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第29話 ドラフォン②
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「……怪物というのは、このおぞましい、草花のことか?」
ハーマンは、冷静に振舞おうと務める。その意思に反し、手はわなわなと震えていた。
「はい……いつものように、見回りをしていた時のことです。我々は、畑の横を通っていたのですが、突如、地面から怪物が生えてきたのです……」
報告をする部下も震えが止まらない。
「怪物は、樹でした。樹は、枝を腕のように振るい、我々を襲いました。どうにかして撃退しましたが、樹は、次から次へと生えてきます。我々はなす術もなく、撤退を余儀なくされました」
部下はさらに続ける。
「状況を報告するため、城に向かう道中にも、怪物が現れました。その怪物もまた植物でしたが、蔓植物だったり、キノコのようなものだったり……」
部下の報告が終わらぬうちに、部屋中にドアを叩く音が響く。ハーマンが中に招き入れると、続々と「ドラフォン中に植物の怪物が現れた」という知らせが飛び込んだ。
「何故、我が国がこのような惨事に見舞われないといけないのだ!」
ハーマンは歯噛みをした。
「植物、ですか……。そういえば、ラプソディアにも、巨大怪物と共に、植物の怪物も出現しました」
エメラーダが発言する。
「その話は、我々も伝え聞いている。エメラーダ殿が、植物の方も撃退したとも」
「でも、その時は市街地だけでした。今回の場合、範囲が広すぎて……」
エメラーダに、不安と焦りが生じる。
「とにかく、植物の方は、私の護衛が詳しいです。話だけでもいいので、聞いていただけますか?」
エメラーダは巨大怪物――マックスらは「ヌイグルミ」と呼んでいる――と同時に、植物の怪物が現れた時のことを思い返していた。
マックス曰く、植物はアナセマスに生えているものだ。だから彼らの知恵を借りれば、打開策が見つかるかもしれない。エメラーダは、そう考えたのである。
「状況が状況だ。一人でも多くの知恵が欲しい」
ハーマンは、エメラーダの申し入れを聞き入れた。
「――窓辺から見える、草花。あれらは、ラプソディアに生えてきたものと同じか?」
ハーマンは、マックスとフォレシアとヘッジに、窓の外の景色を見せた。
「歩き回っているのは、ウォーキンツリーに見えます。ラプソディアに生えているものと同じかどうかはわかりませんが」
フォレシアが答える。
「ヒュドラヒナゲシに……あれは」
同じように窓の外へ目を向けたマックスは、言葉を失う。
「ドッグローズ!」
マックスは叫んだ。
「大丈夫ですか? マックスさん」
マックスは、ただならぬ様子を見せている。どれ程までに恐ろしい怪物なのか。エメラーダは不安を覚えた。
「ドッグローズか。これは良いものだ」
マックスの悲痛な表情とは裏腹に、フォレシアはウキウキしていた。
「良くねぇよ! ポスケはあいつにやられたんだよ!!」
嬉しそうにしているフォレシアに向かって、マックスは怒声を浴びせた。
「えーと、どういうことでしょうか?」
ドッグローズと聞いた時の、マックスとフォレシアの反応は正反対のものだ。
いったいどういうことなのか。エメラーダは理解に苦しんだ。
「ドッグローズって言うのはね。四本足のトーカーに寄生する花のことだよ」
エメラーダの疑問に、ヘッジが答えた。
「そう、ドッグローズは自ら、宿主を通して水分と栄養を補給する。それにより、風味豊かな実をつけるのだ」
そう語るフォレシアは、恍惚な表情を浮かべていた。
「そんなもん食うんじゃねぇよ!」
対してマックスは、石膏のごとく白い顔が真っ赤になるほど、憤怒していた。
「食わぬというのか。美味だと言うのに。まさか、寄生されることを恐れているのか? ドッグローズはヒュランには寄生せぬというのは常識であろうに」
「そういう問題じゃねぇんだよ!!」
「お話の途中、申し訳ありませんが……」
怒りを露わにするマックスと、嬉々として語るフォレシアの言い争いを遮ったのは、エメラーダだった。
「現在ドラフォンにて、突如出現した草花のことに精通していることはわかりました。では、対処法はご存知ですか?」
「対処法か……」
マックスは考え込んだ。
「今回みたく範囲が広い場合は、氷薬を使ってるな。これさえあれば、すぐ片付く」
「氷薬?」
聞き慣れない単語に、エメラーダは首を傾げる。
「まさか、氷薬を知らないのか?」
エメラーダが首を傾げたのを見て、マックスは唖然とした。
「申し訳ありません。初めて聞いたものですから。火薬ならありますけど」
「火薬があるのに、なんで氷薬がないんだよ」
「マックス。ないものはないのだから仕方がないだろう。エメラーダ様を責めるのは筋違いだ」
エメラーダに強く当たるマックスを、フォレシアがいさめた。
「でも、氷薬がないんじゃどうしようもないだろ。ちまちま引っこ抜いてたらキリが無い」
