283 / 607
第七章 天竜国編
第36話 竜人国の隠しポータル
しおりを挟む
俺は、一人で竜人国に来ていた。
ジェラードから俺のパレットに、隠しポータル解放の準備ができたという連絡が来たのだ。
俺が今いるのは、四竜社の地下だ。隠しポータルは、四竜社が入る建物の地下にあった。
ラズローとジェラード、そして黒竜族と青竜族の新しい長。四人が同時に詠唱に入る。
目の前の黒く大きな扉は、四竜族の長が同時に呪文を唱え、初めて開くことができる。
ゴゴゴゴ
腹に響く音を立て、扉がゆっくりと開く。開いた扉の向こうには、まっ暗な空間が広がっていた。湿っぽい空気が流れだす。
ジェラードの詠唱で魔術灯がともる。明りに映しだされた部屋は、十二畳ほどだった。
部屋の左右の壁に、文字で飾られた木枠がはめ込まれている。右の木枠の中にはポータルの黒い渦があり、左の木枠は、扉が閉められ、封のようなものがしてあった。
木枠の下には金属製のプレートがあり、大きな竜人文字が書かれている。
読んでみると、右側のものが「グレイル」、左側のものが「スレッジ」と書かれていた。
「シロー殿、これでお約束は果たせましたかな?」
青竜族、黒竜族の長が、部屋を出ていくと、ラズローが俺の側に立った。
お約束というのは、竜闘で勝った報酬として俺が求めたことだ。一つは天竜祭への参加で、もう一つがこの隠しポータルズの解放だった。
「このポータルが、解放されたと分かれば、そういうことになります」
「おいおい、ここにきて、まだ俺たちを疑っているのか?」
ジェラードが呆れている。
「疑っているんじゃない。
慎重になってるだけだ」
「さすがに、竜王様の友人をダマそうとするやつなど、竜人にはいないと思うぞ」
「お前がいるだろう」
俺がすかさず突っこむと、ジェラードは渋い顔をしている。
「ここは、今後どのように管理されますか?」
俺はラズローに尋ねてみた。
「そうですね。
恒久的に開放となると、門を開けたままにして、係の者を置くことになるでしょう。
「これで、他の世界との交流、交易が進みますね」
「ええ、まだ懸念材料はあるのですが、そうなることを望んでいます」
「懸念材料というと?」
「そもそも、我々が、このポータルを秘密にしたのは……」
二百年以上前は、通常のポータルが地上にも一か所あり、細々とだが、それを使った交流が行われていた。
ところが、それを通りスレッジからやってきた人族やドワーフ族が町を荒らしだした。
彼らの最終目標は、天竜国だった。
当時、極秘にされていた天竜国へのポータル、その情報が漏れた後は、物凄い数の人族、ドゥワーフ族が殺到した。
彼らは天竜国へ渡ると、当時数多くいた竜を狩りはじめた。
それに気づいた竜人たちが、天竜国へのポータル、スレッジへのポータルとも破壊した。
しかし、それまでに多くの天竜、真竜が狩られてしまった。彼らの狙いは竜から取れる素材だった。それは他の世界で驚くほど価値があったのだ。
竜人もその多くが奴隷として連れさられ、一時は各種族の維持が危ぶまれるほどだった。
それから百年ほどして、希少鉱物を探していた竜人がこの新しいポータルを見つけた時、各種族の長達はそれを秘密にすることにした。
その秘密を守るために作られたのが四竜社だ。
ラズローが話してくれた竜人国の歴史に、彼らの排他性がどこから来たのか、やっと分かった気がした。
そして、これから再びそういうことが起こらないための予防策が必要になると痛感した。
「ラズローさん、真竜たちのこともありますから、ポータル解放後のアイデアを伝えておきますね」
俺は、他世界との交易のための区画を作ることを提案した。元ネタは長崎の出島だ。その区画から竜人国への通行を厳しく制限すれば、かつての様な事は起こらないだろう。
そういえば、ひとつ尋ねるのを忘れていたな。
「人族やドゥワーフ族は、どうやって竜人や竜を打ちまかすことができたんです?」
竜王様と戦ってみた俺には、人族がどんな手段を使っても真竜には敵うはずがないという実感があった。
「それに気づかれましたか。
うーん、極秘中の極秘になりますが……。
シロー殿になら話しても構いますまい。
彼らは『ドラゴナイト』という金属を身につけておったのですよ」
「なんですか、その『ドラゴナイト』と言うのは?」
「スレッジで採掘される金属で、竜族や竜人の力を奪う働きがあるものです」
「具体的には、どういう効果が?」
「伝承では、真竜様が魔術やブレスを使えなくなったと言われています」
「竜人に対する効果は?」
「魔術を使えなくなるのはもちろんですが、力もかなり弱くなったと伝えられております」
「今、この国に、『ドラゴナイト』は残っていますか?」
「当時、ポータルを破壊した後、祖先たちは、この地に残った人族やドゥワーフ族を、苦労の末、一掃したそうです。
そのとき、全てのドラゴナイトは深海に沈められたと言われております」
そうか。竜人だけになった世界だと、持っていても意味は無いものだろうからね。そういうことなら「出島」の管理はますます厳格にしなければならないな。
俺は、子竜たちのことを思い、自分もポータルの管理に係わる覚悟を決めた。
ジェラードから俺のパレットに、隠しポータル解放の準備ができたという連絡が来たのだ。
俺が今いるのは、四竜社の地下だ。隠しポータルは、四竜社が入る建物の地下にあった。
ラズローとジェラード、そして黒竜族と青竜族の新しい長。四人が同時に詠唱に入る。
目の前の黒く大きな扉は、四竜族の長が同時に呪文を唱え、初めて開くことができる。
ゴゴゴゴ
腹に響く音を立て、扉がゆっくりと開く。開いた扉の向こうには、まっ暗な空間が広がっていた。湿っぽい空気が流れだす。
ジェラードの詠唱で魔術灯がともる。明りに映しだされた部屋は、十二畳ほどだった。
部屋の左右の壁に、文字で飾られた木枠がはめ込まれている。右の木枠の中にはポータルの黒い渦があり、左の木枠は、扉が閉められ、封のようなものがしてあった。
木枠の下には金属製のプレートがあり、大きな竜人文字が書かれている。
読んでみると、右側のものが「グレイル」、左側のものが「スレッジ」と書かれていた。
「シロー殿、これでお約束は果たせましたかな?」
青竜族、黒竜族の長が、部屋を出ていくと、ラズローが俺の側に立った。
