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第二章

攫われた ルイス視点

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 薄暗いこの部屋は、よく見れば木の壁の隙間から景色が見える。その景色が動いているところからみて、馬車か何かに乗せられているらしい。
 随分と森の中を走っているらしく、見える限り人は見当たらない。
 手足に繋がれている鎖は天井にある金具に繋がっている。
 周りには俺と同い年くらいか、年下の子供ばかり。俺も入れて5人程度だ。あと、小さい動物、前世で言うと小型犬くらいの大きさの動物が檻に入っている。
 いつの間にか服も変えられているので、今は白いワンピース1枚だ。白と言っても、木綿の様な粗い生地で少しクリーム色がかっている。
 ………人攫いか。
 取り敢えず、現状を把握した上で出した結論だ。
 恐らく俺は人攫いに遭ったんだろう。年齢的にも、成人したては拐われやすい。働きに出た直後だと暫く帰らなくても疑問に思われにくく、発覚が遅れるのだ。
 子供は発覚するのが早いが、拐いやすく運びやすいため狙われやすい。………俺の身長が低いから子供と間違えて、とか無いよな…?
 というか、この森……。
「……うっ、うぇっ…ひっく……」
 ……!?…泣き声?
 考え事をしていて気づかなかったが、横から泣き声が聞こえる事に今更気づく。
 泣き声の聞こえる方へ向けば、真横にその子は居た。……真横に居る子が泣いていることに気づかないとは、俺も大分動揺してるな……。
「………大丈夫か?」
「ひっ、く……ぇ?」
 嗚咽をもらしながら鳴いてる姿が、迷子になった時の兄妹たちに似ていて、放って置けなかった。
 少々小声で声をかけたが、その子には聞こえたらしい。驚いた様子で俺を見上げたその子は7歳くらいだろうか、俺より一回り以上小さい。
「……うぅ…あなた、だれ?ここどこ…?うっ……母様ぁ…父様ぁ………ひっくぅ…、エリーのこと迎えに来てよぉ……うぅぅ……。」
 ………どうしよう……、俺が話しかけた事でもっと泣かせてしまった。……マリー達の時はどうしたんだったか……。ああ、そうだ。
「よしよし、大丈夫だ。お兄ちゃんが居るから大丈夫だぞ。」
『もう大丈夫よ。私が来ましたからね。もうはぐれちゃ駄目よ。』
 そう、シスターが頭を撫でていた事を思い出しながら、その子の頭を撫でる。
「…………ひっく…、ほんとぉ……?エリー、母様達のとこにもどれる?」
「うん。大丈夫「んなわけねぇだろ…!」……。」
 途中で入ってきた少年。俺よりは年下だろうが、恐らくこの子よりは年上だな。……そう言えばこの子、さっきから自分のことエリーって言ってるな。
「俺等はなぁ!これから売られんだよ……!!どこの誰とも知らねぇし、まともな奴じゃねぇことは確かな人間になぁ…!!」
 そう叫ぶ少年に、エリーちゃん以外の子もびくっと体を震わせた。
 しかし、叫んだ少年自身も、体が小刻みに震えており、泣かないようになのか、唇を噛み締めていた。
「はいはい、お前も怖いんだなぁ。よしよし、ハグしてやろう。」
「なッ……!!おいやめッ、おいッ…!!」
 全く、怖いくせに強がりなんてガキ大将か。ダイヴの事を思い出しながら抱き寄せ、乱暴に頭を撫でる。暴れているが、本気ではないらしく口だけだ。
「……おにいちゃん、エリーも、エリーもぎゅってして。」
 はわ、かわいい。駄目だ。俺年下属性に弱いかも知れない。
 少年を乱暴に撫でていたら、エリーちゃんからもおねだりが来た。よし、両方抱きしめよう。
「ぎゅ~~!!」
「ぎゅぅ~~!」
 フィルにするように声に出して言えば、真似してエリーちゃんも言ってくれた。
「おいッ!俺は離せよッ!」
「お前の体の震えが止まったらな~。」
「震えてねぇッ!」
 相変わらず強がる少年も一緒だ。
「そう言えばみんな、名前は?」
「私は、エリーって言うの!」
 おお、エリーちゃん一人称エリーじゃなかったのか……。さっきは動揺して出たんだろうか。
「少年、お前は?」
「………アヴィル。」
