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一章
学園祭【当日編 劇本番】
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「『そろそろ、諦めたらどうだ。』」
俺は、主人公レイルに剣を突きつける。
切先が喉元に触れるか触れないか、彼は、ごくりと唾を呑んだ。
「『……あきらめて、何が護れるっ!!』」
「『…………そうか。』」
キッと此方を睨み叫んだ彼、主人公レイルことオレンチュ君。
「『……なら、仕方ないな。』」
そのオレンチュ君に対して、俺は剣を振り下ろす。
キーンッ!!!
高い音が鳴り、剣同士がぶつかった。
劇も最終盤のシーンである。
昨日、主役のセウ君が練習のし過ぎで手首を捻り、場は騒然となった。
主役候補だった子達も台詞を覚えておらず、代役にできる子が居ない。
ルーンさんは候補者だったのに何故台詞を覚えていないのかと怒っていたが、その子達も別の役があったりしたので当たり前だと思う。
俺なんて自分の台詞を覚えるので精一杯である。他の人の台詞なんて覚えてられない。
結局怒って出て行ったルーンさんと、手首を捻っているセウ君を除いた皆んなで粗方全体の流れを確認して終わった。
バトルシーンもあるからなぁ、手首怪我してるのにやらせる訳にはいけないし…。
剣の触れそうな子……、うーん……。
あ、オレンチュ君できるんじゃない?
小道具チームで剣を作っていた時の事を思い出す。
普通の剣を借りてきて装飾を付ける際に、振り回しても取れたりしないか、そもそも振り回せるかを確認する役目は専らオレンチュ君と俺だった。
セウ君と背丈も近いし、衣装の直しもいらないのでは?
いやでも、台詞の問題もあるしな…。
……取り敢えず聞いてみよう。
教室にオレンチュ君は居なかった。
図書館にも居なかった。
訓練場、居ない。
最後は寮ぐらい、かな?
保健室にも居なかったし…。
近道して行こうと中庭を通った。
「……?っ!!?」
中庭の生垣の下から、灰色の髪の毛が少し出ている。
驚いて声も出せずに飛び上がったが、よく見れば生垣の後ろに居るのは探していたオレンチュ君だった。
一瞬ドッと脈打った心臓が落ち着き、探し人が見つかった事に安堵する。
…ほ、ほんとに怖かった…。
「………オレンチュ君は、主人公がしたかったの?」
「……えと、うん。似合わないけど、ネ…。」
自身なさげにもじもじと下を向くオレンチュ君は、主人公がしたいらしい。
ヘアセットなどしていなさそうな灰色の髪がわさりと揺れた。
前髪の間から、明るい紫色の目が覗く。
「意外と似合う気がするけどな。」
主人公できるんじゃないか?
「え、…。」
固まるオレンチュ君は、俺から見て目鼻立ちは悪くない。
まあ、こっちだと髪の毛が美醜を決めるから、今のボサボサ髪だとあれだろうけど、それくらいならなんとでもなる。
____これは、やってみる価値あるんじゃないか。
「どう?主人公らしいと思わない?」
「す、すごい。これがぼく…?」
きらきらと鏡を見るオレンチュ君に、俺は大満足である。
俺はオレンチュ君の髪の毛をケアした後に、オールバックにしてみた。
襟足というか、後ろ髪は纏まりそうになかったのでハーフアップにして、さもこのふわふわと広がる髪の毛は狙い通りですよ、みたいな感じにした。
「オレンチュ君、試しにちょっと剣を持ってみようよ。」
すごいすごいと鏡片手に固まったままのオレンチュ君の手を引いて教室に向かう。
「え、えと、ダンツ君、誰を連れてきたんだい?」
「オレンチュ君だよ。ちょっと剣を借りていいかい?」
「あ、うん。」
オレンチュ君を見て盛大に驚くクラスメイトに満足しながら、オレンチュ君に主人公の剣を持たせる。
剣を持ったからか、背筋がピッと伸びた。
教室にはまだ殆どの生徒が居る。談話室に誰もいないと思ったら皆んなここにいたらしい。
その誰もが、オレンチュ君を見て目を丸くする。
そこにマイナスな感情はなく、純粋な驚きと、もしかして彼が主人公として出るのかという期待。
「もしかして彼が代役として出てくれるのかい?」
「ほんと!?主人公をやってくれるの?」
口々に問いかけられるオレンチュ君は、とても驚いているらしい。
「どうかな、まだ、自分に主人公が似合わないと思う?」
オレンチュ君に問い掛ければ、少し泣きそうな顔をしていた。
「……ううん。僕、やってみたい。
…いや、
______僕に、主人公を演らせてくださいっ!!」
こうして、主人公レイルはオレンチュ君が演じることとなった。
ガキンッ、ガッ!
