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一章

図書館のキンモクセイ

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~一般魔法科生徒視点~
 俺はこの学園に入学したばかりの魔法科1年生だ。
 俺自身に特筆すべき点はないので割合させていただくのだが、今、物凄い所を目撃しているのだ。
 いつもガヤガヤとしている食堂は今や食器のかちゃかちゃと言う音と、コソコソと会話する人々の声でしん、としていた。
 しかし、その中で会話の聞こえる一画があるのだ。
「では、氷をメインにしているだけで他の魔法もお使いになるんですね。」
「……………………………ああ。」
「雷とかですか?」
 『あの【冷血公爵】と会話している奴がいる』
 それを聞いた時は半信半疑だった。どうせ、誰か冷血公爵に睨まれて動けなくなった奴がいるのだろう、と。
 しかし食堂へ来てみればどうだ?
「………………………………場合による。」
「場合によって使い分けていらっしゃるんですか。多才ですね。」
 冷血公爵相手に一ミリも震えずに会話しているじゃないか!!
 しかも相手はユーリス・ダンツだと。
 ユーリス・ダンツは、一年生でありながら二つ名がつくほど話題な人物だ。
 さらりと風に靡く混じり気のない黒髪に、透き通るような桃色の瞳。
 決して下品に大口を開けて笑ったりはしないが、よくころころと鈴を転がすように笑っている所を見る。
 そんな彼はとても読書家だ。食事以外ではずっと本を読んでいると言っても過言ではない。
 本を読んでいる時に話しかけても、彼は嫌な顔一つせず応えてくれるのだが、彼の時間を邪魔するのが忍びなく、誰も彼もそっと見守るに止めている。
 放課後も図書館で本を読んでいるらしい彼は、図書館に行けば会えるとまで言われている。
 俺も一度図書館で彼を見た事があるが、窓から差し込む光と風が彼に差し込み、まるで一つの絵のようだった。
 ついた二つ名は【図書館のキンモクセイ】。
「誰も彼もキンモクセイの匂いを嗅ぐと気にせずにはいられないだろう?彼も同じように一度目にしてしまえば見つめてしまう。
 それにキンモクセイの花言葉は【謙虚】と【初恋】だ。彼にピッタリじゃないか!」
 とは友人の談だ。
 もう少し華やかな花を二つ名にしてもよかったと俺は思うが、なかなかどうして、全く違うとは言い難い。
 彼の事は皆、【キンモクセイの君】として認識するようになり、僅か一ヶ月でキンモクセイの、と言えば彼だと通じるようになった。
 そんな彼は、魔法科らしいといえばらしく、体に筋肉などはつけていないようだ。
 まあ、言ってしまえば、ひょろひょろとしていて頼りなさげ。
 どうにも庇護欲がそそられる風貌で、本人が穏やかに毎日を過ごしていたものだから、彼はきっと繊細な人だろうと勝手に思っていた。
「二属性の合わせ技もお使いになるのですか。今度是非拝見させていただきたいです。」
 本当は、一番豪胆な人だったようだが。
「……………………………実践授業がある。」
「そこで見せてくださるのですね。ありがとうございます!」
 先程からこちらがヒヤヒヤするほど直ぐに返事をするキンモクセイの君。
 頭の回転が速いのだろう。冷血公爵のフランネルが何を考えているかはわからないが、怒っている様子がない。彼は正解の会話を導き出している。
 しかもそれをちっとも悟らせない。あくまで自然体のまま会話を続けている。
 恐らくだが、それは彼の横に座っている平民のためではなかろうかと、俺は思うのだ。
 それはそれは先ほどまで可哀想に震えていた平民は、彼が合同授業の際まっすぐに向かっていった所を見るに知り合いなのだろう。
 きっと、平民の彼がフランネルの直属後輩になってしまったのだ。
 3年になれば一人は直属後輩を持たなければならない。フランネルと一年間関わりを持つことになる1年生が存在してしまうと言うことだ。
 フランネルが1年生の時は悲惨だったと言う。フランネルの直属先輩が早々に胃痛で体調不良を訴えたとかなんとか。
 そんな噂を聞いていたのだろう。フランネルと会話せずとも大丈夫な様に自身がフランネルと話し、平民の方はデュリオールと話せる様に話題を提供したのだ。
 なんと心遣いの出来る素晴らしい人なんだ。
 友のためならフランネルと対面出来ると言う奴がこの場に何人いることか。
 
 食堂はいつしかいつもの様にガヤガヤとした喧騒で溢れていた。

~一般魔法科生徒視点 終了~

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