お約束というのは、竜闘で勝った報酬として俺が求めたことだ。一つは天竜祭への参加で、もう一つがこの隠しポータルズの解放だった。
「このポータルが、解放されたと分かれば、そういうことになります」
「おいおい、ここにきて、まだ俺たちを疑っているのか?」
ジェラードが呆れている。
「疑っているんじゃない。
慎重になってるだけだ」
「さすがに、竜王様の友人をダマそうとするやつなど、竜人にはいないと思うぞ」
「お前がいるだろう」
俺がすかさず突っこむと、ジェラードは渋い顔をしている。
「ここは、今後どのように管理されますか?」
俺はラズローに尋ねてみた。
「そうですね。
恒久的に開放となると、門を開けたままにして、係の者を置くことになるでしょう。
「これで、他の世界との交流、交易が進みますね」
「ええ、まだ懸念材料はあるのですが、そうなることを望んでいます」
「懸念材料というと?」
「そもそも、我々が、このポータルを秘密にしたのは……」
二百年以上前は、通常のポータルが地上にも一か所あり、細々とだが、それを使った交流が行われていた。
ところが、それを通りスレッジからやってきた人族やドワーフ族が町を荒らしだした。
彼らの最終目標は、天竜国だった。
当時、極秘にされていた天竜国へのポータル、その情報が漏れた後は、物凄い数の人族、ドゥワーフ族が殺到した。
彼らは天竜国へ渡ると、当時数多くいた竜を狩りはじめた。
それに気づいた竜人たちが、天竜国へのポータル、スレッジへのポータルとも破壊した。
しかし、それまでに多くの天竜、真竜が狩られてしまった。彼らの狙いは竜から取れる素材だった。それは他の世界で驚くほど価値があったのだ。
竜人もその多くが奴隷として連れさられ、一時は各種族の維持が危ぶまれるほどだった。
それから百年ほどして、希少鉱物を探していた竜人がこの新しいポータルを見つけた時、各種族の長達はそれを秘密にすることにした。
その秘密を守るために作られたのが四竜社だ。
ラズローが話してくれた竜人国の歴史に、彼らの排他性がどこから来たのか、やっと分かった気がした。
そして、これから再びそういうことが起こらないための予防策が必要になると痛感した。
「ラズローさん、真竜たちのこともありますから、ポータル解放後のアイデアを伝えておきますね」
俺は、他世界との交易のための区画を作ることを提案した。元ネタは長崎の出島だ。その区画から竜人国への通行を厳しく制限すれば、かつての様な事は起こらないだろう。
そういえば、ひとつ尋ねるのを忘れていたな。
「人族やドゥワーフ族は、どうやって竜人や竜を打ちまかすことができたんです?」
竜王様と戦ってみた俺には、人族がどんな手段を使っても真竜には敵うはずがないという実感があった。
「それに気づかれましたか。
うーん、極秘中の極秘になりますが……。
シロー殿になら話しても構いますまい。
彼らは『ドラゴナイト』という金属を身につけておったのですよ」
「なんですか、その『ドラゴナイト』と言うのは?」
「スレッジで採掘される金属で、竜族や竜人の力を奪う働きがあるものです」
「具体的には、どういう効果が?」
「伝承では、真竜様が魔術やブレスを使えなくなったと言われています」
「竜人に対する効果は?」
「魔術を使えなくなるのはもちろんですが、力もかなり弱くなったと伝えられております」
「今、この国に、『ドラゴナイト』は残っていますか?」
「当時、ポータルを破壊した後、祖先たちは、この地に残った人族やドゥワーフ族を、苦労の末、一掃したそうです。
そのとき、全てのドラゴナイトは深海に沈められたと言われております」
そうか。竜人だけになった世界だと、持っていても意味は無いものだろうからね。そういうことなら「出島」の管理はますます厳格にしなければならないな。
俺は、子竜たちのことを思い、自分もポータルの管理に係わる覚悟を決めた。
0
お気に入りに追加
332
あなたにおすすめの小説

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~
カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。
気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。
だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう――
――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました
ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。
会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。
タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

異世界無宿
ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。
アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。
映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。
訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。
一目惚れで購入した車の納車日。
エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた…
神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。
アクション有り!
ロマンス控えめ!
ご都合主義展開あり!
ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。
不定期投稿になります。
投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる