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第一章
妄想か、それとも……。 ラインハルト視点
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トリーティア子爵令息の襲撃から3日後。兄さんが、こちらにやって来た。
その間にトリーティア子爵令息から自供が取れた。
トリーティア子爵令息の供述はこうだ。
曰く、ルイスはノーネを獣化した姿だと。しかもそうしたのはトリーティア子爵令息自身。
曰く、ノーネは自分の立場を慮って身を引いたのだと。それを自分は追いかけてきたと。
曰く、ノーネことルイスは、俺に拘束されていて、逃げ出そうにも四六時中傍にいるから逃げられない。それを自分は助けに来たのだ、と。
曰く、俺を失明させたのは自身だ、と。
___そして、一連の犯行は【呪い】を使って行った、と。
魔法ではなく呪い。俄に信じ難い供述に、ファーリーやバーンも首を傾げる。
しかし、魔法でやったとすると、トリーティア子爵令息の魔力では足りないのだ。そうすると、協力者でも居るのか、という問題になってくるのだが、一向にその協力者が見つからない。
一連の犯行をするには、禁術の類を持ち要らねばならず、莫大な魔力が必要となる。
__それこそ、人一人を贄にしても足りない程の___
妄言か、それとも……
「俺はね、トリーティア子爵令息の供述は真実だと思うよ。少なくともラインハルトの失明はトリーティア子爵令息の仕業の可能性が高いしね。」
そうキッパリと言う兄さん。
「…兄さんは、【呪い】と言うのを聞いた事があるのか。」
「うん。でも、本来その【呪い】はね、トリーティア子爵令息の婚約者の家が代々受け継いでいる筈の術なんだよ。」
兄さんの話は、聞いた事のない事ばかりだった。
【呪い】は、昔の王家が開発した術であり、魔法とは違って魔力を対価とするのではなく、別の物を対価にして行使する術だと。
魔力を対価にすることも可能だが、【呪い】の対価として魔力を使用した場合、魔力の絶対量が減る。
本来魔力は、自然に回復するが、個人で魔力量に違いが出る。所謂グラスの様なものだ。グラスが魔力量の限界。そしてその中に入る水が魔力だ。絶対量が減るというのは、グラスが小さくなることを指す。
ただ、魔法として行使できない大魔法も【呪い】としてなら行使できる、という点から、昔から重宝されていたらしい。
しかし、王家の者が大々的に使う訳にはいかない。王家の者から魔力が失われていけばすぐに気づかれる。そして王家以外にその術が知れれば、一番に狙われるのは王家だ。
【呪い】は、かける対象の一部を必要とする。髪の毛でも、爪でも唾液でも、なんでもいいらしい。王家の者の一部など簡単に手に入る。暗殺し放題になってしまう事だろう。
だから、【呪い】の存在は秘匿され、王族とその側近だった一族にしか伝えられていない。
………何故それを兄さんが知っているだろうな……。
「その側近だった者の一族というのがトリーティア子爵令息の婚約者、リュリーティス・ファーキス公爵令嬢の家なんだよ。」
「ファーキス公爵令嬢から教わったと?」
「さあ?それはわからない。幼い頃から教育されているだろうから、幼い頃からの婚約者にポロッと言ってしまったのかもしれないし。」
……なんとも頭が痛いな……。
「そして問題の【呪い】を解く方法なんだけど……、なんというか、ね…?ロマンチックというか…。ラインハルト恋人居る?」
「は?」
何故今その話になるんだ。
動揺して、は?としか言えない。兄さん面白がってないか?顔が見えないからわからないんだが?
「いやね、解呪方法がさ、真実の愛のキスなんだよ。しかも恋愛的な意味で自分を好いてくれてる相手とのキス。」
「……………巫山戯てない?」
思わず聞いてしまった。兄さんは頑張って調べて来てくれたのに。…調べてくれたんだよな?
「これがね、馬鹿にできないんだよ?ロマンチックだけど、真実の愛なんて滅多にない。見た目、地位、金、力。まあ、他にも色々惚れる理由はあるだろうね。」
「もしそれを相手が失った時、本当にその相手を愛し通せるか。」
「解呪するってことは、その時の国王を敵に回すってこと。それをすれば今までの暮らしのままで居られるわけがない。」
「自分や周りの家族も無事ではいられないだろうね。究極の選択だ。」
…………そう考えると、中々に酷いな。
「まあ、今回のラインハルトの件は王家との関わりは無く、ただの私怨だからそんな選択肢はないけどね。本当に好きな人とかいないの?」
「………。」
人、ではないよな……?
