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第一章:route蓮子
17:赤いランプ
しおりを挟むあの蔵で聞こえた声は、一体なんだったのだろう。
よく眠れはしなかったけど、朝起きて、いつも通り美味しい朝食をいただき、
向かいに座る虎もいつも通りだ。
そしていつもの車で出勤し、いつも通りパソコンと戦う一日の始まりである。
「………」
ぼんやりとしていると、急に目の前に薄っぺらい紙が現れ、その先ではぺらぺらと紙を仰ぎながら二条さんがこちらを見ている。
「おい、こら七瀬。仕事しろ」
「してます」
「今何考えてた、東雲のことか?」
「そんなわけないじゃないですか、怪奇現象についてです」
「仕事の事考えろ。」
これ追加な。
そう言って手にしている書類をぽんっと投げて寄越す。
こんなん楽勝と笑みを浮かべたところで、詳細はメールすると告げられ、そのメールにはこれでもかとデータを圧縮されたファイルが添付されていた。
「……風吹さんに続き、二条さんも私に冷たい」
「…あいつ、まだ怒ってんのか」
「え?」
送られてきたデータを見ながら涙ぐんでいると、隣から栞那がごめんね、と何故か謝ってきた。
……え?
*****
「なんだ、知らなかったのか」
帰りの車の中でその話をすれば、驚く様子もなく、寧ろなぜお前が知らないという態度を取られた。
どうやら最近、栞那と二条さんはそういう仲になったらしい。
あの後栞那に『何故言わなかったのか』と叫べば、あんたにだけは言われたくないとスパッと言われ、何も言い返せなかった。
「まぁ、付き合い出したのはついこの間だろ。まだ査定中なんじゃないか?」
「査定……」
確かに、相手はあの栞那だ。
彼女の社内男情報は誠に素晴らしい。
少し気になる男がいれば、栞那に聞くと大抵事細かに詳細を教えてくれる。
我が社の男性ウィキペディアみたいな存在だ。
つまり、相場を知っている。
相場を知る女は怖い。
そこと比べて上か下か、どちらが欲しいかなんて、明らかである。
「あれ、でもイケメンとの合コン、セッティングしてあげたんじゃなかったの?」
「あぁ、まさに二条が今怒ってる理由だな」
「お前が原因か」
二人の事を知る前にセッティングをしてしまい、栞那もあの性格だ、セッティングしてもらっちゃったもんは仕方ないでしょ、と合コンに出向き、結果本日のあの二条さんの怒りとなる。
私関係ないじゃないですか。
完全なとばっちりじゃないですか。
「俺とお前の結婚のせいで、合コンセッティングしたようなものだからな。お前も同罪だ、はは」
「だから完全にとばっちりでしょ、あんたのせいよあんたの!」
でも今日会うって栞那が言ってたし、明日にはきっといつもの優しい二条さんに戻っているに違いない。
そう信じよう。
うん、二条さんって優しかったっけ?と疑問は残るがそこはスルーだ。
「…で、いつまで二人きりだっていうのに他の男の話を続けるつもりだ?」
虎がブレーキを踏んで車が止まる。
前方は赤信号で、もしやあれは私のへの警告ランプなのかもしれない。
「別に二条さんの話してたわけじゃ…」
二条さんと栞那の話だ、間違えてほしくない。
そして途中からはあなたが原因であることを責めている。
忘れないでいただきたい。
「一緒だろ、もう二条の名前は出すな。禁止だ」
何をそんなに怒っているのか。
二条さんに続き、この男までへそを曲げてしまった。
………もしかして。
「……ヤキモチ?」
「…………」
「へーぇ、ヤキモチやいたんだー、ふーん」
「ちっ」
明らかに隠そうともしない舌打ちをして、早く信号が変われとイラついているのが分かる。
「可愛いですね、虎次郎くん」
「うるさい、餅なんか焼いていない」
「へーぇ、そんなに好きですか私のこ、…んぐっ…!」
急に腕をひかれて、唇をふさがれた。
少しだけ距離が開いたけれど、まだ息がかかるほど近い。
「そうだ、お前の目に映る男を端から消していきたいくらい、俺はお前にぞっこんだ。十分伝えてきたと思っていたが…まだ伝えたりなかったか?」
「っ……!」
信号が青に変わって、車が発進する。
やはりさっきの赤信号は私への警告だったに違いない。
本当に、本当に。
日に日に私を引きずり込むのはやめてほしい。
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