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第八章 地球訪問編

第18話 「異世界通信社」と第2回インタビュー

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 俺が後藤さんと二回目に会った日の夜、彼から仕事を受けるとの連絡があった。
 彼には、俺への連絡手段が無いから、「ホワイトローズ」のマスターを通してだけどね。
 昼に、「明日朝返事をします」とか言っていたのに、性急な事だ。

 柳井さんに連絡して、以前作ったインタビューオークションのサイトとは別に、「異世界通信社」のサイトを作ってもらった。
 会社名は、翔太君のアイデアだ。

 俺もいくつか案を出したが、なぜかみんなに却下された。
 なんで、「ちんぴら貯金社」がいけないんだろう。
 儲かりそうな名前なのに。

 新しく作った「異世界通信社」は、ネット上だけの存在だから社屋は無い。
 社長は柳井さん、社員が後藤さんで、まだ働き手も二人しかいない。
 信用がおけない社員は雇えないから、当面これでいくしかないだろう。

 後藤さんは、会社設立の事務手続きに走りまわっている。
 ただ、明日予定されている二回目のインタビューには必ず参加するよう伝えてある。
 二回目のインタビューを勝ちとったのは、俺でも名前を知っている大手のテレビ局だった。

 オークション落札額は、二千万円。
 柳井さん、後藤さんの給料は当面何とかなりそうだ。

 そういえば、昨日畑山さんが町に出かけると、女子高生に取りかこまれたそうだ。
 彼女たちは、「翔太の部屋」をいつも訪れていたそうで、関連サイトに畑山さんの顔が載っていたらしい。

 そろそろ自由な外出がきつくなってきたな。
 後藤さんが、俺たちとの最初のインタビューを記事にしたものが週刊誌に出たことも大きいかもしれない。
 翔太君によると、その日から、さらにアクセス数が増えたという事だから。

 そうこうしているうちに、あっという間に、二回目のインタビューの日が来た。

 ◇

 俺は、最初二回目のインタビューは、ホテルのラウンジかどこかでやるつもりだった。

 なぜなら、「ホワイトローズ」をそういつも使っていると、商売の邪魔になると思ったからだ。
 しかし、俺がその話をすると、サブローさんが、「ウチでやりなさい」と言って譲らなかった。当日は、翔太君が参加する予定もあるからね。

 インタビューを前に俺の気力は充実していた。
 なぜなら、昨日夜から今朝にかけ、故郷近くの大好きなキャンプサイトで過ごしたからだ。

 ここのところ、翔太君に預けることが多かった白猫ブランも連れていった。
 雪が薄く積もったキャンプサイトは、言葉にできないほど美しかった。
 湧き水を沸かし、お茶を飲む。
 ブランもそのキャンプサイトが気に入ったのだろう。外を探検したり、喉を鳴らしてコケットに横になったり、気ままにしていた。
 猫は人から触られるのが、あまり好きではないから、いつも触られまくる畑山家の環境がストレスになっていたのかもしれない。

 約束の時間ぎりぎりに、キャンプ地から「ホワイトローズ」へ瞬間移動する。
 サブローさんは、俺たちが現れないので心配していた。
 すでに、『騎士』は全員が揃っている。

 インタビュワーらしい、二十代の女性も席に着いていた。
 彼女は、目が大きく口が小さい、特徴ある顔つきをしていた。
 俺が突然現れたのが信じられないらしく、右目をこすっている。
 まあ、瞬間移動を見るのが初めての『騎士』たちも、口をあんぐり開けてたけどね。

「こんにちは、今日は、加藤の取材よろしくお願いします」

「ええと、あなたは?」

「俺は加藤の友達で、史郎って言います」

「ところで、加藤君や翔太君は?」

「今回は、オークションを高額で落札していただいたので、おまけを差しあげましょう」

 俺は指を一つ鳴らした。
 俺の横に、舞子が現れる。

「史郎君、ありがとう」

 舞子は、実家の食事が美味しいのか、少しだけふっくらしたように見える。
 
 もう一度指を鳴らす。
 加藤が現れる。

「ボー、いつもワリいな」

 彼は透明化の事でも毎日俺の魔法を使ってるからね。

 指を二つ鳴らす。
 畑山さんと翔太君が現れた。

「キャー! 
 プリンス~」
「恋の魔法、ドーン」
「「プリンス、こっち向いてー」」

 さっそく『騎士』から黄色い声が上がる。

 翔太君を席に着かせると、畑山さんがこちらをにらむ。

「ボー、もっと時間の余裕を持って送りなさいよね」

「はい、すみません」

 最後に指を二回鳴らすと、柳井さんと後藤さんが現れた。
 彼らは忙しくしてるから、最後に回したってわけ。

「リーダー、遅くなりました」

「いや、俺が遅くしてるんだから気にしないで」

 二人が通路側に出してある座席に着く。

「初めまして、広報担当の柳井、後藤です。
 こちらが加藤君、そちらが翔太君です」

 しかし、柳井さんのその挨拶を、インタビュワーが聞いていたかどうかは疑問だ。
 彼女は水が入ったグラスを持ち、ピタリと静止している。

 ピクリと動いた拍子に、手に持っていたグラスがテーブルへ落ちた。
 グラスとテーブルの間は二十センチ程しかなかったが、加藤の手が見えないほど速く動き、グラスをキャッチする。

