転生したらいつの間にかフェンリルになってた〜しかも美醜逆転だったみたいだけど俺には全く関係ない〜

春色悠

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第二章

告白 ラインハルト視点

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「おにいちゃん、フーちゃんもっ!!本当に無事でよかったっ…!!」 
「うおぉっ!!無事でよがっだぞぉぉお!!」
「うるせぇダート!!」
「無事でよかった…!!」
「わんっ!わふっ!」
「心配してくれてありがとうな、四人とも。」
 そう言って駆け寄ってきたエリーゼ嬢を抱きとめながら、ダート君とアヴィル君に突撃されるルイス。抱きつきはしないが少し泣きながらよかったと言うリアーナ嬢。


 あの夜の帰り道で、急に逆方向に走っていったルイスを追いかけた先には、フーリルの幼体が居た。
 フーリルはふわふわの毛並みに四足歩行の可愛らしく、成体になっても小さい姿から使い魔として人気の魔獣だ。ただし、群れの意識も強く、一度敵と認識されると一生仲間として認識される事は無い。
 恐らくこのフーリルがエリーゼ嬢の使い魔だろう。聞いていた特徴が一致していた。
 そんなフーリルを檻に入ったままルイスが連れて帰った。
 器用に檻の取っ手の様な部分を咥えて運ぶルイスに、フーリルも仲間と認識しているのか吠える事は無かった。
 ……俺は勿論吠えられたがな。
 
