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第一章:route蓮子
04:胸の高鳴り
しおりを挟む甘ったるい声が漏れ、息苦しくなってもその口づけはやまない。
腰に回る腕が強まり、更に密着度が増した。
角度を変え、何度も何度も繰り返されて、頭の奥がじーんとなり、何も考えられなくなる。
嫌なのに、許せるわけがないのに、抵抗するという選択肢さえもがあやふやになってしまう。
「んっ……」
何て、キスが上手いのだろう。
私好みのキスの仕方に、気付けばもっとと強請るように応えている自分に気付いた。
ハッとする。
何をしているのだろうかと慌てて離れようとした時に、やっと唇が離れ、男の胸元へと押し付けられた。
「…参ったな。煽らないでくれ。只でさえ俺は我慢が苦手だ」
腕の中から見上げれば、知ってるだろう?と優しい眼差しで頬に触れられた。
知るわけがないだろ。
「……知りませんけど、っていうか何する、」
「彼氏の件がまだだったな」
優しい目だと思って見ていたのに、彼氏という単語と共にそれは凶悪なものへと変わる。
「彼氏?」
「誰だ?うちの会社のやつか?まずはそこから整理していかないとな」
整理?一体何を言っているんだと首を傾げれば、男は少し考えた後、
すぐににんまりと満足そうに笑った。
随分と表情を変える人だ。
「そうか、嘘か」
そこでやっと、自分がついた嘘の事だと思い出す。
しまった。完全にキスで思考がふわふわしている。
正直今も何が起こったのかよく分かっていない。
キスしたよね、キスされたよね、そしてまだとても密着して近いよね。
ワッツ!?
「流石に今までの男歴は…あぁ、考えるだけで忌々しい。
でもお前のその美貌だ、男が放っておくわけもないのだろうな。
どうしてもっと早く見つけられなかったのか、自分の無能さが憎い」
特段褒められるような容姿でもないが、言動全てがおかしい男なのだ、
きっと何とかフィルターがかかっているのだろう。
そう冷静になれたところで、色々な感情が蘇る。
何を流されてしまっているのだろうか。
よくある、犯人と恋に落ちちゃうそういう話にでも持っていくつもりですか?
恋に落ちる要素もないのに?
自分の行動に呆れて物も言えない。
なのに…何故かさっきまでの恐怖心が消えているのだ。
よく知らない男にいきなり求婚され、拉致られ、キスされて。
怯える要素はたんまりとあり、未だその男の腕の中にいるというのに、どうしてなのか。
なぜか、ここは危険な場所ではないと感じ始めている私がいる。
「ほら、またそうやって俺を煽ろうとする。そんな目で見つめられると期待してしまう」
車の中でそうしたように、とても大事なものを扱うかのように触れてくる。
「こんな強行手段をしておいてなんだが、無理やり手を出したりはしない。そんなことしたら、どんな目に合うかは分かっている。お前に嫌われるのは避けたい」
もう既に嫌われるであろう項目は大方クリアしているというのに、まだ自分の行動はセーフとでも思っているのだろうか。
「蓮子?」
「いい加減、目的が何なのか教えてもらえる?」
「言っただろ、俺と結婚しろと」
「なんで私と結婚したいの?」
実は私の血筋は代々受け継がれる何かがあるのですか?
それともなんだ、こんな立派なお家柄でヤバそうな家系だ、無理やり結婚させられそうになってるところに、偽装結婚で逃げ切ろうとしているとか?
あれ、これじゃない?それっぽくない?
正解はこれだ!!と思ったところで、彼の手が再度私の髪を優しく撫でた。
「あの、…」
「約束したからな」
「約束…?」
「あぁ」
そしてとても愛おしそうに私を見るものだから。
愛されているのだと勘違いしてしまいそうになる。
「どこにいても、見つけると」
ほら、またなぜか、胸がときめいてしまっている。
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