噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。

春色悠

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一章

学園祭【準備編 練習】

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「よ、よかったの?悪役なんて…。」
「え?まあ、セリフが覚えられるかは心配だね。」
 時間は10時頃。本来なら授業中で板書を頑張っている時間である。
 しかし俺は、図書館でオレンチュ君から話しかけられていた。
 けれど、学園祭の準備期間で週にいくらか授業でも学園祭準備の時間が設けられおり、各々で用意を進めているのだ。
 俺は小道具チームの何人かと調べ物に来ている。
 後の何人かは先輩に意見を聞きに行ったりとバラバラに行動中だ。ちゃんと先生のお許しはでている。
 俺は小道具の作り方みたいな本を探していたのだが、そこにオレンチュ君がおろおろとしながら来た。
「その、ぼ、僕が押し付けてしまった、から、その、悪役とか、嫌じゃない…?」
 前髪と眼鏡で見えないオレンチュ君の目はさぞ泳いでいる事だろう。
 オレンチュ君は、俺が悪役を演じる事になったのを気にして居るらしい。
 まあ、確かに欲を言うなら、セリフの無い木の役とか裏方とかがよかった。
 でも、悪役とかは結構セリフ少ないと思うんだ。だからまだ良かったと思う事にした。
 それにオレンチュ君のせいで悪役になった訳でもないし。
 あと悪役ってなるとあのかっこいい剣を持てるってことでしょ?その点はちょっとわくわくする。
「悪役は別に嫌じゃ無いよ。あのかっこいい剣を使えるならむしろ役得じゃないかな。」
「……ダンツ君は良い人だね…。」
 俺はオレンチュ君の中で格上げされたらしい。剣のデザイン褒めたからかな。あのデザインはもっと誇っていいと思うよ。
「僕、ダンツ君に似合うかっこいい剣を作るよ…!」
 何故かやる気の出たらしいオレンチュ君は、拳を握りしめて気合い充分の姿勢で走って行った。
 ……は、走って行っちゃった。
 大人しそうだと思っていた同級生の意外な一面に呆然しながら、去って行った背中を見つめる。
 とりあえず、探す本は演出関係の物にした。
 

 放課後、図書館でフランネル先輩に会ったから先輩は劇で何をしたか聞いてみた。
「……………………………木。」
「……き?」
 すいっと窓から見える木を指差す先輩。
【大木の役をした。】
 なんと。
 先輩は俺ができなかった役をしていたらしい。
 羨ましいなぁ、と思う俺とは反対に先輩の顔は不満げだ。
「…他にやりたい役でもあったんですか?」
「…………………………。」
 先輩の手の動きが止まった。
 ほんのりと顔を赤くした先輩は、いつもよりヨレヨレとした字を書き始める。

 【主人公の役】
 
 少しガタついた文字で書かれたそれ。
 恥ずかしそうに目を逸らした先輩は、すぐにメモを鞄にしまってしまった。
「先輩は主人公に立候補しなかったんですか?」
【はい】
 こくりと頷く先輩。
 納得ではある。先輩が立候補していれば、きっと先輩が主人公になっていただろうから。
 フランネル先輩は銀髪銀目の美形だ。こちらの世界では髪の毛の美しさが美醜に直結するが、その点に置いても美しい。
 剣術だって得意だからバトルシーンも熟せる事だろう。
 真面目で良い人だから任されたとなったら台詞も全て覚えて十二分に演じ切るに違いない。
 そんな先輩が主人公になれなかったと言うのだから、立候補をしなかったのだろうと思ったのだ。
 …でも主人公の役がしたかったのに、なんで立候補しなかったんだろう。
「…立候補しなかったのは、何か理由があったりします?」
「……。」
【はい】
 聞いてもいいのかな、なんて思いながら聞けば、少しの沈黙の後に答えてくれた。
 理由まで聞くのは流石に嫌がられるかな、と考えていれば、先輩はゴソゴソと新しいメモを出して何やら書きはじめた。
【昔、一度声を出すなと言われた事があった。】
 え?そんなことあるの?
【声というか、そもそもあまり動かないようにと言われて、その通りにしていたら声が出なくなった。】
【今でこそ回復したから一言くらいは話せる。】
【台詞も満足に話せない人間が、主人公の役などできるはずがない。】
 メモに視線を落としたまま、力無さげに先輩は笑った。
【全部治療のためだった。】
 ぽつりぽつりと紙に書かれていく話は、まるで物語の様に綴られていった。
【6年ほど前のことだ。】
【自分で使った氷の魔法で、重傷を俺は負った。】
【すぐに回復士が呼ばれて、回復をかけて貰った体から傷が消えた。】
【でも、何故か声が出なかった。】
【「きっと安静にしていれば治る。」】
【皆そう言った。】

【何日経っても、声が戻ることはなかった。】
「………………………これが、…………………俺だ。」
 先輩の声は、よく聴けば少し掠れているような気がした。
 6年。
 それだけの時間で、一言話せるかどうかの回復。
「治ってはいるんですね。」
「……っ?」
 大きくフランネル先輩の目が開かれる。
「きっと一言が一番大変です。二言目はすぐですよ。」
 見開いた目に、沢山の光が入って銀の瞳は輝いた。
 正直、思った以上に重い話だった。
 何を話せば良いかわからなかった。
 態と明るく話したけど、あれでよかったかわからない。

 …ちょっと気まずいなぁ。

 
______「あ、そう言えば、先輩。俺の演技見てくれませんか?」
 気まずすぎて俺は話題転換を試みた。
「……。」
 驚いてぽかんと口を開ける顔は、年相応に幼なげだ。
 俺の急な話題転換にとても驚いてる。
「俺、一応セリフのあり役になったんです。」
【はい】
「なので、練習したいんです。」
 気まずさでの話題転換を試みつつも思う。
 6年いても、少しづつ治って居るのだ。
 治る見込みはあるのだ。

______だから、そんな諦めた顔をしないでほしい。
 きっと、何年か経った先輩は今の状況を笑い話にして居るはずだ。
 
 なので切実に、俺に演技を教えてほしい。
 俺はできない事はやらない主義だ。
 でも、任されてしまったら断るのが苦手な優柔不断さもある。
 だってかっこいい剣が持てるのだ。前世含めて何歳なのかはわからないけど、ここに居るのは15歳のユーリスだ。
 憧れたって良いだろう。男は何歳でもかっこいい物が好きだ。
 でも今の俺では、舞台の上で転んで大恥をかく未来しか見えない。
『さあ、俺を倒してみろ!』
 などと言った瞬間に転ぶとか恥が過ぎる。
 
「先輩、俺の練習相手になってください。」
 だから、俺の想像が現実にならないうちに変えてしまおう。
「俺、演技とか苦手なんです。」
 朧げな前世が、叫ぶ。
 こんなハイスペックで話の合う先輩を逃してはならないぞ、と。
「手伝ってくれませんか?」
 
 先輩が教えてくれた面白い本を差し出す。
 台本はクラスの秘密だから渡せないけど、演技だけならこの本でもできる。
 俺の必死なお願いに、先輩はゆっくりと本を受け取る。
 
【はい】
 こくりと、頷いてくれた。
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