上 下
284 / 607
第七章 天竜国編

第37話 ポンポコ商会新商品

しおりを挟む

 史郎は、竜人国に帰ってきたついでに、ポンポコ商会の様子を見に行くことにした。

 青竜族の役所中庭に瞬間移動した俺は、歩いてポンポコ商会まで行った。竜人が使うローブを着て、頭にはフードをかぶっている。
 それでも顔なじみの商店主達が俺に気づいたが、少しの間、動きを止めただけで彼らは普段通り働いている。
 こちらは見ないようにしているけどね。
 新装開店なった商業地区は、いつにも増して賑わっていた。
 ただ、ポンポコ商会の前では、何か騒ぎが起きていた。

「頼む。
 この通りだ。
 値段は言い値で構わない」

 どこか見覚えのある青竜族の男が、戸口に立ったネアさんに土下座している。

「ここでそういうことをされては、お客様のご迷惑になります。
 こちらにお入りください」

 ネアさんが戸口を開けたので、俺はするりと店内へ滑りこんだ。

「えっ! 
 あなたは……?
 あっ、シローさん!」

 フードを取った俺に、ネアさんが驚いている。
 青竜族の男は、店内に入っても再び土下座していた。

「この人は、いったい?」

 ネアさんが、土下座している男をチラリと見る。

「それが、なんでも蜂蜜を売ってほしいと言うんです」

「なんでそこまでして蜂蜜を?」

 焼きたてクッキーにかけているのだから、クッキーを買えばいいだけのはずだが。

「なんでも、天竜様へ献上する品にしたいそうです」

 それを聞いて思いだした。
 この青竜族の男は、最初の調査隊で「光の森」を訪れた者の一人だ。十人の内、八人は再び天竜国に戻ったから、この男はこちらに残った二人のうち一人である。

「どうして蜂蜜を献上したい?」

 俺が誰だか分かると、男はブルブル震えだした。

「て、天竜様が蜂蜜をご所望と聞きおよびまして……」

 ははあ。大方、天竜に蜂蜜を献上することで、三年間停止となっている四竜社での議決権を戻してもらおうとでも考えたのだろう。
 俺は、あるアイデアを思いついたので、それを伝えることにした。

『つ( ̄ー ̄) ご主人様が悪い顔してる』

 ははは、点ちゃん、分かってるね~。

「蜂蜜献上は、ポンポコ商会からのみとする」

 俺が断定するように言う。
 男が、がっくりと崩れおちる。
 すでに土下座しているから、ぺちゃっと地面に潰れたようなかたちだ。
 スライムっぽい。

「ただし……」」

 俺のその言葉を聞き、男がぴくっと動く。

「献上のために購入するなら、我がポンポコ商会の下に名をつけるのを許そう」

「おお!」

 男が、がばっと顔を上げる。

「喜ぶのはまだ早いぞ。
 天竜様への献上品だ。
 その品は極上品でなければならん。
 それは分かるな?」

「ははっ、もちろんでございます」

「極上品は値が張るぞ。
 それでも構わぬか?」

「ははっー、構いませぬー!」

 何か、どっかのご隠居みたいな気分になってきたぞ。
 ここで天竜を紋所にした印籠とか出したいところだ。

『(?ω?) ご主人様、ご隠居と印籠ってなにー?』

 ああ、点ちゃん、そこは話すと長くなるから、後でね。

『(^▽^) 分かったー』

「では、金額等はおって知らせる。
 今日のところは、ここに連絡先を書いて帰れ」

「ははーっ」

 売り上げのメモ用に置いてあった紙に連絡先を書いた男は、弾むような足取りで帰っていった。

「お兄ちゃん、今のなに?」

 イオが不思議そうな顔をしている。純真な子供は知らなくてよろしい。
 天竜の長とは、「枯れクズ」回収への協力に対し、蜂蜜を渡すと約束している。
 元々渡すべき蜂蜜に小さく青竜族の名前を書くだけで、膨大な富がポンポコ商会に流れこんでくる。
 フフフ、大黒屋、お主もワルよのう。

『(?ω?) 大黒屋って、なにー?』

 うん、点ちゃん、それは「ご隠居」「印籠」と一緒に説明するから。

『(・ω・) ふーん』

 俺は点魔法で、蜂蜜採集用ビンを二十分の一サイズにした小ビンを作り、それに竜人の文字で「御献上 ポンポコ商会」と書き、その下に名前を書く欄を小さくとった。
 ネアさんにそのビンを渡す。

「ネアさん、これから『天竜様への献上蜂蜜』ということで、これを売りだしてほしいんです」

「はい、それはいいですが、値段はどうしましょう」

「そうですね……」

 俺は少し考えて、金額を伝えた。

「えっ!? 
 りゅ、竜金貨五枚……」

 日本円でおよそ250万円だ。

「シローさん、いくら蜂蜜が美味しくて珍しいからといって、これでは誰も買いませんよ」

「ああ、それは心配しなくていいよ。
 どうせ売れなくて元々だからね」

 天竜国に帰った史郎の元に、イオからのパレットメールで、献上蜂蜜が飛ぶように売れているから、蜂蜜採集を手伝ってほしいという連絡が入ったのは、それから三日後のことだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

男装の皇族姫

shishamo346
ファンタジー
辺境の食糧庫と呼ばれる領地の領主の息子として誕生したアーサーは、実の父、平民の義母、腹違いの義兄と義妹に嫌われていた。 領地では、妖精憑きを嫌う文化があるため、妖精憑きに愛されるアーサーは、領地民からも嫌われていた。 しかし、領地の借金返済のために、アーサーの母は持参金をもって嫁ぎ、アーサーを次期領主とすることを母の生家である男爵家と契約で約束させられていた。 だが、誕生したアーサーは女の子であった。帝国では、跡継ぎは男のみ。そのため、アーサーは男として育てられた。 そして、十年に一度、王都で行われる舞踏会で、アーサーの復讐劇が始まることとなる。 なろうで妖精憑きシリーズの一つとして書いていたものをこちらで投稿しました。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします

吉野屋
ファンタジー
 竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。  魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。  次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。 【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】  

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

処理中です...