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……風呂入るか。
久々に何も考えずにストンと寝落ちた結果、朝から風呂に入ろうと思った。
昨日は三時ごろから飲み始め、ペースは遅かったものの日は高いうちに寝ついたのだが、起きれば朝である。
「ふぁわぁあ……。」
欠伸をしながら伸びをすれば、ぽきぽきなんて可愛い音では無い音色が全身、主に腰から出た。
そして朝の清々しい気分に当てられたオレは、風呂に入る事を決意したのであった。
何日振りだったっけ、そう頭をかきながら思っても思い出せることは無く。
「うへぇ、マジでおっさんじゃん。」
風呂場で鏡を見れば、本当におっさんがいた。いや、もしかするとおっさんに失礼かもしれない。それくらい身嗜みのミの字もない自分が鏡に映っていた。
ギリギリ後ろで結べる程度に伸びた髪は艶の一つも無いほどボサボサだし、髭もこれ以上無いほど汚い感じで伸びている。
おまけに食事を疎かにしていたために不健康に痩せ細って本格的にヤバそうなおっさんである。
「オレまだ二十代なのにぃ……。…髭剃ろ…。」
折角両親のいいとこ取りで男前に生まれたというのに、こんな残念な仕上がりでは世の女子が泣いてしまう。
恐らく、その居るかもわからない世の女子よりもショックを受けながら、湯に浸かり髭を剃ったオレ。
とてもすっきりした気分である。
『ほーん、大分マシになったな。』
ユズのお墨付きも貰ったところで、
______よし、酒を飲もう。
「ユズ~~、きゅうり使ってて唐揚げに合う酒のつまみ教えて~!」
『また酒買ってきたのかよ…、こないだより多いし。つーかきゅうりと唐揚げ?どっから湧いたし。』
今時珍しい引き戸の玄関を開けて上機嫌で帰宅したオレ。
「酒はストックだよストック~。
きゅうりと唐揚げは三木さんに貰ったんだ~。近くの畑やってる三木さん、なんか今年豊作らしくてさー。
唐揚げは作り過ぎたからお裾分けだって。」
買ってきた酒の量に早速文句をつけたユズに説明をする。三木さんには後で幾つかじゃがいもを持っていこう。
全然消費し切れないじゃがいもの有効活用である。
「で、きゅうりのレシピはございますか師匠。」
『ある。でも材料が足りない。』
「え~~…。なんか今の材料だけで出来るの無いのぉ?」
おふざけはスルーの方向らしい。
にしても残念である。でももう一回買い物に行くのもめんどくさい。
期待を込めてユズを見つめてみても、こっち見るなと素っ気ない。
全く、この男前の顔が聞かないとは中々手強い奴だ。
「じゃあユズ足りない食材買ってきてよ~。」
『残念ながら俺は此処から動けねぇんだよ。』
おや、地縛霊的な感じなのだろうか。新情報に目を軽く見開く。
「え、まじ?本当に出れないの?ちょっとやってみてよ。」
『はあ?』
「ほらほら!」
何言ってんだコイツ、見たいな顔で見られながらも、好奇心で玄関から出てユズを手招く。
______『…えっ?』
ため息を吐きながら玄関の敷居をユズは越えた。
「あれ?出れるじゃん。」
『…なんでだ?』
拍子抜けして呟けば、不思議そうに二歩三歩と外に出るユズ。
「ねぇねぇユズ、どこまで行けるかやってみようよ。スーパー行こ。」
『……うん。わかった。』
思いつきと少しのわくわくでユズをスーパーに誘えば、思いの外素直に着いてきてくれた。
幽霊なのに浮いたりせずに歩くユズは、初めて会った時以来飛んでいるところを見たことがない。
田舎故に人通りがないのをいいことに、ユズと駄弁りながら歩く。ほぼオレが一方的に話してる様なものだったけどね。
「ぜぇ、ぜぇ、、っと、に、鬼畜、だって…。」
『だらしねぇな。ぴちぴちの二十五歳じゃねぇのか。』
米と調味料一式を一時間かけてスーパーから買って帰ってきた人間に言う台詞ではない。悪魔である。幽霊だけど。
その後もなんだかんだ旨い酒のツマミに乗せられきゅうりを調理し、米を炊いた。
