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第七章 天竜国編

第33話 「光る森」救助作戦開始

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 天竜の長が真竜廟を訪れたので、「枯れクズ」除去について話を聞く。

1、森のはずれに竜人が生活できるキャンプをつくる。
2、キャンプ地へ竜人を連れてくる。
3、竜人を交えて「光る森」を調査する。
4、「枯れクズ」保管所を整備する。
5、「枯れクズ」運搬を開始する。
6、「枯れクズ」加工を研究する。

 こういう行程を考えているようだ。

 当面は、1~5で手一杯だろう。加工については、学園都市と連携したほうが効率がいいかもしれない。まあ、その場合、秘密保持など様々な問題が生じることが予想されるけどね。

 天竜の長から聞いた竜人のキャンプ地に「土の家」を造る。場所は、天竜の洞窟からほど近い荒れ地だ。天竜国は、雨は降るが嵐は来ないので、地上二階建ての家にした。これを五棟造り、加えて「枯れクズ」用の大きな倉庫も造った。
 これで、十分な数の竜人が宿泊できる。


 建設を終え、真竜廟に戻る。
 俺が留守の間に、洞窟内の泉に水汲みに出かけたポルが、ジャイアント・スネークに襲われたそうだ。その時、どこからともなく現れた黒猫がスライムの形に戻ると、大蛇の頭部を覆ったという話だった。
 大蛇は、程なく動かなくなったそうだ。そして、スライムは、それほどかからずに、蛇の全身を消化してしまったというのだ。
 猫を連れていると大蛇が襲ってこない理由が、やっと分かった。
 猫(スライム)は、大蛇の天敵なのだ。

 さて、子竜達だが、体長が1mほどになってからは、あまり大きくなっていない。竜王様によると、ここからは、少しずつ時間をかけて大きくなり、やがて成竜となるのだそうだ。
 ナルとメルのお母さん竜や竜王様の大きさを考えると、最終的には体長10mほどになるのだろう。

 ナルとメルは、竜王様の「竜の学校」に参加していることが多い。五体の子竜が一緒に体を動かしているのを見ると、本当に癒される。

 子竜とナル、メルとの関係には、少し変化があった。子竜が、時々、二人に甘えるようなそぶりを見せるようになったのだ。お姉ちゃんの様に思っているのだろうか。

 母親役のルル、コルナ、コリーダは、「竜の学校」が無いときは、それぞれの子竜に掛かりきりで、よく何か話しかけている姿が見られる。
 三人とも、受けもちの子竜が言いたいことがなんとなく分かるそうだから、もしかすると、子竜にはテレパシー能力が芽生えているのかもしれない。

 こうして、俺が天竜国に帰ってきて一週間ほど過ぎると次第に忙しいくなってきた。

 ◇

 天竜の長から、竜人をこちらに輸送する許可が出た。

 竜人国にいる白竜族のジェラードに持たせたパレットに、文字で指示を出す。
 主に「光る森」調査に加わる竜人が十人程度こちらに来ることになっている。ジェラードへの指示は、竜舞台の上に箱を設置するから、調査隊のメンバーをそれに入れろというものだ。
 ジェラード自身がすでに箱に入った状態での瞬間移動を体験しているから、何も問題ないだろう。瞬間移動の出口は、竜人用のキャンプとした。

 天竜の長に念押ししてから、箱の瞬間移動を発動する。箱からは、各種族が三人ずつ現れた。そして、なぜかその中に赤竜族ラズローと白竜族ジェラードがいた。
 おいおい、四竜社は大丈夫か? トップ二人がこっちに来ちゃって。
 俺が突っこむ前に、ラズローが言い訳がましく話しかけてきた。

「四竜社の頭としては、なんとしても竜王様にお目にかからないと」

 すぐにジェラードも続ける。

「あー、まあ、そういうわけだからよろしく頼むよ」

 よろしく頼まれてもねえ。竜王様が会ってくれるかどうかも分からないのによくやるよ。

「ところで、コリーダさんは?」

 おいおい、あなたの目的は、そっちですか。なんか「コリーダ>四竜社」みたいになってないか。俺は呆れかえって物も言えなかった。

 好奇心からウロウロされても困るから、とりあえず全員を竜人用の「土の家」に押しこんでおく。全く、余計な仕事を増やしてくれるよ。

 その日は、天竜族の洞窟で竜人の歓迎会があり、俺、ミミ、ポルも、それにつきあわされた。

 くつろぐ時間が減り、それを嘆く史郎だった。

 ◇

 竜人達は、到着した次の日は一日休み、その翌日から「枯れクズ」の調査に入った。

 俺は白猫を肩に乗せ、ラズローとジェラードを真竜廟に案内している。竜王様と念話で話したら、ぜひ連れてこいということなので、仕方なくだ。

「ほう、これが真竜廟ダンジョンですか。
 すごいものですなあ」

 ラズローは感心したように、辺りを見回しながら、通路を進んでいく。

「これなら簡単に踏破できそうですね」

 ジェラードが聞きずてならないことをほざいている。
 第一層、第二層は、すでにダンジョンではなくなっているから、楽なのは当たり前だ。せっかくだから、ダンジョンを満喫してもらおう。

