噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。

春色悠

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一章

学園祭【準備編 本番前】オレンチュ視点

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「なんだって!?セウ、君手を捻ったのかい!?」
「すまない…。一人で剣を振る練習してたら…。」
「ちょっとっ!!あなたは主役の一人なのよ!?本番は明日なのに!!どうするって言うの!!!」
 ルーンさんが金切り声を上げる。
 めでたくヒロイン役となり、今日は本番前の通しだからと衣装に身を包んだ彼女は、セットした髪を今にも振り乱しそうな勢いだ。
 いつも我儘ばかりで皆んなから遠巻きにされている彼女だが、今回ばかりはそう言いたくなる気持ちがわかる。
 
「誰も彼もダメじゃないっ!!全員台詞くらい覚えておきなさいよ!!」
 代役としてヒーロー役候補だった者達で一度通してみるも、誰一人として台詞を覚えている者はいない。
 それもそうだ。皆本当はヒーローの役をしたくなかったのだから。
 【ミレンブ・ルーン】艶のある真紅の髪を持つ彼女は、伯爵家のお嬢様だ。
 彼女はとにかく周りを仕切りたがる。自分が決めないと納得しないのだ。
 そんな彼女をクラスでは皆刺激しない様にしている。よくある事勿れ主義というやつだ。
 大体取り巻きの人と一緒に居て、その人達が機嫌をとるし、反対してまで押し通したい意見というのもなかったからそうなっているだけだけど。
 その彼女が、目の敵にしている人が一人。
「…っ!!!ダンツ!!貴方ならどうせ台詞も覚えてるんでしょう、貴方がやりなさい!!」
 キッと切れ味の良いナイフの様に鋭利な言葉をルーンはその人へと送る。
 急に怒鳴られたその人に視線が集まった。
「…もしやったとして、悪役の代わりを探す方が難しいと思うよ。」
 呆れた様に返事をする彼__ユーリス・ダンツがルーンはやはり気に入らないらしい。
「…っ!!!貴方が分裂でもしなさいよ!!」
 ぐうの音も出ないのか捨て台詞を吐いてから教室から出ていくルーン。
 
「…どうしようか。」
「すまない、俺が手首を捻ったばかりに…!」
「本番もすぐだ。練習してたのは素晴らしい事だよ。今回はただの事故さ。」
 主人公役だったセウ君は、ダンツ君に駆け寄って謝る。気にしない様にと慰めるダンツ君は、とても優しくて気遣いの出来る人だ。
 僕が急に話し合いの司会を任されて固まってしまった時も、さりげなく助け舟を出してくれたし、僕の剣のデザインを褒めた事でルーンさんに悪役にされても気にしていなかった。
 きっと目立つ事が好きではないのだろうに、よりにもよって悪役なんていう役で劇に出されるのだ。
 学園祭では多くの人が来る。
 その人々の前で悪役をすれば、いくらかイメージが定着してしまう。
 それに今回の台本は本当に悪い事をして居る悪役だ。実は誰かのために、なんて言うどんでん返しなんてない。
 ヒロインに恋をして、応えてくれなかったと言う理由でヒロインもヒーローの邪魔をするという役だ。
 全てルーンが監修したストーリー。
 台本係のおかげで面白くはなったが、悪役の設定は変えられなかった。
 ルーンは多分これを狙ったのだろう。
 気に入らないダンツに悪いイメージがつけばいいと。

 彼が一言、『別にこの剣は趣味じゃないし、劇にも出たくない。』と言ってくれれば、別の誰かが悪役になったのだろう。
 けれど、ダンツ君はそれを良しとしなかった。
 多分だけど、ダンツ君は自分がしなければ次になるのは身分の低い子達だと思って受け入れたんだ。
 身分の低い子達は、その分学園祭でのイメージ付けに必死になる。悪いイメージがついてしまうと言うのは、貴族社会では致命的だ。
 …特に、僕みたいな取り柄もない奴はもっとそう。
 
 取り敢えず台詞と動きの確認をできる範囲でして、いつもより早めに解散した。
 僕は落ち着かなくて、一人中庭に行く。
 中庭はいつも人が少なくて、一人になれる場所だ。
 青々とした生垣に隠れる様にして座り込む。
 いつも僕はどこか勇気が足りない。
 いつも誰かに見つけてもらうのを待っている。
 誰かに褒められるのを待つだけになっている。
 ____………………本当は、台詞も全部覚えているんだ。
 でも、言い出せない。
 言い出したところでだ。
 いつも鏡で見る僕は、ボサボサの髪の毛で、背筋が曲ってて。
 鬱々とした雰囲気の僕は、まるで空気に溶け込むみたいに生きている。
 脇役にすらなれないのだ。
______「オレンチュ君、こんなところでどうしたの?」
「……っうわぁあっ!!?」
 急に誰かに話しかけられた。
 情けない僕はびっくりして飛び上がった拍子に後ろに転ぶ。
「……大丈夫?」
 転んだ僕を声をかけてきた誰か、ダンツ君が上から覗き込む。
「わわっ!だ、大丈夫っ!!あ、ありがとう。」
 ダンツ君が差し出してくれた手を借りて起き上がる。
 そこで気づいた。さっき地面に手をついたせいで、僕の手は土だらけ。
 勿論助けてくれたダンツ君の手にも土が…。
「ご、ごめん、僕のハンカチでよければ使って…!」
「いいよ、これくらいすぐに落ちるし。」
 そう言ってダンツ君はさっさっと土をはらった。
「で、どうしたの?落ち込んでるみたいだったけど。」
「えっ、あ、…ちょっと、劇のことで…。」
「そっか。…オレンチュ君は主人公の役とかに興味ないの?」
「うえええっ!?ナ、なんで!?」
 思わずのけぞった。
 な、なんでそう思ったんだろう。僕、あんまりダンツ君と話した事ないのに…。
「…いや、セウ君とオレンチュ君は背丈が近いから、衣装はピッタリだと思っただけだけど…。」
「あっ、そっか、そうだよね…!」
 早とちりみたいだ。勘違いしてしまって恥ずかしいっ…!
 今すぐ忘れて欲しいくらいだ。
「………オレンチュ君は、主人公がしたかったの?」
「……えと、うん。似合わないけど、ネ…。」
 流石は冷酷公爵と話のできるダンツ君だ。全部バレてる。
 僕が主人公だなんて、一番僕自身が想像できないくらいだ。

「意外と似合う気がするけどな。」

「え、…。」
 とても、びっくりした。
 そんな事、お世辞でも言われると思っていなかったから。
 ぽろっとこぼしたみたいに話すダンツ君に、空いた口が塞がらない。
「ねぇ、ちょっと試しになってみない?」
 ____主人公。
 
 ずっと、手を引いてくれる人を待っていた。
 勇気を出してクラス長になってみたけど、できる事が増えるわけじゃなくて。
 だから、そんな事を言われて返す言葉は僕から一つしか出てこない。

「______うん。」
 
 僕は、ダンツ君の手を取った。
 
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