思い出して欲しい二人

春色悠

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第一章

本音(受け視点)

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『ラッキー誕生月第一位は、11月のあなた!ラッキーカラーは黒!大好きなあの人が褒めてくれるかも!』
 ……ど、どうせ占いなんて当たらないし……。


 土曜の朝。いつもよりなぜか、早く目が覚めた俺は、のんびりと朝ごはんを食べていた。そのため、普段は見ない番組がテレビに映っていて、ぼんやりと見る。
 よくある占いコーナーがその内始まった。
『おめでとうございます!ラッキー誕生月第一位は、11月のあなた!ラッキーカラーは黒!大好きなあの人が褒めてくれるかも!』
 ………ど、どうせ占いなんて当たらないし……。


 ……黒かぁ……。

 店を開けて、朝から今日は二人ほど客が来た。……あすくん、今日は来ないのかな……。
 朝の客も帰り、そろそろお昼かな、という頃。
 カランカラン
 あ、お客さん来た。今日はお客さん多いなぁ。……ヘ?あ、あすくん!?
「…あ……いらっしゃいませ。お、お好きな席にどうぞ。」
 あすくんが来た事に動揺して、視線をウロウロと彷徨わせる。
 と、取り敢えずお冷もっていかなきゃ!
 ……あ、そういえば、エプロン黒だ……。
 わぁぁあ!!そ、そんなつもりじゃなくて!べ、別にう、占いとか信じてないし!ぐ、偶然、うちの店のエプロンが黒だっただけだし!
 盛大に狼狽えながら、お冷を持っていく。
「お冷お持ちしました。」
 声が震えないよう必死で、あすくんの顔を見れない。
「ああ、ありがとう。注文もいいかな?」
「へ?あ、はい。お伺いします。」
 もう大変だ……。ちゃんと、対応しないと…。頑張って俺!
「ミートソーススパゲティと、コーヒー1つ、ホットでお願いしてもいい?」
「ミートソーススパゲティお一つと、コーヒーのホットがお一つですね。コーヒーは内の店長が今日不在で、俺が淹れる事になりますがよろしいですか。」
「うん。よろしくね。」
 注文を繰り返して言っている内に、少し落ち着いた。
 厨房に入って、スパゲティを茹で始める。タイマーをつけて、コーヒーを淹れるために、また表に出る。
 カウンター席にあすくんが座っている。俺は、コーヒーを淹れ始めたが、物凄くあすくんが気になる。
 ……は、話しかけても、大丈夫かな……?
「…あの…この間の、料理本、見つかりました?」
 結局、この間の料理本について聞いてみた。ちょっと日本語がおかしい気がする。あすくんに話しかけるの、凄く緊張する。
「ああ、翠君のお陰で見つかったよ。ありがとう。」
「お役に立てれたなら、良かったです…。あ、コーヒーお先にどうぞ。」
 話している内に、コーヒーが先に出来て、冷めないうちに出す。 
「料理本が見つかったは良いんだけど、俺不器用だから、失敗しちゃって。フレンチトーストにコツとかある?」
 ……変わってないなぁ、あすくん。変わってないあすくんに、少し嬉しくなる。
「……失敗してる、ていう、のは、具体的にどういう……?」
 ちょっと聞きにくいけど、流石にどう失敗してるのか聞かないと、アドバイスしにくい。
「……お恥ずかしい話なんだけれど、形がぐちゃぐちゃになっちゃうんだ。何度か作ってみているんだけど、変わらないんだよね。」
 ふふ、あすくんは今でも頑張り屋さんなんだね。やっぱり、かっこいいや……。
「……それなら、パンを浸す前に、フライパンに乗せてから、汁をかけては?」
 少し考えてから、あすくんにアドバイスする。多分、浸してから移動させようとして、ぐちゃぐちゃにしちゃってるから、フライパンの中でパンを浸しちゃえば大丈夫、かな…?
 そう提案すると、あすくんの顔がパァァァ、と輝いた。
「ありがとう翠君!なんとかなりそうだ。翠君は凄いね。」
 『みどりは器用だな。』
 昔そう言ってくれたあすくんと、朱鳥さんが重なった。
「ぁ……ぃえ、あ、りがとう、ございます…。」
 おんなじだけど、おんなじじゃ無い。それでも、なんでこんなに顔が熱いの……。
「ねぇ。」
 朱鳥さんが喋りかけたその時、スパゲティのタイマーが鳴ってしまった。
「あ…すいません。…タイマーつけてたの、忘れてました。」
 そう言って、逃げるように厨房に行く。顔が熱くて、一度顔を洗ってから、スパゲティを用意して表に戻る。
「お待たせしました。ご注文のミートソーススパゲティです。」
「ありがとう。凄く美味しそうだね。」
 様子がおかしかったの、気づかれてないかな…?
 心配だったが、朱鳥さんは普通にスパゲティを食べ始める。
 すぐに食べ終わり、デザートにガトーショコラも食べていた。ガトーショコラは予め作っていた物を、冷蔵庫から出すだけだから早い。
 ガトーショコラも食べ終わった朱鳥さんは、お会計に入ってしまった。
「お会計ーーーー円になります。」
 今日は現金での支払いの様で、お釣りも出す。
「お釣りです。」
 すると、朱鳥さんは、ギュッと手を握って来た。
「へっ?…ぁ、…。」
 思わず思考が止まる。
 お釣りを落とさない為だとか、ただの偶然だとか、わかっているけど…。
 ……やっぱり、顔があつい……。
「……かわいすぎるだろ…」
 え?
 思わず、俯いていた顔を上げて朱鳥さんを見る。
「ありがとう。今日も美味しかった。また来るね。」
 そこには、少し他人行儀な朱鳥さんが居て、さっきのは自分の聞き間違いなのかもしれないと、そう思う。
 そのまま朱鳥さんは、帰っていった。


 ……おれ、あすくんがおれを忘れてるなら、諦められるなんて、大嘘つきもいいところだ。
 ………忘れるなんて、諦められるなんて、無理じゃないか。挙げ句にもう一度恋に落ちたりなんかして……。
 すき、だいすき。子供のあすくんも、大人の朱鳥さんも好き。
 ………諦めるなんて、無理じゃないか………。
 それが俺の本音。
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