上 下
293 / 607
第八章 地球訪問編

第4話 家庭訪問 加藤家

しおりを挟む

 「初めの四人」は、俺が地球を訪れた時に回った順に、各家族を訪れることにした。

 すなわち、加藤家、渡辺家、畑山家の順だ。

 先生を瞬間移動で理科準備室に送りとどけると、俺たち四人は加藤家の上空まで点ちゃん1号で飛んだ。もちろん透明化の魔術は掛けてある。
 上空で、四人用のボードを出し、加藤家の庭に降下する。
 そこは、子供の頃、加藤と走りまわった思い出の場所でもある、
 自分が成長したせいか、庭は昔より小さくなったように感じられた。

 加藤が庭から縁側に上がり、引き戸を開けると声を掛ける。

「かあちゃん、ただいまー」

 間を置かず、奥からドタドタ足音がすると、加藤の母親が姿を現した。

「ゆ、雄一! 
 あんた!」

「かあちゃん……」

 パコーン

 加藤が、母親に抱きつこうとしたが、素早い動作で自分のスリッパを手にした彼女は、息子の頭をそれで叩いた。

「な、なんで?」

 パコーン

「やっと帰って……」

 パコーン

 なんか、似たやり取りを、どこかの夫婦がしてたな。

「まだ分かんないのかい!」

 恰幅がよい加藤の母親は、丸っこい温和な顔つきなので、怒ってもさほど怖くはないが、それでもかなり腹を立てているようだ。

「あたしゃね、こないだ史郎君が訪ねてくれた時に、なんでみんなが他の世界に行っちゃったか、その原因を聞いてんだよ」

 加藤の顔が青くなる。この期に及んでやっと気づいたようだ。
 俺達が異世界に転移した直接の原因をつくったのは、ヤツだからね。

「あんたの事だから、三人に謝りもしてないんだろう。
 ここできちんとお謝り。 
 そうしないと家には入れないよ!」

 久しぶりに息子が帰ってきても、ダメなものはダメって言える。
 おばさんは、本当にすごい人だと思う。
 加藤が本物の勇者であることの根底には、彼女の人格が大きく影響しているんだろうな。

「ボー、舞子ちゃん、畑山さん。
 俺のせいで異世界に行かせちゃってごめんなさい」

 加藤が、俺たちに頭を下げる。

「気にするな」
「私は向こうに行って良かったって思ってるから」
「うん、私もそうだよ」

 俺、畑山さん、舞子がそれぞれ彼の謝罪を受けいれた。しかし、加藤の謝罪って遅すぎない?

『(・ω・)つ やれやれ。
 これだから、ご主人様は……』

 なぜだか、点ちゃんに呆れられる。

「さあさあ、そんなところに立ってないで、みなさん、上がってくださいな」

 おばさんの表情が、やっと緩んだ。

「お邪魔します」

 俺は勝手知ったる調子で靴を揃え、奥に上がった。舞子と畑山もついてくる。
 十二畳ほどの和室に通された俺たちは、座布団に座りくつろぐ。

「あー、和室っていいわねー。
 畳の香りが堪らない」

 畑山さんは、和室の雰囲気を味わっているようだ。

「加藤君のおかあさん、変わらないね」

 舞子は小さなころ、よく俺と一緒にこの家に上がってたからね。

「そうだな。
 いい意味で変わらないな、おばさんは」

「待たせてワリい、ワリい」

 加藤がお茶を載せたお盆を掲げて入ってくる。目の周りが赤いのは、おばさんと抱きあって泣いたからかもしれない。
 俺たちが、お茶を飲んでくつろいでいると、おばさんがお菓子をお盆に載せ、入ってきた。