剣は掠るだけなのに音が響く。
音担当の子が頑張ってくれているおかげだ。
最終局面の俺とオレンチュ君との一騎打ち。
オレンチュ君の後ろにはルーンさん演じるヒロインが居る。
ルーンさんは今日の朝に代役について知ったので少し嫌そうというか、実際不機嫌だった。
そうは言っても本番当日で、俺達の出番は最初から三番目。
もうこうするしかない、という状況なので、ルーンさんは不機嫌になることしかできていなかった。
朝来てびっくりしてたけど、誰もルーンさんに教えてなかったのかな?あれか、誰か伝えるでしょ、と全員思って教えずにいたとかかな。
「『……っっもうやめてっ!!』」
ヒロインが叫ぶ。
ヒロインは魔法を封じられており、何もできない状況だ。
「『私は諦めろと言ったはずだ。…君が彼を選ばなければ、こうはしなかった。』」
俺は悪役バルトとして話す。
自分の役ながら、よくヒロインをこれほど愛せるなとは思う。
親友だった主人公とすら敵対し、誰も止められないほど走り続ける。
自分について来てくれた仲間も捨てて、残るものは何もない人物だ。
…セリフは少ないからありがたいんだけどね。
「『………っ!、はッ、はぁっ、…!』」
ついに主人公が膝をついた。
「『レイル!』」
「『…もう終わりだな。』」
俺は剣を振り下ろす。
「『やめてええぇえ!!』」
ヒロインの体から光が溢れる。
覚醒して封じられた魔法が使えるようになったのだ。
多分、愛の力とかそんな感じだと思う。
演出の子が、炎を出す。
勿論触れても熱くない嘘の炎である。
この炎はヒロインとヒーロー以外に向かっていく不思議な炎で、……あれ?
え、なんかオレンチュ君の方に向かってない!?
確実にオレンチュ君に当たってしまう炎に、ルーンさんも驚いて焦っている。
俺も驚いて剣を取り落としそうになり、急いでしっかりと握り直す。
しかし、この剣は普通に重い。
握り直しきれずに俺は重心が前へと傾いた。
どうにか目の前に居るオレンチュ君に当たらないように頑張ったが……。
結局、オレンチュ君に抱きつくようにして転んでしまった。
図らずも剣で炎を掻き消すように動いてしまった俺。
「『…庇ったのか、俺のこと…。』」
オレンチュ君がなんとか俺のことをフォローしてくれようとしている。
「……………………。」
しかしアドリブ力がなさすぎて何も返せない俺。
「『…なあ、話してくれないか。
俺だってそこまで馬鹿ではないんだ。』」
ゆっくりと俺から体を離し、話し続けるオレンチュ君、いや、主人公レイル。
「…なんの話、だ。」
思わず素で答える。
え、なんの話?
取り繕うように、せめて《だ》をつける。口調だけでも寄せようと足掻いた結果だ。
俺の困惑をよそに真剣な表情で語り掛けられる。
「『俺とミリーの家は仲が悪い。そんな俺たちが結婚するためには、家を出るか、もしくは…そう、お互いの家に恩を売るか。』」
「…そんなことのために、俺がこんなことをしたと?」
流石にちょっと無理があるってオレンチュ君…!
