噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。

春色悠

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一章

安心できる場所

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「ダンツさん!一緒にご飯食べませんか!」
「ダンツさん、なにを呼んでいるんですか?」
「俺も一緒に行きたいです!」
「ダンツさん!」
「ダンツさん!」
「ねぇねぇ!」


「なんですか、プロテアさん。」
「もう、ラックって呼んでくださいっ!」

 ……………騒がしい。
 
 プロテアが来てから数週間。
 とても騒がしい。
 とにかく騒がしい。
 違うクラスなのに休み時間毎に会いにくる。
 俺が本を読んでいようと食事をしていようと兎に角話しかけてきた。
 
 正直、少し苦手だ。
 別に一人の時間が好きなわけではないのだが、だからといって一日中誰かと一緒に過ごせるかと言われると、余程好きな人じゃないと、である。
 図書館だと流石に静かだが、本を読んでいるところをじっと見られる。
 時たまどうしても聞きたいことができるのか、小声で話しかけられたりもあった。
 本当に、落ち着いて過ごせない。


「あれ、ダンツさん?ダンツさーん!」
  
 だからこうして、俺はたまにプロテアから行方をくらます。
 俺を探すプロテアの声を背に、そそくさと教室を出た。
 プロテアはちゃんと授業には参加しているので、放課後は急いで教室から出れば鉢合わせることは無い。
《ご主人はほんとうにあいつがにがてだね。》
「…少し、距離を取りたい相手ではあるかな。」
《ご主人にもにがてはあるんだねぇ。》
 抱っこしたカイが感慨深そうに目を細めた。
 俺は最近、カイを学校で連れている。
 これまでは放課後の自室で出してブラッシングしたりするぐらいだったんだけど、プロテアが来てからは連れ歩いていた。
 それもこれも、カイは人の気配を感知するのが上手いからである。
 本猫?によれば、匂いや足音でよくわかるらしい。
 と言うわけで、プロテアから逃げたい時にカイの手助けをもらっているわけだ。
 
 そして向かうのは、中庭のベンチがあるところ。
 ついた時には、ベンチに銀色が見えた。
 フランネル先輩である。
「フランネル先輩、こんにちは。」
「…………………こんにちは。」
 挨拶を返してくれた先輩の横に座った。
 先輩との間は丁度人一人が挟めるくらい。近すぎず丁度良い。これが普通だ。
「今日もよろしくお願いします。毎日すみません。」
「…………………特訓の、礼だ。………気にするな。」
 フランネル先輩の魔力が動く。
 そのまま発動した魔法は、かけると他の人からぼんやりとしか認識されなくなるらしい。
 これのお陰で、俺は放課後だけは落ち着いて過ごせているのだ。
 特訓の礼だと先輩は言うが、特訓と言っても俺は先輩の話を聞いているだけなことが多い。
 先輩が話す練習をするのに、俺は先輩の朗読を聞いたり、一緒に喋ったりするだけだ。
「………………今日は、………これを…読む。」
 先輩が膝に乗せている本を手に持つ。
 一センチほどもない厚さのその本は、前世で言う絵本のようなものだった。
 絵本と違って挿絵は然程無いそれを、途切れたり、ゆっくり発音したりしながら、丁寧に丁寧に読んでいく先輩。
 膝の上にカイを乗せたまま、その朗読を聞くのがとても落ち着く。
 ゆるゆるとカイを撫でながら先輩の特訓に付き合わせてもらうこの時間が、俺の最近の癒しだった。

 ころころと変わる先輩の表情を楽しく見ていれば、短い本はすぐに終わる。
「………………と、……なりました。……終わり。」
 ぱちりぱちりと拍手すると、照れ臭そうに先輩は頬をかいた。
「………………少し、……時間が、余ったな。」
 そう言った先輩に、俺はあることを思い出す。
「フランネル先輩、実は俺の誕生日パーティーがあるんです。
 ご予定が良ければぜひ来てください。」
 驚く先輩に、ポケットに入れていた招待状を差し出した。
 
「………………、ありがとう。」
 
 ぽぽぽ、と頬を染めて喜ぶ先輩。
 そこまで喜ばれるとこちらも嬉しいものである。
 ポピールやデュリオール先輩、オレンチュ君も招待したこのパーティーは、俺の成人を祝うものだ。
 母のご友人方が主に招かれていて、俺の友人も好きに呼びなさいと言われている。
 当の俺はそんなに友人が多いわけでもないのだが。
 
 パーティーは俺の父が主催しており、俺のデビュタントとという扱いだ。
 16歳で成人となるこの世界は、貴族となるとパーティーを開いてデビュタントをする。
 これで俺も大人の仲間入りとなるわけである。
 デビュタントが終わるとお酒が飲めるようになったり、本格的に婚約や婚姻が勧められるようになるのだ。
 
 すっとプロテアのことを思い出してげんなりする。デビュタントが終わればもっと加速したりしないだろうな…。
 
 お母様からも結婚はまだしも婚約ぐらいさっさとしておけと言われている。
 …ちゃんと探さないとダメかなぁ。

 丁寧に招待状をしまうフランネル先輩を見る。
 あれだけ噂で怖がられていた先輩だが、婚約とかはしていたんだろうか。

「…フランネル先輩は、婚約者さんとかいらっしゃるんですか?」
「っ!!!??!」
 
 毛虫を前にした女子の如き速さで先輩が飛び上がった。
 そ、そこまで驚かなくても…。
「デビュタントが終われば、俺も本格的に考えないと、と思いまして。アドバイスなどあれば聞かせてほしいんです。」
 
「…………………、そ、ういうのは、……自分で、考えた方……がいい。」

 トマトと同化できそうなほど顔を真っ赤にした先輩。
 明らかに話すのが苦手だけでは終われないほどしどろもどろに説得された。
 
 …たしかに、結婚するかもしれない人なんだから自分で考えないと、いけないよな。
 そう納得しつつも、先輩が照れていることに疑問を持った。
 
 ……はは~ん、さては先輩、ベタ惚れの婚約者が居るな?
 きっとその婚約者さんに会う前までは先輩も婚約やらなにやらについて興味が無かったのだろう。誰でも良いとすら思っていたのかもしれない。
 それが婚約者さんと紆余曲折を経て変わり、俺にこんなアドバイスをしているのだ。
  
 …でもそうなると、今の時間は婚約者さんからしたら気に入らないんじゃないか?
 後輩といえど、好きな人と別の誰かが二人きりは嫌だろうし…。
 それで先輩が婚約者さんに嫌われたりしたら申し訳なさすぎるな…。
 
 ___この時間も、少し減らした方がいいんだろうか。


 そう考えついてから、ぶんぶんと首を振った。
 まだ先輩に婚約者がいると聞いたわけでもないのに早とちりしすぎだぞ、俺。
 
「先輩、俺そろそろお暇しますね。」

「………………そうか。」
 
 少し悲しそうに眉を垂れさせる先輩に、もう少しここに居ようかなんて思いつつ、食堂は早く行かないと混むからな、と思い直す。

「…………………また、明日。」

 そう振られた手に、俺も手を振りかえした。

「また明日。」
 
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