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第一章

なんかやばそうな奴 ルイス視点

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 なんかやばい気配がする!!


 
 なんかラインハルトが凄くイラついてるな。原因は明白。ラインハルトの従兄弟らしい男である。
 アスターと言うらしいその男は、少々目に痛い紫色の髪に、これまた目に痛い蛍光色の黄色の目を持った、言ってしまえば俺と同じ平凡顔の男だった。
 俺の主観も入るからなんとも言えないけどな。でも取り敢えず目に痛い男な事は間違いない。
 最初は目に痛いとしか思わなかったが、ラインハルトに絡みだしてから俺の好感度もだだ下がりである。段々と顔が醜悪に見えてくるぐらいである。
 そろそろ目が疲れてきたし、俺もイライラしてきた。……いっその事先に行くか。
 いい案だと思った俺は、ラインハルトに吠える。
「ガゥァ。」
「ルイス?」
 くいっと顔を動かして、乗れと合図する。不思議そうな顔をしたラインハルトだったが、俺のしたい事がわかったのか目を輝かせた。
「私は先に森の入り口を見てくる!お前達はこのまま警戒しながら進んでくれ!」
「はっ!了解しました!」
「ちょっ…!おい!」
 了解の返事を聞いた瞬間に俺は走り出す。アスターが何か言っていた気がするが知らん!
 どんどんと討伐部隊達から遠ざかっていく。
 この頃走れて無かったから気持ちいいな!
「ルイスは本当に最高だな!!」
「わふん!」
 ラインハルトも同じ気持ちだったらしい。褒められて自慢げな声が出る。
 ラインハルトが楽しそうな声をあげるのを聞きながらスピードをまたあげる。ラインハルトかましっかりと掴まってくれているのでスピードが上げやすい。
 そんなこんなですぐに森の入り口についてしまった。
 ラインハルトは俺から降りて、森の入り口周辺を調べだした。
「異常はなさそうだな。…!?」
 ラインハルトが呟いたその瞬間。俺は嫌な予感がし、ラインハルトを茂みに引きずり込んだ。
 ラインハルトが驚いている気配がするがそれどころではない。
 …………何か来る。
 フェンリルになったからか、俺は五感が鋭くなっている。それでも、これほど悪い予感は今まで感じたことがない。……何が来るって言うんだ……。
 ガサガサと音を立てながらその『ナニカ』が近づいてくる。ラインハルトもそろそろ気づいたらしい。注目している。
 茂みから『ナニカ』が姿を現す。
 そいつの姿は、異様としか言えない。蛇の胴体と顔をしているのに、胴体から狼の足が生えているのである。おまけに至る所から角の様なモノが生えている。その体全てが黒く、異様な雰囲気に拍車をかけていた。
 俺が知る話の中、前世の話になってしまうが、その中ならキメラと呼ぶのが一番しっくりくる。
 ラインハルトと共に茂みに隠れながら、様子を伺う。
 暫くするとキメラは通り過ぎていった。
 知能が低いのか、単に気づかなかっただけか。どちらにしても助かった。あいつはやばい。
 ラインハルトを背に乗せ、討伐部隊の所に戻る。討伐部隊も大分進んでいたようで森の入り口の近くまで来ていた。
「緊急事態だ。キメラが確認された。推定リジャースネイクが主体の狼、シェイガーの混合だと思われる。出現場所は森の入り口付近。」
 ラインハルトは討伐部隊の隊長に報告する。この世界でもキメラと言うんだな。
「!!ラット!今の聞いてたな!?応援を要請しに走れ!」
「はっ!」
 ラインハルトの報告を受け、隊長はすぐ隊員に指示をだした。
「総員!ここにキャンプを設立する!始めろ!」
「はっ!」
「ラインハルト様。私達はここに見張りで残りますが、ラインハルト様はどういたしますか。」
「私も残ろう。家の事はファーリーに頼んである。応援が来次第、討伐を始めるぞ。これ以上進化する前にやらねばならん。」
「承知しま「はっ!とんだ意気地なしだな、俺ならそんなキメラ、一人でやれる!」!?」
 ラインハルトと隊長の会話に入ってきたのは、アスターである。変わらずに目に痛い男だな。
