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一章
デビュタント
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夏の長期休暇。
俺は学園に一番近い別荘に帰ってきていた。
帰って早々、玄関に母と姉に会う。
「あらぁ久しぶりねぇ~、少し身長が伸びたかしら?ご飯はきちんと食べてる?偏った物ばかり食べてはダメよ?睡眠だって「母上、矢継ぎ早に問いかけては答えられませんよ。」あら、ごめんなさい。」
_____「お母様も姉様も変わらずにお元気なようでなによりです。」
広いとはいえ玄関で次々に近況を聞く母と、それを諌める姉。これが我が家の名物である。
変わらない我が家の風景に、なんだか肩の力が抜けた。
「…帰ってきたのか。」
お父様もひょこりといらっしゃる。
うきうきとした表情と片手にあるラケットを見るに、久々に帰省した俺と遊ぶ気満々だ。
「あなた、明々後日にはデビュタントのパーティーにがあるんですよ。バドミントンはよしなさいな。」
「そもそも久々に帰ってきた息子を着いて早々動かせる気ですか?」
「……すまん。」
これも我が家のよく見る光景である。
主に父が突っ走り、母にやんわりと、姉にバスッと止められるのだ。
相変わらずだなぁ、とくすくす笑う。
しゅんとしてしまったお父様は後でボードゲームに誘うとして…。
「お父様、お母様、姉様。
_____ユーリス、ただいま帰りました。」
「「「おかえり、ユーリス。」」」
「さ、ユーリス、お洋服の用意よ。予めデザインは決めてあるけど、サイズは合わせないとですもの。」
「髪飾りと髪型もよ。」
「….……はい。」
久々の家族にほっこりしたのも束の間。
いつもより笑顔の深い二人に連れられファッションショーさながらの衣装合わせが始まった。
すみませんお父様。遊べるのは暫く無理そうです。
念押しされて手入れを欠かしていない黒髪を、いつもより更に念入りに整えられる。
横髪を三つ編みにして、後ろで一つに括る以外の髪はそのまま下ろして、きらきらした造花が花冠のように付けられた。
瞳の色に合わせたと言う淡い桃色の花と、真っ白な花。造花なので葉っぱは金色だ。
それに合わせて白を基調としたスーツ。フリフリはあまり好きではないので拒否したが、腕の袖だけは袖口が大きく刺繍やフリルもしっかりと使われている。
「素敵よユーリス。まるで妖精さんみたいだわぁ。」
「いつも可愛いけれど、今日は朝露に濡れて咲く花のごとき美しさだね、ユーリス。」
「お二人は相変わらず褒めるのがお上手ですね。」
母と、丁度衣装を着たタイミングで帰ってきた兄に褒めちぎられながら衣装確認を終える。
「挨拶の言葉は考えられたかい?」
「ええ、でも少し心配なので聞いていただけますか?」
「勿論!可愛い弟の頼みを断る理由がないよ。」
そう言って頬を緩ませながら俺の頭を撫でる兄様。
可愛い可愛いと兄様に撫でられたから俺の頭はまん丸なんじゃないかと思いつつ、俺は考えた挨拶を口に出した。
「_____もう少しお伝えしたいことはございますが、このよき日を迎えられた事への感謝で締めさせて頂きたく存じます。
晴天の空のもと迎えられたこのよき日に、乾杯!」
見渡せば、来客の方全てが配られたグラスを掲げている。
兄様に確認してもらった挨拶はうまくいったらしい。
髪飾りが落ちない様にゆったりと礼をしてから壇上を降りた。
グレーのスーツに身を包んだお父様が両手を広げて待っているので、そこに飛び込む。
「…おめでとう。大きくなったな、ユーリス。」
「もう少し大きくなりますよ、父上。」
なんて言ったってまだ16歳ですからね。
にこにこと待ち構えるお母様ともハグをする。
