転生したらいつの間にかフェンリルになってた〜しかも美醜逆転だったみたいだけど俺には全く関係ない〜

春色悠

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第一章

夜会とリボン ラインハルト視点

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 夜会当日。
 空の色がオレンジから黒に変わっていく時間。俺とルイスは夜会の会場に向かっていた。
 今回の夜会は、城の庭、つまり外で行われる、と招待状に書いてあった。
 招待者達の同伴で来る使い魔達がのびのび過ごせる様に、との配慮らしい。夜会なのも、日光に弱い使い魔に対しての配慮だ。
 ここまで使い魔に配慮されるのは、今回の招待客の多くが、騎士団や討伐部隊の者達が多く居るのに関係する。
 騎士団や討伐部隊は、使い魔と共に戦い苦楽を共にしてきた者が多く、とても深い絆で結ばれているがゆえ、蔑ろにすれば勿論怒る。
 王族も、国防の要の者達を怒らせたくは無い。
 まあ、簡単にまとめると、使い魔への配慮が一番のおもてなしになる、と言うことだ。
 因みに、嗅覚が敏感な使い魔も多いから匂いのキツい物も無いらしい。それならルイスも大丈夫だろう。駄目ならさっさと帰ろう。うん。そうしよう。
 機会があればさっさと帰ろうと画策しながら、広い王城を案内人について進む。
 横には勿論ルイス。そしてルイスの首には、その、リボンが結ばれている、のだが……。
 考える度に頬が緩んで、ニマニマとだらしない顔を晒してしまう。
 ルイスがつけているリボンはその、俺の…髪や目の色、によく似ている。それも、数あるリボンの中から、ルイス自ら選んでその色なんだ。
 選ばれた瞬間膝から崩れ落ちかけた。うめき声は出た。ファーリーはほっほっほと笑っていた。
 一応鮮やかな色のリボンも薦めてはみたが、突き返されてしまったので、喜びが倍増しただけとなった。
 それから、選ばれたリボンはなんの装飾もなかったからファーリーに刺繍してもらった。ルイスの綺麗な瞳の色にしてもらった。……こう、意外と色が馴染んでお洒落な感じになったのも、俺の表情筋の緩みを助長させている。
 ルイスに物凄くニマニマしているのを顔見されている俺は、誤魔化す様にルイスの頭を撫でる。するとブンブンと尻尾を振るものだから、もっと頬が緩む。
 幸せな気持ちになりながら夜会会場につく。夜会会場は見事なもので、空に幾つもの鮮やかなランタンが浮かび、夜の庭が大変幻想的だ。
 会場の美しさに感動しているうちに、案内人が俺の到着を述べる。
「アルンディオ辺境伯領が領主、ラインハルト・アルンディオ様と使い魔様がご到着なされました!!」
 あっ……。ルイスは一応使い魔ではないんだが……?そもそも使い魔の基準とはなんだったか……。使い魔召喚がまずできてないから知らないのだが…。
 動揺しつつも、取り敢えず陛下にご挨拶しなければとルイスと一緒に陛下の所へ行く。
 陛下は外にあるとは思えない程豪奢な椅子に座って居られて、相変わらず容姿端麗で威厳のあるお方だ。
 陛下の前で膝をつき、臣下の礼を取る。
「頭を上げて良い。今回の件で魔物の被害が減った事、大変大義であった。」
「はっ!有難き御言葉で御座います。陛下におかれましても…」
「堅苦しい挨拶はよい。今宵は兵士達への労いの宴だ。お主も存分に楽しめ。」
「…有難う存じます。」
 相変わらずの御方だ。臣下に堅苦しい挨拶はいいと言いながら、本当に辞めればどうなることやら。
「して、お主も使い魔ができたようだな。」
「…いえ、使い魔では御座いません。」
 陛下にはあまり嘘をつく事は得策ではない。後々面倒だから正直に喋る。
「なんだと?」
 案の定、陛下の目が少し鋭くなった。
「命を救って頂いた恩のある者です。その後一緒に行動しておりますが、使い魔では御座いません。無闇に人を襲ったりすることも御座いませんのでご安心を。」
「そうか……。見た所、フェンリルのようだが、珍しい毛色だな。此度の活躍にも関わったと聞くが?」
「毛色は私も驚きました。活躍については、強者である、とは申しておきます。」
 話題がルイスに移ってしまった。生憎と今は挨拶待ちの者も居ない。…連れてくるべきではなかったか。
「ふむ…。それにしても実に美しい。フェンリルとは俄に信じ難いな。」
「……ですが他に似ている生物もおりませんゆえ。」
「そうだな。」
 もういいだろうか……!!胃に穴が空きそうなんだが!?
 陛下の品定めするような視線に胃が痛くなりそうになる。視線が横に居るルイス移り、ルイスはルイスで、じっと陛下を見る。……もやっとするな。
「お前の恩獣に名はあるのか。」
「私はルイスと呼んでおります。」
 なんだ!?名前を聞いてどうするつもりなんだ陛下は…!
 依然として見つめ合ったままのルイスと陛下。もやもやしながら見守る俺。
「ふむ……。ルイスとやら、私の使い魔になる気はないか?」
 っ!!?
 息を呑む。
 ………こんな事なら、使い魔だと言っておけばよかった……。まさかルイスを使い魔になどと言われるとは……!
 ルイスを見ると、静かに陛下を見ている。
 断って欲しい、そう思いながら、ルイスを見つめる。ちらっとこちらを向いたルイスと目が合う。
 そしてまた陛下へと視線を移した。
 心臓が嫌な音を立てる。……いやだ、行かないでくれ、傍にいてくれ………!
 
