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一章
直属先輩 ミズル・デュリオール視点
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「あっはっはっはっ!!君、面白いね!」
「え?」
きょとん、と首を傾げて不思議そうな声を出す彼に笑いが止まらない。
大きな声を出した僕に注目が集まるけど、笑いは暫く止まらなかった。
デンベルを怖がらない珍しい後輩。
元々美人として有名な一年生だったけれど、こんなに面白い子だと思わなかった。
直属先輩と授業するのは、大体実践授業の時だ。
魔法や剣を実際に使う時、何人も居る生徒を教師が1人や2人で見るのは不可能。
そこで、3年生の経験を積んだ生徒に教える体験をさせると言う名目で教師役をさせる。
勿論、教師もきちんと監督するから安全だ。
意外と理にかなったこの取り組みは、学園開始時から続いているらしい。
僕の直属先輩はあまり良い人では無かった。
いつもどこか偉そうで人より上に立っていないと落ち着かない。…いや、落ち着けない、かな。
まだ習ったこともない魔法を見せて、やってみせろと言っては出来ない僕を指差して嗤うような人だった。
僕は笑って躱していたつもりだったけど、なんだかバカにされたままが悔しくて魔法をメキメキ上達させて先輩を見返したものだ。
デンベルが側に居ると寄ってこない様な人だったから、授業以外で実害はあまり無かったけど。
そんな経験があっての、少しの好奇心。
目の前にいる、この子にちょっと言ってみようか。
初めて魔法の実践授業を受ける僕の直属後こと、ダンツくん。
この授業でするのは魔法の塊を空中に維持させること。
触れないように水の塊を空中で5秒維持するのが、この授業の合格ライン。
まず先輩がお手本を見せてから後輩が挑戦する。
できなくて当たり前、できたら上々、と言う風に行われるこの授業は、先輩の教える力と後輩の学ぼうとする力を試す授業だ。
まあ、これまでの座学で魔法の使い方やら呪文やらは習っているだろうから、授業が終わるまでに一回も成功しない、と言う子は居ないけど。
ここで僕は、お手本を待っているダンツくんに無詠唱で魔法を見せた。
3年生ならできない者の少ない無詠唱。
それでも、一年生には未知の世界。
僕の指先には、直径10センチも無いほどの水の塊。
「無詠唱で魔法って使えるんですか?」
案の定驚いた彼に、僕は白々しく頷いて見せた。
「勿論。現に今僕が使って見せただろう?」
「そう、ですね…。」
納得してしまった後輩は、僕と同じように人差し指を立てて、じっとそこを見つめる。
しまった、随分と素直な子だったようだ。
「ごめ…_____」
謝ろうと口を開いたその瞬間。
僅かに動く後輩の魔力。
______「あ、できた。」
後輩の指先には、10センチも無いほどの水の塊が浮いていた。
まだまだ、彼には驚かされる事がありそうだと、心が浮つく。
そう、多分これは、自分の予想ができない相手に会った高揚感。
「どうしたんですか?」
嗚呼、先輩。僕はあなたの事を少しだけ勘違いしていたのかもしれない。
あなたが僕に無茶を言っていた理由が少しだけわかった。
__きっと、自分を超える才能に、好奇心が疼いたんだ!
「…どうして、君は無詠唱でやってみたんだい?
授業では呪文を教わっただろう?」
冷めやらぬ高揚感の中、彼に問う。
急に黙りこんだ先輩に困惑気味ながらも落ち着きを放っている稀有な後輩は、不思議そうに言った。
「だって、先輩はできてたじゃありませんか。」
______これが笑わないでいられるだろうか!!
気づけば声高らかに笑っていた。
はあ、こんなに笑ったのはいつぶりだろう。
「君、面白いね!」
思ったそのままを口にすれば、彼は益々不思議そうにしていたのだった。
~ユーリス・ダンツ視点~
え、なんかデュリオール先輩が急に笑い出したんだけど。
なに、何で笑ってるの?
無詠唱あんたができるって言ったんじゃん!!