 相変わらず俺にハグされている少年にもう一度聞けば、渋々と答えてくれた、
「そっちのお二人は?」
「お、俺か?俺はダート!15歳だ!」
「……リアーナ。14歳。」
 ふむふむ。ダートと、リアーナさんだな。
「俺はルイス。15歳だ。よろしく。」
「それで、貴方はどうやって逃げるつもりなの。こういう馬車には大抵防音の魔法が掛かってるから、叫んでも外には聞こえない。」
 自己紹介を俺もすれば、リアーナさんにそう問われた。
 ……正直あんまり考えていないが、ここで正直にそう言うと不安にさせるよな…。
「取り敢えず、行動に起こすのはこれが停まってからかな。あと皆、体力はあるか?」
「……私はちょっと無いかも……。」
「俺は結構ある方だぜ!」
「私は普通だと思う。長時間走り続けるのは無理。」
「……俺は、ある方だと思う。」
 上から、エリーちゃん、ダート、リアーナさん、アヴィルだ。
「貴方はどうなの。これを聞いた意味は?」
 リアーナさんはずっと冷静さを欠かないな……。
 質問攻めに俺の方が冷静さを欠きそうである。
「俺は……、多分ある方だな。これを聞いた意味だが、この馬車は今、森の中を走ってる。結構深い所を走ってるから、森の中で馬を休ませる、なんて事もある。その時を狙って降りようと思うんだ。」
「……だから、森の中を走れる体力が必要、だと?不合理的。森の中で迷って終わり。私は街についた所で降りることを推奨する。」
 すかさずそうアリーナさんは言う。全くもってそうだとは思うんだが、一つ懸念があってだな……。
「……街に入ったとして、下町を通られたら終わりなんだ。」
「何故?」
 不思議そうなアリーナさんには悪いが、ほんとにそうだ。
「あちらはその街に土地勘もある程度あるだろうが、俺達には無い。助けを呼ぶにも、下町の人は自分の事で精一杯の人も多いから助けてくれるとは限らない。」
「でも、森を抜けるよりマシな筈。」
 まあ、普通ならな。
「俺はこの森で暮らした事があるんだ。」
 この森に住んだことが無ければ。
 この森、匂いでわかったが、俺がフェンリルだったときに居た森なのだ。
「ええ!!?ほんとかそれ!!?」
「ちょっとあんたは黙って。」
「いてっ。」
 ダートが叫んだが、アリーナさんに秒で叩かれて黙らされた。
 ……この短時間で力関係が出来ている……。
 そう思っていれば、アリーナさんが真っ直ぐに此方を見た。
「それが本当だとしても、私達が森を走り抜けることは無理に等しい。体力も足りないし、靴だってない。自衛手段も無い。獣に食われて終わり。」
「それに、鎖だってある。」
 次々と出される問題点。……それは考えられて無かった。
「靴と体力なら、俺が全員担いで飛ぼうか?」
「……何言ってるのダート。」
「いや、俺風属性でさ、ちっせえ頃から空飛んで遊んでたから、出来ると思って……。」
 だんだんと自身が無くなったのか小さい声になるダート。
「…………わかった。因みに言うと私は火が使える。火種くらいにはなると思う。…………森で降りることに、賛成する。」
 覚悟を決めたように、賛成を表明したリアーナさん。
「ハア…!?おま、お前ら正気かよッ!?落ちたらどうすんだよ、そいつだって自分一人ぐらいしか浮かしたことねぇだろ!?」 
 それに噛みついたのはアヴィルだった。
「ま、まあ、そうだけど……。」
「ほら見ろッ!逃げるなんて出来るわけねぇんだよッ!!」
 アヴィルに言われて肯定を返したダートに、アヴィルはみんなに叫んだ。
 う~ん……。靴、靴なぁ……。
 考える俺の目に入ったのは、いつの間にか着替えさせられていたワンピース。
 …………、いけるな。 
「靴はどうにかなりそうだぞ。」
 そう言った俺は、おもむろにワンピースの裾を破りだす。……言っておくが露出狂では無いぞ。ちゃんと大事なところは隠してある。
「ちょ、なにやってるの…!?」
「おわぁ!!!?「うるさい」いてっ!」
「……!??!?」
「にっ!!!?」
 全員が様々な驚き方をする中、スイスイと破った裾を足に結び、靴になるか確認する。……ちょっと不安だな。……そこらの板を引っ剝がして間に挟むか。
 バキッ、
 お、結構剥がれるもんだな。いやぁ、怪力になってて良かった。