やはり好きな、と言われて出てくるのはルイスで、ルイスが居るはずの隣へ顔を向ける。
「……ラインハルト。」
兄さんに名前を呼ばれる。感覚でそちらに顔を向けた。
「トリーティア子爵令息の言うように、ルイス君はノーネという人間の子かもしれない。けれど、呪いをかけられてどういう状態なのかわからない。」
兄さんは静かに話す。いつもの飛び跳ねるみたいな声とは全然違う。
「もし、ルイス君が今のラインハルトが好きで、呪いが解けたとしても、ノーネ君に戻ったとき愛してくれるとは限らない。」
………。
「いいかい。ラインハルトの呪いが解けるってことは、ルイス君の呪いも解けちゃうんだ。もしかしたらルイス君の呪いだけ解けちゃう可能性もある。」
……そうだな。自分を好いてくれてる相手からのキスなのだから、ルイスが俺を好きでなければ俺の呪いは解けない。
「ルイス君に呪いがかかっていて、それをラインハルトが解いたとして、ルイス君に嫌われる覚悟はある?」
………。
「ルイス君は今寝てる。ラインハルトの正直な気持ちを言いなさい。」
珍しい兄さんの命令口調。兄さんなりに、俺の事を考えてくれている事が伝わってくる。
喉の奥から、よくわからない感情が湧き出てくる。
「…………、正直に言うと、嫌われるのは怖い……。」
そう、怖い。ルイスに気持ちを聞いて、離れられてしまうかもしれない。嫌われてしまうかもしれない。それならいっそ、このままで居たいとも思う。
それでも……
「呪いを解きたい。ルイスの呪いが解けて、俺から離れて行ってしまうとしても、ルイスの呪いを解きたいんだ。」
「……ラインハルトの呪いは解けずに、ルイス君も居なくなる、なんて事もあり得るんだよ。」
すかさず兄さんは最悪の事態を示す。
「…これは、一世一代の賭けだよ。しかも確率は限りなく低い。」
言ってくれるなぁ。わかってるよ。確率が低い事ぐらい。
でもね、兄さん。何事もやってみなければわからないんだ。
「……決めると頑固なのは父上に似てるよね、ほんと。」
俺が意見をまげないのがわかったらしい。兄さんに苦笑されてしまった。
「忘れてるかもしれないけど、ルイス君がノーネ君じゃないっていう事もあり得るし、寧ろそっちの方が可能性は高いからね。」
あ、そうだった。
「忘れてたね?」
「ヴ……えっと、ファーリー、兄さんを部屋に案内してくれ。兄さん、泊まれる部屋を用意してあるから今日は泊まっていってよ。」
「…まあいいよ。有難く泊まらせて頂こう。……ラインハルト。君はゆっくりルイス君と話すといい。」
じゃぁねー、と言って兄さんは部屋から出た、と思う。
部屋が、しん、と静まり返る。僅かに聞こえる呼吸音は、俺とルイスのものだろう。
……ルイスはまだ寝ているか…。
撫でたいが、触る場所を間違えそうだ。
起こすのも申し訳ないな、と思いながら、心の中で覚悟をしたはずの自分が少しでも時間を延ばそうとしている。
覚悟は決めたし、やめる気はないのに、後一歩が踏み出し難い。
……………、……、…。
「………なあ、ルイス。キスしてくれないか。」
「わふ。」
「!?!?!!?」
驚いて立ち上がった俺は、椅子に足を引っ掛けて盛大に転けた。
ルイスが咄嗟に庇ってくれたお陰で床に体を打ち付ける事はなかった。
体は怪我しなかったが、心はぐちゃぐちゃだ。
寝ていると思って話しかけた相手から返事が来て、どちらかといえば肯定の返事をもらってしまったんだ。
勘違いかもしれないが、いい返事を貰えて嬉しい。でも恥ずかしすぎて顔から火が出そうだし、その後びっくりして盛大に転けたのが格好悪すぎる…。
「る、るいす、下敷きにしてすまない。怪我はないか?」
「ガァウ。」
ルイスが大丈夫と言うように、顔に擦り寄ってくる。
………そろそろ腹をくくったらどうだ俺。
「……その、さっきの……、き、キスの件なんだが!!」
あ、き、緊張して大きな声を出してしまった。ルイスは大きな声が苦手なのに…。
ああ、本当に俺は駄目だ……。
一度そう思うと、どんどん暗い方へ思考が流れていく。顔も下を向いていく。相変わらず何も見えない。真っ暗な闇だ。
「ワフン。」
…、?
「どうした?ルイス。」
ルイスが鳴いて、暗い思考から少し浮き出てくる。自然と顔もルイスの方を向いている、と思う。
___ふわっ、と口に何かが触れて。
視界が開けた。
目が…見えている……?
つ、つまり、少なくともフェンリルの時のルイスは俺の事が………。
期待で体がわなわなと震える。
「大丈夫か?」
そう聞いてくる声は、この部屋には俺とルイスしか居なくて、ルイスの筈で…!
心配げな声に嫌悪など微塵も感じられない。
「ルイ、す……?」
喜び勇んで見た先には____。
「ああ、ルイスだ。」
そう、心底嬉しそうに話す少年。
夕焼けよりも鮮やかな赤い髪は、襟足だけが少しのびていて、サラリと揺れる。
新緑のように優しげな瞳は、まっすぐにこちらを見つめてくれる。
少年は、年頃を考えても少し小柄で、俺が抱きしめたら簡単に腕の中で囲えそうだ。
そんな、誰もが美人だと言うだろう少年は______裸だった。
「ら、ラインハルト!?鼻血が!」
え?
少年ことルイスに指摘され鼻周辺を触って見れば、確かに血がついた。
「大丈夫か?」
そう言って近かった距離をさらに詰めてくるルイス。その、色々と丸見えなんだが、…!?
鼻血の勢いは止まるはずがなく………。
フラ~っと倒れていく体。
「ラ、ラインハルトぉ~!!」
ルイスが叫びながら、倒れる俺の体を支える。
………ハッ、これが俗に言うラッキースケベか……!!(大正解)
そう考えたのを最後に、俺の意識は遠ざかっていった。
その間にトリーティア子爵令息から自供が取れた。
トリーティア子爵令息の供述はこうだ。
曰く、ルイスはノーネを獣化した姿だと。しかもそうしたのはトリーティア子爵令息自身。
曰く、ノーネは自分の立場を慮って身を引いたのだと。それを自分は追いかけてきたと。
曰く、ノーネことルイスは、俺に拘束されていて、逃げ出そうにも四六時中傍にいるから逃げられない。それを自分は助けに来たのだ、と。
曰く、俺を失明させたのは自身だ、と。
___そして、一連の犯行は【呪い】を使って行った、と。
魔法ではなく呪い。俄に信じ難い供述に、ファーリーやバーンも首を傾げる。
しかし、魔法でやったとすると、トリーティア子爵令息の魔力では足りないのだ。そうすると、協力者でも居るのか、という問題になってくるのだが、一向にその協力者が見つからない。
一連の犯行をするには、禁術の類を持ち要らねばならず、莫大な魔力が必要となる。
__それこそ、人一人を贄にしても足りない程の___
妄言か、それとも……
「俺はね、トリーティア子爵令息の供述は真実だと思うよ。少なくともラインハルトの失明はトリーティア子爵令息の仕業の可能性が高いしね。」
そうキッパリと言う兄さん。
「…兄さんは、【呪い】と言うのを聞いた事があるのか。」
「うん。でも、本来その【呪い】はね、トリーティア子爵令息の婚約者の家が代々受け継いでいる筈の術なんだよ。」
兄さんの話は、聞いた事のない事ばかりだった。
【呪い】は、昔の王家が開発した術であり、魔法とは違って魔力を対価とするのではなく、別の物を対価にして行使する術だと。
魔力を対価にすることも可能だが、【呪い】の対価として魔力を使用した場合、魔力の絶対量が減る。
本来魔力は、自然に回復するが、個人で魔力量に違いが出る。所謂グラスの様なものだ。グラスが魔力量の限界。そしてその中に入る水が魔力だ。絶対量が減るというのは、グラスが小さくなることを指す。
ただ、魔法として行使できない大魔法も【呪い】としてなら行使できる、という点から、昔から重宝されていたらしい。
しかし、王家の者が大々的に使う訳にはいかない。王家の者から魔力が失われていけばすぐに気づかれる。そして王家以外にその術が知れれば、一番に狙われるのは王家だ。
【呪い】は、かける対象の一部を必要とする。髪の毛でも、爪でも唾液でも、なんでもいいらしい。王家の者の一部など簡単に手に入る。暗殺し放題になってしまう事だろう。
だから、【呪い】の存在は秘匿され、王族とその側近だった一族にしか伝えられていない。
………何故それを兄さんが知っているだろうな……。
「その側近だった者の一族というのがトリーティア子爵令息の婚約者、リュリーティス・ファーキス公爵令嬢の家なんだよ。」
「ファーキス公爵令嬢から教わったと?」
「さあ?それはわからない。幼い頃から教育されているだろうから、幼い頃からの婚約者にポロッと言ってしまったのかもしれないし。」
……なんとも頭が痛いな……。
「そして問題の【呪い】を解く方法なんだけど……、なんというか、ね…?ロマンチックというか…。ラインハルト恋人居る?」
「は?」
何故今その話になるんだ。
動揺して、は?としか言えない。兄さん面白がってないか?顔が見えないからわからないんだが?
「いやね、解呪方法がさ、真実の愛のキスなんだよ。しかも恋愛的な意味で自分を好いてくれてる相手とのキス。」
「……………巫山戯てない?」
思わず聞いてしまった。兄さんは頑張って調べて来てくれたのに。…調べてくれたんだよな?
「これがね、馬鹿にできないんだよ?ロマンチックだけど、真実の愛なんて滅多にない。見た目、地位、金、力。まあ、他にも色々惚れる理由はあるだろうね。」
「もしそれを相手が失った時、本当にその相手を愛し通せるか。」
「解呪するってことは、その時の国王を敵に回すってこと。それをすれば今までの暮らしのままで居られるわけがない。」
「自分や周りの家族も無事ではいられないだろうね。究極の選択だ。」
…………そう考えると、中々に酷いな。
「まあ、今回のラインハルトの件は王家との関わりは無く、ただの私怨だからそんな選択肢はないけどね。本当に好きな人とかいないの?」
「………。」
人、ではないよな……?
やはり好きな、と言われて出てくるのはルイスで、ルイスが居るはずの隣へ顔を向ける。
「……ラインハルト。」
兄さんに名前を呼ばれる。感覚でそちらに顔を向けた。
「トリーティア子爵令息の言うように、ルイス君はノーネという人間の子かもしれない。けれど、呪いをかけられてどういう状態なのかわからない。」
兄さんは静かに話す。いつもの飛び跳ねるみたいな声とは全然違う。
「もし、ルイス君が今のラインハルトが好きで、呪いが解けたとしても、ノーネ君に戻ったとき愛してくれるとは限らない。」
………。
「いいかい。ラインハルトの呪いが解けるってことは、ルイス君の呪いも解けちゃうんだ。もしかしたらルイス君の呪いだけ解けちゃう可能性もある。」
……そうだな。自分を好いてくれてる相手からのキスなのだから、ルイスが俺を好きでなければ俺の呪いは解けない。
「ルイス君に呪いがかかっていて、それをラインハルトが解いたとして、ルイス君に嫌われる覚悟はある?」
………。
「ルイス君は今寝てる。ラインハルトの正直な気持ちを言いなさい。」
珍しい兄さんの命令口調。兄さんなりに、俺の事を考えてくれている事が伝わってくる。
喉の奥から、よくわからない感情が湧き出てくる。
「…………、正直に言うと、嫌われるのは怖い……。」
そう、怖い。ルイスに気持ちを聞いて、離れられてしまうかもしれない。嫌われてしまうかもしれない。それならいっそ、このままで居たいとも思う。
それでも……
「呪いを解きたい。ルイスの呪いが解けて、俺から離れて行ってしまうとしても、ルイスの呪いを解きたいんだ。」
「……ラインハルトの呪いは解けずに、ルイス君も居なくなる、なんて事もあり得るんだよ。」
すかさず兄さんは最悪の事態を示す。
「…これは、一世一代の賭けだよ。しかも確率は限りなく低い。」
言ってくれるなぁ。わかってるよ。確率が低い事ぐらい。
でもね、兄さん。何事もやってみなければわからないんだ。
「……決めると頑固なのは父上に似てるよね、ほんと。」
俺が意見をまげないのがわかったらしい。兄さんに苦笑されてしまった。
「忘れてるかもしれないけど、ルイス君がノーネ君じゃないっていう事もあり得るし、寧ろそっちの方が可能性は高いからね。」
あ、そうだった。
「忘れてたね?」
「ヴ……えっと、ファーリー、兄さんを部屋に案内してくれ。兄さん、泊まれる部屋を用意してあるから今日は泊まっていってよ。」
「…まあいいよ。有難く泊まらせて頂こう。……ラインハルト。君はゆっくりルイス君と話すといい。」
じゃぁねー、と言って兄さんは部屋から出た、と思う。
部屋が、しん、と静まり返る。僅かに聞こえる呼吸音は、俺とルイスのものだろう。
……ルイスはまだ寝ているか…。
撫でたいが、触る場所を間違えそうだ。
起こすのも申し訳ないな、と思いながら、心の中で覚悟をしたはずの自分が少しでも時間を延ばそうとしている。
覚悟は決めたし、やめる気はないのに、後一歩が踏み出し難い。
……………、……、…。
「………なあ、ルイス。キスしてくれないか。」
「わふ。」
「!?!?!!?」
驚いて立ち上がった俺は、椅子に足を引っ掛けて盛大に転けた。
ルイスが咄嗟に庇ってくれたお陰で床に体を打ち付ける事はなかった。
体は怪我しなかったが、心はぐちゃぐちゃだ。
寝ていると思って話しかけた相手から返事が来て、どちらかといえば肯定の返事をもらってしまったんだ。
勘違いかもしれないが、いい返事を貰えて嬉しい。でも恥ずかしすぎて顔から火が出そうだし、その後びっくりして盛大に転けたのが格好悪すぎる…。
「る、るいす、下敷きにしてすまない。怪我はないか?」
「ガァウ。」
ルイスが大丈夫と言うように、顔に擦り寄ってくる。
………そろそろ腹をくくったらどうだ俺。
「……その、さっきの……、き、キスの件なんだが!!」
あ、き、緊張して大きな声を出してしまった。ルイスは大きな声が苦手なのに…。
ああ、本当に俺は駄目だ……。
一度そう思うと、どんどん暗い方へ思考が流れていく。顔も下を向いていく。相変わらず何も見えない。真っ暗な闇だ。
「ワフン。」
…、?
「どうした?ルイス。」
ルイスが鳴いて、暗い思考から少し浮き出てくる。自然と顔もルイスの方を向いている、と思う。
___ふわっ、と口に何かが触れて。
視界が開けた。
目が…見えている……?
つ、つまり、少なくともフェンリルの時のルイスは俺の事が………。
期待で体がわなわなと震える。
「大丈夫か?」
そう聞いてくる声は、この部屋には俺とルイスしか居なくて、ルイスの筈で…!
心配げな声に嫌悪など微塵も感じられない。
「ルイ、す……?」
喜び勇んで見た先には____。
「ああ、ルイスだ。」
そう、心底嬉しそうに話す少年。
夕焼けよりも鮮やかな赤い髪は、襟足だけが少しのびていて、サラリと揺れる。
新緑のように優しげな瞳は、まっすぐにこちらを見つめてくれる。
少年は、年頃を考えても少し小柄で、俺が抱きしめたら簡単に腕の中で囲えそうだ。
そんな、誰もが美人だと言うだろう少年は______裸だった。
「ら、ラインハルト!?鼻血が!」
え?
少年ことルイスに指摘され鼻周辺を触って見れば、確かに血がついた。
「大丈夫か?」
そう言って近かった距離をさらに詰めてくるルイス。その、色々と丸見えなんだが、…!?
鼻血の勢いは止まるはずがなく………。
フラ~っと倒れていく体。
「ラ、ラインハルトぉ~!!」
ルイスが叫びながら、倒れる俺の体を支える。
………ハッ、これが俗に言うラッキースケベか……!!(大正解)
そう考えたのを最後に、俺の意識は遠ざかっていった。
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