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第二章
攫われた2 ルイス視点
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「オイオイ、あいつらいつまで追って来るんだよ……!!!」
アヴィルが焦りながら叫ぶ。
リアーナさんを見れば、大分息切れしているようで、そろそろ走れなくなるだろう。
………どうするか。
「………ダート、リアーナさん抱えて飛べるか!?」
「多分いける!」
取り敢えず、リアーナさんはダートに抱えて運んでもらう事にして、ダートに確認すれば元気な返事が。
「じゃ、頼む!」
「え、ちょっと…!?」
「リアーナさん、あの木の下で落ち合おう。」
リアーナさん、びっくりするだろうがそろそろ走れなくなるだろうし許してくれ。
リアーナさんに待ち合わせ場所を教えながらダートの方へ体を押す。
「きゃっ……!!?」
ダートがリアーナさんをしっかりと抱えて、上へ飛んでいったのを確認し、俺はエリーちゃんをおんぶから抱っこに抱え方をかえた。
「エリーちゃん、しっかり掴まっててくれ。」
「う、うん…!!」
ぎゅっと、エリーちゃんの腕が俺の首に回り、掴まったのを確認する。
それから、アヴィルを抱え上げた。
「はっ、…?え、お、おい…!??」
すまんアヴィル。多分俺が抱えて走ったほうが速い。
「しっかり掴まってろ。舌噛むぞ。」
そう言ってから、俺はスピードを上げた。
「っ………!??」
アヴィルが声も無く絶叫するが、気にはしてられない。後で謝る。
_____確か、近くに蔦の密集した所があった筈……!!
彼処なら隠れ放題だ。
俺は、アヴィルとエリーちゃんをしっかりと抱えたまま、隠れることに成功した。
「オイ!!!足跡があったぞ!!!」
聞こえる男達の怒号。
強張る二人を抱き寄せながら、息を殺した。
「___!!_____!!!!?」
段々と遠ざかって行く声に、俺の作戦は成功したようだと察する。
_____俺は今、裸足だった。
……偽の足跡を付けておいて良かった。
「おおぉぉ!!!大丈夫だったのかぁ!!良かったなぁ!「うるさい。」ごめん!」
リアーナさんとダートとも合流できた。……元気そうで何より。
「……それで、これからどうするの?」
「そうだな……。取り敢えず、今晩泊まれる場所に行こう。」
相変わらず冷静なリアーナさんに聞かれ、そう返す。
「……森でそんな所あるか?」
訝しげなアヴィルに、俺は笑みを浮かべる。
「___来ればわかるさ。」
_____「ようこそ。我が家へ。」
「……洞窟?」
「うおっ、何もねぇ!!」
「…………大丈夫なのかよここ。」
安心してくれ。誰も住んでない筈だ。まだ微かに母さんの匂いが残ってるから、そこらの獣は来ないだろう。
そう、俺が案内したところは、フェンリル時代に住んでいた洞窟だ。
……まあ、使っているのはもう少し奥だがな。
「こっちだ。」
手招きながら、奥へと進む。一見何も無い洞窟だが、奥深い所には寝所だのなんだのがある。少しだけ穴が空いてるから、そこから光も入るし良いところだ。
「おお…!!藁が敷いてある!!寝れそう!」
「……こんなとこあんのかよ……。」
「……。」
「っすごーい……!」
「ワンっ!」
素直に褒めてくれたダートとエリーちゃんには後で果物あげよう。
って、今の鳴き声は……。
一緒に馬車にいた小型犬(仮)!?