 そしてルイスは、______陛下に向かって首を横に振った。
「ハハっ!振られてしまったな!!」
 陛下がそう口にして、どっと肩から力が抜ける。ルイスがすりすりと頭を押し付けてきて、撫でれば尻尾を振られる。
「随分と懐かれているようではないか。」
 面白可笑しそうに陛下が言ってくる。
「……嬉しい限りです。」
 思わず本心が出る。また陛下が面白そうにする。………何がそんなに面白いんだか。
「いい物を見せてもらった。そろそろ他の者も来たようだな。今宵は楽しめ。下がってよい。」
「はっ!」
 ………ふぅ。胃がキリキリする気がする。今すぐ帰ってルイスをもふもふしたい……。
 
 少し陛下から離れた所で落ち着く。まだまだ参加者は集まりきっておらず、人もまばらだ。
「ラインハルト様。ご機嫌いかがですか?」
「バーン隊長……。お前も呼ばれたのか。」
「隊長格が軒並み呼ばれてるみたいですよ。……それと、この間はうちの隊員を守ってくださり、誠に感謝しています。命に別状のないくらいの怪我で仕事も続けられます。」
 そうか、仕事も続けられるくらい元気なら大丈夫だな。
「いや、命に関わるような怪我でなくてよかった。それと礼ならルイスに言ってくれ。あれはほぼルイスのお陰だ。」
「勿論御二方共に感謝していますとも!」
 そう言って笑うバーンは、とても気のいい男だ。
「ルイス様、うちの隊員を守ってくださりありがとう御座います。うちの隊でも人気がうなぎのぼりです。」
「ガゥ。」
「ほんとに、暇な時に構ってやったら喜ぶと思うんで、構ってやってくださいね。」
 そう、冗談めかして言うバーンにルイスも尻尾をゆったりと振っている。……む、なんだかもやっとするな。そう思うと、バーンに苦笑された。
「ラインハルト様、嫉妬しないでくださいよ。」
 …?……嫉妬?
「ありゃ、これは無自覚ですか…。」
「そうそう!そ~なんだよぉ~!」
「っ!?兄さん!?」
 うわびっくりした!!バーンもびっくりしてる。兄さん事務職なのに気配消すのうますぎないか?
「はいは~い!お兄さんだよ!アリー隊長、ルイス君、お噂はかねがね。ラインハルトの兄のクリストファー・アルンディオだよ。よろしくね。」
「はい。よろしくお願いします。バーン・アリーと申します。」
 ルイスも無言で会釈する。
「わぁ~、君がルイス君かぁ!賢い子だね!撫でていい?」
「ガゥ。」
「ありがと~!」
 大人しく撫でられるルイス。………。
 なんとなく、またもやもやして、ルイスの尻尾を見るとゆったりと振られていて、少しもやもやが収まる。………嫉妬なんだろうか。
「おっ!リボンとネクタイお揃いなんだ~!かわいいね!」
 ん゛んっ!指摘されると照れる。俺の照れ顔など晒す訳に行かないのにどうしてくれるんだ兄さん!!尻尾を振らないでくれルイス!!嬉しくて頬が緩むから…!!
「う~ん…仲良しだね~。」
「青春ですね…。」
 好き放題言うなバーンに兄さん。
「あ、そういえば言っておきたい事があるんだった!」
「…なんですか?」
 急に兄さんが声をあげる。
「もう!敬語じゃなくていいのに!」
「…わかったよ…。で、言いたいことって?」
「そうそう!今ね、コルポディ領で誘拐事件が何件か起きてるらしいだ。それも赤髪の容姿の良い子が。」
 コルポディ領はうちの領のすぐ横だな。……ルイスも危ないかもな。
 俺とバーンはルイスに視線を向ける。
「ルイス君は人間じゃないけど、綺麗な赤毛だから誘拐されちゃうかもしれない。気をつけておいて損はないよ。」
「……ありがとう、クリス兄さん。」
「んはは!かわいい弟の恩獣だからね!」
 兄さんの独特な笑い声、久しぶりに聞いたな。
 その後、夜会は特に騒ぎもなく終わり、俺とルイスはバーンと一緒に領に帰った。

 
 そろそろ忙しい季節だ。
 我がアルンディオ領伝統祭り、雨降祭りの季節が今年もやってくる。
 ………今年も忙殺される事になりそうだな……。
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