 順調に通路を進んだ俺たち三人は、第三層の入口までやってきた。

「なんと! 
 草原と森が広がっているダンジョンなど聞いたことがありませんよ」

 ラズローがさすがに驚いている。

「これはいいですね。
 ピクニックができます」
 
 ジェラードものんびり顔でそう言った。しかし、彼らが余裕を見せていたのもそこまでだ。
 なぜなら、突然、俺の姿が消えたからだ。
 ジェラードが持つパレットが着信音を立てる。そこには、「そのまま、まっ直ぐ進め」と書いてある。

 透明化の魔術を自分に付与した俺は、彼らから30mほど後方をついていく。二人がおっかなびっくり森の中を歩いているのが見える。
 森が少しひらけている場所まで来た時、音もなく巨大な蛇が現れた。

「な、なんだっ!」
「シ、シロー!」

 ジェラードが、俺の名を呼ぶが、黙っておいた。
 ジャイアント・スネークは、物凄い勢いで二人の間近に迫ると、鎌首を持ちあげ、大人が一人余裕で飲みこめるほどに口を開いた。

「うわーっ!!」
「助けてくれーっ!」

 まあ、このくらいでいいだろう。
 俺は二人の後ろに瞬間移動すると、姿を現した。
 ジャイアントスネークの動きがピタッと止まる。ゆっくり口を閉じていく。大蛇は、俺の肩に乗った白猫を、うかがうように見ている。
 鎌首を解くと、地面すれすれまで大蛇の首が降りる。少しずつ後ずさりを始めた。頭が森の中に入ると、さっと気配が消えた。
 逃げたのだろう。

「な、なんだったんだあれは……」

 ジェラードが、白い顔を青くしている。まさに蒼白だね。ラズローは、なんとか立とうとしているが、腰が抜けて無理なようだ。
 仕方なく、ボードに二人を乗せる。

「あれ? 
 ジェラード、楽に踏破できるとか、ピクニックとか言ってなかったっけ」

「シロー、お前まさか……」

「あの蛇は、ジャイアント・スネークっていうんだけど、この森の中では二番目に強いモンスターだよ」

「えっ、あれより強いのがいるのか」

 俺は黙って、自分の左肩に乗っている白猫を指さした。

「お、おい、冗談だろ。
 そんな可愛い生き物が……」

 ジェラードは、そう言うと、絶句してしまった。

 俺たちは泉の横を通り、大きな黄金色の扉にたどりついた。
 念話して、竜王様に扉を開けてもらう。

「パーパ、おかえりー!」
「お土産ー!」

 ちょうど人化中のナルとメルが駆けてくる。

「おじちゃん、どうしたの?」

「ああ、このおじちゃんはね、ジャイアント・スネークに驚いて、動けなくなっちゃったんだよ」

「えーっ! 
 ニョロちゃん可愛いのに、なんで?」

 二人にとってジャイアント・スネークはペットのようなものらしい。
 メルが、ラズローに手を近づける。彼女の手が青く光ると、その光がラズローの体に移った。

「おや、なにか体が……」

 ラズローが、ボードから降りてしっかり地面を踏みしめる。

「おっ、すごいなメル!
 どうしたの?」

「りゅーおー様に教えてもらったー」

 竜と竜人だけに効くという治癒魔術だろう。
 ナルもジェラードに手をかざしている。メルより少し時間は掛かったが、やはり青い光がジェラードを包む。

「ああ、普通に動けるようになった。
 ナル様ありがとうございます」

 ジェラードは、片膝をついて、ナルにお礼を言っている。
 その謙虚さの少しでいいから、こちらに回しなさい。

 ルルが子竜を後ろに従えてこちらに来る。その右肩には、黒猫が乗っている。

「ルル、竜王様は?」

「今は、ご入浴なさっています」

 竜王様、「宝の湯」が気に入って、一日に二回は入浴されるんだよね。

「それより、ラズローさんとジェラードさんは、一体どうしたんです」

 彼女は、二人がボードに乗せられて入ってきたところを見ていたからね。
 その時、白猫が、ぺしっと肉球を俺の額に当てると、ぱっと地面に飛びおり、ルルの所に駆けよると黒猫とは反対側の肩にぴょんと乗った。
 ルルの額にも肉球をペタリと当てている。

「シロー、これは……」

 あっ! 点ちゃん、白猫使ってルルに告げ口したな。

『(*´з`) ぴゅ~、ぴゅ~、私は何も知りませんよ』

 やっぱり、点ちゃんのせいか。
 「ぴゅ~、ぴゅ~」のところ、口笛じゃなくて、言葉で言ってるし。
 ルルが珍しく、厳しい顔つきで俺を見る。
 美人のその顔、怖い。ルルだから余計に。

「ご、ごめん。もうしないから。
 ちょっと悪乗りしちゃった」

「シローにとってはちょっとでも、他の方にはそうではありませんよ」

「はい、以後気をつけます」

 あれ? これって、ウチの家庭、完全にかかあ天下路線を走ってないか?

『(・□・)つミ 初めて知ったんかい!』

 点ちゃん、大阪弁っぽく突っこむのやめて。

 俺は、切れ味を増してきた点ちゃんの突っこみに押され気味になるのだった。
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