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第八章 地球訪問編

第13話 騎士の剣

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 俺たちは、カフェ「ホワイトローズ」で、翔太君の『騎士』に会っていた。
 彼女たちは、個性的と言うだけでは済まされないキャラクターだった。

 男らしいキャラが翔太君の前では崩壊する、白騎士マスターサブロー。
 紺のスーツに身を包み、ボソッと話すキャリアウーマン、黒騎士。
 翔太君を守るつもり満々の双子女子高生、黄騎士と緑騎士。
 年齢不詳の魔法少女(?)桃騎士。

 その濃いキャラクターの前で、俺たちも自己紹介させられることになった。
 しかし、みんな自己紹介できるような状態ではなかった。
 加藤は、吐き気がするのか口を押えてうつむいている。
 畑山さんは、この世が終わるような顔をして、眉間を指で押さえている。
 舞子は、口をポカーンと開けたままだ。

 しょうがないから、俺が皆を紹介しようとした。
 しかし、その前に、翔太君から待ったがかかる。

「こういうオフ会では、お互いの本名は明かさないのがエチケットなんです」

 なるほど、だから彼女たちは、名前を言わなかったのか。
 それなら、こちらもそれに合わせよう。

「えー、初めまして。
 俺が皆を紹介します。
 まず、こちらが『聖女』です。
 そして、こちらが『聖騎士』です。
 彼は、『勇者』、俺が『魔法使い』です。
 今日は、集まっていただきありがとうございます」

「たったそれだけー? 
 必殺技とか教えてくれないの?
 あんまりつれなくすると、魔法で懲らしめちゃうぞ、プンプン」

 桃騎士が不満を漏らしたが、俺は必殺技を教える気はない。
 大体、必殺技なんて持ってないしね。

「プリンス、今日は大事なお話があるということでしたが……」

 黒騎士が、低い声でボソッと話す。

「はい。
 以前オフ会で、うちの姉とボーさんの話をしたと思います」

「もちろん覚えてるよ。 
 異世界の女王様とプリンスのヒーローでしょ。
 何度も聞かされてるもん」

「緑騎士さん、『聖騎士』がボクの姉で、こちらの『魔術師』がボーさんです」

「「「えっ!」」」

 『騎士』の五人が驚く。
 それより、その発言で、俺と畑山さんの身元がバレちゃったんじゃないか?

「プリンスのお姉さんって異世界に行ってたんじゃないの?」

「ボーさんの魔法で帰ってきたんだって」

 騎士たち全員が、ばっとこちらを見る。

「「「ヒーロー、ぱねー」」」

 そこ、なんで声が揃うの!?

「ということは、聖騎士さんは、リアル女王様!?」

 桃騎士が、畑山さんをハート杖で指す。

「は、はあ、まあそうです」

 畑山さんらしくない、オドオドした反応だ。

「「「聖騎士、ぱねー」」」

 この人たち、ひょっとして、前もって練習してきてないか?

「ってことは、まさかこちらの『勇者』も、本物とか?」

 セーラー服の黄騎士が、加藤の方を指さす。

「あ、ああ、一応」

「「「勇者、ぱねー」」」

 緑騎士が当然のように続ける。

「で、もしかしてこちらの『聖女』も本物?」

「え、ええ……」

 舞子は、当惑顔だ。

「「「聖女、ぱねー」」」

「で、あたしが、プリンスの白騎士」

 なぜか、サブローさんがかぶせる。

「「「白騎士、死ねー」」」

 そこまで、合わせるんかい!

 ◇

 あまり意味があるとは思えない自己紹介が終わると、翔太君が話を元に戻した。

「今回相談したいのは、お姉ちゃん達が異世界から帰ってきたって、世界に公開したいからなんだよ」

 あれ? 今、翔太君、「世界」って言ったけど、「世間」の間違いだよね。
 まだ、小学五年生だもんね。間違えることもある。

「プリンス、そんなことしたら大騒ぎになると思いますが……」

 お、サブローさんが、普通のこと言った。
 あれ? でも、これって、サブローさんが、俺たちが異世界から帰ったと本気で信じてるってことじゃないの?