焦る俺をよそにしたままもっともらしくレイルは話す。
因みにミリーとはヒロインの愛称である。
「『そんなことと、部下の為だよ。
君は部下を見捨てたように見せて、俺達に保護させた。
彼らは悪い事をしたくなくてもしなければならない状況にあったから、君はそれを俺達に捕まらせることで厚生の道を歩めるようにしたんだ。』」
「『で、でもバルトは何度も私達の事を襲ったのよ!?』」
ルーンさんも会話に参加した。
す、すごいなルーンさん、アドリブでそんなに話せるのか。
「『考えてみるんだ、ミリー。俺達は一回も大怪我を負ったことがないじゃないか。バルトの強さを知っているならわかっているだろう。
彼は、その気になれば部下なんて使わなくても俺達を倒せるんだよ。』」
その場には沈黙が落ちた。
「『バルト、君は俺が、僕が泣き虫だった頃からの友達だ。』」
レイルは強い目で此方をひたと見た。
「『でも、僕はもう泣き虫じゃないんだ。彼女の事を愛していて、家の人に反対されている。
昔の僕なら諦めてしまったかもしれない。
君に泣きついていたかもしれない。
だけど、もう、大丈夫だ。
何度でも立ち上がるよ。
彼女との仲が認められなくても、誰かに立ちはだかれても。
だから、全部抱えてしまわないで。
僕にも分けてくれ。』」
思わず、ごくりと息を呑む。
俺、なんて答えればいい?どうすればいい?
レイルは此方に手を差し出している。
悪役なら、バルトなら、どうする。
考えた末に、俺は手を取らずに立ち上がった。
「『………俺はお前になんであろうと分け与えたりしない。
馴れ合うのはそちらで勝手にしていろ。』」
「『僕とミリーの仲を認めてくれるんだねっ!ありがとうバルト!』」
「いや誰がそんな事を言った。」
思わず素で突っ込めば会場に笑いが溢れた。
どんどん近づいてくるレイルに後退って行くと、自然と舞台袖に避けていた。
…これもオレンチュ君の計算か…!?
舞台の幕が降りて拍手が会場に満ちているのを聞きながら、次のクラスの邪魔にならないように皆んなで急いで退却する。
「オレンチュ君、アドリブ凄かったね。」
「ダンツ君!ダンツ君こそ合わせてくれてありがとう…!
咄嗟に君が炎から庇ってくれなかったらこうはできなかったよ!」
「いや、偶々だよ?」
「ダンツ君は謙虚だね…。」
いや、ほんとに…。
感動したようなオレンチュ君から褒められて、どこか居た堪れない気持ちになった俺であった。
俺は、主人公レイルに剣を突きつける。
切先が喉元に触れるか触れないか、彼は、ごくりと唾を呑んだ。
「『……あきらめて、何が護れるっ!!』」
「『…………そうか。』」
キッと此方を睨み叫んだ彼、主人公レイルことオレンチュ君。
「『……なら、仕方ないな。』」
そのオレンチュ君に対して、俺は剣を振り下ろす。
キーンッ!!!
高い音が鳴り、剣同士がぶつかった。
劇も最終盤のシーンである。
昨日、主役のセウ君が練習のし過ぎで手首を捻り、場は騒然となった。
主役候補だった子達も台詞を覚えておらず、代役にできる子が居ない。
ルーンさんは候補者だったのに何故台詞を覚えていないのかと怒っていたが、その子達も別の役があったりしたので当たり前だと思う。
俺なんて自分の台詞を覚えるので精一杯である。他の人の台詞なんて覚えてられない。
結局怒って出て行ったルーンさんと、手首を捻っているセウ君を除いた皆んなで粗方全体の流れを確認して終わった。
バトルシーンもあるからなぁ、手首怪我してるのにやらせる訳にはいけないし…。
剣の触れそうな子……、うーん……。
あ、オレンチュ君できるんじゃない?
小道具チームで剣を作っていた時の事を思い出す。
普通の剣を借りてきて装飾を付ける際に、振り回しても取れたりしないか、そもそも振り回せるかを確認する役目は専らオレンチュ君と俺だった。
セウ君と背丈も近いし、衣装の直しもいらないのでは?
いやでも、台詞の問題もあるしな…。
……取り敢えず聞いてみよう。
教室にオレンチュ君は居なかった。
図書館にも居なかった。
訓練場、居ない。
最後は寮ぐらい、かな?
