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第二章
攫われた2 ルイス視点
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「オイオイ、あいつらいつまで追って来るんだよ……!!!」
アヴィルが焦りながら叫ぶ。
リアーナさんを見れば、大分息切れしているようで、そろそろ走れなくなるだろう。
………どうするか。
「………ダート、リアーナさん抱えて飛べるか!?」
「多分いける!」
取り敢えず、リアーナさんはダートに抱えて運んでもらう事にして、ダートに確認すれば元気な返事が。
「じゃ、頼む!」
「え、ちょっと…!?」
「リアーナさん、あの木の下で落ち合おう。」
リアーナさん、びっくりするだろうがそろそろ走れなくなるだろうし許してくれ。
リアーナさんに待ち合わせ場所を教えながらダートの方へ体を押す。
「きゃっ……!!?」
ダートがリアーナさんをしっかりと抱えて、上へ飛んでいったのを確認し、俺はエリーちゃんをおんぶから抱っこに抱え方をかえた。
「エリーちゃん、しっかり掴まっててくれ。」
「う、うん…!!」
ぎゅっと、エリーちゃんの腕が俺の首に回り、掴まったのを確認する。
それから、アヴィルを抱え上げた。
「はっ、…?え、お、おい…!??」
すまんアヴィル。多分俺が抱えて走ったほうが速い。
「しっかり掴まってろ。舌噛むぞ。」
そう言ってから、俺はスピードを上げた。
「っ………!??」
アヴィルが声も無く絶叫するが、気にはしてられない。後で謝る。
_____確か、近くに蔦の密集した所があった筈……!!
彼処なら隠れ放題だ。
俺は、アヴィルとエリーちゃんをしっかりと抱えたまま、隠れることに成功した。
「オイ!!!足跡があったぞ!!!」
聞こえる男達の怒号。
強張る二人を抱き寄せながら、息を殺した。
「___!!_____!!!!?」
段々と遠ざかって行く声に、俺の作戦は成功したようだと察する。
_____俺は今、裸足だった。
……偽の足跡を付けておいて良かった。
「おおぉぉ!!!大丈夫だったのかぁ!!良かったなぁ!「うるさい。」ごめん!」
リアーナさんとダートとも合流できた。……元気そうで何より。
「……それで、これからどうするの?」
「そうだな……。取り敢えず、今晩泊まれる場所に行こう。」
相変わらず冷静なリアーナさんに聞かれ、そう返す。
「……森でそんな所あるか?」
訝しげなアヴィルに、俺は笑みを浮かべる。
「___来ればわかるさ。」
_____「ようこそ。我が家へ。」
「……洞窟?」
「うおっ、何もねぇ!!」
「…………大丈夫なのかよここ。」
安心してくれ。誰も住んでない筈だ。まだ微かに母さんの匂いが残ってるから、そこらの獣は来ないだろう。
そう、俺が案内したところは、フェンリル時代に住んでいた洞窟だ。
……まあ、使っているのはもう少し奥だがな。
「こっちだ。」
手招きながら、奥へと進む。一見何も無い洞窟だが、奥深い所には寝所だのなんだのがある。少しだけ穴が空いてるから、そこから光も入るし良いところだ。
「おお…!!藁が敷いてある!!寝れそう!」
「……こんなとこあんのかよ……。」
「……。」
「っすごーい……!」
「ワンっ!」
素直に褒めてくれたダートとエリーちゃんには後で果物あげよう。
って、今の鳴き声は……。
一緒に馬車にいた小型犬(仮)!?
