全て取りはらい、大座敷にしてある。
「今日は、加藤さんの『体力測定』へのご参加ありがとうございます。
また、会場でお手伝いくださった方々、本当にご苦労様でした」
翔太君は、ここでも立派に役割を果たしている。
しかし、こういう役割を小学生に任せ、自分はのほほんと座ってる勇者ってどうよ。
「では、皆さん、グラスをお持ちください。
それでは、かんぱーい」
翔太君の合図で始まった打ちあげは、にぎやかで楽しいものだった。
加藤の周りには、人の輪ができている。
「あんた、あんな事ができたんだね。
すごいじゃないか」
そう言っているのは、加藤のおばさんだ。横で加藤のおじさんが、頷いている。
「ホントにそうですね。
私は、もう度肝を抜かれましたよ」
いつもは落ちついた話し方をする、渡辺のおじさんもテンションが高い。
「ほんと凄い。
あなたたちが、異世界に行ったって信じてはいるんだけど、あれを見て、なんか実感が湧いたわ」
これは、渡辺のおばさん。
「はははは。
さすが、麗子が見込んだだけはあるぜ。
並の男じゃねえな」
これは、畑山のおやじさん。
まあ、並の男じゃなくて勇者なんですけどね。
ところで、黒服連中は、廊下に立っている二名を除いて、一階で打ちあげをしている。
黒服に尋ねると、畑山のおやじさんからそういう指示が出ているそうだ。
おやじさんも、気を遣ってるんだね。
後で、黒服たちに直接お礼を言っておこう。
加藤より、もっと人を集めていたのが、言うまでもなく翔太君だ。
周りは『騎士』が固めているので、ピンク白軍団が一人ずつ順番に挨拶に来ている。
リアル翔太君に会うのが初めての者も多く、彼女たちのテンションは物凄い。
めまいを起こした三人が、座敷の端に寝かされているほどだ。
ただ、中には例外もいて、『騎士』たちの間に我がもの顔で座っている。
言わずと知れたヒロ姉だ。
「へー、あなた勇者のお姉ちゃんなのね」
白騎士が感心したように言う。
「ダメな弟だけどよろしくね」
「お姉さん、いつから『翔太君の部屋』に?」
緑騎士は、すでに普通にヒロ姉と話す仲になってるらしい。
「もう、最初っからですよ。
ページが開設されて一週間目くらいから、毎日三回はプリンスに会いにいってます。
ページが更新されたら、最初に見たいじゃないですか」
「キャー、お姉さん、私も私もー」
って、お前もそんなことしてんのかよ、黄騎士。
しかし、「ききし」って、言いにくいな。
「翔太君最高」
黒騎士は、こんな場でもいつもと同じペースだ。
しかし、その手は素早く動き、肉を焼いている。
「加藤君のお姉さ~ん、私と一緒に愛の魔法どーん!」
桃騎士が手でハートマークを作り、翔太君へ飛ばしている。
「愛の魔法ど~ん!」
それに乗っているヒロ姉もヒロ姉だ。
もしかすると、彼女は『騎士』の素質があるかもしれない。
柳井さんと後藤さんは、倒れて横になった翔太君ファンの世話と各テーブルの世話をするのにてんてこ舞いだ。
当然、飲んだり食べたりできない。
まあ、二人には黙って〇〇市の高級レストランを予約してあるから、後でそこに瞬間移動させよう。
俺は、点ちゃん1号で待っている白猫のために、肉を焼いている。
なんか、俺の周囲だけ空白地帯が生まれてるんだよね。
『(・ω・)ノ ご主人様ー、もしかして皆に嫌われてない?』
て、点ちゃん、そこを突きますか。
もしかしてって思ってるので、それやめてください。
こうして、加藤の『体力測定』打ちあげというより、ピンク白軍団の「翔太君と盛りあがる会」と言うべき宴会は続くのだった。
◇
宴会の翌日、点ちゃん1号で寝ていた俺は、度重なる着信音で起こされた。
朝の目覚めを邪魔されるのが一番嫌いなので、しばらく放置していたのだが、着信音が止まらないので、渋々コケットから降りた。
コケットで丸まっている白猫をうらやましく眺める。
生まれかわったら、猫になってやる。
パレットを確認すると、複数のメールが入っている。
発信元は、翔太君、柳井さん、加藤、舞子、畑山さん、後藤さん、その後に、『騎士』の面々が続いている。
一体、どうしたのだろう。
朝方の念話は緊急時を除いて禁止しているから、差しせまった用件ではないのだろうが。
とりあえず、柳井さんに念話を繋いでみる。
『お早うございます。
柳井さん、何かありました?』
『リーダー!
