ポータルズ -最弱魔法を育てようー

空知音

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第八章 地球訪問編

第15話 ルビーと現金収入

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 ネット上に流れた加藤の動画は、あっという間に世界中に拡散し、騒ぎの波が俺たちの周辺にも押しよせはじめた。

 ジャンプ動画には翔太君も映っているので、報道関係者らしい者の姿が、彼の周囲にちらつくようになった。
 彼の側には、いつも『騎士』が付きそっているが、どうしても彼らの都合がつかないときは、おやじさんが、黒服を付けてくれている。
 まあ、俺も点をいくつかつけてあるから、万が一もないだろうけどね。

 加藤の家も凄いことになっている。
 報道陣が何台もカメラを構え、加藤が出てくるのを待っている。

 加藤は、家から出入りするとき、念話で俺に透明化を頼むから、出待ちなんかしても無駄なんだけどね。
 すでに一部雑誌では、「異世界からの帰還」の文字が踊りはじめている。
 ただ、そういう記事は、どちらかというと際物扱いで、大手新聞社やテレビは沈黙を守っていた。

 騒ぎが大きくなる前にと思い、町へ出かけた。

 前回一時帰還したときは、「チンピラ貯金」からお金を借りたが、後でルルに叱られたから、今回は堂々とお金を手に入れることにしたのだ。
 
 そういうことで、今日は、畑山のおやじさんから紹介された宝石商に来ている。場所は、畑山邸がある町の繁華街になる。

 思っていたより大きな構えの店で、一階が一般向けの店舗、二階が高額商品のみを扱う店舗となっている。
 おやじさんが付けてくれた黒服の話だと、二階は最低でも五百万円からの商品だそうだ。

 俺は一階を素通りし、二階に上がる。
 買取専用のコーナーは無いから、客用の椅子に座って待つ。

 それほど待たずに、白髪をオールバックにした、壮年の男が現れる。

 若いころ何かスポーツをしていたのか、ガッチリした体格をしていた。
 俺の後ろに控える黒服と相撲をとっても、いい勝負をしそうだ。

「本日は、お越しいただき誠にありがとうございます。
 店長の前田と申します。
 なんでも、商品の買取をご希望とか」

 畑山のおやじさんが、根回しをしてくれたらしい。
 ここまでは、非常にスムーズに事が進んだ。

「ええ、ちょっと売りたいものがありまして」

 俺の言葉に、店長の目がキラリと光る。

「どういったお品でしょうか?」

 俺は、ボロ布で無造作に包んだものを、ごとりとテーブルの上に置いた。
 店長が、片目に拡大鏡を付けると、白手袋を取りだし、両手に着けた。

「では、拝見します」

 彼の手が、品物を包んでいるボロ布をひらひらとめくっていく。
 最後の一枚が、めくられたとき、そこに現れたのは、赤い石だった。
 これが、ルビーであることは、前もって点ちゃんに確認してもらっている。

「!」

 布を開いていた店長の手がピタリと止まる。
 店長は、固まったように動かなくなった。

「あのー、どうしましたか?」

 店長が、呆けたような顔でこちらを見る。

「こ、これは一体どこで?」

「先祖代々伝わるものとしか言えません」

「ちょっと、調べさせてください」

 店長は、三十分もの間、拡大鏡で慎重に石を調べていた。
 何かブツブツつぶやいているが、「ピジョン」とか、「エカチェリーナ」とか、あまり聞かない言葉ばかりで念仏のようにしか聞こえなかった。

「紛れもなく自然石ですな。
 しかも不純物がほとんどない。
 色もすばらしい」

 俺は彼の白手袋がブルブル震えているのを見て、違和感を感じていた。

「お名前はシローさんとか。
 これほどの宝石は、今まで見たことがありません」

 えっ! そんなにすごいものなの?
 竜王様の宝物庫で一番小さいやつなんだけど。

「シローさんは、ルビーについてご存知ですか?」

「いえ、全く。
 宝石は門外漢です」

「ヨーロッパで最大と言われた幻のルビーがあるのですが、それはニワトリの卵より少し小さかったと言われています」

 えっ! これって俺の拳より少し大きいんだが……。

「これだと二千カラット以上あるかもしれません。
 間違いなく世界最大のルビーです。
 畑山さんからのご紹介なので、何とかしてさしあげたいのですが、これほどのものになると、ウチでは扱いきれません。
 誠に申し訳ございません」

 まだ、震えている手をテーブルに着いている店長を後に残し、俺は店を出た。
 困ったな、どうしよう。
 現金収入がないと、柳井さんの給料が払えない。
 これは深刻な問題だぞ。

 俺はどうやって現金を手に入れるか、それに頭を悩ますことになった。

 ◇

 宝石商への仲介をしてくれたお礼を言うため、畑山邸に立ちよった。
 俺が来たことを聞いたのだろう、大広間でおやじさんと話していると翔太君が入ってきた。

「ボーさん、加藤さんへのインタビューの申しこみが何件か来ています」

 俺は、あるアイデアが閃いた。

「翔太君、全ての申しこみに対して、連絡先だけは聞いておいてくれる?」

「分かりました。 
 パレットに書いて送ればいいですね?」

 彼は本当に頭が切れる。打てば響くというやつだ。
 翔太君には、メール用パレットを渡してある。
 俺は、柳井さんに念話を繋ぐ。

『柳井さん、今、ちょっといいですか?』

『な、なに、これ?
 頭の中で史郎君の声が聞こえる』

『ああ、これ、俺の魔法の一つなんです。
 ところで、加藤の所にインタビューしたいという申し出が来ているのですが……』

 俺は、彼女に計画を伝えると、念話を切った。

『つ( ̄ー ̄) ご主人様が悪い顔してるー』 

 悪い顔って、どんな顔だろう。今度、鏡を見てみよう。

 こうして、俺は現金獲得作戦に取りかかった。
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