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第八章 地球訪問編

第12話 プリンスの騎士達

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 俺たちが、テレビ局で撮影をした翌日、加藤の所に柳井プロデューサーから連絡があった。
 やはり、あの時撮った映像は、お蔵入り、つまり放送されないことになったそうだ。
 まあね。問題大ありだもんね、あれでは。
 特に、加藤がビルから飛びおりるところとか。

 念話会議を開いた俺たちは、翔太君のサイトに加藤がジャンプする動画をアップすることにした。飛びおりるシーンはカットしてある。子供がマネしてもいけないからね。

 そして、翔太君の『騎士』にも集まってもらうことになった。
 しかし、急な呼びだしに応じてもらえるのだろうか。

 待ちあわせは、日曜日の午後3時に、とある喫茶店とした。
 この喫茶店を強く勧めたのは翔太君だ。
 前にも、『騎士』と集まったことがあり、その時もこの場所を使ったそうだ。
 喫茶店は、畑山邸から電車で二駅離れた街にあった。

 落ちついた外観で、ツタが壁面を覆っている。
 かなり昔からやっている店かもしれない。
 看板には、「White_Rose(ホワイトローズ)」とあった。
 重厚な木のドアには褐色の金属プレートに刻まれた「open」の文字が掛かっている。
 翔太君にうながされた俺達は、畑山さんを先頭に店に入る。

 カウンターでは、すらりとした三十代前半だろう男性がグラスを磨いていた。
 やけに姿勢がいい人だ。軽くウエーブがかかった髪を短く刈りこんでいる。渋い色調のベストがまっ白なシャツに映え、彼の魅力を引きてている。
 整えられた口髭が、良く似合っていた。

 開店直後なのか、お客は誰もいなかった。

「いらっしゃいませ」

 マスターは、声まで渋い。
 これは、なかなかくつろげる店のようだぞ。俺は、好感を持った。
 ところが、俺たちの間から翔太君が顔を出すと、店長の態度が一変した。

「あ~らまあ、麗しの翔太様じゃな~い。
 こんなに大勢、取りまきを引きつれて、どうしたのかしら」

 内股になった店長が、体をくねらせカウンターから出てくる。
 店に対する俺のイメージが一気に崩壊する。
 その上、俺たちは、すでに翔太君の「取りまき」と認定されたらしい。

「サブローさん、今日はお世話になります」

「喜んでお仕えします。
 プリンスの騎士である私にお任せあれ。
 あなたたちも、こちらへどうぞ」

「は、はあ……」

 さすがの畑山さんも、イメージ崩壊に見舞われているらしい。
 ちょっとぼーっとしている。

 翔太君は、勝手知ったる様子で、一番奥のテーブルに座った。
 店長が、そそくさとドアのプレートを裏返す姿が見えた。

 おい、それでいいのか、この店は。

 俺たちが翔太君と同じテーブルに着き、ぼーっとしていると、「closed」プレートが掛かったドアを開け、数人の女性がわらわらと入ってきた。

「もう、あんたたちは! 
 プリンスを待たせるってどういうことよっ」

 マスターサブローが高い声で叱責する。

「プリンスがいないと意味ないから、外で待ってただけっしょ」

 カールを付けた頭髪を茶色に染めている、制服姿の女の子が言いかえした。

「そうよ、サブローの顔なんか見たって嬉しくもなんともないんだから」

 同じ髪型の少女が、声を上げる。
 二人は、顔つきがそっくりだから、おそらく双子だろう。

「きーっ、悔しい。
 でも、翔太様なら許せる」

 マスターが、ハンカチを口にくわえて手で引っぱる。
 その行動って、漫画の中だけかと思ってたよ。

 三人目は、かっちりした紺のスーツに身を包み、眼鏡を掛けた女性だった。

「プリンスは、あんたなんか許さない」

 静かな声で断定する。 
 綺麗な人なのに、なんか怖い。

「プリンスは、プリンセスがいてこそ輝くの。
 はい、変~身!」

 四人目の女性は、ピンクのハートが付いたプラスチックの杖を振りまわす、年齢不詳の小柄な女性だ。
 超ミニスカートの下は、白いニーソを履いている。

『(@ω@) なんじゃこりゃー!』

 そう! 点ちゃん、今こそまさにその言葉を使うタイミングだよ。

『(*´∀`*) えへへ。
 ご主人様に褒められちゃった』

 俺が、点ちゃんとそんなやりとりをしている間にも、新しく入ってきた四人が、隣のテーブルを持ちあげ、こちらのテーブルの横にくっつけた。
 窓際から長いテーブルがカウンターに向けて伸びた形となる。
 カウンターとテーブルの間は人がやっと通れるくらいしか空いていない。

「もう! 
  そんなにしちゃって。
  あんた達、後でちゃんと元に戻しなさいよ」

「「ふーんだ」」

 双子が、マスターにあっかんべーをしている。

「せっかくプリンスと会えたんだから、同じテーブルに着かないと意味ないわよねー」

 小柄な女性が、翔太君に向けたプラスチックの杖をくるくる回す。

「同席すべき」

 紺スーツの女性が、ボソッと言う。

「もー、しかたないわねー。 
 じゃ、そっちに詰めてちょうだい」

 マスターが、双子の隣に座る。

「「うざ~い」」

 双子が声を合わせる。
 翔太君が、手をパンと叩くと、濃いキャラの五人が黙った。

「まず、自己紹介してください」

「はーい! 
 私からね。 
 私はピンクの騎士。
 覚えてね。
 得意技は、プリプリ光線よ」

 ハートの杖を持った女性が、ウインクする。
 加藤、口を押えるのやめろ。

「次は私ね。
 プリンスを守る緑の騎士って、ウチの事よ」

「そして、私は黄色の騎士。
 プリンスは、私が守る」

 双子は、ピースサインで翔太君にアピールする。

「私、黒騎士、よろしく」

 紺スーツの女性は、小さな声でそういうと、翔太君の方をチラリと見て赤くなった。

「最後は私ね。
 もちろん、プリンスの白騎士といえば、私の事よ」

 どこから取りだしたのか、サブローさんが白いバラを口にくわえる。

 流し目で決めポーズを取った彼を見た舞子が、口をポカーンと開けている。
 畑山さんは、眉間を指で押さえ、目を閉じている。
 まあ、それが正常な人の反応です。

「さあ、それでは、翔太様の取りまきの方にも自己紹介してもらいましょう」

 マスターが俺の方をキラキラした目で見る。
 キラキラは翔太君にのみ許された特権だろう。
 俺は、そう突っこみたかったが、その気力が湧かなかった。
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