7 / 40
第7話 動物園②
しおりを挟む
外は穏やかな陽気で、歩いていくにはちょうどいい。智也たちは歩を進めたが、道中、無言であった。
こういうときは、純は自分から話しかけることはしないのだろう。智也にしても、特に話すことはない。しばらく生活しているうちに慣れてきたのか。沈黙が続いても、智也は気に止めなくなってきた。
駅に着くと、今度はバス停に赴く。停留所で並んでいたが、さほど待つことなくバスが来る。智也たちはそれに乗った。
始発ということもあり、智也たちは並んで座ることができた。土曜日ということもあり、席が凡そ埋まっている。
「今からこいつを美咲に会わせるけど、大丈夫かな……そういや、服変える時、裸がチラッと見えたけど、思いの外ガタイがいいような……って、何考えてんだ俺」
動物園に向かう途中、智也はこんなことばかり考えていた。
思考してる最中、ふと、左右の目を忙しなく動かす。バス内の様子を観察しているのだ。
乗客は談笑していたり、スマホを操作するなどしている。智也たちのことを気に停めているものは誰もいなかった。
「まぁ、俺らなんかどうでもいいよな……」
こうは言うものの、客が無関心であることに智也は安堵した。
***
バスに揺られて数分後、智也たちは動物園に到着する。
入口に向かったとき、智也はある一人の女性に目を止めた。
まずは髪型。長さはロング。色はココアブラウンか。それを低い位置で結んだあと、一回転させてそれを中央に入れて――俗に言う『くるりんぱ』――いた。
服は白のタートルネックのセーターに、アンバー色のロング丈のジャンパースカート。
手にはブラウンのハンドバッグ、足元はダークブラウンのショートブーツ、といった具合である。
「美咲っ」
その女性に向けて、智也は手を大きく振った。
「智くーん」
美咲と呼ばれた女性は、にこやかに手を振る。
互いに手を振ったあと、智也と美咲は歩み寄る。純が智也の後を追うようについて行った。
「おはよう、智くん」
美咲が挨拶したあと、智也も「おはよう」と返す。
「この人が純さんね。はじめまして」
美咲は笑顔を振りまいたが、純は無言であった。
「ごめんな。こいつ、常識がなくて……おい、こういうときは『はじめまして』って返すの」
智也は純に耳打ちした。
「智くんから話には聞いてたけど……すっごいイケメンじゃない! モデルさんみたい。背も高いし」
美咲は純をまじまじと見る。美咲は智也よりも背が低いからだろうか。純はこのメンバーの中でいちばん背が高い。そのせいか、より高く見えた。
「えらい食いついてるな……彼氏が目の前にいるのに?」
智也はやっかむが、口元は半笑いになっている。
「イケメンってなんだ」
ここに来てから、純が初めて口を開く。
「第一声がそれかよ」
智也がツッコミを入れる。
「『かっこいい男の人』ってことだよ……純さんみたいな?」
美咲は照れくさそうに答える。
「説明になってなくないか?」
「だってー、そもそもの『かっこいい』という概念を改めて説明するのって難しくない?」
智也と美咲のやり取りをよそに、純は美咲のことをまじまじと見つめていた。目線を感じ美咲はつい、たじろぐ。
「私は『男の人』じゃないぞ。男じゃないんだ」
純は二回訂正を入れた。表情は変わらないが、それがより圧を感じさせる。
「ごめんなさいっ」
美咲は慌てて訂正した。
「いや、純はどう見たって男だろ。綺麗な顔してるけど」
慌てふためく美咲を、智也は怪訝な目で見る。
「そういうことじゃないの。とにかく『男じゃない』って言ったら、それを尊重しなきゃダメなの。ごめんなさい。智也が無神経で」
事情が飲み込めていない智也に代わり、美咲が改めて謝罪した。
純はその様子をただ黙って見ている。
「あー、悪かったよ。ごめんな」
美咲が謝罪したのを見て、智也が続けた。
「それでいいの。さ、早く中に入ろう」
美咲が先に進んでいく。「待てよ」と言いながら、智也たちが後に続いた。
