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空知音

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第八章 地球訪問編

第23話 大騒ぎ

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 俺たち「初めの四人」は、ある焼肉屋に来ていた。
 加藤の『体力測定』が無事終わったことを祝う打ちあげだ。
 焼肉屋二階の座敷には、翔太君とその『騎士』、「翔太の部屋」の常連、そして、畑山さん、舞子、加藤の家族も参加している。

 大人数に対応するため、普段四部屋に仕切ってあるフスマを全て取りはらい、大座敷にしてある。

「今日は、加藤さんの『体力測定』へのご参加ありがとうございます。
 また、会場でお手伝いくださった方々、本当にご苦労様でした」

 翔太君は、ここでも立派に役割を果たしている。
 しかし、こういう役割を小学生に任せ、自分はのほほんと座ってる勇者ってどうよ。

「では、皆さん、グラスをお持ちください。
 それでは、かんぱーい」

 翔太君の合図で始まった打ちあげは、にぎやかで楽しいものだった。
 加藤の周りには、人の輪ができている。

「あんた、あんな事ができたんだね。
 すごいじゃないか」

 そう言っているのは、加藤のおばさんだ。横で加藤のおじさんが、頷いている。

「ホントにそうですね。
 私は、もう度肝を抜かれましたよ」

 いつもは落ちついた話し方をする、渡辺のおじさんもテンションが高い。

「ほんと凄い。
 あなたたちが、異世界に行ったって信じてはいるんだけど、あれを見て、なんか実感が湧いたわ」

 これは、渡辺のおばさん。

「はははは。
 さすが、麗子が見込んだだけはあるぜ。
 並の男じゃねえな」

 これは、畑山のおやじさん。
 まあ、並の男じゃなくて勇者なんですけどね。

 ところで、黒服連中は、廊下に立っている二名を除いて、一階で打ちあげをしている。
 黒服に尋ねると、畑山のおやじさんからそういう指示が出ているそうだ。
 おやじさんも、気を遣ってるんだね。
 後で、黒服たちに直接お礼を言っておこう。

 加藤より、もっと人を集めていたのが、言うまでもなく翔太君だ。
 周りは『騎士』が固めているので、ピンク白軍団が一人ずつ順番に挨拶に来ている。
 リアル翔太君に会うのが初めての者も多く、彼女たちのテンションは物凄い。
 めまいを起こした三人が、座敷の端に寝かされているほどだ。

 ただ、中には例外もいて、『騎士』たちの間に我がもの顔で座っている。
 言わずと知れたヒロ姉だ。

「へー、あなた勇者のお姉ちゃんなのね」

 白騎士が感心したように言う。

「ダメな弟だけどよろしくね」

「お姉さん、いつから『翔太君の部屋』に?」

 緑騎士は、すでに普通にヒロ姉と話す仲になってるらしい。

「もう、最初っからですよ。
 ページが開設されて一週間目くらいから、毎日三回はプリンスに会いにいってます。
 ページが更新されたら、最初に見たいじゃないですか」

「キャー、お姉さん、私も私もー」

 って、お前もそんなことしてんのかよ、黄騎士。
 しかし、「ききし」って、言いにくいな。

「翔太君最高」

 黒騎士は、こんな場でもいつもと同じペースだ。 
 しかし、その手は素早く動き、肉を焼いている。

「加藤君のお姉さ~ん、私と一緒に愛の魔法どーん!」

 桃騎士が手でハートマークを作り、翔太君へ飛ばしている。

「愛の魔法ど~ん!」

 それに乗っているヒロ姉もヒロ姉だ。
 もしかすると、彼女は『騎士』の素質があるかもしれない。

 柳井さんと後藤さんは、倒れて横になった翔太君ファンの世話と各テーブルの世話をするのにてんてこ舞いだ。
 当然、飲んだり食べたりできない。

 まあ、二人には黙って〇〇市の高級レストランを予約してあるから、後でそこに瞬間移動させよう。
 俺は、点ちゃん1号で待っている白猫のために、肉を焼いている。
 なんか、俺の周囲だけ空白地帯が生まれてるんだよね。

