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第七章 天竜国編

第37話 ポンポコ商会新商品

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 史郎は、竜人国に帰ってきたついでに、ポンポコ商会の様子を見に行くことにした。

 青竜族の役所中庭に瞬間移動した俺は、歩いてポンポコ商会まで行った。竜人が使うローブを着て、頭にはフードをかぶっている。
 それでも顔なじみの商店主達が俺に気づいたが、少しの間、動きを止めただけで彼らは普段通り働いている。
 こちらは見ないようにしているけどね。
 新装開店なった商業地区は、いつにも増して賑わっていた。
 ただ、ポンポコ商会の前では、何か騒ぎが起きていた。

「頼む。
 この通りだ。
 値段は言い値で構わない」

 どこか見覚えのある青竜族の男が、戸口に立ったネアさんに土下座している。

「ここでそういうことをされては、お客様のご迷惑になります。
 こちらにお入りください」

 ネアさんが戸口を開けたので、俺はするりと店内へ滑りこんだ。

「えっ! 
 あなたは……?
 あっ、シローさん!」

 フードを取った俺に、ネアさんが驚いている。
 青竜族の男は、店内に入っても再び土下座していた。

「この人は、いったい?」

 ネアさんが、土下座している男をチラリと見る。

「それが、なんでも蜂蜜を売ってほしいと言うんです」

「なんでそこまでして蜂蜜を?」

 焼きたてクッキーにかけているのだから、クッキーを買えばいいだけのはずだが。

「なんでも、天竜様へ献上する品にしたいそうです」

 それを聞いて思いだした。
 この青竜族の男は、最初の調査隊で「光の森」を訪れた者の一人だ。十人の内、八人は再び天竜国に戻ったから、この男はこちらに残った二人のうち一人である。

「どうして蜂蜜を献上したい?」

 俺が誰だか分かると、男はブルブル震えだした。

「て、天竜様が蜂蜜をご所望と聞きおよびまして……」

 ははあ。大方、天竜に蜂蜜を献上することで、三年間停止となっている四竜社での議決権を戻してもらおうとでも考えたのだろう。
 俺は、あるアイデアを思いついたので、それを伝えることにした。

『つ( ̄ー ̄) ご主人様が悪い顔してる』

 ははは、点ちゃん、分かってるね~。

「蜂蜜献上は、ポンポコ商会からのみとする」

 俺が断定するように言う。
 男が、がっくりと崩れおちる。
 すでに土下座しているから、ぺちゃっと地面に潰れたようなかたちだ。
 スライムっぽい。

「ただし……」」

 俺のその言葉を聞き、男がぴくっと動く。

「献上のために購入するなら、我がポンポコ商会の下に名をつけるのを許そう」

「おお!」

 男が、がばっと顔を上げる。

「喜ぶのはまだ早いぞ。
 天竜様への献上品だ。
 その品は極上品でなければならん。
 それは分かるな?」

「ははっ、もちろんでございます」

「極上品は値が張るぞ。
 それでも構わぬか?」

「ははっー、構いませぬー!」

 何か、どっかのご隠居みたいな気分になってきたぞ。
 ここで天竜を紋所にした印籠とか出したいところだ。

『(?ω?) ご主人様、ご隠居と印籠ってなにー?』

 ああ、点ちゃん、そこは話すと長くなるから、後でね。

『(^▽^) 分かったー』

「では、金額等はおって知らせる。
 今日のところは、ここに連絡先を書いて帰れ」

「ははーっ」

 売り上げのメモ用に置いてあった紙に連絡先を書いた男は、弾むような足取りで帰っていった。

「お兄ちゃん、今のなに?」

 イオが不思議そうな顔をしている。純真な子供は知らなくてよろしい。
 天竜の長とは、「枯れクズ」回収への協力に対し、蜂蜜を渡すと約束している。
 元々渡すべき蜂蜜に小さく青竜族の名前を書くだけで、膨大な富がポンポコ商会に流れこんでくる。
 フフフ、大黒屋、お主もワルよのう。

『(?ω?) 大黒屋って、なにー?』

 うん、点ちゃん、それは「ご隠居」「印籠」と一緒に説明するから。

『(・ω・) ふーん』

 俺は点魔法で、蜂蜜採集用ビンを二十分の一サイズにした小ビンを作り、それに竜人の文字で「御献上 ポンポコ商会」と書き、その下に名前を書く欄を小さくとった。
 ネアさんにそのビンを渡す。

「ネアさん、これから『天竜様への献上蜂蜜』ということで、これを売りだしてほしいんです」

「はい、それはいいですが、値段はどうしましょう」

「そうですね……」

 俺は少し考えて、金額を伝えた。

「えっ!? 
 りゅ、竜金貨五枚……」

 日本円でおよそ250万円だ。

「シローさん、いくら蜂蜜が美味しくて珍しいからといって、これでは誰も買いませんよ」

「ああ、それは心配しなくていいよ。
 どうせ売れなくて元々だからね」

 天竜国に帰った史郎の元に、イオからのパレットメールで、献上蜂蜜が飛ぶように売れているから、蜂蜜採集を手伝ってほしいという連絡が入ったのは、それから三日後のことだった。
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