その前から物凄くニコニコしてはいたけど、何が面白かったんだ。
「無詠唱はね、3年生なら使えない人は少ないけど、1年生で、しかも入学して半年も経ってないような子はできないものなんだよ。」
笑いが収まって来たらしい先輩がそう宣う。
じゃあなんで俺にそれをやらせようとしたんだこの人。
胡乱げな気持ちになりながら、未だにこにこと楽しそうな先輩になんだか毒気を抜かれる。
「また今度個人的に魔法を教えてあげるよ。勿論、君が望むならの話だけど。」
そんな俺に気づきもしない先輩は、ゆるく結んだ金糸の髪を靡かせながらそう言って笑う。
「…随分と上機嫌で親切ですね。」
「勿論、上機嫌にもなるさ。どんどん水を吸い込んで育ちそうな双葉が目の前に有るんだから。」
先輩は無邪気に笑う。
「______どんな植物になるのか、楽しみが増えただろう?」
そう上機嫌な先輩の指導は、とてもわかりやすかったとだけ言っておく。
「え?」
きょとん、と首を傾げて不思議そうな声を出す彼に笑いが止まらない。
大きな声を出した僕に注目が集まるけど、笑いは暫く止まらなかった。
デンベルを怖がらない珍しい後輩。
元々美人として有名な一年生だったけれど、こんなに面白い子だと思わなかった。
直属先輩と授業するのは、大体実践授業の時だ。
魔法や剣を実際に使う時、何人も居る生徒を教師が1人や2人で見るのは不可能。
そこで、3年生の経験を積んだ生徒に教える体験をさせると言う名目で教師役をさせる。
勿論、教師もきちんと監督するから安全だ。
意外と理にかなったこの取り組みは、学園開始時から続いているらしい。
僕の直属先輩はあまり良い人では無かった。
いつもどこか偉そうで人より上に立っていないと落ち着かない。…いや、落ち着けない、かな。
まだ習ったこともない魔法を見せて、やってみせろと言っては出来ない僕を指差して嗤うような人だった。
僕は笑って躱していたつもりだったけど、なんだかバカにされたままが悔しくて魔法をメキメキ上達させて先輩を見返したものだ。
デンベルが側に居ると寄ってこない様な人だったから、授業以外で実害はあまり無かったけど。
そんな経験があっての、少しの好奇心。
目の前にいる、この子にちょっと言ってみようか。
初めて魔法の実践授業を受ける僕の直属後こと、ダンツくん。
この授業でするのは魔法の塊を空中に維持させること。
触れないように水の塊を空中で5秒維持するのが、この授業の合格ライン。
まず先輩がお手本を見せてから後輩が挑戦する。
できなくて当たり前、できたら上々、と言う風に行われるこの授業は、先輩の教える力と後輩の学ぼうとする力を試す授業だ。
まあ、これまでの座学で魔法の使い方やら呪文やらは習っているだろうから、授業が終わるまでに一回も成功しない、と言う子は居ないけど。
ここで僕は、お手本を待っているダンツくんに無詠唱で魔法を見せた。
3年生ならできない者の少ない無詠唱。
それでも、一年生には未知の世界。
僕の指先には、直径10センチも無いほどの水の塊。
「無詠唱で魔法って使えるんですか?」
案の定驚いた彼に、僕は白々しく頷いて見せた。
「勿論。現に今僕が使って見せただろう?」
「そう、ですね…。」
納得してしまった後輩は、僕と同じように人差し指を立てて、じっとそこを見つめる。
しまった、随分と素直な子だったようだ。
「ごめ…_____」
謝ろうと口を開いたその瞬間。
僅かに動く後輩の魔力。
______「あ、できた。」
後輩の指先には、10センチも無いほどの水の塊が浮いていた。
まだまだ、彼には驚かされる事がありそうだと、心が浮つく。
そう、多分これは、自分の予想ができない相手に会った高揚感。
「どうしたんですか?」
嗚呼、先輩。僕はあなたの事を少しだけ勘違いしていたのかもしれない。
あなたが僕に無茶を言っていた理由が少しだけわかった。
__きっと、自分を超える才能に、好奇心が疼いたんだ!
「…どうして、君は無詠唱でやってみたんだい?
授業では呪文を教わっただろう?」
冷めやらぬ高揚感の中、彼に問う。
急に黙りこんだ先輩に困惑気味ながらも落ち着きを放っている稀有な後輩は、不思議そうに言った。
「だって、先輩はできてたじゃありませんか。」
______これが笑わないでいられるだろうか!!
気づけば声高らかに笑っていた。
はあ、こんなに笑ったのはいつぶりだろう。
「君、面白いね!」
思ったそのままを口にすれば、彼は益々不思議そうにしていたのだった。
~ユーリス・ダンツ視点~
え、なんかデュリオール先輩が急に笑い出したんだけど。
なに、何で笑ってるの?
無詠唱あんたができるって言ったんじゃん!!
その前から物凄くニコニコしてはいたけど、何が面白かったんだ。
「無詠唱はね、3年生なら使えない人は少ないけど、1年生で、しかも入学して半年も経ってないような子はできないものなんだよ。」
笑いが収まって来たらしい先輩がそう宣う。
じゃあなんで俺にそれをやらせようとしたんだこの人。
胡乱げな気持ちになりながら、未だにこにこと楽しそうな先輩になんだか毒気を抜かれる。
「また今度個人的に魔法を教えてあげるよ。勿論、君が望むならの話だけど。」
そんな俺に気づきもしない先輩は、ゆるく結んだ金糸の髪を靡かせながらそう言って笑う。
「…随分と上機嫌で親切ですね。」
「勿論、上機嫌にもなるさ。どんどん水を吸い込んで育ちそうな双葉が目の前に有るんだから。」
先輩は無邪気に笑う。
「______どんな植物になるのか、楽しみが増えただろう?」
そう上機嫌な先輩の指導は、とてもわかりやすかったとだけ言っておく。
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