「「「………。」」」
「お、おにいちゃんすごいね……?」
「まあ、色々あってな。……よし、これで靴は出来たな。」
 困惑しながら褒めてくれるエリーちゃんに返事になっているのかわからない返事を返しながら、全員に出来た靴を見せる。
 走りにくそうだが、足を怪我しなきゃいいんだ。
「……全員分作るには一人くらい全裸にならないと無理そうだけど。」
「そこは全員自分の分は自分の服から取ったら……すんません。」
 ……ダートがリアーナさんに睨まれてる。まあ、年頃の女の子にスカート短くしろなんて言ったら睨まれるよな…。
「……作るのは後二人ぐらいで大丈夫だと思う。エリーちゃんは体力的にも体重的にも抱っこした方が良さそうだから俺が抱っこして走るよ。」
「……さっきは板を引っ剝がしてたけど、ほんとに大丈夫か?それ。」
 流石に無理そうだと思われたらしい。ダートからそう言われるとは思わなかったけど。
「……一応、抱っこしてみていいか?」
「いいよ!」
 エリーちゃんから許可を貰ったので、抱っこし見る。……ふむ。軽いし大丈夫そうだ。でもちょっとこの抱き方は不安定だな、おんぶに変更だ。
「大丈夫そうだ。取り敢えず走る時はおんぶに変更した方が良さそうだが。ありがとなエリーちゃん。」
 お礼を言ってからエリーちゃんを下ろす。
「……大丈夫そうね。」
「で、でも、鎖はどうすんだよ?びくともしなさそうだぜ…?」
 納得した様子のリアーナさんとは反対に、アヴィルは鎖の事を指差す。
 それに従って両手両足の枷を見れば、付け方も外し方もわからない。更には頑丈そうな金具に鎖で繋がっている。
「……ねえ、ルイス。あなたこれ金具の周辺の板ごと剥がせない?」
「あ、出来そう。」
 鎖や金具は無理だが、金具と馬車を繋げている部分は勿論板だ。そこなら剥がせる。
「………なら、決行は森の中で馬車が停まったとき。それまでに私とアヴィルは靴を作る。ルイスは金具の板を剥がす。それでいい?」
「えっ、俺の靴は?」
「ダートは飛べるでしょ。」
「あ、そっか。」
 気の抜けるような二人の会話で、方針は決まった。
 因みに、防音魔法のお陰で色々と引っ剝がしても気付かれなかった。
 そして森の奥深く、最も嗅ぎ慣れた匂いに近づいた時、馬車が停まった。
「……行こう……!!」
 馬車の壁を全員通れるように大きく引っ剥がす。そして、俺達は飛び出した。
「ハァ!!!??おいコラお前ら!!!逃げてんじゃねぇ!!」
 飛び出せば、誘拐犯らしい男と鉢合わせ、そう叫ばれた。取り敢えず引っ剥がしたばかりの壁を投げつけ、目眩ましをした。
 その隙に全員で森の中に入る。
「ガキが逃げたぞ!!!!!!」
 後ろから野太い男の怒号が聞こえる。
 馬車は数台あったようで続々と仲間らしき男達が出てくるが、気にはしてられない。
 はやく、早く茂みだのなんだの、隠れる所を探さなければ!!


 ラインハルト・アルディオの屋敷にて
「街で聴き込んだところ、ルイスさんの他にも複数名の行方不明者を確認しました。何れも、容姿、または年齢が幼く、拐うにはもってこいの人物だったそうです。」
 ラインハルトの執務室にて、ファーリーがそう報告する。
「………そうか。捜索の方はどうなっている。」
「難航しております。……可能性としては、既に街を出ているかと。」
「……捜索の範囲は変えん。そのまま続行しろ。隣接の領地にも連絡し、街へと入る道に簡易的な関所を設ける。」
「承知しました。準備致します。……ラインハルト様はどうなさいますか。」
「………俺は森を探しに行く。あそこは隣国への通路で人も通らん。絶好の通路だろう。」
「……お一人で行かれるおつもりで?」
「…………バーンを連れて行く。」
「呼んでまいります。……くれぐれも、一人で飛び出されること無きよう。」
「…………。」
 ファーリーが出ていくと共に、側に控えていたグレイも外に出たため、部屋にはラインハルト一人となった。
 
「………無事で居てくれよ。」
 そう呟かれた言葉に、返事をする者は居なかった。
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