転生したらいつの間にかフェンリルになってた〜しかも美醜逆転だったみたいだけど俺には全く関係ない〜

春色悠

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プロローグ〜違和感〜

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「ギャァァァ!!!」
 あたり一帯に断末魔が響く。
 たった今討伐したばかりの魔物は血の海に沈んでいる。あたりを見回すと、これで最後の一匹だったらしい。
「ルイス。」
 遠くから名前を呼ばれたが、俺の優秀な耳は声を拾う。例え叫ばずとも、このくらいの距離ならばよく聞こえる。
 走って声の主の元へ向う。
「よくやった。後でたらふく食わせてやる。」
 わしゃわしゃと俺の頭を撫でくりまわされながら、ご褒美の話をされ、尻尾がブンブンと動いてしまう。
「ワン!」
 嬉しい気持ちを込めて出した声は、まるで犬のような鳴き声だった。




 パチパチと火の粉が弾ける音が聞こえる中、今か今かと待っている俺。
「まだだぞルイス。もう少しだからな。」
 横からそう声をかけてくれる美丈夫はラインハルト。俺の飼い主である。
 因みに言っておくが俺は犬じゃない。フェンリルだ。気がついたらフェンリルだった。
 というのも、俺は一度、ストーカーに殺されたはずだった。今だに何で俺がストーカーされたのかはわからないが、取り敢えず一度死んだはずだった。
 そしてこれまた何故か、記憶を持ったまま転生し、人間して生まれた。
 …………そう、人間に生まれたはずだった。だが気がついたらフェンリルだったんだ。
 もう一度死んで、フェンリルに生まれなおしたのかとも、思ったんだが、産まれたてにしては体が大きく、近くに親も居なかった。死んだ記憶も無いしな。
 そして決め手は体の色だ。通常フェンリルは銀色の毛並みに黒色の眼なのだが、俺は赤みの強いオレンジ色の毛並みに、緑色の眼だ。川で確認した。
 何故フェンリルになってるんだ俺は…………。
 そもそもなろうと思ってなれるのかフェンリルって……?
「…?どうしたルイス。肉が焼けたぞ。」
「わぅ。」
 考え込んでいたらラインハルトを心配させてしまったらしい。ラインハルトのクールな顔が心配の色で染まっている。
 心配しなくて大丈夫の意味を込めて、顔を擦り付けながら一声鳴く。
「ふっ…くすぐったいぞ…そんなに腹が空いていたのか?ちゃんと待てて偉いぞ。」
 そう言って、またわしゃわしゃと頭を撫でてくれた。
 そして目の前には美味しそうな肉の丸焼き。因みにイノシシの様な見た目の魔物の肉だ。イエローボアと言うらしい。確かに黄色かった。
 美味しいご飯にいい飼い主。魔物とは戦わなければならないが、人間だった頃なら瞬殺の所をフェンリルならば生き残れるんだ。
 …………フェンリルも、悪いもんじゃないかもしれないな。
「きゃぁああ!!!」
「ルイス!声の聞こえる方に走れ!」
「ガゥ!」
 食べかけの肉はおあずけらしい。ラインハルトが素早く俺の背に乗り、しっかり掴まったのを確認して走り出す。
 ラインハルトが聞こえたくらいなのでそんなに遠くはない。一分も掛からず声の発生源に到着した。
「あぁぁ!!たすけて!!」
 空色の髪色の青年がイエローボアに襲われているらしい。
「ルイス!このままイエローボアに飛びかかれ!」
 ラインハルトの指示に従い、ラインハルトを乗せたままイエローボアに飛びかかり、青年からイエローボアを引き離す。
 イエローボアは、似ているイノシシと同じように猪突猛進なので、体の向きを変えるとその向きに進む。落ち着いてる時はそうもいかないが、狩り等の興奮しているときは大抵上手くいく。
 今回も狩りの途中だったからか、興奮状態のイエローボアは体の向きそのまま、違う方向に走っていった。
「ルイス。お手柄だ。」
 わしゃわしゃと撫でられる。ラインハルトはよく撫でてくれる。何度撫でられても嬉しくて尻尾を振ってしまうから、撫でられすぎると尻尾が取れないか心配になってくる。
「そこの君。ここで何をしていた。見た所妊婦だろう。」
 ………ん?にんぷ?妊婦?え、青年ではなく女性だったのか?いやでも喉仏もあるし体つきも男の様な気が……。でもお腹は膨らんでるし………?
「…ぁ、ひぃ!きゃぁああ!!!!」
 うわ!うるっせぇ!!俺今フェンリルなんだよ!耳いいの!デカくて高い声出さないで!耳がキンキンする!ていうか何で叫んだのあの人……?魔物に襲われて混乱してるのか?あ、気絶した。
「…………はぁ…。あ、ルイス大丈夫か?大きい声が苦手だっただろう?俺のせいですまない。」
「わふん。」(ルイスのせいじゃないだろ。)
 まあ心配してくれてありがとうな。の、意味を込めてラインハルトの顔に頬ずりする。俺体でかいからラインハルトが立ち上がってても、少し背伸びすれば擦り寄れる。
「ふふっ、なんだ?慰めてくれるのか?俺が化け物なのは気にしてないから……て、ルイスは人間の美醜など気にしていないか…。」
 美醜ってなんだ、この世界の美醜だとラインハルトは化け物になるのか。
 さっきの青年?が妊娠してる事といい、ちょっとこの世界の価値観と俺の価値観は違うようだ。
 ……フェンリルの俺には関係ないか!
 ただそれはそれとして気絶したのはどういうことなんだ!?
 ここの価値観でラインハルトはどう見えてるんだ……。
 ラインハルトが気絶した青年?を抱き上げて俺の背に乗せ、さっきのキャンプ場に戻る。妊婦だから配慮して運んでくれとラインハルトに頼まれたので頑張った。ふん。褒めてくれてもいいんだぞ。
 ラインハルトは苦笑しながらまた撫でてくれた。俺が尻尾を振り過ぎて取れてしまう日も近いかもしれない……。
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