――打つ手はないというのか。またしても、場に重い空気が流れる――。
「ちょっと、みなさーん」
沈黙を破るように、ルシエルが現れた。
ハーマンは、冷静に振舞おうと務める。その意思に反し、手はわなわなと震えていた。
「はい……いつものように、見回りをしていた時のことです。我々は、畑の横を通っていたのですが、突如、地面から怪物が生えてきたのです……」
報告をする部下も震えが止まらない。
「怪物は、樹でした。樹は、枝を腕のように振るい、我々を襲いました。どうにかして撃退しましたが、樹は、次から次へと生えてきます。我々はなす術もなく、撤退を余儀なくされました」
部下はさらに続ける。
「状況を報告するため、城に向かう道中にも、怪物が現れました。その怪物もまた植物でしたが、蔓植物だったり、キノコのようなものだったり……」
部下の報告が終わらぬうちに、部屋中にドアを叩く音が響く。ハーマンが中に招き入れると、続々と「ドラフォン中に植物の怪物が現れた」という知らせが飛び込んだ。
「何故、我が国がこのような惨事に見舞われないといけないのだ!」
ハーマンは歯噛みをした。
「植物、ですか……。そういえば、ラプソディアにも、巨大怪物と共に、植物の怪物も出現しました」
エメラーダが発言する。
「その話は、我々も伝え聞いている。エメラーダ殿が、植物の方も撃退したとも」
「でも、その時は市街地だけでした。今回の場合、範囲が広すぎて……」
エメラーダに、不安と焦りが生じる。
「とにかく、植物の方は、私の護衛が詳しいです。話だけでもいいので、聞いていただけますか?」
エメラーダは巨大怪物――マックスらは「ヌイグルミ」と呼んでいる――と同時に、植物の怪物が現れた時のことを思い返していた。
マックス曰く、植物はアナセマスに生えているものだ。だから彼らの知恵を借りれば、打開策が見つかるかもしれない。エメラーダは、そう考えたのである。
「状況が状況だ。一人でも多くの知恵が欲しい」
ハーマンは、エメラーダの申し入れを聞き入れた。
「――窓辺から見える、草花。あれらは、ラプソディアに生えてきたものと同じか?」
ハーマンは、マックスとフォレシアとヘッジに、窓の外の景色を見せた。
「歩き回っているのは、ウォーキンツリーに見えます。ラプソディアに生えているものと同じかどうかはわかりませんが」
フォレシアが答える。
「ヒュドラヒナゲシに……あれは」
同じように窓の外へ目を向けたマックスは、言葉を失う。
「ドッグローズ!」
マックスは叫んだ。
「大丈夫ですか? マックスさん」
マックスは、ただならぬ様子を見せている。どれ程までに恐ろしい怪物なのか。エメラーダは不安を覚えた。
「ドッグローズか。これは良いものだ」
マックスの悲痛な表情とは裏腹に、フォレシアはウキウキしていた。
「良くねぇよ! ポスケはあいつにやられたんだよ!!」
嬉しそうにしているフォレシアに向かって、マックスは怒声を浴びせた。
「えーと、どういうことでしょうか?」
ドッグローズと聞いた時の、マックスとフォレシアの反応は正反対のものだ。
いったいどういうことなのか。エメラーダは理解に苦しんだ。
「ドッグローズって言うのはね。四本足のトーカーに寄生する花のことだよ」
エメラーダの疑問に、ヘッジが答えた。
「そう、ドッグローズは自ら、宿主を通して水分と栄養を補給する。それにより、風味豊かな実をつけるのだ」
そう語るフォレシアは、恍惚な表情を浮かべていた。
「そんなもん食うんじゃねぇよ!」
対してマックスは、石膏のごとく白い顔が真っ赤になるほど、憤怒していた。
「食わぬというのか。美味だと言うのに。まさか、寄生されることを恐れているのか? ドッグローズはヒュランには寄生せぬというのは常識であろうに」
「そういう問題じゃねぇんだよ!!」
「お話の途中、申し訳ありませんが……」
怒りを露わにするマックスと、嬉々として語るフォレシアの言い争いを遮ったのは、エメラーダだった。
「現在ドラフォンにて、突如出現した草花のことに精通していることはわかりました。では、対処法はご存知ですか?」
「対処法か……」
マックスは考え込んだ。
「今回みたく範囲が広い場合は、氷薬を使ってるな。これさえあれば、すぐ片付く」
「氷薬?」
聞き慣れない単語に、エメラーダは首を傾げる。
「まさか、氷薬を知らないのか?」
エメラーダが首を傾げたのを見て、マックスは唖然とした。
「申し訳ありません。初めて聞いたものですから。火薬ならありますけど」
「火薬があるのに、なんで氷薬がないんだよ」
「マックス。ないものはないのだから仕方がないだろう。エメラーダ様を責めるのは筋違いだ」
エメラーダに強く当たるマックスを、フォレシアがいさめた。
「でも、氷薬がないんじゃどうしようもないだろ。ちまちま引っこ抜いてたらキリが無い」
――打つ手はないというのか。またしても、場に重い空気が流れる――。
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