「な、なんでお前ここに居んだよッ!?」
アヴィルがツッコむが、本当になんで居るんだ。
ふりふりと尻尾を振る小型犬に、エリーちゃんの目がキラキラと輝く。
「フーちゃん!」
「ワンっ!」
小型犬に迷わず突っ込んでいったエリーちゃんは、フーちゃんと呼びながら抱きついた。
「……知り合いか?」
「フーちゃん!」「ワンっ!」
「そ、そうか……。」
なんなんだろう、と思い聞いた言葉は、フーちゃんで一括されてしまった。
取り敢えずわしゃわしゃと二人を撫でておいた。
エリーちゃんもフーちゃんも笑顔でかわいい。
和んでいれば、リアーナさんから声を掛けられた。
「……ルイス、何か食べ物を取りに行きたい。私達は1日くらい大丈夫かもしれないけど、有るに越したことはない。」
「あっ、そうか。案内するよ。」
そうだった。食べ物取りに行かないとな。
……本当に、リアーナさんが居なかったら危なかったかもしれない。俺はともかくエリーちゃんとかが。
そして始まった食料確保。
「……オイ、ルイス。良いのかよ、あの獣一緒で。」
そう、アヴィルが小声で話しかけてきた。
エリーちゃん達は今ダートと一緒に、木の実を取っている。……多分、その時を狙って来たんだろうな。
「……大丈夫だと思うぞ。」
「……小さくても獣だぞ…?」
そう不安そうなアヴィル。……まあ、そう思うよな……。俺も少し思うが、今の所敵意も無いし、いざとなったらエリーちゃんの護衛に出来そうなくらいまであるのだ。
それに……。
「……もしもの時は、俺が何とかするよ。」
水の魔法でも怪力でもなんでも使ってな。
「……………わかった。」
不安は拭いきれて居ないようだが、納得したらしいアヴィル。大分信頼されたらしい。
「……心配してくれてありがとうな。」
「してねぇッ…!!」
取り敢えずぐりぐりと撫でておいた。
……にしても、リアーナさんがフーちゃんについて何も言わないのは不思議だったな。……もしかして、可愛い物好きだったり……。
こうして、1日目は終わったのであった。
リアーナ視点
私は、代々公爵家に仕える一族に生まれた。
小さい頃から教育された。護衛術も、礼儀作法も、勉学だってそうだ。
優秀な者を度々輩出した由緒正しい我が家の中で、私だけが落ちこぼれだった。
勉学や礼儀作法はまだしも、護衛術はからきし。
体力も筋力も付きにくく、剣を振り回す事など出来ず、果てには弓もあらぬ方向へ飛んでいく始末。
なまじ姉が優秀だったため、私は劣等感に否まれる事になった。
実力では到底敵いやしない。
性格も容姿も、姉には負ける。
青みがかった水色の髪も、真っ青な姉の髪には敵わない。
姉の様に、誰とも仲良く出来て頼られる性格じゃない。
理屈建てて考えて、それをそのまま相手に伝える私は、いつもどこか距離を置かれる。
けれど、今回私はお嬢様の護衛になってしまった。
しかも、他領の街中をお忍びで散策する時の、だ。
それはひとえに、姉の性格に理由がある。
………姉は、注意が散漫なのだ。
美人にもイケメンにも目がなく、お菓子やら美味しそうな物にも目がない。
職務中に一目散にそちらに向かう、なんてことは流石に無いが、一瞬の隙が命取りなのだ。
そこを補うのが、今回の私の役目だった。
お嬢様と、お嬢様の使い魔様の護衛兼、姉の監視である。
もちろん姉の他にも沢山の護衛が居るが、表にわかるのは姉と私の二人。周囲には姉妹に見えるようにとの仰せだ。
_____しかし、その厳重な警備にも関わらずお嬢様と共に私は拐われてしまった。
………どれだけ自身が落ちこぼれかが身に沁みる。情けない。
きっと、ルイスと言う男が居なければ、私はお嬢様を助けることなど出来なかっただろう。
泣いている姫様を慰める事も、守りながら逃げることも、出来なかっただろう。
初めて洞窟で眠る夜。