「な、なんでお前ここに居んだよッ!?」
アヴィルがツッコむが、本当になんで居るんだ。
ふりふりと尻尾を振る小型犬に、エリーちゃんの目がキラキラと輝く。
「フーちゃん!」
「ワンっ!」
小型犬に迷わず突っ込んでいったエリーちゃんは、フーちゃんと呼びながら抱きついた。
「……知り合いか?」
「フーちゃん!」「ワンっ!」
「そ、そうか……。」
なんなんだろう、と思い聞いた言葉は、フーちゃんで一括されてしまった。
取り敢えずわしゃわしゃと二人を撫でておいた。
エリーちゃんもフーちゃんも笑顔でかわいい。
和んでいれば、リアーナさんから声を掛けられた。
「……ルイス、何か食べ物を取りに行きたい。私達は1日くらい大丈夫かもしれないけど、有るに越したことはない。」
「あっ、そうか。案内するよ。」
そうだった。食べ物取りに行かないとな。
……本当に、リアーナさんが居なかったら危なかったかもしれない。俺はともかくエリーちゃんとかが。
そして始まった食料確保。
「……オイ、ルイス。良いのかよ、あの獣一緒で。」
そう、アヴィルが小声で話しかけてきた。
エリーちゃん達は今ダートと一緒に、木の実を取っている。……多分、その時を狙って来たんだろうな。
「……大丈夫だと思うぞ。」
「……小さくても獣だぞ…?」
そう不安そうなアヴィル。……まあ、そう思うよな……。俺も少し思うが、今の所敵意も無いし、いざとなったらエリーちゃんの護衛に出来そうなくらいまであるのだ。
それに……。
「……もしもの時は、俺が何とかするよ。」
水の魔法でも怪力でもなんでも使ってな。
「……………わかった。」
不安は拭いきれて居ないようだが、納得したらしいアヴィル。大分信頼されたらしい。
「……心配してくれてありがとうな。」
「してねぇッ…!!」
取り敢えずぐりぐりと撫でておいた。
……にしても、リアーナさんがフーちゃんについて何も言わないのは不思議だったな。……もしかして、可愛い物好きだったり……。
こうして、1日目は終わったのであった。
リアーナ視点
私は、代々公爵家に仕える一族に生まれた。
小さい頃から教育された。護衛術も、礼儀作法も、勉学だってそうだ。
優秀な者を度々輩出した由緒正しい我が家の中で、私だけが落ちこぼれだった。
勉学や礼儀作法はまだしも、護衛術はからきし。
体力も筋力も付きにくく、剣を振り回す事など出来ず、果てには弓もあらぬ方向へ飛んでいく始末。
なまじ姉が優秀だったため、私は劣等感に否まれる事になった。
実力では到底敵いやしない。
性格も容姿も、姉には負ける。
青みがかった水色の髪も、真っ青な姉の髪には敵わない。
姉の様に、誰とも仲良く出来て頼られる性格じゃない。
理屈建てて考えて、それをそのまま相手に伝える私は、いつもどこか距離を置かれる。
けれど、今回私はお嬢様の護衛になってしまった。
しかも、他領の街中をお忍びで散策する時の、だ。
それはひとえに、姉の性格に理由がある。
………姉は、注意が散漫なのだ。
美人にもイケメンにも目がなく、お菓子やら美味しそうな物にも目がない。
職務中に一目散にそちらに向かう、なんてことは流石に無いが、一瞬の隙が命取りなのだ。
そこを補うのが、今回の私の役目だった。
お嬢様と、お嬢様の使い魔様の護衛兼、姉の監視である。
もちろん姉の他にも沢山の護衛が居るが、表にわかるのは姉と私の二人。周囲には姉妹に見えるようにとの仰せだ。
_____しかし、その厳重な警備にも関わらずお嬢様と共に私は拐われてしまった。
………どれだけ自身が落ちこぼれかが身に沁みる。情けない。
きっと、ルイスと言う男が居なければ、私はお嬢様を助けることなど出来なかっただろう。
泣いている姫様を慰める事も、守りながら逃げることも、出来なかっただろう。
初めて洞窟で眠る夜。