「かんぱ~いっ!いただきまーす。」
やっぱり家の中は散らかっているので縁側に唐揚げときゅうりで作ったツマミ(副菜)、白ご飯、そこにビールをつければもはや輝きが止まるところを知らない。
ほんと、唐揚げにはビールだ。異論は大歓迎。旨い酒は教えてくれ。
唐揚げとビールの組み合わせは言わずもがな、きゅうりとツナをマヨネーズで和え、ゴマを仕上げに振りかけたキュウリサラダを挟んだらもう止まれない。
噛みごたえのある肉厚の唐揚げの合間にシャキシャキのきゅうりなんて挟んでみろ、うま過ぎてビールが飛んでいく。
しかもマヨネーズで和えるのが唐揚げとの相性度を割り増しにさせているのだ。最高か。
「うま、まじでうまい。ありがとユズ。めっちゃ旨いわ。」
『そりゃ良かった。この調子で自炊しろよおっさん。』
「ユズが旨いツマミのレシピ教えてくるって言うなら張り切るわ。」
ずっと自炊しろと言ってくるユズにのらりくらりと返しながら、オレはビールを上機嫌に呷る。喉越しがたまらん。
「つーかなぁ、おっさんおっさんって、オレの名前はおっさんじゃないんだけどぉ?」
『酔ってんじゃねぇか、ウザ絡みすんなおっさん。』
「おっさんじゃないですぅ、満作、ほら、repeat after me。」
『っ!急に滑らかに発音するなどうなってんだ。』
ユズは走って逃げていった。でも家からは出れなかったらしい。
まあ、そんなこんなで一週間。
「今日は何作んの~?」
『昼だし最近暑そうだからそうめん茹でる。』
大分ユズはオレの生活に馴染んだ。
「うまぁそうめん。きゅうりと細切り卵もマジで合うわ。胡麻まで入れるなんてオレに酒飲めって言ってる?」
『言ってねぇよもう飲んでんじゃねえか酔っ払い。』
にゃ~ん
「お、なーさんじゃん。飯たかりにきたの?」
後猫もよく来る様になった。七三分けヘアーだからなーさんである。命名オレ。ユズには不評だった。
随分と賑やかになったこの生活を、オレは結構気に入っている。
久々に何も考えずにストンと寝落ちた結果、朝から風呂に入ろうと思った。
昨日は三時ごろから飲み始め、ペースは遅かったものの日は高いうちに寝ついたのだが、起きれば朝である。
「ふぁわぁあ……。」
欠伸をしながら伸びをすれば、ぽきぽきなんて可愛い音では無い音色が全身、主に腰から出た。
そして朝の清々しい気分に当てられたオレは、風呂に入る事を決意したのであった。
何日振りだったっけ、そう頭をかきながら思っても思い出せることは無く。
「うへぇ、マジでおっさんじゃん。」
風呂場で鏡を見れば、本当におっさんがいた。いや、もしかするとおっさんに失礼かもしれない。それくらい身嗜みのミの字もない自分が鏡に映っていた。
ギリギリ後ろで結べる程度に伸びた髪は艶の一つも無いほどボサボサだし、髭もこれ以上無いほど汚い感じで伸びている。
おまけに食事を疎かにしていたために不健康に痩せ細って本格的にヤバそうなおっさんである。
「オレまだ二十代なのにぃ……。…髭剃ろ…。」
折角両親のいいとこ取りで男前に生まれたというのに、こんな残念な仕上がりでは世の女子が泣いてしまう。
恐らく、その居るかもわからない世の女子よりもショックを受けながら、湯に浸かり髭を剃ったオレ。
とてもすっきりした気分である。
『ほーん、大分マシになったな。』
ユズのお墨付きも貰ったところで、
______よし、酒を飲もう。
「ユズ~~、きゅうり使ってて唐揚げに合う酒のつまみ教えて~!」
『また酒買ってきたのかよ…、こないだより多いし。つーかきゅうりと唐揚げ?どっから湧いたし。』
今時珍しい引き戸の玄関を開けて上機嫌で帰宅したオレ。
「酒はストックだよストック~。
きゅうりと唐揚げは三木さんに貰ったんだ~。近くの畑やってる三木さん、なんか今年豊作らしくてさー。
唐揚げは作り過ぎたからお裾分けだって。」
買ってきた酒の量に早速文句をつけたユズに説明をする。三木さんには後で幾つかじゃがいもを持っていこう。