お嬢様も、ダートもアヴィルも、ルイスだってぐっすり眠ってる。
でも私は、緊張で眠れなかった。
もし、今賊が来たら。
もし、獣が出たら。
もし、急にお嬢様が体調を崩したら。
_____もし、この中の誰かが、敵だったら。
考えれば考える程不安で、眠ることなんて出来なかった。
そっと、藁の敷いてある寝床から出て、洞窟の入口付近まで出る。
洞窟の入口に体を預けるようにして座り込んだ。
……考えたってわからないのだろう。
そんなことわかっている。
判断するには情報が少なすぎる。
それに、もう先入観無く判断する事が出来なくなっている。
………………これだから、私は落ちこぼれなんだ。
月明かりで照らされる洞窟の入口で、寒さを紛らわせるように、自身を守るように、膝を抱えて丸くなる。
……泣きたい……。
私も、母や父、姉さんを頼って泣き喚いてしまいたい。
でも、お嬢様と使い魔様を守れるのは今、私だけなんだ。
泣いちゃ駄目だ。弱さを見せちゃ駄目だ。隙を見せれば最後だ。
「………寒くないか?」
「…ッ!!?」
急に背後から声を掛けられ、慌てて立ち上がろうとするも、慌てたせいで転け、そのままの姿勢で地面に手を付きながら振り返った。
「………ルイス…。起きてたの。」
振り返った先には、暗闇でもわかるほどの赤い髪を持った男、ルイスが居た。
「………まあ、寝てても警戒してたから。」
そう言うのに、全く警戒していなさそうな雰囲気のルイスは、私の横に座った。
「……………貴方は、何者なの。只者じゃないでしょう。」
いつでも立ち上がれる様に体勢を変えながら、私はルイスにそう問うた。
少し考え込んだルイスに、嫌な予想をする。
もし敵ならば、やられる前に殺らねばならない。
そう思えば、何故か体が強張る。
脳裏には、お嬢様と、アヴィルという少年を抱きしめていた姿が浮かぶ。
………………。
「………出身は、孤児院というか、教会だな。小さくて、祈りに来る人も週に一人居るか居ないか、というくらいの教会だ。」
「……孤児、なの。」
不躾だ、失礼だ、と思いながらも、聞いてしまった。
本当なら、それが本当なら、私は、私は貴方を殺さなくて済む。
「そう、孤児だ。親の顔も知らないが、神父様とシスター、同じ孤児の兄妹達に、友人も居て、中々賑やかに暮らしてるけどな。」
「……兄妹。」
……兄妹が居たから、お嬢様やアヴィルの頭をよく撫でていたのね。
「やっぱり以外に見えるか?」
少し小首を傾げて、此方を見るルイス。月明かりで仄かに光る翡翠の目は、敵だと疑いたくないほど優しい。
「いいえ。アヴィルやエリーへの接し方が完全に兄だったわ。」
「そう言うリアーナさんもエリーちゃんへの接し方が姉っぽいけどな。」
………そう、ルイスには見えるのね。
……確かに私は、お嬢様が生まれた時から世話をしているけれど、姉妹の様に接するなんて恐れ多いと思う。
「……そう、かしらね。」
でも、それを言う訳にもいかず、濁すように返事するしかなかった。
「………ま、取り敢えず寝よう。明日には街の方へ歩く事になるし、安心して寝られるのも今日くらいだろうからな。」
そう言って、ルイスは私の頭を一撫でして先に戻っていった。
その撫で方が、少しだけ姉さんや父さんに似ていて。
「……そうね。」
返事をするのが少し遅れた。
その後は、さっきまでの緊張が嘘のように眠れてしまった。
「というか、結局貴方は何者なの。」
「あ~~……、今はアルンディオ辺境伯様のとこで働いてる。」
……あの武勲を建てて辺境伯領を貰った事で有名な『血の辺境伯』のところで働いてるのね。どうりで、戦闘能力が高い訳だわ。
___そう、ルイスが敵では無いと思って
_____安心してしまったのが悪かったのか。
「ダート!!!!皆連れて飛べ!!!!いいか!!!?ぜっっつつたい戻って来るな!!!!」
そう叫ぶルイス。
