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第八章 地球訪問編

第22話 勇者の体力測定3

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 加藤の体力測定は、垂直飛びの結果待ちまで進んだ。

 俺が計測者たちの方を見ると、加藤が最高点で離したヒモの周りに人が集まっている。
 近づいて尋ねる。

「何かトラブルでも?」

 青い顔をした中年の男性が、弱々しい声で答えた。

「あんなスピードでヒモが引っぱられると思ってなくて……」

 彼が指さしたところを見ると、ぐちゃぐちゃになったヒモの塊があった。
 きっと、加藤が引くスピードが速すぎたために、その摩擦で引きおこされた結果だろう。
 俺は、翔太君に事情を話した。

「垂直飛びの結果が出ました。 
 計測器の不備により、測定不能」

 翔太君のアナウンスが流れても、会場からは不満の声さえ漏れなかった。

 ◇

 いよいよ、最後の測定、百メートル走になった。

 アメリカから来た計測者に、黄緑騎士がいろいろ説明しているようだ。

「シローさん、この人が、どうしても映像を撮らせてくれって」

 黄騎士が俺に話しかける。
 双子の緑騎士と区別できるように、髪に黄色のリボンを結んでもらっている。
 俺には多言語理解の指輪があるから、通訳は必要ないんだけどね。

「契約を守る気がないなら、お金は返すからすぐに帰ってください、って伝えてくれる?」

「いいの?
 そんなこと言って。
 落札金額一億円なんでしょ」

 正確には百万ドルなんだけどね。

「構わない。
 すぐにそう言ってくれ」

 黄騎士が話しかけると、鷲鼻が目立つ白人の男性は、露骨に嫌な顔をした。
 正直なところ、俺は全く気にならなかった。
 土壇場にきて約束破りをするような相手との関係が悪くなっても、痛くもかゆくもない。

 白人男性は、四人のスタッフを連れ、百m走の競技場に向かった。
 スタッフの一人が、地面に固定するスターティングブロック、もう一人がピストル、もう一人が白いヒモを持っている。
 約束破りをしようとした男がストップウォッチを手にしている。それを見た俺は、思わずニヤリとしてしまった。

『(・ω・)ノ ご主人様が悪い顔ー』

 いや、点ちゃん、今のは俺も認めるよ。悪い顔してました。

『つ( ̄д ̄)』(作者注:に、似てる!)

 ひどっ! そこまで悪い顔でしたか。反省しよう。

 点ちゃんとおしゃべりしている間に用意は整ったようだ。

「それでは、最後の計測、百メートル走です」

 肩にブランを乗せた翔太君の声が、会場に響く。

「キャーっ! 
 猫と王子! 
 写メ取りたい~」
「猫プリンスー!」
「にゃんにゃんプリプリ~♪」

 年齢不詳の変な声も交じっているが、聞かなかったことにしよう。

 翔太君が笛を吹いた。

 加藤は、スターティングブロックを使わないらしく、力を抜いて立っているだけだ。
 ピストルを持った計測者の手が上がる。

 「On your mark」(位置について)

 「Set」(用意)

  パンッ

 加藤は、油断していたのか、ピストルの音から一呼吸出遅れた。
 しかし、そこからが、さすが勇者だった。
 ブウンと彼の体がかすむと、次の瞬間、競技場の向こう端にいた。
 ゴールの白いヒモがたなびいているところを見ると、きちんとゴールラインを通ったようだ。

 鷲鼻の白人が呆然としている。
 俺は傷口に塩をすりこもうと、彼に近づいた。

「記録は取れましたか?」

 男はまっ青な顔をしている。
 それはそうだろう。
 百万ドル掛けた結果が、「記録は取れませんでした」では、言い訳のしようもないだろう。

 彼があんな申し出をしなければ、俺は光学式の計測器を使うようにアドバイスしたかもしれない。
 今となっては、「たられば」の話だ。

 俺が手を上げ、翔太君に合図すると、彼は再び演台に登った。

「百メートル走、計測不能。
 これにて全ての測定を終了とします。
 今日は、来てくれてありがとう。
 みんな気をつけて帰ってね。
 D区画に座ってる人はまだ帰っちゃだめだよ」

 D区画に座ったピンク白の集団が歓声を上げる。
 この後、俺たちを含めて慰労会が予定されている。
 ここに来て初めてそのことを知った者もいるようで、狂喜乱舞していた。
 本番より打ち上げの方が盛りあがるってどうよ?

 俺は、『体力測定』が無事に終わり、ホッとしていた。
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