お嬢様も、ダートもアヴィルも、ルイスだってぐっすり眠ってる。
でも私は、緊張で眠れなかった。
もし、今賊が来たら。
もし、獣が出たら。
もし、急にお嬢様が体調を崩したら。
_____もし、この中の誰かが、敵だったら。
考えれば考える程不安で、眠ることなんて出来なかった。
そっと、藁の敷いてある寝床から出て、洞窟の入口付近まで出る。
洞窟の入口に体を預けるようにして座り込んだ。
……考えたってわからないのだろう。
そんなことわかっている。
判断するには情報が少なすぎる。
それに、もう先入観無く判断する事が出来なくなっている。
………………これだから、私は落ちこぼれなんだ。
月明かりで照らされる洞窟の入口で、寒さを紛らわせるように、自身を守るように、膝を抱えて丸くなる。
……泣きたい……。
私も、母や父、姉さんを頼って泣き喚いてしまいたい。
でも、お嬢様と使い魔様を守れるのは今、私だけなんだ。
泣いちゃ駄目だ。弱さを見せちゃ駄目だ。隙を見せれば最後だ。
「………寒くないか?」
「…ッ!!?」
急に背後から声を掛けられ、慌てて立ち上がろうとするも、慌てたせいで転け、そのままの姿勢で地面に手を付きながら振り返った。
「………ルイス…。起きてたの。」
振り返った先には、暗闇でもわかるほどの赤い髪を持った男、ルイスが居た。
「………まあ、寝てても警戒してたから。」
そう言うのに、全く警戒していなさそうな雰囲気のルイスは、私の横に座った。
「……………貴方は、何者なの。只者じゃないでしょう。」
いつでも立ち上がれる様に体勢を変えながら、私はルイスにそう問うた。
少し考え込んだルイスに、嫌な予想をする。
もし敵ならば、やられる前に殺らねばならない。
そう思えば、何故か体が強張る。
脳裏には、お嬢様と、アヴィルという少年を抱きしめていた姿が浮かぶ。
………………。
「………出身は、孤児院というか、教会だな。小さくて、祈りに来る人も週に一人居るか居ないか、というくらいの教会だ。」
「……孤児、なの。」
不躾だ、失礼だ、と思いながらも、聞いてしまった。
本当なら、それが本当なら、私は、私は貴方を殺さなくて済む。
「そう、孤児だ。親の顔も知らないが、神父様とシスター、同じ孤児の兄妹達に、友人も居て、中々賑やかに暮らしてるけどな。」
「……兄妹。」
……兄妹が居たから、お嬢様やアヴィルの頭をよく撫でていたのね。
「やっぱり以外に見えるか?」
少し小首を傾げて、此方を見るルイス。月明かりで仄かに光る翡翠の目は、敵だと疑いたくないほど優しい。
「いいえ。アヴィルやエリーへの接し方が完全に兄だったわ。」
「そう言うリアーナさんもエリーちゃんへの接し方が姉っぽいけどな。」
………そう、ルイスには見えるのね。
……確かに私は、お嬢様が生まれた時から世話をしているけれど、姉妹の様に接するなんて恐れ多いと思う。
「……そう、かしらね。」
でも、それを言う訳にもいかず、濁すように返事するしかなかった。
「………ま、取り敢えず寝よう。明日には街の方へ歩く事になるし、安心して寝られるのも今日くらいだろうからな。」
そう言って、ルイスは私の頭を一撫でして先に戻っていった。
その撫で方が、少しだけ姉さんや父さんに似ていて。
「……そうね。」
返事をするのが少し遅れた。
その後は、さっきまでの緊張が嘘のように眠れてしまった。
「というか、結局貴方は何者なの。」
「あ~~……、今はアルンディオ辺境伯様のとこで働いてる。」
……あの武勲を建てて辺境伯領を貰った事で有名な『血の辺境伯』のところで働いてるのね。どうりで、戦闘能力が高い訳だわ。
___そう、ルイスが敵では無いと思って
_____安心してしまったのが悪かったのか。
「ダート!!!!皆連れて飛べ!!!!いいか!!!?ぜっっつつたい戻って来るな!!!!」
そう叫ぶルイス。