どんどん離れていく地面。
「オイッ!!!降りろよダート!!!このままルイスのこと、ほってくきかよ……!!!」
「…………。」
叫ぶアヴィルに、ダートはきゅっ、と口を引き結んだ。その時に唇を噛んだのか、少しの血が唇から滲む。
「おいテメェ!!理屈女!!!お前もなんか言えよッッッ!!!!そこのガキもっッ!!なんで何も言わねぇっ!!!」
そう言って暴れるアヴィルを、ダートがしっかりと拘束して空を飛ぶ。
「なんでだよッッ!!!」
「……っ俺等が!!戻ったところでっっ!!!!何もできねぇんだよッッッ!!!!」
ダートが、悔しげに叫んだ。
いつも以上にうるさかったけれど、口が裂けても、今だけは煩いだなんて言えなかった。
アヴィルが焦りながら叫ぶ。
リアーナさんを見れば、大分息切れしているようで、そろそろ走れなくなるだろう。
………どうするか。
「………ダート、リアーナさん抱えて飛べるか!?」
「多分いける!」
取り敢えず、リアーナさんはダートに抱えて運んでもらう事にして、ダートに確認すれば元気な返事が。
「じゃ、頼む!」
「え、ちょっと…!?」
「リアーナさん、あの木の下で落ち合おう。」
リアーナさん、びっくりするだろうがそろそろ走れなくなるだろうし許してくれ。
リアーナさんに待ち合わせ場所を教えながらダートの方へ体を押す。
「きゃっ……!!?」
ダートがリアーナさんをしっかりと抱えて、上へ飛んでいったのを確認し、俺はエリーちゃんをおんぶから抱っこに抱え方をかえた。
「エリーちゃん、しっかり掴まっててくれ。」
「う、うん…!!」
ぎゅっと、エリーちゃんの腕が俺の首に回り、掴まったのを確認する。
それから、アヴィルを抱え上げた。
「はっ、…?え、お、おい…!??」
すまんアヴィル。多分俺が抱えて走ったほうが速い。
「しっかり掴まってろ。舌噛むぞ。」
そう言ってから、俺はスピードを上げた。
「っ………!??」
アヴィルが声も無く絶叫するが、気にはしてられない。後で謝る。
_____確か、近くに蔦の密集した所があった筈……!!
彼処なら隠れ放題だ。
俺は、アヴィルとエリーちゃんをしっかりと抱えたまま、隠れることに成功した。
「オイ!!!足跡があったぞ!!!」
聞こえる男達の怒号。
強張る二人を抱き寄せながら、息を殺した。
「___!!_____!!!!?」
段々と遠ざかって行く声に、俺の作戦は成功したようだと察する。
_____俺は今、裸足だった。
……偽の足跡を付けておいて良かった。
「おおぉぉ!!!大丈夫だったのかぁ!!良かったなぁ!「うるさい。」ごめん!」
リアーナさんとダートとも合流できた。……元気そうで何より。
「……それで、これからどうするの?」
「そうだな……。取り敢えず、今晩泊まれる場所に行こう。」
相変わらず冷静なリアーナさんに聞かれ、そう返す。
「……森でそんな所あるか?」
訝しげなアヴィルに、俺は笑みを浮かべる。
「___来ればわかるさ。」
_____「ようこそ。我が家へ。」
「……洞窟?」
「うおっ、何もねぇ!!」
「…………大丈夫なのかよここ。」
安心してくれ。誰も住んでない筈だ。まだ微かに母さんの匂いが残ってるから、そこらの獣は来ないだろう。
そう、俺が案内したところは、フェンリル時代に住んでいた洞窟だ。
……まあ、使っているのはもう少し奥だがな。
「こっちだ。」
手招きながら、奥へと進む。一見何も無い洞窟だが、奥深い所には寝所だのなんだのがある。少しだけ穴が空いてるから、そこから光も入るし良いところだ。
「おお…!!藁が敷いてある!!寝れそう!」
「……こんなとこあんのかよ……。」
「……。」
「っすごーい……!」
「ワンっ!」
素直に褒めてくれたダートとエリーちゃんには後で果物あげよう。
って、今の鳴き声は……。
一緒に馬車にいた小型犬(仮)!?
