転生したらいつの間にかフェンリルになってた〜しかも美醜逆転だったみたいだけど俺には全く関係ない〜

春色悠

文字の大きさ
上 下
47 / 51
第二章

救出 ルイス視点

しおりを挟む
「…全員そこから動くんじゃねぇぞ。このガキを殺されたくないだろ?」
 決して大きくは無いその声は、静まり返った夜の街でよく響いた。
 おっさんはどこからか出したナイフを俺の首筋に突きつけながら、暗い夜道の途中で立ち止まった。
 おっさんに連れてこられた場所は、目だけを動かして見える限り、何処かの下町、いやスラム街のように見える。どこもかしこもボロボロで、人気は全く無い所を見るに、もしかしたら廃墟街かもしれない。
 月明かりでぼんやりとだけ見える景色の中。
 ……誰か居るんだろうか。
 おっさんは今、“全員そこから動くな”と言った。俺には誰も見えないし、気配もわからないが、おっさんはわかるんだろうな。
「……そうだな、指示出しの奴が居るだろ。そいつが出てこい。二人以上動きやがったらこのガキを殺る。」
 おっさんは少し考え込んだあと、そう言った。 
 次の瞬間、足音が一つ、廃墟街に響く。
 黒いローブで全身を包んだその人物は、10m程離れた所まで近づいた所で、おっさんに止まれと指示された。
 その時、指示通り止まったその人に風が吹き、フードが取れた。
「………こりゃあ驚いた。『鮮血の英雄』サマが出てくるとはなァ?」
「……っ?!」
 ……っなんで居るんだラインハルト…!!
 おっさんが喉で笑いながら驚いたと言うが、俺も心底驚いた。
 というか、『鮮血の英雄』ってなんだ?
「…………人質を開放してもらおう。」
「ドレーシア家のご令嬢を代わりに差し出してくれるならいいぜ。」
 俺の疑問は解消されないまま、ラインハルトとおっさんの話は進む。
 苦々しげなラインハルトに、何処か余裕そうな表情のままのおっさん。
 ……ドレーシア家のご令嬢って誰だろうか。
 また出てきた新たな疑問に、小脇に抱えられたままおっさんを仰ぎ見る。
「…坊主も気になるよなァ。これから自分の身代わりになってくれるかも知れない人間の話だ。」
「……身代わりになってもらう気は無いが、気にはなるぞ。」
 自分の身代わりになられるのはちょっと……。と思いながら何処か機嫌の良さそうなおっさんに答える。
「んだよ、つまんねぇ返しするなァ坊主は。
 まあいい、教えといてやる。坊主の身代わりに俺が要求してるのは、坊主が逃したあのエリーって嬢ちゃんだ。」
 ………。
 にやにやと、俺の疑問に答えを出したおっさん。
「哀しいなぁ、助けた奴に見殺しにされるのは。」
 ………、かなしい、だろうか?
 そもそも、助けたのも、俺の勝手で、自分が助かるのを諦めたのも俺で…。 
 考え込んでしまった俺は、結果的に黙り込む事になってしまった。
 誰も喋らない。
 その静寂を切ったのは、ラインハルトだった。
 _____「………その事だが、俺を人質として代わりに出来ないだろうか。」
 …は?
「…どういう風の吹き回しだ?」
「……貴方の狙いは、ドレーシア家に汚名を着せることだろう。
 それなら、他の貴族は人質を救出するために動いたのにドレーシア家は動かなかった、という状況の方でもいいだろう。」
 どういう事だ?ドレーシア家に汚名を着せるためって。というかなんでラインハルトが代わりになる気でいるんだ…!?
 頼むからおっさんは了承しないでくれよ…!!?フリじゃないからな!!?
「……いいぜ。」
 なんでだッッ!! 
 おっさんはラインハルトの申し出を了承し、ラインハルトが近づいてくる。
「……っだめだ!!!」
 咄嗟に口から大声が出た。
 ……だめだ。それだけは、いやだ。
「……………だとよ。残念だったな、交渉は決裂だ。」
 おっさんがラインハルトとまた距離を離し、そう言った事で少し安心する。
 ……そんな、傷ついた顔しないでくれラインハルト…。
「っ……、なぜだ。っなんでだルイス…!!俺にルイスが殺される瞬間を見ろっていうのかっ!!?」
 ……ラインハルトが俺に怒鳴るの、初めてじゃないか? 
 何処か泣き出しそうな迷子の子どもの様な顔で叫んだラインハルトに、そんな事を思った。
「……どうする坊主、俺はどっちでもいいだが?」
 ……やっぱり誘拐犯向いてないんじゃないかおっさん。こんなことしてる間に、あんた捕まるかも知れないんだぞ。
「……あの人には手を出すな。殺るなら俺にしろおっさん。」
「…っルイス…!!」
「……………………へいへい、わかったよ。」
 夜の月明かりだけでもはっきりわかるほど、顔面蒼白なラインハルトが此方へ走ってくる姿も。
 その間にも振り下ろされるナイフも。
「…ご注文の通り何も感じねぇようにしてやる。」
 そう喋るおっさんも。
 全てが、スローモーションの様にゆっくりと見えた。
 
 …あ~あ、助けに来たのがラインハルトじゃなければよかったのに。
 ラインハルトじゃなかったら、こんなこと思わずにいれたのに。
 唇を必死に噛み締めて、泣かない様にしながら今更思う。

 _____ああ、生きていたい。
 _____ラインハルトの隣で、ラインハルトの笑った顔が見たい。
 もう少し足掻けばよかった。
 自分は生きてる感覚が薄いなんて思って、簡単に諦めなければよかった。
 ___俺は、紛れもなく生きていたのに。

 ありもしない可能性ばかり頭に浮かぶ。
 俺に魔法の才能があれば、どうにか出来たかも知れない。
 俺が関節外し縄抜けとか出来たら、この拘束も抜けられたかもしれない。
 俺に、
 俺に、力があれば
 俺が、フェンリルだったら、
_____「ルイスーーーーー!!!!」
 ラインハルトが叫んでる。俺もそっちに、ラインハルトの傍に行きたい。
 どこかで、獣の唸り声が聞こえた気がした。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】

リトルグラス
BL
 人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。  転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。  しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。  ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す── ***  第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20) **

処理中です...