保健室にも居なかったし…。
近道して行こうと中庭を通った。
「……?っ!!?」
中庭の生垣の下から、灰色の髪の毛が少し出ている。
驚いて声も出せずに飛び上がったが、よく見れば生垣の後ろに居るのは探していたオレンチュ君だった。
一瞬ドッと脈打った心臓が落ち着き、探し人が見つかった事に安堵する。
…ほ、ほんとに怖かった…。
「………オレンチュ君は、主人公がしたかったの?」
「……えと、うん。似合わないけど、ネ…。」
自身なさげにもじもじと下を向くオレンチュ君は、主人公がしたいらしい。
ヘアセットなどしていなさそうな灰色の髪がわさりと揺れた。
前髪の間から、明るい紫色の目が覗く。
「意外と似合う気がするけどな。」
主人公できるんじゃないか?
「え、…。」
固まるオレンチュ君は、俺から見て目鼻立ちは悪くない。
まあ、こっちだと髪の毛が美醜を決めるから、今のボサボサ髪だとあれだろうけど、それくらいならなんとでもなる。
____これは、やってみる価値あるんじゃないか。
「どう?主人公らしいと思わない?」
「す、すごい。これがぼく…?」
きらきらと鏡を見るオレンチュ君に、俺は大満足である。
俺はオレンチュ君の髪の毛をケアした後に、オールバックにしてみた。
襟足というか、後ろ髪は纏まりそうになかったのでハーフアップにして、さもこのふわふわと広がる髪の毛は狙い通りですよ、みたいな感じにした。
「オレンチュ君、試しにちょっと剣を持ってみようよ。」
すごいすごいと鏡片手に固まったままのオレンチュ君の手を引いて教室に向かう。
「え、えと、ダンツ君、誰を連れてきたんだい?」
「オレンチュ君だよ。ちょっと剣を借りていいかい?」
「あ、うん。」
オレンチュ君を見て盛大に驚くクラスメイトに満足しながら、オレンチュ君に主人公の剣を持たせる。
剣を持ったからか、背筋がピッと伸びた。
教室にはまだ殆どの生徒が居る。談話室に誰もいないと思ったら皆んなここにいたらしい。
その誰もが、オレンチュ君を見て目を丸くする。
そこにマイナスな感情はなく、純粋な驚きと、もしかして彼が主人公として出るのかという期待。
「もしかして彼が代役として出てくれるのかい?」
「ほんと!?主人公をやってくれるの?」
口々に問いかけられるオレンチュ君は、とても驚いているらしい。
「どうかな、まだ、自分に主人公が似合わないと思う?」
オレンチュ君に問い掛ければ、少し泣きそうな顔をしていた。
「……ううん。僕、やってみたい。
…いや、
______僕に、主人公を演らせてくださいっ!!」
こうして、主人公レイルはオレンチュ君が演じることとなった。
ガキンッ、ガッ!
剣は掠るだけなのに音が響く。
音担当の子が頑張ってくれているおかげだ。
最終局面の俺とオレンチュ君との一騎打ち。
オレンチュ君の後ろにはルーンさん演じるヒロインが居る。
ルーンさんは今日の朝に代役について知ったので少し嫌そうというか、実際不機嫌だった。
そうは言っても本番当日で、俺達の出番は最初から三番目。
もうこうするしかない、という状況なので、ルーンさんは不機嫌になることしかできていなかった。
朝来てびっくりしてたけど、誰もルーンさんに教えてなかったのかな?あれか、誰か伝えるでしょ、と全員思って教えずにいたとかかな。
「『……っっもうやめてっ!!』」
ヒロインが叫ぶ。
ヒロインは魔法を封じられており、何もできない状況だ。
「『私は諦めろと言ったはずだ。…君が彼を選ばなければ、こうはしなかった。』」
俺は悪役バルトとして話す。
自分の役ながら、よくヒロインをこれほど愛せるなとは思う。
親友だった主人公とすら敵対し、誰も止められないほど走り続ける。
自分について来てくれた仲間も捨てて、残るものは何もない人物だ。
…セリフは少ないからありがたいんだけどね。
「『………っ!、はッ、はぁっ、…!』」
ついに主人公が膝をついた。
「『レイル!』」
「『…もう終わりだな。』」
俺は剣を振り下ろす。
「『やめてええぇえ!!』」
ヒロインの体から光が溢れる。
覚醒して封じられた魔法が使えるようになったのだ。
多分、愛の力とかそんな感じだと思う。
演出の子が、炎を出す。
勿論触れても熱くない嘘の炎である。
この炎はヒロインとヒーロー以外に向かっていく不思議な炎で、……あれ?