どんどん離れていく地面。
「オイッ!!!降りろよダート!!!このままルイスのこと、ほってくきかよ……!!!」
「…………。」
叫ぶアヴィルに、ダートはきゅっ、と口を引き結んだ。その時に唇を噛んだのか、少しの血が唇から滲む。
「おいテメェ!!理屈女!!!お前もなんか言えよッッッ!!!!そこのガキもっッ!!なんで何も言わねぇっ!!!」
そう言って暴れるアヴィルを、ダートがしっかりと拘束して空を飛ぶ。
「なんでだよッッ!!!」
「……っ俺等が!!戻ったところでっっ!!!!何もできねぇんだよッッッ!!!!」
ダートが、悔しげに叫んだ。
いつも以上にうるさかったけれど、口が裂けても、今だけは煩いだなんて言えなかった。
アヴィルが焦りながら叫ぶ。
リアーナさんを見れば、大分息切れしているようで、そろそろ走れなくなるだろう。
………どうするか。
「………ダート、リアーナさん抱えて飛べるか!?」
「多分いける!」
取り敢えず、リアーナさんはダートに抱えて運んでもらう事にして、ダートに確認すれば元気な返事が。
「じゃ、頼む!」
「え、ちょっと…!?」
「リアーナさん、あの木の下で落ち合おう。」
リアーナさん、びっくりするだろうがそろそろ走れなくなるだろうし許してくれ。
リアーナさんに待ち合わせ場所を教えながらダートの方へ体を押す。
「きゃっ……!!?」
ダートがリアーナさんをしっかりと抱えて、上へ飛んでいったのを確認し、俺はエリーちゃんをおんぶから抱っこに抱え方をかえた。
「エリーちゃん、しっかり掴まっててくれ。」
「う、うん…!!」
ぎゅっと、エリーちゃんの腕が俺の首に回り、掴まったのを確認する。
それから、アヴィルを抱え上げた。
「はっ、…?え、お、おい…!??」
すまんアヴィル。多分俺が抱えて走ったほうが速い。
「しっかり掴まってろ。舌噛むぞ。」
そう言ってから、俺はスピードを上げた。
「っ………!??」
アヴィルが声も無く絶叫するが、気にはしてられない。後で謝る。
_____確か、近くに蔦の密集した所があった筈……!!
彼処なら隠れ放題だ。
俺は、アヴィルとエリーちゃんをしっかりと抱えたまま、隠れることに成功した。
「オイ!!!足跡があったぞ!!!」
聞こえる男達の怒号。
強張る二人を抱き寄せながら、息を殺した。
「___!!_____!!!!?」
段々と遠ざかって行く声に、俺の作戦は成功したようだと察する。
_____俺は今、裸足だった。
……偽の足跡を付けておいて良かった。
「おおぉぉ!!!大丈夫だったのかぁ!!良かったなぁ!「うるさい。」ごめん!」
リアーナさんとダートとも合流できた。……元気そうで何より。
「……それで、これからどうするの?」
「そうだな……。取り敢えず、今晩泊まれる場所に行こう。」
相変わらず冷静なリアーナさんに聞かれ、そう返す。
「……森でそんな所あるか?」
訝しげなアヴィルに、俺は笑みを浮かべる。
「___来ればわかるさ。」
_____「ようこそ。我が家へ。」
「……洞窟?」
「うおっ、何もねぇ!!」
「…………大丈夫なのかよここ。」
安心してくれ。誰も住んでない筈だ。まだ微かに母さんの匂いが残ってるから、そこらの獣は来ないだろう。
そう、俺が案内したところは、フェンリル時代に住んでいた洞窟だ。
……まあ、使っているのはもう少し奥だがな。
「こっちだ。」
手招きながら、奥へと進む。一見何も無い洞窟だが、奥深い所には寝所だのなんだのがある。少しだけ穴が空いてるから、そこから光も入るし良いところだ。
「おお…!!藁が敷いてある!!寝れそう!」
「……こんなとこあんのかよ……。」
「……。」
「っすごーい……!」
「ワンっ!」
素直に褒めてくれたダートとエリーちゃんには後で果物あげよう。
って、今の鳴き声は……。
一緒に馬車にいた小型犬(仮)!?