「みなさん、今日はここでゆっくりしていっておくれ」

「はい、ぜひそうさせてください」

 積もる話もあるから、俺たちは一晩厄介になるつもりでいる。

「今日は、腕によりをかけるからね。
 楽しみにしといで」

 おばさんは、手のひらを俺の頭にポンと載せると、部屋から出ていった。

「ふーん、これが加藤の家ねえ」

「思ったより広いでしょ」

 加藤が畑山さんに答えているが、彼は彼女の実家が豪邸だとは知らないからね。

「あ、そうだ。
 ボー、せっかくだから、加藤と竜人の国に行った時の話してよ」

「うん、私も聞きたい」

 畑山さんと舞子のご所望で、竜人国と天竜国の話をする。

「あんた、古代竜なんかと戦ったの!?」

「ああ、加藤がいてくれたら少しは楽だったんだが、危ないところだったよ。
 まあ、リーヴァスさんがいたから何とかなったってのもあるな」

「あんた、どこに行ってもトラブルに愛されてるわね」

 畑山さん、それってフラグ立ててないか。今回は、あなたも巻きこまれますよ。

「うーん、なんでだろうね。
 先生の件もトラブルって言えばトラブルだよね」

 そうやって、お互いの近況を話しているうちに、あっという間に陽がかげり始めた。

「あー、話すこと沢山あるから、あっという間に時間が経つわね」

 確かに、畑山さんの言うとおりだね。

「ボーは、向こうで、魔法のレベルが二つも上がったんでしょ? 
 どんなスキルが手に入ったの?」

 そういえば、畑山さんには、まだ話してなかったか。

「一つは、時間に関係あるもので、朝食のアツアツクッキーにも使ってたんだ。
 もう一つは、融合って言って、二つの物をくっつけるスキルだね」

「くっつける?」

 「加藤、ちょっと庭を借りるぞ」

 俺は、座敷のふすまと縁側の障子を開けて、庭が見えるようにした。
 庭に、白銀色をしたバイク型の点ちゃん4号改を出す。庭に飛びおりた白猫が、さっそくクンクンと4号改の匂いを嗅いでいる。

「おお! 
 なんだそりゃ、ボー。
 やけにかっこいいな」

「ボードがあるだろ。
 あの原理を応用したバイク型の乗り物なんだ」

「そういや、黒いのはドラゴニアで見せてもらったな? 
 これって、俺でも乗れるか?」

「いや、まだ無理だな。
 今、改造中だから、乗れるようになったら一台渡すよ」

「うおっ! 
 それは待ち遠しいな」

 俺と加藤が庭で騒いでいると、玄関の方から庭へ入ってくる足音がする。

「とうちゃん!」

 加藤のおじさんが帰ってきたようだ。
 林業に従事している加藤の父親は、小柄だがひき締まった体つきをしている。

「雄一! 
 帰ったのか」

 加藤は裸足のまま、庭に飛びおりる。
 おじさんは、加藤の手をぐっと握った。

「いい手になったな」

 加藤はそれだけで、嗚咽を漏らしはじめた。

 俺は二人を邪魔しても悪いと思い、点ちゃん4号改をしまうと座敷に戻った。

 ◇

 夕食は、加藤の母親が腕によりをかけたというだけあって、とても豪華なものだった。

 俺と加藤用に肉料理中心のこってり系のもの、舞子、畑山さん用に野菜中心のあっさり系のものがきちんと作り分けられている。
 おばさんは料理が上手いから、これは食べがいがありそうだ。

 みんなは、賑やかに食事をした。俺たちが留守の間に起こった事や俺たちそれぞれの体験など、話題は尽きない。
 食事がもう終わるという時、聞き覚えがある足音が近づいてきた。
 フスマが、からりと開く。 

「あっ、雄一! 
 それに史郎君もいる。
 お帰りー」

「ね、姉ちゃん。
 今日帰ってくる予定なかったんじゃない?」

「久しぶりに弟が帰ってきたのに、予定がなによ」

 この気風がいい女性は、加藤の姉で、大学四年生の博子さんだ。
 ショートカットの髪がシャープな顔つきに似合っている。おじさん似だね。

「ヒロ姉、ご無沙汰してます」

「史郎君は、相変わらずお行儀がいいわね。 
 雄一も見習わないと。
 ところで、雄一は向こうでどうだった?」

 ヒロ姉は、おばさんから俺の話を伝え聞いたのだろう。
 俺は、彼女がその話を信じてくれていて、とても嬉しかった。

「そういえば、母さんに見せたっていう雄一の動画、今でも見られる?」

「ええ、大丈夫ですよ」

 なぜか、加藤が青くなる。

「いや、ボーは疲れてるから、今日のところはいいだろう」

「何言ってんの。
 母さんに何度も自分だけ見たって自慢されて大変だったんだから。
 史郎君、構わないから映しちゃって」

 俺は壁にスクリーンを展開すると、マスケドニア国王と加藤が並んで映っている動画を流した。

「うわー、カッコいい人ね。
 こんな人が王様って、すごい国だね」

 ここまでは、ヒロ姉も喜んでくれたし、良かったのだ。
 問題は、映像が終わる寸前に画面上の加藤が放った一言だった。

『本当は、かあちゃんに紹介したい人もいるんだが、それは次の機会にするよ』

 あちゃー、これがあったか。
 この映像撮ったの、何か月も前の事だからすっかり忘れてたよ。
 加藤、すまん。成仏してくれ。

 当然、畑山さんが発言する。

「紹介したい人って?」

「まあ、それはあれだ。
 あれだよ」

「加藤、私の事紹介してくれようとしてたの?」

「そ、それはもちろん、そうだよ」

 俺には加藤が地雷を踏む音が聞こえた。
 さっと部屋を出て行ったヒロ姉が、大きめのパレットを手に戻ってくる。
 俺は目を閉じた。な~む~。

「この人が、紹介したい人じゃないの?」

 そこには、加藤と並んで映ったミツさんの姿があった。

「加藤、あんた……」

 畑山さんの声が凍りつく。

 その夜、加藤家では厳しい声で詰問する少女の声が深夜まで続いた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします

吉野屋
ファンタジー
 竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。  魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。  次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。 【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】  

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

処理中です...