「「「勇者、ぱねー!」」」

 いつものように『騎士』たちの声が揃った。

 その声で、はっとした顔をしたインタビュワーが動きだした。

「い、今のなんです!? 
 急に人が現れたように見えましたが」

「ええ、その通りよ。
 そこに座ってるボーが私たちを瞬間移動させたの」

 畑山さんが解説してくれる。

「い、いったいどうやって?」

「失礼、その質問にお答えすることはできません。
 では、インタビューを始めてください」

 柳井さんが、ピシャリとくぎを刺す。

「は、はい。
 では始めさせてください」

 女性は、慌てていたが、ボイスレコーダーを机の上に置いた。
 プロ意識は、きちんとあるのかもしれない。

「あなたのお名前は?」

 あちゃー、自己紹介してないよ、この人。かなり気が動転してるな。

「まず、あなたのお名前を」

 柳井さんが水を向ける。

「あっ! 
 す、すみません。
 私は、〇〇テレビの沢村です。
 あなたのお名前は?」

 彼女は、俺の方を向いて訊いてくる。

「今日のインタビューは、加藤君と翔太君だけです。
 他の方への質問はお断りします」

 柳井さんが平坦な声で言う。

「ああっ、またやっちゃいました。
 ごめんなさい。
 では、加藤君、どうやったらあんなジャンプができるのか教えてください」

「えーと、普通にジャンプしてるだけです」

「でも、高いビルの上まで跳んでましたよね?」

「ああ、だから、それが普通に跳んだ状態」

「えっ!? 
 あれって本気じゃないんですか?」

 どうも後藤さんに比べると、沢村と言う女性は、取材技術がかなり劣るようだ。

「まあ、この能力を手に入れてから、本気で走ったことはあるけど、跳んだことはまだないかな」

「では、本気で跳んだらどれくらいいきますか?」

「いや、だからやったことないから分からないでしょう」

 加藤が困ったような顔をして、俺の方を見る。
 このインタビューなら、誰でも困るだろう。

「本気で走ったことはあるという事ですが、時速何キロくらい出ていましたか?」

「いや、速度計持ってたわけじゃないから、分かんないけど」

 俺が見た時は、時速百キロくらいじゃないかと思ったけどね。

「泳いだりしても、早いんですか?」

「いや、こうなってから泳いだこと無いから」

 加藤は忘れてるけど、学園都市世界の「バカンス島」で泳いだことあるんだよね。
 それより、なんか、グダグダになってるな、このインタビュー。
 後藤さんが、憐れむような目で沢村さんを見ている。
 可哀そうだから、そんな目で見ないであげて。

「歩くのは、普通の早さですか」

 加藤が、絶望した様子で天井を見た。
 いや、気持ちは分かるよ。

「え、ええっと、その力はどうやって身に着けたんですか?」

 おいおい、この人、後藤さんの記事すら読んでないのか。
 ひどいなこりゃ。

「えーっと、はぁ、鍛えてると、ある日突然こうなりましたっ」

 加藤のやつ、切れたな。

「加藤、きちんと説明なさい」

「わ、分かりましたよ、麗子さん。
 ある場所に行ってた時に、いつのまにかそうなってました」

 まあ、投げやりな答えだが、ぎりぎりセーフかな。
 畑山さんは渋い顔をしてるけど。

「ある場所とはどこですか?」

 柳井さんが手でバツ印を作る。

「加藤君、ある場所とは?」

 見かねた後藤さんが、「こういうときは……」と説明している。

「えっ? 
 ウチの社では、そんなこと習いませんでしたよ」

 いや、習う習わないの問題じゃないだろう。
 後藤さんも、諦めたのか、天井を見あげている。

「お姉ちゃん、人の話はきちんと聞いた方がいいよ」

 あちゃー、翔太君に突っこまれてるよ。

「なによっ! 
 あんたみたいなちっちゃなガキに、何が分かるっていうのよ!」

 とうとう逆切れしちゃったな、このダメダメインタビュワー。

「それは聞きずてならないわね!」
「「私達のプリンスをガキだって!?」」
「最低のクズ」
「愛の無いあなたに、魔法をドーン!」

 これは、『騎士』が騒ぐのも仕方がない。
 しかし、黒騎士の一言はきついな。
 あの口調で「最低のクズ」と言われた日には、俺だったら一日は立ちあがれないだろう。

 ところが、残念なインタビュワーさんは、ぱっと立ちあがったかと思うと、物凄い勢いで店から飛びだしていった。
 ボイスレコーダーは、テーブルの上に置いたままだ。

 後藤さんが、それを手に取ると、『騎士』たちの最後の発言を消去していた。
 翔太君の発言までは消さなかったようだ。

「これは、彼女の会社まで送っておきましょう」

 そう言うと、後藤さんは、ボイスレコーダーを手に外へ出ていった。
 今日は日曜日だから、宅配便で送るのだろう。

 最後に柳井さんが、「これからは、インタビュー前に面接を義務づけます」と、呆れ顔で言っていた。
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