『(・ω・)ノ ご主人様ー、もしかして皆に嫌われてない?』

 て、点ちゃん、そこを突きますか。
 もしかしてって思ってるので、それやめてください。

 こうして、加藤の『体力測定』打ちあげというより、ピンク白軍団の「翔太君と盛りあがる会」と言うべき宴会は続くのだった。

 ◇

 宴会の翌日、点ちゃん1号で寝ていた俺は、度重なる着信音で起こされた。

 朝の目覚めを邪魔されるのが一番嫌いなので、しばらく放置していたのだが、着信音が止まらないので、渋々コケットから降りた。
 コケットで丸まっている白猫をうらやましく眺める。
 生まれかわったら、猫になってやる。

 パレットを確認すると、複数のメールが入っている。
 発信元は、翔太君、柳井さん、加藤、舞子、畑山さん、後藤さん、その後に、『騎士』の面々が続いている。

 一体、どうしたのだろう。
 朝方の念話は緊急時を除いて禁止しているから、差しせまった用件ではないのだろうが。
 とりあえず、柳井さんに念話を繋いでみる。

『お早うございます。
 柳井さん、何かありました?』

『リーダー! 
 やっと繋がった。
 昨日はレストランの予約ありがとうございましたって、そんな場合じゃなかった。
 ニュースを見てください。 
 エライことになってます!』

 そんなこといっても、俺、テレビ持ってないもん。

『えーっと、俺、テレビ持ってないんですよ。
 かいつまんで教えてもらえます?』

『ああ、これは失礼しました。 
 こちらが気づくべきでした。
 今朝から、各報道機関が、加藤君の『体力測定』の話題を流しています』

『どこのテレビです?』

『テレビ、新聞、ほとんどすべてのメディアです。
 しかも、海外の大手もそれに触れているものが多いです』

 あちゃー、エライことになってるな。
 まあ、それを目的にやってきたのだが。

『それから、「異世界通信社」への取材依頼も三百件を超えています』

 加藤の「体力測定」以降の取材はオークションしていないからね。

『柳井さんは、次の一手、どうすればいいと思う?』

『各社個別の対応は、人手が足りませんから、とりあえず海外特派員協会のインタビューを受ける事をお勧めします』

 なるほど、それなら国内、海外のメディアが同時にカバーできる。
 さすがは、柳井さんだ。

『では、その方向で話を進めてください。
 申しこみがあった報道機関にもその旨伝えてください』

『分かりました』

 柳井さんの念話はそれで切れた。
 これは忙しくなりそうだぞ。

 俺は、のんびりが遠のいてがっかりするとともに、ちょっとワクワクもしていた。

 ◇

 海外特派員協会のインタビューは、朝十時から東京のプレスクラブで開かれた。

 俺たちの高校がある町に特設会場を設けるという案もあったが、それだと若干報道機関の数が減ってしまうから、こちらから出向くことにしたのだ。
 点ちゃん1号で東京上空へ移動し、そこからは翔太君のスマートフォンに表示されたマップを確認する。

 目的の建物上空に来たので、七人用のボードに乗りかえ、1号は収納する。
 ボードに「初めの四人」と柳井さん、後藤さん、翔太君が乗って降下する。
 ボードは透明にしてあるが、自分たちには透明化を掛けていない。

 地上が近づくと、俺たちに気づいた通行人が騒ぎだした。
 写メを撮っている人も多い。

 建物正面入口前に着地した「初めの四人」と翔太君は、五人で手を繋いで建物への階段をのぼる。
 柳井さんと、後藤さんは、少し後ろを歩いている。
 階段の上に着いたところで、眩しいほどのフラッシュがたかれた。

 今日、「初めの四人」は異世界の服装で来ている。
 翔太君は、スーツと半ズボン、ピカピカの黒革靴だ。今日のために新調したそうだ。

 俺は、相変わらず冒険者の地味な格好だが、舞子、加藤、畑山さんは華やかな格好をしている。
 特に畑山さんは、女王陛下としての正装をしているので、ドレスはもちろん、髪や首元、手足にもふんだんに宝石が散りばめられている。

 俺達が通ると、畑山さんの姿に男女共からため息が漏れる。
 案内係が、柳井さんに話しかけ、俺達は控室に誘導された。
 およそ二十分ほど待たされ、インタビュー会場へ誘導された。

 再びフラッシュがたかれる中、「初めの四人」と翔太君が前の席に座る。
 取材席は、記者で埋まっている。
 会場の壁際には、報道関係者が隙間なく立っていた。
 なぜか、「海外」と銘打っているにしては日本人が多いように思われた。

 こうして、世界へ向けて、俺たちの会見が始まった。
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