「な、なんでお前ここに居んだよッ!?」
アヴィルがツッコむが、本当になんで居るんだ。
ふりふりと尻尾を振る小型犬に、エリーちゃんの目がキラキラと輝く。
「フーちゃん!」
「ワンっ!」
小型犬に迷わず突っ込んでいったエリーちゃんは、フーちゃんと呼びながら抱きついた。
「……知り合いか?」
「フーちゃん!」「ワンっ!」
「そ、そうか……。」
なんなんだろう、と思い聞いた言葉は、フーちゃんで一括されてしまった。
取り敢えずわしゃわしゃと二人を撫でておいた。
エリーちゃんもフーちゃんも笑顔でかわいい。
和んでいれば、リアーナさんから声を掛けられた。
「……ルイス、何か食べ物を取りに行きたい。私達は1日くらい大丈夫かもしれないけど、有るに越したことはない。」
「あっ、そうか。案内するよ。」
そうだった。食べ物取りに行かないとな。
……本当に、リアーナさんが居なかったら危なかったかもしれない。俺はともかくエリーちゃんとかが。
そして始まった食料確保。
「……オイ、ルイス。良いのかよ、あの獣一緒で。」
そう、アヴィルが小声で話しかけてきた。
エリーちゃん達は今ダートと一緒に、木の実を取っている。……多分、その時を狙って来たんだろうな。
「……大丈夫だと思うぞ。」
「……小さくても獣だぞ…?」
そう不安そうなアヴィル。……まあ、そう思うよな……。俺も少し思うが、今の所敵意も無いし、いざとなったらエリーちゃんの護衛に出来そうなくらいまであるのだ。
それに……。
「……もしもの時は、俺が何とかするよ。」
水の魔法でも怪力でもなんでも使ってな。
「……………わかった。」
不安は拭いきれて居ないようだが、納得したらしいアヴィル。大分信頼されたらしい。
「……心配してくれてありがとうな。」
「してねぇッ…!!」
取り敢えずぐりぐりと撫でておいた。
……にしても、リアーナさんがフーちゃんについて何も言わないのは不思議だったな。……もしかして、可愛い物好きだったり……。
こうして、1日目は終わったのであった。
リアーナ視点
私は、代々公爵家に仕える一族に生まれた。
小さい頃から教育された。護衛術も、礼儀作法も、勉学だってそうだ。
優秀な者を度々輩出した由緒正しい我が家の中で、私だけが落ちこぼれだった。
勉学や礼儀作法はまだしも、護衛術はからきし。
体力も筋力も付きにくく、剣を振り回す事など出来ず、果てには弓もあらぬ方向へ飛んでいく始末。
なまじ姉が優秀だったため、私は劣等感に否まれる事になった。
実力では到底敵いやしない。
性格も容姿も、姉には負ける。
青みがかった水色の髪も、真っ青な姉の髪には敵わない。
姉の様に、誰とも仲良く出来て頼られる性格じゃない。
理屈建てて考えて、それをそのまま相手に伝える私は、いつもどこか距離を置かれる。
けれど、今回私はお嬢様の護衛になってしまった。
しかも、他領の街中をお忍びで散策する時の、だ。
それはひとえに、姉の性格に理由がある。
………姉は、注意が散漫なのだ。
美人にもイケメンにも目がなく、お菓子やら美味しそうな物にも目がない。
職務中に一目散にそちらに向かう、なんてことは流石に無いが、一瞬の隙が命取りなのだ。
そこを補うのが、今回の私の役目だった。
お嬢様と、お嬢様の使い魔様の護衛兼、姉の監視である。
もちろん姉の他にも沢山の護衛が居るが、表にわかるのは姉と私の二人。周囲には姉妹に見えるようにとの仰せだ。
_____しかし、その厳重な警備にも関わらずお嬢様と共に私は拐われてしまった。
………どれだけ自身が落ちこぼれかが身に沁みる。情けない。
きっと、ルイスと言う男が居なければ、私はお嬢様を助けることなど出来なかっただろう。
泣いている姫様を慰める事も、守りながら逃げることも、出来なかっただろう。
初めて洞窟で眠る夜。
お嬢様も、ダートもアヴィルも、ルイスだってぐっすり眠ってる。
でも私は、緊張で眠れなかった。
もし、今賊が来たら。
もし、獣が出たら。
もし、急にお嬢様が体調を崩したら。
_____もし、この中の誰かが、敵だったら。
考えれば考える程不安で、眠ることなんて出来なかった。
そっと、藁の敷いてある寝床から出て、洞窟の入口付近まで出る。