「な、なんでお前ここに居んだよッ!?」
アヴィルがツッコむが、本当になんで居るんだ。
ふりふりと尻尾を振る小型犬に、エリーちゃんの目がキラキラと輝く。
「フーちゃん!」
「ワンっ!」
小型犬に迷わず突っ込んでいったエリーちゃんは、フーちゃんと呼びながら抱きついた。
「……知り合いか?」
「フーちゃん!」「ワンっ!」
「そ、そうか……。」
なんなんだろう、と思い聞いた言葉は、フーちゃんで一括されてしまった。
取り敢えずわしゃわしゃと二人を撫でておいた。
エリーちゃんもフーちゃんも笑顔でかわいい。
和んでいれば、リアーナさんから声を掛けられた。
「……ルイス、何か食べ物を取りに行きたい。私達は1日くらい大丈夫かもしれないけど、有るに越したことはない。」
「あっ、そうか。案内するよ。」
そうだった。食べ物取りに行かないとな。
……本当に、リアーナさんが居なかったら危なかったかもしれない。俺はともかくエリーちゃんとかが。
そして始まった食料確保。
「……オイ、ルイス。良いのかよ、あの獣一緒で。」
そう、アヴィルが小声で話しかけてきた。
エリーちゃん達は今ダートと一緒に、木の実を取っている。……多分、その時を狙って来たんだろうな。
「……大丈夫だと思うぞ。」
「……小さくても獣だぞ…?」
そう不安そうなアヴィル。……まあ、そう思うよな……。俺も少し思うが、今の所敵意も無いし、いざとなったらエリーちゃんの護衛に出来そうなくらいまであるのだ。
それに……。
「……もしもの時は、俺が何とかするよ。」
水の魔法でも怪力でもなんでも使ってな。
「……………わかった。」
不安は拭いきれて居ないようだが、納得したらしいアヴィル。大分信頼されたらしい。
「……心配してくれてありがとうな。」
「してねぇッ…!!」
取り敢えずぐりぐりと撫でておいた。
……にしても、リアーナさんがフーちゃんについて何も言わないのは不思議だったな。……もしかして、可愛い物好きだったり……。
こうして、1日目は終わったのであった。
リアーナ視点
私は、代々公爵家に仕える一族に生まれた。
小さい頃から教育された。護衛術も、礼儀作法も、勉学だってそうだ。
優秀な者を度々輩出した由緒正しい我が家の中で、私だけが落ちこぼれだった。
勉学や礼儀作法はまだしも、護衛術はからきし。
体力も筋力も付きにくく、剣を振り回す事など出来ず、果てには弓もあらぬ方向へ飛んでいく始末。
なまじ姉が優秀だったため、私は劣等感に否まれる事になった。
実力では到底敵いやしない。
性格も容姿も、姉には負ける。
青みがかった水色の髪も、真っ青な姉の髪には敵わない。
姉の様に、誰とも仲良く出来て頼られる性格じゃない。
理屈建てて考えて、それをそのまま相手に伝える私は、いつもどこか距離を置かれる。
けれど、今回私はお嬢様の護衛になってしまった。
しかも、他領の街中をお忍びで散策する時の、だ。
それはひとえに、姉の性格に理由がある。
………姉は、注意が散漫なのだ。
美人にもイケメンにも目がなく、お菓子やら美味しそうな物にも目がない。
職務中に一目散にそちらに向かう、なんてことは流石に無いが、一瞬の隙が命取りなのだ。
そこを補うのが、今回の私の役目だった。
お嬢様と、お嬢様の使い魔様の護衛兼、姉の監視である。
もちろん姉の他にも沢山の護衛が居るが、表にわかるのは姉と私の二人。周囲には姉妹に見えるようにとの仰せだ。
_____しかし、その厳重な警備にも関わらずお嬢様と共に私は拐われてしまった。
………どれだけ自身が落ちこぼれかが身に沁みる。情けない。
きっと、ルイスと言う男が居なければ、私はお嬢様を助けることなど出来なかっただろう。
泣いている姫様を慰める事も、守りながら逃げることも、出来なかっただろう。
初めて洞窟で眠る夜。
お嬢様も、ダートもアヴィルも、ルイスだってぐっすり眠ってる。
でも私は、緊張で眠れなかった。
もし、今賊が来たら。
もし、獣が出たら。
もし、急にお嬢様が体調を崩したら。
_____もし、この中の誰かが、敵だったら。
考えれば考える程不安で、眠ることなんて出来なかった。
そっと、藁の敷いてある寝床から出て、洞窟の入口付近まで出る。
洞窟の入口に体を預けるようにして座り込んだ。
……考えたってわからないのだろう。
そんなことわかっている。
判断するには情報が少なすぎる。
それに、もう先入観無く判断する事が出来なくなっている。
………………これだから、私は落ちこぼれなんだ。