(『男じゃない』とか言ってたけど、やっぱりめんどくせぇな、こいつ)
智也は密かに、そんなことを考えていた。
「カピバラっていいよね。見ててなんか癒されるというか」
美咲はカピバラのいるエリアで、柵に身を乗り出して眺めていた。
「美咲ってホントにカピバラが好きだよな」
左隣にいる智也は、美咲のことを微笑ましく見つめている。
美咲は明るいが、どちかというと大人しいタイプだ。そんな美咲でもはしゃぐことがあるのか。智也は意外な一面を見た気がした。
そうなっているのは好きな動物が見られて嬉しいからか、はたまた……。
智也は少し離れたところにいる純を一瞥した。相変わらずの無表情である。テンションが高くなっている美咲とは対照的だ。
「その様子だと、動物にはあんまり興味がなさそうだな」
純はここに来てからというもの、動物に視線を送る様子はない。無表情なのは元からだが、それがより関心がなさそうに映ったのだ。
「生物の生体展示を娯楽にしているのか。人口楽園では、動物福祉の観点から生体展示を行っていない。皆ホログラムだ。やはりこの世界は文明レベルが低い」
純の発言を聞き、智也は慌てて美咲の方を向く。美咲はカピバラに夢中になっている。先程の純の発言が耳に入っていないようだった。
「さっき言ったこと、もう二度と口にするなよ」
智也は純に言い含めた。
「せっかくだから、みんなで写真撮ろうよ」
美咲はやにわにスマホを取り出した。
「おいおい。遠足かよ」
智也はうんざりというような物言いをしたが、顔には笑みが浮かんでいた。
「そう言うけど、智くんだってノリノリじゃない」
智也の笑顔を見て、美咲も微笑む。
「はいはい、並んでー」
美咲に言われるがまま、智也は美咲の右側に並ぶ。それにならうように、純は智也の隣に並んだ。
「あれ?」
美咲は撮影するために、スマホを持った手を伸ばしている。スマホ画面を見ていた美咲の顔に怪訝の色が浮かんだ。
「どうしたん……?」
智也もスマホ画面を見る。そこには、智也の隣にいるはずの純が写っていなかった。
こういうときは、純は自分から話しかけることはしないのだろう。智也にしても、特に話すことはない。しばらく生活しているうちに慣れてきたのか。沈黙が続いても、智也は気に止めなくなってきた。
駅に着くと、今度はバス停に赴く。停留所で並んでいたが、さほど待つことなくバスが来る。智也たちはそれに乗った。
始発ということもあり、智也たちは並んで座ることができた。土曜日ということもあり、席が凡そ埋まっている。
「今からこいつを美咲に会わせるけど、大丈夫かな……そういや、服変える時、裸がチラッと見えたけど、思いの外ガタイがいいような……って、何考えてんだ俺」
動物園に向かう途中、智也はこんなことばかり考えていた。
思考してる最中、ふと、左右の目を忙しなく動かす。バス内の様子を観察しているのだ。
乗客は談笑していたり、スマホを操作するなどしている。智也たちのことを気に停めているものは誰もいなかった。
「まぁ、俺らなんかどうでもいいよな……」
こうは言うものの、客が無関心であることに智也は安堵した。
***
バスに揺られて数分後、智也たちは動物園に到着する。
入口に向かったとき、智也はある一人の女性に目を止めた。
まずは髪型。長さはロング。色はココアブラウンか。それを低い位置で結んだあと、一回転させてそれを中央に入れて――俗に言う『くるりんぱ』――いた。
服は白のタートルネックのセーターに、アンバー色のロング丈のジャンパースカート。
手にはブラウンのハンドバッグ、足元はダークブラウンのショートブーツ、といった具合である。
「美咲っ」
その女性に向けて、智也は手を大きく振った。
「智くーん」
美咲と呼ばれた女性は、にこやかに手を振る。
互いに手を振ったあと、智也と美咲は歩み寄る。純が智也の後を追うようについて行った。
「おはよう、智くん」
美咲が挨拶したあと、智也も「おはよう」と返す。
「この人が純さんね。はじめまして」
美咲は笑顔を振りまいたが、純は無言であった。