「貴方はまだまだうっかりしたところがありますから、心配だわぁ。」
「そんなにうっかりしてないです。」
「おめでとう、ユーリス。もう一緒にお酒が飲めちゃうわね。」
「そうですね。ほどほどに楽しみます。」
「これからも困ったことがあったらすぐに頼るんだよ。おめでとう、ユーリス。」
「兄様も頼ってくださいね。」
兄様と姉様とも抱きしめあってからは、招待したお客様への挨拶回りである。
まあ、招待客の殆どは顔見知りなので名前を必死に覚えないといけない、なんてことは無く、最初の挨拶が終わって仕舞えば大事なところの大部分が終わりだ。
「…今日は友人も呼んでいるのだろう。もう挨拶は終わったのだから行ってきなさい。」
一通り挨拶が終わり、お父様から促されるままにポピール達の所へ行く。
一緒に着いて来ようとしたお父様と兄様の腕をお母様と姉様がガッシリと捕まえていたのは見なかったことにしておこうと思う。
「デュリオール先輩、フランネル先輩、ポピール、オレンチュ君、今日は来てくれてありがとうございます。
パーティーは楽しめていますか?」
四人で固まっている所に近づき、最早言い慣れた挨拶をする。
「おめでとうダンツくん。招待してくれてありがとう、とても楽しんでいるよ。」
滑らかに挨拶を返すデュリオール先輩は流石公爵家の子息だ。
「……………おめでとう。……楽しんでいる。」
グラスを持った片手に少し力の入り気味なフランネル先輩も、楽しんではくれている様。
「お、おめでとう、ダンツくん。さっきの挨拶も素敵だったよ。招待してくれてありがとう。」
「おめでとうユーリス!招待してくれてありがとう、しっかり楽しんでる。」
オレンチュ君とポピールからも祝いの言葉をもらった。
オレンチュ君は少し落ち着かなさそうにグラスを両手で持ち、ポピールは礼儀がよくわからないと言っていた割には堂々として料理ののった皿を持っている。
なんだか正反対な二人を面白く思いながら、四人と話を弾ませる俺であった。
俺は学園に一番近い別荘に帰ってきていた。
帰って早々、玄関に母と姉に会う。
「あらぁ久しぶりねぇ~、少し身長が伸びたかしら?ご飯はきちんと食べてる?偏った物ばかり食べてはダメよ?睡眠だって「母上、矢継ぎ早に問いかけては答えられませんよ。」あら、ごめんなさい。」
_____「お母様も姉様も変わらずにお元気なようでなによりです。」
広いとはいえ玄関で次々に近況を聞く母と、それを諌める姉。これが我が家の名物である。
変わらない我が家の風景に、なんだか肩の力が抜けた。
「…帰ってきたのか。」
お父様もひょこりといらっしゃる。
うきうきとした表情と片手にあるラケットを見るに、久々に帰省した俺と遊ぶ気満々だ。
「あなた、明々後日にはデビュタントのパーティーにがあるんですよ。バドミントンはよしなさいな。」
「そもそも久々に帰ってきた息子を着いて早々動かせる気ですか?」
「……すまん。」
これも我が家のよく見る光景である。
主に父が突っ走り、母にやんわりと、姉にバスッと止められるのだ。
相変わらずだなぁ、とくすくす笑う。
しゅんとしてしまったお父様は後でボードゲームに誘うとして…。
「お父様、お母様、姉様。
_____ユーリス、ただいま帰りました。」
「「「おかえり、ユーリス。」」」
「さ、ユーリス、お洋服の用意よ。予めデザインは決めてあるけど、サイズは合わせないとですもの。」
「髪飾りと髪型もよ。」
「….……はい。」
久々の家族にほっこりしたのも束の間。
いつもより笑顔の深い二人に連れられファッションショーさながらの衣装合わせが始まった。
すみませんお父様。遊べるのは暫く無理そうです。
念押しされて手入れを欠かしていない黒髪を、いつもより更に念入りに整えられる。
横髪を三つ編みにして、後ろで一つに括る以外の髪はそのまま下ろして、きらきらした造花が花冠のように付けられた。
瞳の色に合わせたと言う淡い桃色の花と、真っ白な花。造花なので葉っぱは金色だ。
それに合わせて白を基調としたスーツ。フリフリはあまり好きではないので拒否したが、腕の袖だけは袖口が大きく刺繍やフリルもしっかりと使われている。
「素敵よユーリス。まるで妖精さんみたいだわぁ。」
「いつも可愛いけれど、今日は朝露に濡れて咲く花のごとき美しさだね、ユーリス。」
「お二人は相変わらず褒めるのがお上手ですね。」
母と、丁度衣装を着たタイミングで帰ってきた兄に褒めちぎられながら衣装確認を終える。
「挨拶の言葉は考えられたかい?」
「ええ、でも少し心配なので聞いていただけますか?」
「勿論!可愛い弟の頼みを断る理由がないよ。」
そう言って頬を緩ませながら俺の頭を撫でる兄様。
可愛い可愛いと兄様に撫でられたから俺の頭はまん丸なんじゃないかと思いつつ、俺は考えた挨拶を口に出した。
「_____もう少しお伝えしたいことはございますが、このよき日を迎えられた事への感謝で締めさせて頂きたく存じます。
晴天の空のもと迎えられたこのよき日に、乾杯!」
見渡せば、来客の方全てが配られたグラスを掲げている。
兄様に確認してもらった挨拶はうまくいったらしい。
髪飾りが落ちない様にゆったりと礼をしてから壇上を降りた。
グレーのスーツに身を包んだお父様が両手を広げて待っているので、そこに飛び込む。
「…おめでとう。大きくなったな、ユーリス。」
「もう少し大きくなりますよ、父上。」
なんて言ったってまだ16歳ですからね。
にこにこと待ち構えるお母様ともハグをする。
「貴方はまだまだうっかりしたところがありますから、心配だわぁ。」
「そんなにうっかりしてないです。」
「おめでとう、ユーリス。もう一緒にお酒が飲めちゃうわね。」
「そうですね。ほどほどに楽しみます。」
「これからも困ったことがあったらすぐに頼るんだよ。おめでとう、ユーリス。」
「兄様も頼ってくださいね。」
兄様と姉様とも抱きしめあってからは、招待したお客様への挨拶回りである。
まあ、招待客の殆どは顔見知りなので名前を必死に覚えないといけない、なんてことは無く、最初の挨拶が終わって仕舞えば大事なところの大部分が終わりだ。
「…今日は友人も呼んでいるのだろう。もう挨拶は終わったのだから行ってきなさい。」
一通り挨拶が終わり、お父様から促されるままにポピール達の所へ行く。
一緒に着いて来ようとしたお父様と兄様の腕をお母様と姉様がガッシリと捕まえていたのは見なかったことにしておこうと思う。
「デュリオール先輩、フランネル先輩、ポピール、オレンチュ君、今日は来てくれてありがとうございます。
パーティーは楽しめていますか?」
四人で固まっている所に近づき、最早言い慣れた挨拶をする。
「おめでとうダンツくん。招待してくれてありがとう、とても楽しんでいるよ。」
滑らかに挨拶を返すデュリオール先輩は流石公爵家の子息だ。
「……………おめでとう。……楽しんでいる。」
グラスを持った片手に少し力の入り気味なフランネル先輩も、楽しんではくれている様。
「お、おめでとう、ダンツくん。さっきの挨拶も素敵だったよ。招待してくれてありがとう。」
「おめでとうユーリス!招待してくれてありがとう、しっかり楽しんでる。」
オレンチュ君とポピールからも祝いの言葉をもらった。
オレンチュ君は少し落ち着かなさそうにグラスを両手で持ち、ポピールは礼儀がよくわからないと言っていた割には堂々として料理ののった皿を持っている。
なんだか正反対な二人を面白く思いながら、四人と話を弾ませる俺であった。
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