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一章

意外な助っ人?

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「もお~!!!なんで呼んでくれなかったんですかっ!!?俺も行きたかったですっ!!」
 目の前でプンプンと言う効果音が出そうなほど地団駄を踏みながら怒るプロテア。
 
「……長期休暇はご実家でパーティーがあるとおっしゃっていたので、お忙しいかと思いまして。」
「言ってくれたら予定を空けましたよ!」
 そもそも呼びなさいと言われたのは【友人】であって、自分に求婚してくる同級生ではない。
 むう、と不満げに口を尖らせるプロテアにうんざりとする。
 長期休暇で久々に家族と会って心身共に回復したというのに、これでは意味がない。
「…そうですか。」
「あーっ!!それ、それです!最近俺に塩対応過ぎませんか!?」
「普通だと思います。」
「逆に特別対応ですよねコレ!結婚します?しましょ!?ね?」
 あー…、本当にめんどくさくなってきた。
 プロテアお前は俺のなんなんだ?友人か?恋人か?
 否、ただの顔見知りだ。
 よくただの顔見知りにそこまで結婚を迫れるものである。
「他に良い人が見つかりますよ。別の人を探してください。」
 こう言ったのも何度目か。
「えぇー!!そんなぁー!!」
 プロテアのそんなぁ、を聴いたのも何度目なのだろうね。
 
 近くで、バキリと何かが折られる音がした。
「…っうるっっさいのよっ!!毎日毎日!!なに?貴方当て馬かなにか!?」
 驚いて声の方へと顔を向ける。
 そこには、陽の光を浴びてオレンジみを帯びた紅色の髪を盛大に振り乱して叫ぶルーンさんがいた。
「あ、当て馬!?し、失礼ですね!!初対面の相手にっ!!」
 顔を怒りで真っ赤にしたプロテアも負けじと大きい声で叫ぶ。
「貴方にそっくりそのまま返すわ!!ご自分の言動を見返してみたらどう!?
 言っておくけど、私は見たままを言っただけよ!!今の貴方を当て馬以外になんていうのかしらね!」
 わあ、すごいキレキレだぁ。
「はあ!?俺のどこが当て馬って言うんですか!?貴女の方こそお転婆どころじゃないじゃじゃ馬でしょう、ハッ!」
 最早俺をそっちのけで口論が始まった。
「誰がじゃじゃ馬ですって?いいわ、貴方がいかに当て馬であるか、私が教えてあげる。
 まず、貴方口説き方が一辺倒で面白くないのよ。
 なんなの?貴方ときたら好きだ、結婚してくれしか言わないじゃない。本当に彼の事が好きなのかしら?」
「なっ!!」
「喚くだけで人が好きになってくれると思ったら大間違いよ。
 後一々五月蝿いわ。喚かないでいただける?私だったら人前でも憚らずに叫び、駄々を捏ねるような方と添い遂げるだなんて御免だわ。」
「……っ!」
「で?どう?そろそろ自分が如何に当て馬かわかったかしら?」
 だんだんと赤さが増していくプロテアの顔。羞恥なのか怒りなのか、それと両方か。
 そろそろ抑えが効かなくなりそうだな、と思ったタイミングで、予鈴の鐘が鳴った。
「っ!!鐘が鳴ったので失礼します!!」
 育ちはいいのだろうプロテアは、怒りながらもスタスタと足音を鳴らさずに帰っていく。
「ふんっ。」
 ルーンさんも満足したのか、俺をひと睨みしてから席につき、すぐに来た先生が授業を始めたのであった。




「さっきはありがとう。」
「別に。彼奴が気に入らなかっただけよ。」
 次の休み時間に、俺はルーンさんに話しかけた。
 そっけなく返事を返す割に、耳元が赤く染まっているので意外と恥ずかしがり屋なのかもしれない。
「言っておくけど、私は貴方も気に入らないわ。
 断るなら嫌だとしっかり言いなさい。八方美人でむかつくのよ。」
「あはは、ごめんね。」
 むかつくとは言っても、心底嫌悪されているような扱いでもないこれが、前世で言うところのツンデレと言うやつだろうか。
 それに必殺技、笑って誤魔化すを発動すれば、きりりと睨まれてしまった。
「そういう所よ。そうやって態度を濁しているからああやっていつまでも付き纏われるの。
 可哀想に、あの人は貴方に貴重な時間を無駄に割くことになるのね。」
 腕を胸の前で組んだルーンさんは、いつものようにハキハキと話す。
「……ルーンさんだったら、どんな風に応えるの?」
 興味本位。ここまで言うなら彼女には彼女なりの一番の応え方と言うものがあるのだろうと言う予測。
「『私は貴方に一欠片の興味も、情もないわ。』」
 答えであろう言葉に、思わず苦笑いをこぼした。
 彼女らしいと言えばらしい、はっきりとした意思表示。
「はは、随分とはっきり言うね。それで相手は諦めてくれるの?」
「諦めてくれる、くれないの話じゃないわ。私は私の気持ちをそのまま言うの。
 相手が傷つくかも、なんて思わないことよ。その時傷ついても、3日後にはケロッと別の人間を好きになっているのが人間だもの。」
「経験談?」
「…それは黙秘よ。」
 つん、とそっぽを向いてしまった彼女は、随分としっかりした恋愛観を持っているらしい。
 それ以降話す気はないらしい彼女にもう一度お礼を言ってから、俺も空き時間で本を読んだ。
 そういえば、八方美人だなんて初めて言われたなぁ。
 夏のもくもくした雲を見上げながら思った。



 今日はプロテアに追いかけられていないからと、カイは呼ばずにフランネル先輩の所へ行った。


 

「……………好きだ。」
 
「………え、…?」
 そこでフランネル声から出た感情に、俺は言葉を失う。
 それでも冷静な頭が、勘違いかもしれないと考えた。
 
「その、…結婚とかが絡んでくる方の、やつですか。」

「……………ああ。」

 出た答えは、勘違いでもなんでもないらしくて、再度言葉が俺から消え失せる。
 すき?先輩が?俺を?
 まとまらない思考に、はたと口を開きかけた。
【少し時間をくれませんか。】
 そう言いかける。
 そこで思う。
 どれくらいの時間があれば俺は答えが出せるんだ?
 そもそも俺は何を考える?
 時間をかけて何をするんだ?
 今、答えを出さないでいれば、先輩の、フランネル先輩の貴重な時間を無駄にしてしまうのではないか?
 今まで話すのが苦手だからと人との関わりが少なかったらしい先輩は、これから人との関わりが増えるだろう。
 これから会うであろう素敵な人達を好きになるかもしれないのに、俺がここで答えを濁せば、それを潰すことになるのではないか。
 そもそも先輩を恋愛対象としてすら見ていなかった俺は、土台にすら立っているつもりのない人間だ。
 
 いつのまにか間違えて立ってしまっていた土台からは、すぐに降りるべきだろう。
 


「……………………ごめん、なさい。」

 罪悪感が募る。
 先輩の顔が見れない。
 前を向けば、すぐに先輩の顔が見れるというのに、顔を上げる事ができなかった。


「……………意識、してほしい。」

 沈黙の中で、先輩が告げる。
 思わず見た先輩の顔は、思ったより悲壮感が無く、力強かった。
 
「…意識、してほしい、?」
 そのままおうむ返しで言葉をなぞる俺。

「……………俺は、……ただの、いい先輩……ではない。」

 ゆっくりと、一言一言先輩は話す。

「…………君を、狙う、…一人だから。」

 その最中、真っ直ぐに見つめてくる銀の瞳に、恋情というものだろうか。

 
「………………気をつけて。」

 ひどく、熱いものが見えた。

 下手をすればこちらが焼き切れてしまうかと思うほどの熱量が、少ない言葉で紡がれる。
 じっとこちらを見つめる先輩に、獲物と認識された感覚に陥る。
 気をつけて、と言う先輩の意図がわかった。
 これは、油断していると、

 ______たべられる。

 そんな目で見られているのが恥ずかしいやら、これから先輩をどんな目で見ていいやらわからなくなる。
 もうどうしようとなくなって、思わず逃げた俺を先輩は追ってこなかった。

 自室に戻って、枕を思い切り抱きしめる。顔をそのまま枕で覆ってしまって、叫びそうになるのを抑えた。

 こ、これから、先輩にどうやって関わればいいんだぁ~~!!
 
 ぐるぐると目が回るような困惑に見舞われながら考えるが、答えが出ることはなかった。

 ベットでゴロゴロと転がりながら動揺するその時の俺は知らない。


「……………ダンツ、……一緒に、…食べないか?」

 ________それからひたすらに先輩から口説かれると言うことを!
 
「……君を、口説くには、……まだまだ足りない。」

 どんどん口達者になっていく先輩に、しどろもどろになるしか無くなるのは、そう遠くない話。
 
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