洞窟の入口に体を預けるようにして座り込んだ。
……考えたってわからないのだろう。
そんなことわかっている。
判断するには情報が少なすぎる。
それに、もう先入観無く判断する事が出来なくなっている。
………………これだから、私は落ちこぼれなんだ。
月明かりで照らされる洞窟の入口で、寒さを紛らわせるように、自身を守るように、膝を抱えて丸くなる。
……泣きたい……。
私も、母や父、姉さんを頼って泣き喚いてしまいたい。
でも、お嬢様と使い魔様を守れるのは今、私だけなんだ。
泣いちゃ駄目だ。弱さを見せちゃ駄目だ。隙を見せれば最後だ。
「………寒くないか?」
「…ッ!!?」
急に背後から声を掛けられ、慌てて立ち上がろうとするも、慌てたせいで転け、そのままの姿勢で地面に手を付きながら振り返った。
「………ルイス…。起きてたの。」
振り返った先には、暗闇でもわかるほどの赤い髪を持った男、ルイスが居た。
「………まあ、寝てても警戒してたから。」
そう言うのに、全く警戒していなさそうな雰囲気のルイスは、私の横に座った。
「……………貴方は、何者なの。只者じゃないでしょう。」
いつでも立ち上がれる様に体勢を変えながら、私はルイスにそう問うた。
少し考え込んだルイスに、嫌な予想をする。
もし敵ならば、やられる前に殺らねばならない。
そう思えば、何故か体が強張る。
脳裏には、お嬢様と、アヴィルという少年を抱きしめていた姿が浮かぶ。
………………。
「………出身は、孤児院というか、教会だな。小さくて、祈りに来る人も週に一人居るか居ないか、というくらいの教会だ。」
「……孤児、なの。」
不躾だ、失礼だ、と思いながらも、聞いてしまった。
本当なら、それが本当なら、私は、私は貴方を殺さなくて済む。
「そう、孤児だ。親の顔も知らないが、神父様とシスター、同じ孤児の兄妹達に、友人も居て、中々賑やかに暮らしてるけどな。」
「……兄妹。」
……兄妹が居たから、お嬢様やアヴィルの頭をよく撫でていたのね。
「やっぱり以外に見えるか?」
少し小首を傾げて、此方を見るルイス。月明かりで仄かに光る翡翠の目は、敵だと疑いたくないほど優しい。
「いいえ。アヴィルやエリーへの接し方が完全に兄だったわ。」
「そう言うリアーナさんもエリーちゃんへの接し方が姉っぽいけどな。」
………そう、ルイスには見えるのね。
……確かに私は、お嬢様が生まれた時から世話をしているけれど、姉妹の様に接するなんて恐れ多いと思う。
「……そう、かしらね。」
でも、それを言う訳にもいかず、濁すように返事するしかなかった。
「………ま、取り敢えず寝よう。明日には街の方へ歩く事になるし、安心して寝られるのも今日くらいだろうからな。」
そう言って、ルイスは私の頭を一撫でして先に戻っていった。
その撫で方が、少しだけ姉さんや父さんに似ていて。
「……そうね。」
返事をするのが少し遅れた。
その後は、さっきまでの緊張が嘘のように眠れてしまった。
「というか、結局貴方は何者なの。」
「あ~~……、今はアルンディオ辺境伯様のとこで働いてる。」
……あの武勲を建てて辺境伯領を貰った事で有名な『血の辺境伯』のところで働いてるのね。どうりで、戦闘能力が高い訳だわ。
___そう、ルイスが敵では無いと思って
_____安心してしまったのが悪かったのか。
「ダート!!!!皆連れて飛べ!!!!いいか!!!?ぜっっつつたい戻って来るな!!!!」
そう叫ぶルイス。
どんどん離れていく地面。
「オイッ!!!降りろよダート!!!このままルイスのこと、ほってくきかよ……!!!」
「…………。」
叫ぶアヴィルに、ダートはきゅっ、と口を引き結んだ。その時に唇を噛んだのか、少しの血が唇から滲む。
「おいテメェ!!理屈女!!!お前もなんか言えよッッッ!!!!そこのガキもっッ!!なんで何も言わねぇっ!!!」
そう言って暴れるアヴィルを、ダートがしっかりと拘束して空を飛ぶ。
「なんでだよッッ!!!」
「……っ俺等が!!戻ったところでっっ!!!!何もできねぇんだよッッッ!!!!」
ダートが、悔しげに叫んだ。
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