「えー、俺たちが異世界から帰ってきたって、本当に信じてるんですか?」

 一応、五人に確認してみる。

「プリンスが言ってることだから、信じるに決まってるわ」
「「プリンスは絶対!」」
「信じるの当然」
「愛の魔法に、嘘などないわよ、ウフッ」

 あー、「うふっ」攻撃を受けた加藤が、やばい顔色になってる。
 しかし、この人たち、プリンスを狂信してないか?
 サブローさんが、俺の方をジロリと見る。

「私たち、プリンスを狂信してるんじゃないのよ。
 愛してるだけ」

 こ、こわひっ! 
 これは、テレパシーか? 
 テレパシーなのか!?

「「「白騎士、ぱねー」」」

 確かに、ぱねー。

『(?ω・)ノ ご主人様、「ぱねー」ってなにー?』

 半端じゃないってことだよ。
 あっ! 俺、いけない事、点ちゃんに教えちゃった?

「えとね、昨日こういうことがあったの」

 翔太君は、昨日テレビ局であった事を『騎士』たちに話した。

「ということは、プリンスは、その動画を持っているのね?」

 魔法少女(?)桃騎士が、落ちついた声で言う。
 初めて普通の声を聞いたけど、それより魔法少女の格好で自分のこと「騎士」って言ってるのが気になる。

「動画さえあれば、拡散は簡単でしょ。 
 桃騎士がいるんだから」

 サブローさんが謎の発言をする。
 首を傾げる俺に答えてくれたのは、翔太君だった。

「桃騎士はね、伝説のハッカーなんだよ」

 なんじゃそりゃ!

『(*'▽') ぱねー!』

 あちゃー、やっぱり、点ちゃんが変な言葉を覚えちゃってるよ。
 まあ、使い方は合ってるみたいだけど。

「拡散を防げって言われたら、私でも大変だけど、拡散させろってことなら、プリティー簡単ね」

 ああ、真面目モードは一瞬で、もう元に戻ってるよ、桃騎士は。

「プリンス、その動画って持ってる?」

 翔太君が、ポケットに手を入れると、メモリーカードを取りだした。

「はいっ!」

 桃騎士は、掛け声とともにそれを受けとったのはいいが、明らかに翔太君の手を握っていた。

「あ、あんた、今、畏れおおくもプリンスのお手に触ったでしょ!」

「プリプリプリティ~、マジック、ぼーん♪」

 桃騎士はアニメソングでごまかそうとしたようだ。
 ただ、歌いながら、彼女は、背中のハート形をしたバッグから小型のPCを取りだした。
 アニメソングでリズムを取りながら、霞むほどのスピードで指先が動く。

「マジック、ぼーん♪」

 彼女は、「ぼーん」の所でリターンキーを押した。

「これで、一日もすれば世界中に拡散するわよ」

「す、すごいな」

 さっきまで、吐き気を覚えていた加藤だったが、今は目を丸くして、桃騎士の方を見ている。

「彼女だけじゃないのよ。 
 黒騎士は現役の警察官で合気道の達人。
 黄緑(きみどり)も、十ヵ国語以上ペラペラなんだから」

「「黄緑って言うな!」」

 双子の抗議を無視して、サブローさんは続けた。

「プリンスの『騎士』というからには、武器、まあ騎士に例えると剣ね。
 それが無い者は、騎士にはなれないのよ」

「えっ? 
 他にも騎士の候補者はいたんですか?」

 俺は驚いた。

「そうよ。 
 私がチェックしただけで、五千人はいたわね。
 その中から選んだのがこの五人ってわけ。
 まあ、桃騎士と黒騎士とは、知らない仲でもなかったしね」

「もしかして、サブローさんも普通の人じゃないんですか?」

「元特殊部隊教官。
 体術、武器共に達人」

 黒騎士が答えてくれる。

 な、なんなんだ、この人たち……。
 そして、プリンスとしてそれを従えている翔太君って……。

『(*'▽') ぱねー!』

 点ちゃんから、「ぱねー」頂きました。

 こうして、俺が困難を予想していた公開作戦は、あっさり端緒を切った。
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