「アルンディオ辺境伯様、こたびは誠にありがとうございました。本当に感謝しますっ!」
「あざっす、じゃなくて、ありがとうございます…!!」
「ありがとうございまじだぁ…!!」
「助けてくださりありがとうございました…!」
「本当にありがとうございます。」
「え、いや……、えと、どういたしまして…?」
 まさか自分にもお礼を言われるとは思わず、盛大に吃ってしまった。
 四人より少し後ろでにこにこと笑っているルイスに、吃った事が恥ずかしくなる。
 ……考え事をしていたにしても、もう少し吃らずに話せただろうに……。
「……積もる話もあるだろう。暫くゆっくりしていくといい。何かあればファーリーに言ってくれ。公爵閣下と奥方は少々お話したい事がございますので来てください。」
 気恥ずかしさを紛らわせるためにそう言って部屋から出た。
 隣の部屋に夫妻を案内し、グレイにお茶を出してもらう。……飲まないうちに腕を上げたなグレイ。
「それで?話というのはなんだい?」
 そう聞いてくる公爵の横には相変わらずニコリと微笑む奥方がいる。
 ……今回の誘拐事件に関わったであろう貴族が今社交界で針の筵状態になっている事は触れない方がいいんだろうな……。
「……誘拐犯の処遇についてです。」
「ほう。相当の手練れだと言っていたから生け捕りは無理だと思っていたが……。人質が獣に姿を変えた事に関係があるのかな?」
 ………やはり報告が行っていたか。
 さて、どうする。呪いの件は秘匿事項。というかバラした場合、ルイスが怪しい実験団体等に狙われる可能性が出てしまう。
 あの後屋敷に戻ったルイスは自室に飛び込んでいき、人になってから出てきた。勿論服も着て。
「……その事については、本人もよくわかっていない様ですので。今後なにか分かり次第お伝えします。」
 ……嘘はついてないぞ。嘘は。
 奥方に少し目を細められたが、事実は事実だ。これ以上は何も言わないぞ俺は。
「…そうかい。……処遇については、奴隷落ちか鉱山労働が妥当だろうね。」
 奴隷落ち。
 大昔は大勢居たという奴隷は、今ではほぼ全て廃止された。残っているのは、犯罪を冒した者だけが落ちる犯罪奴隷のみだ。…未だに違法でやっている者は絶えないが。
 奴隷にされる時、奴隷紋をつけられると、主人に逆らえなくなり、主人を害す事も出来なくなる。大昔は奴隷の大半が20歳を超える前に死んだとか。
 犯罪奴隷も、犯罪を起こした者が全員なるという訳でもなく、凶悪な者だけが落とされるものだ。
 それ程までに、奴隷落ちは重い罰だ。
 ……公爵家を敵に回したとなれば、そうなるのも仕方が無いのかもしれないが。
「それでだ。アルンディオ殿、
_____奴隷を部下にする気はないかね?」
「……は?」
 ……????
 公爵は今なんて言った?奴隷を部下に?
「悪い話ではないだろう。優秀な上に絶対に裏切らない部下ができるんだ。」
「……それなら、公爵閣下が部下にした方が宜しいのでは?」
 表情の変わらない公爵がニコリと笑う。
「敵だった者を部下にした場合、碌な事にならないからね。しないよ。」
 ……それは俺も一緒では……?
「彼の処遇は君に任せよう。ただし、奴隷にしないならば鉱山送りにして貰う。ゆっくり考えてくれ。」
 ……俺に全部押し付けようとしてないか。 
 まあ、あの男は優秀なようだし、奴隷ならば屋敷の者達の害になることも無いだろうが……。
 ……ファーリーと要相談だな。
「……承りましょう。」
「感謝するよ。」
 こん、こん、こん、
 丁度いいタイミングで、ノックが鳴る。
 心の中で助かったと思いながら、入室の許可を出す。
「入れ。」
「はい。失礼致します。……皆様安心されたようで眠られてしまったのですが、如何致しますか。」
 入ってきた者がルイスだったのに動揺するが、公爵閣下達の手前どうにか耐えようとする。
「…眠ってしまったか。私達はもう帰ることにしようか、シャーロット。」
「ええ。そうね。私達はここで御暇させていただきますわ。」
「……お気をつけて。」
 公爵閣下達を見送った後、ダート君とアヴィル君が来て挨拶していった。……礼儀正しい子達だったな。
 全員を見送った時には、夜に帰ってきたのが太陽が真上に来るほどの時間になっていた。
 真っ青な空の下で、俺とルイスの二人だけになった。
 二人きりがどこか気恥ずかしくて、立ちすくんだまま動けない。
 それでも、伝えるんだ。
 もう後悔しないようにすると決めたじゃないか。
 そろり、とルイスを見れば、目があってにこ、と微笑まれた。
_____「………すきだ。」
 いつの間にか、ポロリと口から言葉がこぼれ落ちた。
 これでもかというほど、ルイスの目が見開かれる。綺麗な緑の瞳がよく見えた。
 ……嗚呼、もっと、かっこよく伝えるつもりだったのに。
 そう思いながらも、もう止まらなかった。
____「ルイスが好きだ。ずっと傍に居て欲しい。もう、離れたく、ない。」
 「…………っ…!」
 混乱しているルイスはパクパクと口を動かすが、出てくるのは息だけだった。
 そんなルイスの足元に跪き、手を差し出す。
 願わくば、この手を取ってくれ。
 
____「俺と、結婚してくれませんか。」
 
 「…………っ…!!」
 瞬間、ぼろぼろとルイスの眼から涙がこぼれ落ちた。
 ぎょっとして、思わずルイスの涙を拭うように両手をルイスの顔に添える。
 ルイスに触れてからやってしまったと思ったが、俺の手を自身の頬に押し付ける様に添えられたルイスの手に、離すのをやめる。
「……応えてくれなくてもいいんだ。でも、知っていて欲しい。俺がルイスを好きな事を。
 ルイスが呼んでくれるなら、いつでもルイスを助けに行く様な男が居ることを、知っておいてほしいんだ。」
 我儘だろうか。でも知って居て欲しい。
 止まらない涙で両手を濡らしながら、必死に伝える。
 勿論欲を言えば返事が欲しい。是でも否でもどちらでもいい。ルイスの気持ちを知りたいんだ。
 ぼろぼろと涙を零しながら嗚咽をもらすルイスが、はくり、と口を動かし話そうとする。
 何か話そうとしているのか、話す事を迷っているのか。
 じっと、俺はルイスが話すのを待った。
「……っ俺で、いいんですか……。」
 それに、俺は酷く驚いたのを覚えている。
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