上 下
297 / 607
第八章 地球訪問編

第8話 四人の決断

しおりを挟む

 次の日、俺たち四人は、畑山さんの家で、ミーティングを行っていた。

 朝食の席で、畑山さんが、おやじさんに林先生の事を話した。
 彼の意見は、あっさりしていて、
「義理を欠いちゃならねえぞ、麗子」
というものだった。

 土曜日なので家にいた翔太君にも尋ねてみた。

「翔太君、俺たちの事が世間にばれたら、大騒ぎになって君にも迷惑がかかるかもしれない。 
 君はどう思う?」

「ボーさんは、正義の味方でしょ。 
 正しいことをして下さい。
 ボクは、今でも学校で特殊な立場だから大丈夫」

 きっと、父親の仕事柄、好奇の視線にさらされているのだろう。

 そして、このミーティングだ。
 結論は最初から出ているも同然だった。

「一応、決を採るわよ。 
 私たちの事を公開するかどうか。
 私は、公開する方に一票」

 司会役の畑山さんが意見をまとめにかかる。

「俺も、麗子さんと同じで公開に一票」

 加藤が間髪入れず続ける。どんだけ尻に敷かれてるんだ。

「私も、公開に賛成」

 舞子もしっかりと答えた。

「後はボーだけね」

「みんな、本当にいいのか? 
 俺達は、セルフポータルで向こうに帰ってしまえば問題ないが、家族は後々大変だぞ」

「じゃ、あなたは反対なのね」

「いや、今のは、ただの確認。
 俺も公開に一票だ」

「これで決まりだな」

 加藤が、手をパンと鳴らす。

「家族からの勧めがあって公開に踏みきるのだけど、家族に何かあれば、その時は、私たちが対処しましょう」

 畑山さんは、色々考えているようだ。

「まあ、こうなれば、臨機応変だな」

「ボーは相変わらずねえ。
 でも、頼りにしてるわよ」

 畑山さんの口から珍しい言葉が飛びだす。
 頼りにされたのって、いつ以来だ。

『(*'▽')つ どうして、ご主人様は、こう鈍感ですかねえ』

 えっ、今って突っこまれるところ?

『べ(u ω u)べ やれやれ』

 点ちゃん……俺を見捨てないでくれよ。

 こうして俺たち四人は、地球規模の大騒ぎより、林先生が教師を続けられる方を選んだ。

 ◇

 自分たちの事を公開すると決めた俺は、どういった手段でそれを行うかに頭を悩ませていた。
 とりあえず、各家庭の意見を再確認するためにも、それぞれを実家に送り届けることにした。
 畑山さんを残し、舞子、加藤を瞬間移動で実家に送る。
 何かあれば、念話で知らせるよう、打ちあわせてある。

 そうしておいて、俺は林先生と念話を繋いだ。

『先生、今どこですか?』

『うん? 
 ああ、自宅だよ。 
 お前のこれで目が覚めたところだ』

『もう昼前ですよ』

『日曜日の教師なんて、そんなものさ』

『まあ、いいですけど。 
 ところで、今日これから会えますか?』

『ああ、だが、ここに来るのは止めてくれ。 
 散らかってるからな』

『どこに行けばいいですか?』

『そうだな。
 〇〇川と△△川の合流したところに河原があったろう』

『ええ、知ってます』

『あそこに、正午でどうだ』

『もうそろそろ正午だと思いますが、大丈夫ですか』

『ああ、ここからは近いからな、自転車ですぐだ』

『じゃ、先生、そこで待ってますね』

 念話が終わると、俺は一旦学校の屋上に瞬間移動した。
 もちろん、自分に透明化を掛けてある。
 そこから、ボードに乗り空中を移動すると、目的の河原に降りた。
 先生が待ちあわせ場所に選んだだけあって、人っ子一人いない。

 ここで合流している二つの川ともアマゴが釣れるが、今日は釣り人がいないようだ。

 河原にしゃがんで川面を眺めていると、まだ寒い季節なのに、水面で川虫が次々と羽化するのが見えた。大自然の不思議は、いつ見ても心が洗われる。

 それほど待たずに、自転車をギーギー鳴らし、先生がやってきた。
 河原横の土手に自転車を停め、階段を降りてくる。
 先生は、デニムのジャンパーと、光沢があるジャージ下を着ていた。
 マフラーの間から白くなった息が出ている。

「待たせたかな」

「いえ、川を見てたら、時間なんてあっという間ですよ」

「そういえば、美術の先生が、『史郎君は、ぼーっと川を見てるだけでした』って発言した事件があったな」

「ははは、よく覚えてますね」

 やはり、この先生を辞めさせてはならない。
 俺は気合が高まるのを感じた。

「他の三人は?」

「実家でのんびりしてますよ」

「お前はいいのか?」

 俺は、前回地球に帰ったとき、実家で体験したことを話した。

「……そうか」

「家族って、最初から家族であるわけじゃなくて、家族になっていくものなのね」

「なんだ、それは?」

「畑山さんが、俺の事情を知ったときに言った言葉です」

「お前、辛くはないか?」

「全く。
 俺、もう向こうの世界に、かけがえのない家族と仲間がいますから」

「強がりじゃないみたいだな」

「ところで、今日、先生に会って話したかったのは、俺たちの意見がまとまったからです」

「ああ、どうなった」

 先生は、俺に背を向け、岸辺にしゃがみこんだ。

「俺たちの意見は分かってるでしょ。 
 問題は、各家族の意見でしたが……」

 先生は、小石を川面に投げこんでいる。

「まず、加藤家、
『自分に恥ずかしくないようにね』
 次に、渡辺家、
『林先生が学校にいられるようにしてあげなさい』
 最後に、畑山家、
『義理を欠いちゃならねえぞ』
 そういうことで、俺たちの事を公開することにしました」

 河原に石を投げこんでいた先生の手がとまっている。
 ジャケットの背中が小さく震えていた。

「馬鹿だよ、みんな大馬鹿だ」

 川の方を向いたまま、先生がつぶやいた。

 俺は、その手を取って先生を立たせる。
 先生の顔を見ないようにして、明るい声で言った。

「俺、今、腹ペコなんです。 
 先生、何かご馳走してくださいよ」

 先生は、俺の後ろに回りこむと、俺の両肩に手を置く。

「お前、教師の安月給を知らんな? 
 そんなことしたら、こっちは明日からしばらく小遣い無しだぞ」

「まあまあ、ここは細かいこと言わないで、さあ行きましょう」

 先生と俺が河原から離れると、大きな水鳥が岸辺に降りたち、「クワーッ」と一声鳴いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

処理中です...