「ごめんな。こいつ、常識がなくて……おい、こういうときは『はじめまして』って返すの」
智也は純に耳打ちした。
「智くんから話には聞いてたけど……すっごいイケメンじゃない! モデルさんみたい。背も高いし」
美咲は純をまじまじと見る。美咲は智也よりも背が低いからだろうか。純はこのメンバーの中でいちばん背が高い。そのせいか、より高く見えた。
「えらい食いついてるな……彼氏が目の前にいるのに?」
智也はやっかむが、口元は半笑いになっている。
「イケメンってなんだ」
ここに来てから、純が初めて口を開く。
「第一声がそれかよ」
智也がツッコミを入れる。
「『かっこいい男の人』ってことだよ……純さんみたいな?」
美咲は照れくさそうに答える。
「説明になってなくないか?」
「だってー、そもそもの『かっこいい』という概念を改めて説明するのって難しくない?」
智也と美咲のやり取りをよそに、純は美咲のことをまじまじと見つめていた。目線を感じ美咲はつい、たじろぐ。
「私は『男の人』じゃないぞ。男じゃないんだ」
純は二回訂正を入れた。表情は変わらないが、それがより圧を感じさせる。
「ごめんなさいっ」
美咲は慌てて訂正した。
「いや、純はどう見たって男だろ。綺麗な顔してるけど」
慌てふためく美咲を、智也は怪訝な目で見る。
「そういうことじゃないの。とにかく『男じゃない』って言ったら、それを尊重しなきゃダメなの。ごめんなさい。智也が無神経で」
事情が飲み込めていない智也に代わり、美咲が改めて謝罪した。
純はその様子をただ黙って見ている。
「あー、悪かったよ。ごめんな」
美咲が謝罪したのを見て、智也が続けた。
「それでいいの。さ、早く中に入ろう」
美咲が先に進んでいく。「待てよ」と言いながら、智也たちが後に続いた。
(『男じゃない』とか言ってたけど、やっぱりめんどくせぇな、こいつ)
智也は密かに、そんなことを考えていた。
「カピバラっていいよね。見ててなんか癒されるというか」
美咲はカピバラのいるエリアで、柵に身を乗り出して眺めていた。
「美咲ってホントにカピバラが好きだよな」
左隣にいる智也は、美咲のことを微笑ましく見つめている。
美咲は明るいが、どちかというと大人しいタイプだ。そんな美咲でもはしゃぐことがあるのか。智也は意外な一面を見た気がした。
そうなっているのは好きな動物が見られて嬉しいからか、はたまた……。
智也は少し離れたところにいる純を一瞥した。相変わらずの無表情である。テンションが高くなっている美咲とは対照的だ。
「その様子だと、動物にはあんまり興味がなさそうだな」
純はここに来てからというもの、動物に視線を送る様子はない。無表情なのは元からだが、それがより関心がなさそうに映ったのだ。
「生物の生体展示を娯楽にしているのか。人口楽園では、動物福祉の観点から生体展示を行っていない。皆ホログラムだ。やはりこの世界は文明レベルが低い」
純の発言を聞き、智也は慌てて美咲の方を向く。美咲はカピバラに夢中になっている。先程の純の発言が耳に入っていないようだった。
「さっき言ったこと、もう二度と口にするなよ」
智也は純に言い含めた。
「せっかくだから、みんなで写真撮ろうよ」
美咲はやにわにスマホを取り出した。
「おいおい。遠足かよ」
智也はうんざりというような物言いをしたが、顔には笑みが浮かんでいた。
「そう言うけど、智くんだってノリノリじゃない」
智也の笑顔を見て、美咲も微笑む。
「はいはい、並んでー」
美咲に言われるがまま、智也は美咲の右側に並ぶ。それにならうように、純は智也の隣に並んだ。
「あれ?」
美咲は撮影するために、スマホを持った手を伸ばしている。スマホ画面を見ていた美咲の顔に怪訝の色が浮かんだ。
「どうしたん……?」
智也もスマホ画面を見る。そこには、智也の隣にいるはずの純が写っていなかった。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる