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第58話 エメラーダ
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拝啓
ファビオお兄様へ。
今はラプソディア侯爵とお呼びになられた方がよろしいでしょうか。私といたしましては、今でもファビオお兄様ですので、お兄様とお呼びすることをお許しください。
私の方は、クラウディオ様の元で穏やかな日々を過ごしております。昨年の事件が事件を呼ぶような、激動の日々がまるで嘘のようです。
「便りがないのが良い便り」とは申しますが、あえてペンを取ります。
というのも、私は男の子を産みました。この吉報を伝えるべく、手紙を書くことにした次第です。
その子の名前ですが、お兄様は如何様なご案がおありでしょうか。というのは冗談で、名は『セリウス』と申します。
天空という意味を持つ名を付けたのは、瑣事に囚われることなく、天から見るような、大局的な視点を持ってほしいという願いからです。
セリウスはとても愛らしく、そして健康そのものです。目に入れても痛くないとはこのことかと実感しております。
セリウスが何事もなく健やかに過ごせますように。これが今の私の心からの願いです。
世継ぎを産むという大任を終えたので、私は胸をなでおろしています。そこで私は新たなることを初めようと決意いたしました。
女騎士団を結成することです。クラウディオ様の承諾は得ております。
昨年の戦いで、私は図らずも英雄となりました。
吟遊詩人は今でも私のことを唄っております。誇らしいことではあるのですが、同時に羞恥を覚えます。
一方では、私のことを「はしたない」と仰る方もおられます。
女は子を育むため、夫に仕えるために家にいるべきである。ましてや男のように前線で剣を振るうなど言語道断だと。
私のしたことが、図らずも女のあるべき姿に対する論争を引き起こしたようです。
ですので、私の方からも女のあるべき姿を提示しようと考えた。それが女騎士団の結成というわけです。
名前の方は白百合騎士団はどうでしょうか。
白百合は高潔を意味しています。これならば「はしたない」と言われることもないでしょう。
私は意図せぬところで、女も剣を取って戦えることを証明してしまいました。
翻って見れば、前線に出て敵と戦う勇敢さを女も持ち合わせているということです。
流石に「女も剣を持って戦え」と喧伝するつもりはないのですが。
戦うということは、血を流すということです。
私としましては、血なまぐさいことはさせたくありません。何と比較しようと平和に勝るものはありません。
白百合騎士団は、如何様な状況であっても戦わない勇敢さを持ってほしいのです。
そのためには、まず学問が必要です。
教師として、マーリンさんをお招きしたいのですが、行方がようとして知れません。なにせ魔術師ですから神出鬼没なのです。
助けを借りることができないのは残念ですが、カレドニゥスには聡明な女が多いから心配は無用です。
彼女らが存分に力を発揮できる、これこそが白百合騎士団が果たすべき責務です。
ここでマーリンさんの名前を出したのは、彼女こそ白百合騎士団を結成させようという決心そのものだからです。
彼女は人々を助けるために、魔術を心得ました。けれどもそれ故に、人々から忌み嫌われてしまいました。魔術に対する誤解がそのような事態を招いたのです。
マーリンさんはそんな逆境を跳ね除け、魔術師として大きな働きをしました。マーリンさんのお力がなければ、先程の戦いの被害は更に大きくなったことでしょう。
マーリンさんは新たなる道を開いてくださったのです。感謝に堪えません。
それと、ヨランダさんのこともあります。彼女は甚大な被害をもたらしました。しかし、元々はマーリンさんと同じ志を持っていたのです。人々の誤解が、ヨランダさんを忌まわしき魔女にしてしまったのです。
ヨランダさんのような、人々から疎んじられ、蔑まれる女がいてなるものか。白百合騎士団にはそういった思いもあるのです。
あともう一名、印象的な女の方がおります。
旅人であるフォレシアさんです。
彼女の弓の腕や、植物の知識には大いに助けられました。マーリンさんやヨランダさんと比べると派手さはありませんが、堅実さにおいては引けを取りません。このような女こそ白百合騎士団に欠くべからず存在といえましょう。
旅人と言えば。
他にもマックスさんとヘッジさんという方がおられましたね。この御三方がおられなければ、事件の解決がなかったに違いありません。
ヘッジさんは愉快なお方でした。
マックスさんは気難しかったのですが、それは私が大変なご迷惑をおかけしたがためです。今でも慙愧に耐えません。
旅人の中にはルシエルという妖精がおりましたね。なんでも遠い国から来られたとか。
ルシエルに関してはわからないことだらけです。ですが結果としては頼ってばかりでした。これ以上なにか申すのはやめにいたしましょう。
妖精といったら、まっさきにロビンの姿が思い浮かびます。ロビンこそ事件解決の立役者なのです。
私の身になにかあっても、ロビンは常にそばにいてくれました。それ故に、生まれ落ちた地であるラプソディアを離れることになってしまいました。
今のロビンは王国にいるようですが、上手くやっているのでしょうか? それだけが心残りです。
お話が逸れてしまいましたが、私はいつもお兄様が平安であるようにと祈っています。
