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第11話 アーデン②

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 ――翌朝。

「……おはようございます」
 昨夜はなかなか寝付けなかったせいか、エメラーダは眠い目をこすっていた。

「起きたか。じゃ、図書館に行くぞ」
 マックスとディーダは、もう身支度を整えていた。

「は、はい」
 エメラーダも慌てて荷物をまとめる。

「準備は済んだようだな。よし、行くか」
 マックスは先頭に立って歩き出した。

「あ、あの……」
 エメラーダはマックスに声をかけた。
「なんだ?」

「あのー、私も図書館に行くんですよね?」

「何言ってるんだ。俺たちは、お前の持ってる蒼き剣のことを調べるために、ここに来たんだ。当然、お前も一緒に行くんだよ」

「そ、そうですか……」
 エメラーダは右も左もわからないところに放り出されなくてよかったと、ホッとした。

「まぁ、いい。とにかく行くぞ」
 こうして一行は図書館に向かった。


 ――アーデン図書館。

 エメラーダは辺りを見回している。当たり前といえば当たり前なのであるが、図書館には、本が沢山あった。

 アナセマスというまるっきり見知らぬ世界だ。おまけに、人間以外の生物が口を聞く。
 ――そのような世界であっても、本は本なのだな――。エメラーダは安堵した。

「蒼き剣のことが書いてある本は、どこにあるんだか」
 マックスはディーダに尋ねた。ディーダはそれに答えるように声を出す。

「……ディーダ、お前に任せた。どうにも俺は『古そうなもの』がいけ好かん」
 ディーダは、マックスをたしなめるような行動を取った。

「だってあいつら、訛りがひどいから何言ってんのかわかんねぇんだよ。それをわかってるのか、紙に字を書いてくれるのはいいけど、俺は字が読めないんだよ。俺のことバカにしてるだろ、あいつら」
 ディーダは再度、マックスをたしなめた。

 『古そうなもの』か。エメラーダはまたしても、聞きなれない単語を耳にする。これも『海から来たもの』の仲間なのだろうか。

 エメラーダは、昨夜の宿屋の女将のことが頭に浮かんだ。もしかしたら、女将のような姿を姿をしているのかもしれない。エメラーダは身震いした。

 ディーダは図書館の受付に向かった。エメラーダは恐ろしくなったが、好奇心の方が買った。ディーダの後を、目で追ってしまう。

 ディーダは受付で待っていると、カウンター越しに誰かが現れた。どうやら、司書らしい。

「……!」
 エメラーダは絶句した。

 昨夜の女将も大概であった。
 だが、その司書らしきものは、それ以上に、おぞましかった。

 女将は、顔立ちこそ人間離れしている。とはいえ、顔以外は人間の女性と変わらない。

 だが、この司書らしきものは、明らかに人間ではなかった。

 まず、頭部らしき部分が五芒星になっており、その頭を球根状のものが支えていた。
 頭部を支える首は長く、胴体は樽上になっている。

 樽上胴体から、先端が頭部と同じような五芒星になっている触手が伸びている。それを手のように使っていた。

 エメラーダは恐怖のあまり、その場に立ちすくむ。

 ディーダは、司書に向かって何かを話し始めた。
 すると、耳障りな金切り音が聞こえてきた。どうやら、これは司書から発せられているようだった。

「あぁー!!!」
 エメラーダはついに耐えかね、大声をあげて外に飛び出した。

「おい、図書館では静かに……て、どこ行くんだ!」
 マックスはエメラーダの後を追った。


「はぁ、はぁ、はぁ……」
 走って図書館を出たエメラーダは、無我夢中で街中を走り回った。

「はぁ、はぁ……うわっ!」
 エメラーダは石畳の窪みに足を取られ、転んでしまった。

「お嬢ちゃん、大丈夫か?」
 エメラーダの近くにいたものが、転んだエメラーダに手を差し伸ばした。
「だ、大丈夫です、ありがとぅ……」

 エメラーダの目に、手をさし伸ばした存在が映る。
 そこにいたのは、頭が頭足類、背中にコウモリの羽を生やした、全身が鱗で覆われた生物であった。

 エメラーダは、しばらく固まっていた。
 やにわに立ち上がると、腰にぶら下げた剣を抜く。

「お嬢ちゃん、何を……」
 その存在が言い終わらぬうちに、エメラーダは体を斬りつけた。

「ぎゃー!!!」
 断末魔の叫び声が、辺りに響き渡った。

「何があったんだ!」
 マックスはエメラーダを探していた。悲鳴を聞こえたので、すぐさま駆けつける。

「ヒュランが暴れてるぞー!」
「誰か、早く警備を呼べー!」

 マックスが駆けつけたとき、負傷者が出ていた。血を流し、倒れ込んでいる者もいる。まさに、阿鼻叫喚であった。

「モンスターどもめ! 生かしてなるものか!」

 元凶はエメラーダであった。そして今まさに、エメラーダは住民に斬りかかろうとしている。

「エメラーダ! お前一体何をしてるんだ!?」
 マックスが叫ぶと同時に、エメラーダの剣が振り下ろされた。

「危ない!」

 その時である。突如、場は眩い光に包まれた――。


 エメラーダは、ベッドの上にいた。体を起こし、辺りを見回す。目に映るのは、見慣れた寝室の光景であった。

「夢……だったんですか……?」
 しかし、アナセマスにいた記憶は、夢にしてはあまりにも鮮明である。それに痛覚もあった。

 けれども、今、エメラーダが身につけているものは、鎧ではない。寝間着である。

 エメラーダは、右手に妙な感触を覚える。右手の方に視線を向けると、そこには一本の剣があった。

「これは……」
 エメラーダは剣を手に取る。それは、蒼き剣であった。

「どういうことなのでしょうか……」
 エメラーダは蒼き剣を見ていた。蒼き剣は、変わることなく青白い光を放っている。

 エメラーダは、ひとまず、剣を置く。ベッドから出ると、窓の方に向かう。そこから、外の景色を見た。

 窓の外は、奇怪な植物で覆われていた。
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