全然消費し切れないじゃがいもの有効活用である。
「で、きゅうりのレシピはございますか師匠。」
『ある。でも材料が足りない。』
「え~~…。なんか今の材料だけで出来るの無いのぉ?」
おふざけはスルーの方向らしい。
にしても残念である。でももう一回買い物に行くのもめんどくさい。
期待を込めてユズを見つめてみても、こっち見るなと素っ気ない。
全く、この男前の顔が聞かないとは中々手強い奴だ。
「じゃあユズ足りない食材買ってきてよ~。」
『残念ながら俺は此処から動けねぇんだよ。』
おや、地縛霊的な感じなのだろうか。新情報に目を軽く見開く。
「え、まじ?本当に出れないの?ちょっとやってみてよ。」
『はあ?』
「ほらほら!」
何言ってんだコイツ、見たいな顔で見られながらも、好奇心で玄関から出てユズを手招く。
______『…えっ?』
ため息を吐きながら玄関の敷居をユズは越えた。
「あれ?出れるじゃん。」
『…なんでだ?』
拍子抜けして呟けば、不思議そうに二歩三歩と外に出るユズ。
「ねぇねぇユズ、どこまで行けるかやってみようよ。スーパー行こ。」
『……うん。わかった。』
思いつきと少しのわくわくでユズをスーパーに誘えば、思いの外素直に着いてきてくれた。
幽霊なのに浮いたりせずに歩くユズは、初めて会った時以来飛んでいるところを見たことがない。
田舎故に人通りがないのをいいことに、ユズと駄弁りながら歩く。ほぼオレが一方的に話してる様なものだったけどね。
「ぜぇ、ぜぇ、、っと、に、鬼畜、だって…。」
『だらしねぇな。ぴちぴちの二十五歳じゃねぇのか。』
米と調味料一式を一時間かけてスーパーから買って帰ってきた人間に言う台詞ではない。悪魔である。幽霊だけど。
その後もなんだかんだ旨い酒のツマミに乗せられきゅうりを調理し、米を炊いた。
「かんぱ~いっ!いただきまーす。」
やっぱり家の中は散らかっているので縁側に唐揚げときゅうりで作ったツマミ(副菜)、白ご飯、そこにビールをつければもはや輝きが止まるところを知らない。
ほんと、唐揚げにはビールだ。異論は大歓迎。旨い酒は教えてくれ。
唐揚げとビールの組み合わせは言わずもがな、きゅうりとツナをマヨネーズで和え、ゴマを仕上げに振りかけたキュウリサラダを挟んだらもう止まれない。
噛みごたえのある肉厚の唐揚げの合間にシャキシャキのきゅうりなんて挟んでみろ、うま過ぎてビールが飛んでいく。
しかもマヨネーズで和えるのが唐揚げとの相性度を割り増しにさせているのだ。最高か。
「うま、まじでうまい。ありがとユズ。めっちゃ旨いわ。」
『そりゃ良かった。この調子で自炊しろよおっさん。』
「ユズが旨いツマミのレシピ教えてくるって言うなら張り切るわ。」
ずっと自炊しろと言ってくるユズにのらりくらりと返しながら、オレはビールを上機嫌に呷る。喉越しがたまらん。
「つーかなぁ、おっさんおっさんって、オレの名前はおっさんじゃないんだけどぉ?」
『酔ってんじゃねぇか、ウザ絡みすんなおっさん。』
「おっさんじゃないですぅ、満作、ほら、repeat after me。」
『っ!急に滑らかに発音するなどうなってんだ。』
ユズは走って逃げていった。でも家からは出れなかったらしい。
まあ、そんなこんなで一週間。
「今日は何作んの~?」
『昼だし最近暑そうだからそうめん茹でる。』
大分ユズはオレの生活に馴染んだ。
「うまぁそうめん。きゅうりと細切り卵もマジで合うわ。胡麻まで入れるなんてオレに酒飲めって言ってる?」
『言ってねぇよもう飲んでんじゃねえか酔っ払い。』
にゃ~ん
「お、なーさんじゃん。飯たかりにきたの?」
後猫もよく来る様になった。七三分けヘアーだからなーさんである。命名オレ。ユズには不評だった。
随分と賑やかになったこの生活を、オレは結構気に入っている。
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