ソーディアン家とブケンツァ家に祝福があらんことを。
かしこ
ファビオお兄様へ。
今はラプソディア侯爵とお呼びになられた方がよろしいでしょうか。私といたしましては、今でもファビオお兄様ですので、お兄様とお呼びすることをお許しください。
私の方は、クラウディオ様の元で穏やかな日々を過ごしております。昨年の事件が事件を呼ぶような、激動の日々がまるで嘘のようです。
「便りがないのが良い便り」とは申しますが、あえてペンを取ります。
というのも、私は男の子を産みました。この吉報を伝えるべく、手紙を書くことにした次第です。
その子の名前ですが、お兄様は如何様なご案がおありでしょうか。というのは冗談で、名は『セリウス』と申します。
天空という意味を持つ名を付けたのは、瑣事に囚われることなく、天から見るような、大局的な視点を持ってほしいという願いからです。
セリウスはとても愛らしく、そして健康そのものです。目に入れても痛くないとはこのことかと実感しております。
セリウスが何事もなく健やかに過ごせますように。これが今の私の心からの願いです。
世継ぎを産むという大任を終えたので、私は胸をなでおろしています。そこで私は新たなることを初めようと決意いたしました。
女騎士団を結成することです。クラウディオ様の承諾は得ております。
昨年の戦いで、私は図らずも英雄となりました。
吟遊詩人は今でも私のことを唄っております。誇らしいことではあるのですが、同時に羞恥を覚えます。
一方では、私のことを「はしたない」と仰る方もおられます。
女は子を育むため、夫に仕えるために家にいるべきである。ましてや男のように前線で剣を振るうなど言語道断だと。
私のしたことが、図らずも女のあるべき姿に対する論争を引き起こしたようです。
ですので、私の方からも女のあるべき姿を提示しようと考えた。それが女騎士団の結成というわけです。
名前の方は白百合騎士団はどうでしょうか。
白百合は高潔を意味しています。これならば「はしたない」と言われることもないでしょう。
私は意図せぬところで、女も剣を取って戦えることを証明してしまいました。
翻って見れば、前線に出て敵と戦う勇敢さを女も持ち合わせているということです。
流石に「女も剣を持って戦え」と喧伝するつもりはないのですが。
戦うということは、血を流すということです。
私としましては、血なまぐさいことはさせたくありません。何と比較しようと平和に勝るものはありません。
白百合騎士団は、如何様な状況であっても戦わない勇敢さを持ってほしいのです。
そのためには、まず学問が必要です。
教師として、マーリンさんをお招きしたいのですが、行方がようとして知れません。なにせ魔術師ですから神出鬼没なのです。
助けを借りることができないのは残念ですが、カレドニゥスには聡明な女が多いから心配は無用です。
彼女らが存分に力を発揮できる、これこそが白百合騎士団が果たすべき責務です。
ここでマーリンさんの名前を出したのは、彼女こそ白百合騎士団を結成させようという決心そのものだからです。
彼女は人々を助けるために、魔術を心得ました。けれどもそれ故に、人々から忌み嫌われてしまいました。魔術に対する誤解がそのような事態を招いたのです。
マーリンさんはそんな逆境を跳ね除け、魔術師として大きな働きをしました。マーリンさんのお力がなければ、先程の戦いの被害は更に大きくなったことでしょう。
マーリンさんは新たなる道を開いてくださったのです。感謝に堪えません。
それと、ヨランダさんのこともあります。彼女は甚大な被害をもたらしました。しかし、元々はマーリンさんと同じ志を持っていたのです。人々の誤解が、ヨランダさんを忌まわしき魔女にしてしまったのです。
ヨランダさんのような、人々から疎んじられ、蔑まれる女がいてなるものか。白百合騎士団にはそういった思いもあるのです。
あともう一名、印象的な女の方がおります。
旅人であるフォレシアさんです。
彼女の弓の腕や、植物の知識には大いに助けられました。マーリンさんやヨランダさんと比べると派手さはありませんが、堅実さにおいては引けを取りません。このような女こそ白百合騎士団に欠くべからず存在といえましょう。
旅人と言えば。
他にもマックスさんとヘッジさんという方がおられましたね。この御三方がおられなければ、事件の解決がなかったに違いありません。
ヘッジさんは愉快なお方でした。
マックスさんは気難しかったのですが、それは私が大変なご迷惑をおかけしたがためです。今でも慙愧に耐えません。
旅人の中にはルシエルという妖精がおりましたね。なんでも遠い国から来られたとか。
ルシエルに関してはわからないことだらけです。ですが結果としては頼ってばかりでした。これ以上なにか申すのはやめにいたしましょう。
妖精といったら、まっさきにロビンの姿が思い浮かびます。ロビンこそ事件解決の立役者なのです。
私の身になにかあっても、ロビンは常にそばにいてくれました。それ故に、生まれ落ちた地であるラプソディアを離れることになってしまいました。
今のロビンは王国にいるようですが、上手くやっているのでしょうか? それだけが心残りです。
お話が逸れてしまいましたが、私はいつもお兄様が平安であるようにと祈っています。
ソーディアン家とブケンツァ家に祝福があらんことを。
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