え、なんかオレンチュ君の方に向かってない!?
確実にオレンチュ君に当たってしまう炎に、ルーンさんも驚いて焦っている。
俺も驚いて剣を取り落としそうになり、急いでしっかりと握り直す。
しかし、この剣は普通に重い。
握り直しきれずに俺は重心が前へと傾いた。
どうにか目の前に居るオレンチュ君に当たらないように頑張ったが……。
結局、オレンチュ君に抱きつくようにして転んでしまった。
図らずも剣で炎を掻き消すように動いてしまった俺。
「『…庇ったのか、俺のこと…。』」
オレンチュ君がなんとか俺のことをフォローしてくれようとしている。
「……………………。」
しかしアドリブ力がなさすぎて何も返せない俺。
「『…なあ、話してくれないか。
俺だってそこまで馬鹿ではないんだ。』」
ゆっくりと俺から体を離し、話し続けるオレンチュ君、いや、主人公レイル。
「…なんの話、だ。」
思わず素で答える。
え、なんの話?
取り繕うように、せめて《だ》をつける。口調だけでも寄せようと足掻いた結果だ。
俺の困惑をよそに真剣な表情で語り掛けられる。
「『俺とミリーの家は仲が悪い。そんな俺たちが結婚するためには、家を出るか、もしくは…そう、お互いの家に恩を売るか。』」
「…そんなことのために、俺がこんなことをしたと?」
流石にちょっと無理があるってオレンチュ君…!
焦る俺をよそにしたままもっともらしくレイルは話す。
因みにミリーとはヒロインの愛称である。
「『そんなことと、部下の為だよ。
君は部下を見捨てたように見せて、俺達に保護させた。
彼らは悪い事をしたくなくてもしなければならない状況にあったから、君はそれを俺達に捕まらせることで厚生の道を歩めるようにしたんだ。』」
「『で、でもバルトは何度も私達の事を襲ったのよ!?』」
ルーンさんも会話に参加した。
す、すごいなルーンさん、アドリブでそんなに話せるのか。
「『考えてみるんだ、ミリー。俺達は一回も大怪我を負ったことがないじゃないか。バルトの強さを知っているならわかっているだろう。
彼は、その気になれば部下なんて使わなくても俺達を倒せるんだよ。』」
その場には沈黙が落ちた。
「『バルト、君は俺が、僕が泣き虫だった頃からの友達だ。』」
レイルは強い目で此方をひたと見た。
「『でも、僕はもう泣き虫じゃないんだ。彼女の事を愛していて、家の人に反対されている。
昔の僕なら諦めてしまったかもしれない。
君に泣きついていたかもしれない。
だけど、もう、大丈夫だ。
何度でも立ち上がるよ。
彼女との仲が認められなくても、誰かに立ちはだかれても。
だから、全部抱えてしまわないで。
僕にも分けてくれ。』」
思わず、ごくりと息を呑む。
俺、なんて答えればいい?どうすればいい?
レイルは此方に手を差し出している。
悪役なら、バルトなら、どうする。
考えた末に、俺は手を取らずに立ち上がった。
「『………俺はお前になんであろうと分け与えたりしない。
馴れ合うのはそちらで勝手にしていろ。』」
「『僕とミリーの仲を認めてくれるんだねっ!ありがとうバルト!』」
「いや誰がそんな事を言った。」
思わず素で突っ込めば会場に笑いが溢れた。
どんどん近づいてくるレイルに後退って行くと、自然と舞台袖に避けていた。
…これもオレンチュ君の計算か…!?
舞台の幕が降りて拍手が会場に満ちているのを聞きながら、次のクラスの邪魔にならないように皆んなで急いで退却する。
「オレンチュ君、アドリブ凄かったね。」
「ダンツ君!ダンツ君こそ合わせてくれてありがとう…!
咄嗟に君が炎から庇ってくれなかったらこうはできなかったよ!」
「いや、偶々だよ?」
「ダンツ君は謙虚だね…。」
いや、ほんとに…。
感動したようなオレンチュ君から褒められて、どこか居た堪れない気持ちになった俺であった。
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