月明かりで照らされる洞窟の入口で、寒さを紛らわせるように、自身を守るように、膝を抱えて丸くなる。
……泣きたい……。
私も、母や父、姉さんを頼って泣き喚いてしまいたい。
でも、お嬢様と使い魔様を守れるのは今、私だけなんだ。
泣いちゃ駄目だ。弱さを見せちゃ駄目だ。隙を見せれば最後だ。
「………寒くないか?」
「…ッ!!?」
急に背後から声を掛けられ、慌てて立ち上がろうとするも、慌てたせいで転け、そのままの姿勢で地面に手を付きながら振り返った。
「………ルイス…。起きてたの。」
振り返った先には、暗闇でもわかるほどの赤い髪を持った男、ルイスが居た。
「………まあ、寝てても警戒してたから。」
そう言うのに、全く警戒していなさそうな雰囲気のルイスは、私の横に座った。
「……………貴方は、何者なの。只者じゃないでしょう。」
いつでも立ち上がれる様に体勢を変えながら、私はルイスにそう問うた。
少し考え込んだルイスに、嫌な予想をする。
もし敵ならば、やられる前に殺らねばならない。
そう思えば、何故か体が強張る。
脳裏には、お嬢様と、アヴィルという少年を抱きしめていた姿が浮かぶ。
………………。
「………出身は、孤児院というか、教会だな。小さくて、祈りに来る人も週に一人居るか居ないか、というくらいの教会だ。」
「……孤児、なの。」
不躾だ、失礼だ、と思いながらも、聞いてしまった。
本当なら、それが本当なら、私は、私は貴方を殺さなくて済む。
「そう、孤児だ。親の顔も知らないが、神父様とシスター、同じ孤児の兄妹達に、友人も居て、中々賑やかに暮らしてるけどな。」
「……兄妹。」
……兄妹が居たから、お嬢様やアヴィルの頭をよく撫でていたのね。
「やっぱり以外に見えるか?」
少し小首を傾げて、此方を見るルイス。月明かりで仄かに光る翡翠の目は、敵だと疑いたくないほど優しい。
「いいえ。アヴィルやエリーへの接し方が完全に兄だったわ。」
「そう言うリアーナさんもエリーちゃんへの接し方が姉っぽいけどな。」
………そう、ルイスには見えるのね。
……確かに私は、お嬢様が生まれた時から世話をしているけれど、姉妹の様に接するなんて恐れ多いと思う。
「……そう、かしらね。」
でも、それを言う訳にもいかず、濁すように返事するしかなかった。
「………ま、取り敢えず寝よう。明日には街の方へ歩く事になるし、安心して寝られるのも今日くらいだろうからな。」
そう言って、ルイスは私の頭を一撫でして先に戻っていった。
その撫で方が、少しだけ姉さんや父さんに似ていて。
「……そうね。」
返事をするのが少し遅れた。
その後は、さっきまでの緊張が嘘のように眠れてしまった。
「というか、結局貴方は何者なの。」
「あ~~……、今はアルンディオ辺境伯様のとこで働いてる。」
……あの武勲を建てて辺境伯領を貰った事で有名な『血の辺境伯』のところで働いてるのね。どうりで、戦闘能力が高い訳だわ。
___そう、ルイスが敵では無いと思って
_____安心してしまったのが悪かったのか。
「ダート!!!!皆連れて飛べ!!!!いいか!!!?ぜっっつつたい戻って来るな!!!!」
そう叫ぶルイス。
どんどん離れていく地面。
「オイッ!!!降りろよダート!!!このままルイスのこと、ほってくきかよ……!!!」
「…………。」
叫ぶアヴィルに、ダートはきゅっ、と口を引き結んだ。その時に唇を噛んだのか、少しの血が唇から滲む。
「おいテメェ!!理屈女!!!お前もなんか言えよッッッ!!!!そこのガキもっッ!!なんで何も言わねぇっ!!!」
そう言って暴れるアヴィルを、ダートがしっかりと拘束して空を飛ぶ。
「なんでだよッッ!!!」
「……っ俺等が!!戻ったところでっっ!!!!何もできねぇんだよッッッ!!!!」
ダートが、悔しげに叫んだ。
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そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。
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モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
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