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第二章
救出 ルイス視点
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「…全員そこから動くんじゃねぇぞ。このガキを殺されたくないだろ?」
決して大きくは無いその声は、静まり返った夜の街でよく響いた。
おっさんはどこからか出したナイフを俺の首筋に突きつけながら、暗い夜道の途中で立ち止まった。
おっさんに連れてこられた場所は、目だけを動かして見える限り、何処かの下町、いやスラム街のように見える。どこもかしこもボロボロで、人気は全く無い所を見るに、もしかしたら廃墟街かもしれない。
月明かりでぼんやりとだけ見える景色の中。
……誰か居るんだろうか。
おっさんは今、“全員そこから動くな”と言った。俺には誰も見えないし、気配もわからないが、おっさんはわかるんだろうな。
「……そうだな、指示出しの奴が居るだろ。そいつが出てこい。二人以上動きやがったらこのガキを殺る。」
おっさんは少し考え込んだあと、そう言った。
次の瞬間、足音が一つ、廃墟街に響く。
黒いローブで全身を包んだその人物は、10m程離れた所まで近づいた所で、おっさんに止まれと指示された。
その時、指示通り止まったその人に風が吹き、フードが取れた。
「………こりゃあ驚いた。『鮮血の英雄』サマが出てくるとはなァ?」
「……っ?!」
……っなんで居るんだラインハルト…!!
おっさんが喉で笑いながら驚いたと言うが、俺も心底驚いた。
というか、『鮮血の英雄』ってなんだ?
「…………人質を開放してもらおう。」
「ドレーシア家のご令嬢を代わりに差し出してくれるならいいぜ。」
俺の疑問は解消されないまま、ラインハルトとおっさんの話は進む。
苦々しげなラインハルトに、何処か余裕そうな表情のままのおっさん。
……ドレーシア家のご令嬢って誰だろうか。
また出てきた新たな疑問に、小脇に抱えられたままおっさんを仰ぎ見る。
「…坊主も気になるよなァ。これから自分の身代わりになってくれるかも知れない人間の話だ。」
「……身代わりになってもらう気は無いが、気にはなるぞ。」
自分の身代わりになられるのはちょっと……。と思いながら何処か機嫌の良さそうなおっさんに答える。
「んだよ、つまんねぇ返しするなァ坊主は。
まあいい、教えといてやる。坊主の身代わりに俺が要求してるのは、坊主が逃したあのエリーって嬢ちゃんだ。」
………。
にやにやと、俺の疑問に答えを出したおっさん。
「哀しいなぁ、助けた奴に見殺しにされるのは。」
………、かなしい、だろうか?
そもそも、助けたのも、俺の勝手で、自分が助かるのを諦めたのも俺で…。
考え込んでしまった俺は、結果的に黙り込む事になってしまった。
誰も喋らない。
その静寂を切ったのは、ラインハルトだった。
_____「………その事だが、俺を人質として代わりに出来ないだろうか。」
…は?
「…どういう風の吹き回しだ?」
「……貴方の狙いは、ドレーシア家に汚名を着せることだろう。
それなら、他の貴族は人質を救出するために動いたのにドレーシア家は動かなかった、という状況の方でもいいだろう。」
どういう事だ?ドレーシア家に汚名を着せるためって。というかなんでラインハルトが代わりになる気でいるんだ…!?
頼むからおっさんは了承しないでくれよ…!!?フリじゃないからな!!?
「……いいぜ。」
なんでだッッ!!
おっさんはラインハルトの申し出を了承し、ラインハルトが近づいてくる。
「……っだめだ!!!」
咄嗟に口から大声が出た。
……だめだ。それだけは、いやだ。
「……………だとよ。残念だったな、交渉は決裂だ。」
おっさんがラインハルトとまた距離を離し、そう言った事で少し安心する。
……そんな、傷ついた顔しないでくれラインハルト…。
「っ……、なぜだ。っなんでだルイス…!!俺にルイスが殺される瞬間を見ろっていうのかっ!!?」
……ラインハルトが俺に怒鳴るの、初めてじゃないか?
何処か泣き出しそうな迷子の子どもの様な顔で叫んだラインハルトに、そんな事を思った。
「……どうする坊主、俺はどっちでもいいだが?」
……やっぱり誘拐犯向いてないんじゃないかおっさん。こんなことしてる間に、あんた捕まるかも知れないんだぞ。
「……あの人には手を出すな。殺るなら俺にしろおっさん。」
「…っルイス…!!」
「……………………へいへい、わかったよ。」
夜の月明かりだけでもはっきりわかるほど、顔面蒼白なラインハルトが此方へ走ってくる姿も。
その間にも振り下ろされるナイフも。
「…ご注文の通り何も感じねぇようにしてやる。」
そう喋るおっさんも。
全てが、スローモーションの様にゆっくりと見えた。
…あ~あ、助けに来たのがラインハルトじゃなければよかったのに。
ラインハルトじゃなかったら、こんなこと思わずにいれたのに。
唇を必死に噛み締めて、泣かない様にしながら今更思う。
_____ああ、生きていたい。
_____ラインハルトの隣で、ラインハルトの笑った顔が見たい。
もう少し足掻けばよかった。
自分は生きてる感覚が薄いなんて思って、簡単に諦めなければよかった。
___俺は、紛れもなく生きていたのに。
ありもしない可能性ばかり頭に浮かぶ。
俺に魔法の才能があれば、どうにか出来たかも知れない。
俺が関節外し縄抜けとか出来たら、この拘束も抜けられたかもしれない。
俺に、
俺に、力があれば
俺が、フェンリルだったら、
_____「ルイスーーーーー!!!!」
ラインハルトが叫んでる。俺もそっちに、ラインハルトの傍に行きたい。
どこかで、獣の唸り声が聞こえた気がした。
決して大きくは無いその声は、静まり返った夜の街でよく響いた。
おっさんはどこからか出したナイフを俺の首筋に突きつけながら、暗い夜道の途中で立ち止まった。
おっさんに連れてこられた場所は、目だけを動かして見える限り、何処かの下町、いやスラム街のように見える。どこもかしこもボロボロで、人気は全く無い所を見るに、もしかしたら廃墟街かもしれない。
月明かりでぼんやりとだけ見える景色の中。
……誰か居るんだろうか。
おっさんは今、“全員そこから動くな”と言った。俺には誰も見えないし、気配もわからないが、おっさんはわかるんだろうな。
「……そうだな、指示出しの奴が居るだろ。そいつが出てこい。二人以上動きやがったらこのガキを殺る。」
おっさんは少し考え込んだあと、そう言った。
次の瞬間、足音が一つ、廃墟街に響く。
黒いローブで全身を包んだその人物は、10m程離れた所まで近づいた所で、おっさんに止まれと指示された。
その時、指示通り止まったその人に風が吹き、フードが取れた。
「………こりゃあ驚いた。『鮮血の英雄』サマが出てくるとはなァ?」
「……っ?!」
……っなんで居るんだラインハルト…!!
おっさんが喉で笑いながら驚いたと言うが、俺も心底驚いた。
というか、『鮮血の英雄』ってなんだ?
「…………人質を開放してもらおう。」
「ドレーシア家のご令嬢を代わりに差し出してくれるならいいぜ。」
俺の疑問は解消されないまま、ラインハルトとおっさんの話は進む。
苦々しげなラインハルトに、何処か余裕そうな表情のままのおっさん。
……ドレーシア家のご令嬢って誰だろうか。
また出てきた新たな疑問に、小脇に抱えられたままおっさんを仰ぎ見る。
「…坊主も気になるよなァ。これから自分の身代わりになってくれるかも知れない人間の話だ。」
「……身代わりになってもらう気は無いが、気にはなるぞ。」
自分の身代わりになられるのはちょっと……。と思いながら何処か機嫌の良さそうなおっさんに答える。
「んだよ、つまんねぇ返しするなァ坊主は。
まあいい、教えといてやる。坊主の身代わりに俺が要求してるのは、坊主が逃したあのエリーって嬢ちゃんだ。」
………。
にやにやと、俺の疑問に答えを出したおっさん。
「哀しいなぁ、助けた奴に見殺しにされるのは。」
………、かなしい、だろうか?
そもそも、助けたのも、俺の勝手で、自分が助かるのを諦めたのも俺で…。
考え込んでしまった俺は、結果的に黙り込む事になってしまった。
誰も喋らない。
その静寂を切ったのは、ラインハルトだった。
_____「………その事だが、俺を人質として代わりに出来ないだろうか。」
…は?
「…どういう風の吹き回しだ?」
「……貴方の狙いは、ドレーシア家に汚名を着せることだろう。
それなら、他の貴族は人質を救出するために動いたのにドレーシア家は動かなかった、という状況の方でもいいだろう。」
どういう事だ?ドレーシア家に汚名を着せるためって。というかなんでラインハルトが代わりになる気でいるんだ…!?
頼むからおっさんは了承しないでくれよ…!!?フリじゃないからな!!?
「……いいぜ。」
なんでだッッ!!
おっさんはラインハルトの申し出を了承し、ラインハルトが近づいてくる。
「……っだめだ!!!」
咄嗟に口から大声が出た。
……だめだ。それだけは、いやだ。
「……………だとよ。残念だったな、交渉は決裂だ。」
おっさんがラインハルトとまた距離を離し、そう言った事で少し安心する。
……そんな、傷ついた顔しないでくれラインハルト…。
「っ……、なぜだ。っなんでだルイス…!!俺にルイスが殺される瞬間を見ろっていうのかっ!!?」
……ラインハルトが俺に怒鳴るの、初めてじゃないか?
何処か泣き出しそうな迷子の子どもの様な顔で叫んだラインハルトに、そんな事を思った。
「……どうする坊主、俺はどっちでもいいだが?」
……やっぱり誘拐犯向いてないんじゃないかおっさん。こんなことしてる間に、あんた捕まるかも知れないんだぞ。
「……あの人には手を出すな。殺るなら俺にしろおっさん。」
「…っルイス…!!」
「……………………へいへい、わかったよ。」
夜の月明かりだけでもはっきりわかるほど、顔面蒼白なラインハルトが此方へ走ってくる姿も。
その間にも振り下ろされるナイフも。
「…ご注文の通り何も感じねぇようにしてやる。」
そう喋るおっさんも。
全てが、スローモーションの様にゆっくりと見えた。
…あ~あ、助けに来たのがラインハルトじゃなければよかったのに。
ラインハルトじゃなかったら、こんなこと思わずにいれたのに。
唇を必死に噛み締めて、泣かない様にしながら今更思う。
_____ああ、生きていたい。
_____ラインハルトの隣で、ラインハルトの笑った顔が見たい。
もう少し足掻けばよかった。
自分は生きてる感覚が薄いなんて思って、簡単に諦めなければよかった。
___俺は、紛れもなく生きていたのに。
ありもしない可能性ばかり頭に浮かぶ。
俺に魔法の才能があれば、どうにか出来たかも知れない。
俺が関節外し縄抜けとか出来たら、この拘束も抜けられたかもしれない。
俺に、
俺に、力があれば
俺が、フェンリルだったら、
_____「ルイスーーーーー!!!!」
ラインハルトが叫んでる。俺もそっちに、ラインハルトの傍に行きたい。
どこかで、獣の唸り声が聞こえた気がした。
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