 アスターは一人でやれるなどとほざいた後、森の方へ走っていった。……自殺志願者か?それともよほど自分の実力に自信があるのか。多分後者だろうが、アスターにそれ程実力があるとは思えないな。
 隊長もラインハルトも盛大なため息を吐き、何人かに連れ戻すよう促した。
 そして数分後、キャンプ場は完成したが、アスターと連れ戻しに行った隊員はまだ帰ってきていない。……にしてもキャンプ場できるの早くないか。経験値の差か?
「……遅いですね。」
「……嗚呼、なんだが嫌な予感がするな……。」
 同感だラインハルト。俺も嫌な予感がするよ。ラインハルト憂鬱になったのか、俺をもふりだす。…………仕方がない、好きなだけもふれ!特別だぞ!
「ぅわああああああ!!!!」
 そら見たことか。アスターが喚きながら走って帰ってきた。
「……嫌な予感が当たったな……、はぁ…。」
 ラインハルトの目からそろそろハイライトが消えそうだ。隊長も額に手を当てて天を仰いでいる。
 だが、アスターを連れ戻しに行った隊員達が戻って来てないぞ?
「おいアスター。お前を連れ戻しに行った隊員はどうした。」
「知らねぇよ!!キメラにでも喰われたんじゃねえの!!?」
 アスターはその後も喚き散らし、やれ俺を安全に送り届けろだの、さっさと手当しろだの。なんでも手首を捻ったとか。
「……お前、持っていた剣はどうした!まさかキメラに喰われたんじゃないだろうな!!?」
「そうだよ!!んなことどうでもいいだろ!?さっさと手当しろよ!!」
「なんだと!?お前らすぐに準備しろ!!予定変更だ!応援を待つ時間はなくなった!!」
 ラインハルトはアスターが剣を持っていないことに気がついたようで、アスターに問いただした。剣はキメラに喰われてしまったようで、それを聞いたラインハルト達は、急に騒ぎ出した。
 いったいどうしたんだ?話の流れが読めないんだが…。
「ルイス。俺はキメラの討伐に行ってくる。」
 言うだけ言って、ラインハルトは走り出してしまった。おいおい、俺を置いていく気か?
 置いていく気のラインハルトにイラッとした俺は、走るラインハルトを咥えて俺の背に放り投げた。
「る、るいす?」
「ガゥラァ。」
 置いていってんじゃねぇぞゴラァ。と言う気持ちで吠える。
 混乱しつつも、しっかりと俺に掴まっているので走り出す。何か言っているが聞こえないなぁ!
「……しょうが無いな。」
 しょうがないのはお前の方だぞラインハルト。
「……さっきアスターが剣をキメラに喰われたと言っていただろう。多分すぐにキメラは剣を取り込んで進化するはずだ。普通の剣なら問題はさして無かったんだが………。」
 そこで止めるなラインハルト。普通の剣ならってなんだ。魔剣でも持ってたのかアスターは。
「……アスターの持ってた剣は、騎士団支給の魔力防壁が張れる物なんだ。そこまで性能の良い物では無いが、キメラが魔力防壁を張れるようになったら厄介この上ない。」
「…しかもリジャースネイクが毒持ちなうえ、体に生えているシェイガーの角に気をつけながらだ。狼の足もついているから、動きも早い。」
「サイっアクの状況だ。やってくれたなアスター………。」
 ラインハルトから恨み言が飛び出る。
 確かにこんな状況つくっておきながら、本人は逃げて帰ってきて、喚いているだけ。恨み言の一つや二つ吐きたくなる。
「巻き込んでおいてなんだが、死なないでくれよ。ルイス。」
「ガゥ!」
 任せておけ!何ならもしもの時はラインハルトも連れて逃げてやろうじゃないか。逃げ足も速いぞ俺は。
「ははっ…頼もしいな。」
 森が段々近づいてくる。
 …………!!あれはアスターを連れ戻しに行った隊員達じゃないか?あの人達がキメラを食い止めていたのか!
 隊員達は、キメラから一定の距離を取りながらも、街の方には行かないよう、誘導していた。
 頭上でラインハルトが剣を抜く気配がする。いよいよ戦闘が始まってしまうようだ。

 
 …………お前の方こそ死んでくれるなよ。ラインハルト。
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