やっと繋がった。
昨日はレストランの予約ありがとうございましたって、そんな場合じゃなかった。
ニュースを見てください。
エライことになってます!』
そんなこといっても、俺、テレビ持ってないもん。
『えーっと、俺、テレビ持ってないんですよ。
かいつまんで教えてもらえます?』
『ああ、これは失礼しました。
こちらが気づくべきでした。
今朝から、各報道機関が、加藤君の『体力測定』の話題を流しています』
『どこのテレビです?』
『テレビ、新聞、ほとんどすべてのメディアです。
しかも、海外の大手もそれに触れているものが多いです』
あちゃー、エライことになってるな。
まあ、それを目的にやってきたのだが。
『それから、「異世界通信社」への取材依頼も三百件を超えています』
加藤の「体力測定」以降の取材はオークションしていないからね。
『柳井さんは、次の一手、どうすればいいと思う?』
『各社個別の対応は、人手が足りませんから、とりあえず海外特派員協会のインタビューを受ける事をお勧めします』
なるほど、それなら国内、海外のメディアが同時にカバーできる。
さすがは、柳井さんだ。
『では、その方向で話を進めてください。
申しこみがあった報道機関にもその旨伝えてください』
『分かりました』
柳井さんの念話はそれで切れた。
これは忙しくなりそうだぞ。
俺は、のんびりが遠のいてがっかりするとともに、ちょっとワクワクもしていた。
◇
海外特派員協会のインタビューは、朝十時から東京のプレスクラブで開かれた。
俺たちの高校がある町に特設会場を設けるという案もあったが、それだと若干報道機関の数が減ってしまうから、こちらから出向くことにしたのだ。
点ちゃん1号で東京上空へ移動し、そこからは翔太君のスマートフォンに表示されたマップを確認する。
目的の建物上空に来たので、七人用のボードに乗りかえ、1号は収納する。
ボードに「初めの四人」と柳井さん、後藤さん、翔太君が乗って降下する。
ボードは透明にしてあるが、自分たちには透明化を掛けていない。
地上が近づくと、俺たちに気づいた通行人が騒ぎだした。
写メを撮っている人も多い。
建物正面入口前に着地した「初めの四人」と翔太君は、五人で手を繋いで建物への階段をのぼる。
柳井さんと、後藤さんは、少し後ろを歩いている。
階段の上に着いたところで、眩しいほどのフラッシュがたかれた。
今日、「初めの四人」は異世界の服装で来ている。
翔太君は、スーツと半ズボン、ピカピカの黒革靴だ。今日のために新調したそうだ。
俺は、相変わらず冒険者の地味な格好だが、舞子、加藤、畑山さんは華やかな格好をしている。
特に畑山さんは、女王陛下としての正装をしているので、ドレスはもちろん、髪や首元、手足にもふんだんに宝石が散りばめられている。
俺達が通ると、畑山さんの姿に男女共からため息が漏れる。
案内係が、柳井さんに話しかけ、俺達は控室に誘導された。
およそ二十分ほど待たされ、インタビュー会場へ誘導された。
再びフラッシュがたかれる中、「初めの四人」と翔太君が前の席に座る。
取材席は、記者で埋まっている。
会場の壁際には、報道関係者が隙間なく立っていた。
なぜか、「海外」と銘打っているにしては日本人が多いように思われた。
こうして、世界へ向けて、俺たちの会見が始まった。
0
お気に入りに追加
332
あなたにおすすめの小説
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる